その9 ツウェン
ワンゲル町の人達の移動は速やかに行われました。
さて、私の出番ですよ。町と周辺の浄化しちゃおう。浄化って人にどんな影響与えるかわからないから、無人になってから願わせてもらいます。たぶん、人は消えないと思うけど、キラッキラッに光っちゃったり、真っ白になっちゃったら大変だもの。心の中で『浄化、浄化』って唱えながら、いきますよ!
「消えろ!」
怖くて目瞑ちゃってた。どんなもんかな。うん? 変わらない? 周りをくるりと見回してみますと……。やけにゴミが落ちてない。嫌な臭いもないし、建物が補修されてる? さっきより全体的に白くなったような。
「ライアス様、あの~、建物が補修されてるような……」
「新しくなってるようですね」
「新しく……すみません」
「いえ……大丈夫です」
ワンゲル町の浄化は無事(? )終了して、私達討伐隊は次のツウェン村に出発です。私は、ヴォカロちゃんの馬の後ろに乗せてもらってます。
「聖女様、気分が悪くなられたら仰ってくださいね」
「乗せて頂いてるだけなんですけど馬にもだいぶ慣れました」
「魔王討伐が終わったら、乗馬習われたら如何ですか。自分で乗れると楽しいですよ」
「そうですね」
討伐の後かぁ。その後、私どうなるんだろう。聖女って何か仕事あるのかな。家には帰れそうにないしなあ。この国の文化とか風習とか何にも知らないし……魔王倒してから考えればいいか。
「次のツウェン村は僕の故郷なんです」
「ヒンス様は貴族様ですよね?」
「一応、男爵家の四男ってことになってるんですけど。僕、庶子なんで。母の出身のツウェンで生まれたんです」
「余計なことを聞いてしまって、ごめんなさい」
「いえ、皆知ってることなので。今みたいに瘴気や魔物が多くなる前は良い所だったんですよ。田舎ですけどね」
ヴォカロちゃん、やっぱり可愛いよね。一生懸命、次々と村の良いところアピールしてくれて。村の入り口付近で手を振ってる人がいる。
「ユーア!」
ヴォカロちゃん、お知り合いですか。急に馬、走らせないで。しがみついてしまいましたよ。
「すみません、聖女様」
「どうにか無事です」
ヴォカロちゃん、私を降ろしてくれた途端、ワォ、彼女と抱き合いましたね。濃い緑髪のグラマラスな大人の女性です。
「僕の幼なじみのユーアです。ツウェン村の村長の娘です。ユーア、こちら手紙で書いた聖女様」
「ああ、ヒンスの手紙で書いてた人ね。あたし、ユーア。宜しく」
「どうも。」
幼なじみ? 妖艶な感じで綺麗な人だけど、三十代くらいに見えるんだけどなあ。『会いたかった』とか何やらかんたらイチャイチャし始めましたよ。私、ここにいて良いのかな。彼女、ジロッってこちら見ましたよ。えっと、牽制ですかね。ヴォカロちゃんと私はそんなんじゃありませんからご安心くださいませ。
「ヒンス、仕事中だ」
ヴォカロちゃん、黒髪さんに怒られた。これは仕方がないよね。
「すみません。村長の娘のユーアです」
「ツウェン村の村長を務めさせて頂いておりますガルーダの娘、ユーアと申します。ヒンスが何時もお世話になっております」
げっ、黒髪さんには丁寧に話すのね。
「騎士団団長のシンセアだ。王太子殿下が着かれたと村長に伝えてくれ」
「畏まりました。皆様のご到着心から歓迎申し上げます」
何か、ちょっとね。うーん、なんでしょうね。別にいいんですけど。
さて、このツウェン村の村長が曲者でした。村民の移動費用やら、今後の生活費、そして慰謝料を出して欲しいとのご要望です。国から既に予算を組んで物資の他に当面の費用も出しているんですけど足りないって言ってるそうです。足元を見て法外な金額言って来てるって会計担当の方が困ってました。村全体の移動なんて凄く大変だと思います。魔王討伐時と浄化の折の避難が目的なんですけど難しいんですね。強制力は使いたくないんですけど。
「わかった」
「おお、流石、王太子殿下。希望を通してくださるのですね」
「いや、この村では協力は無理だと言うことだろ」
「いえいえ、そう言う訳ではありません。不安な村民を守るためには必要なお金でして、それが頂ければ直ぐにでも移動させます」
「元々、国から最大限の保証もし、安全確保の避難の協力すら難しいのなら、わかったと言ったのだ」
「……何をでしょうか」
「この村は飛ばす」
「飛ばす?」
「我々の真の目的は魔王討伐だ。グズグズしてられんのだ。おい、討伐隊。次の村に向かうぞ」
連獅子さん、飛ばすって言っちゃった。村人達、パニックです。
「瘴気はどうなるんだ!」
「魔物は退治してくないのか」
「おい、聖女さんよ。俺達を見捨てるのか」
「早く浄化だけしてくれればいいだろう」
うっ、ちゃんと説明しなくちゃ。
「瘴気の浄化は無人になってからしか出来ません。人体にどのような影響があるのか現時点ではわからないんです。危険は冒せません。魔物については浄化された土地には寄り付き難いことは経験上間違いないと思われます。しかし、魔王がどのような動きをしてくるのか、今後何が起こるのかは予測出来ません。一刻も早く討伐に向かわなければならないのです。ですから、皆さんには、被害が及ばないうちに早く避難して欲しいんです」
村長が、連獅子さんから私に向きを変えた。にやつきながら、私の事を頭の先から足先まで値踏みするように見た。
「生意気な。我々にも生活がかかってるんだよ。まして、聖女と言っても可愛いだけの子供じゃないか。どの程度の力があるのか知らんが、私はこの村を預かっているんだ。妥協なんでするわけがないだろう」
「貴様、聖女様に向かって何て言う口の利き方だ!」
「村長、僕の言葉でも信用できませんか。聖女様の力はとてつもなく甚大で恐ろしいくらいなんです。世界が変わるんじゃないかって思うくらい本当に本当に恐ろしい力なんです」
黒髪さんに次いでヴォカロちゃんも前に出てきて庇ってくれてるけど『恐ろしい』って二度も言ってる。怖がられていんたんだ。ま、私も怖いんだけど。
「それが村の総意だな。時間が惜しい。この村を迂回して、次のサードアの者達をワンゲルまで移動させることにするぞ」
「「御意!」」
村長と村人達はまだ喧々囂々となっていて、収拾は付きそうになかった。




