その10 サードア
結局、私達は荷解きもせず、次の村サードアに向かうことになった。王太子、いや、国の判断だもの。部外者の私がこれ以上言ってはいけない。でも……。
ラジャスタさんに馬に乗せてもらおうとしていると、ユーアさんと若者の集団が駆け寄ってきた。ラジャスタさんが私を庇うように前に立った。
「聖女さん、あのね、ヒンスとも話してね。私達、避難したいの。ワンゲルに行ってもいい?」
「勿論です。ユーアさん、具体的には、何人ですか?」
「あたしを入れて三十七人。男が十八人で女が十一、子供が六人と赤ん坊が二人」
「ラジャスタさん、ジャッカス様とライアス様に直ぐにお伝えしてください」
「はい。畏まりました」
ラジャスタさんが、二人の元に走った。
「皆さん、ワンゲルまでの道は浄化されていますが、歩きだと大人で一日半はかかります。子供さんや女性の方のペースも考慮して協力して向かってください。これから騎士団の方達から細かな説明と物資が渡されると思います。怪我のないよう、慌てずに進んでください。町には待機してくれている騎士団の人がいますので指示に従ってくださいね」
皆さんが動き出した。ユーアさんが最後尾に付いた。
「聖女さん、ありがとう」
「気をつけて」
村長達は、避難した人達のことを『裏切り者だ』とか『唆された』とか言っていて、やっぱり避難はしないようだ。これも選択の一つ。そう思わなくちゃ。
ラジャスタさんの前に乗せてもらった。後ろだと完全に壁。前が一切見えなかったから。瘴気とか、突然の魔物に私が対処出来ないもの。サードア村は、今までの町村の距離間と違って少し離れている。周辺も荒んだ感じだった。浄化したから緑の高原になっちゃったけど。
そうそう、魔物とか害獣からの防御として村全体に壁が巡らされているんだけど、この村の防壁、滅茶高い。物見櫓まである。村の筈なんだけど小さい要塞みたい。直ぐに中に入れてもらえたけど、空気が凄く重たい。村民皆が広場に集まってくれたみたいだけど何か変。デモンゴージに一番近いから恐怖も一入だとは思うけど、それにしても重苦しいのよね。
「この村の代表者は何処にいる」
黒髪さんのよく通る声が響く。腰の曲がった老人が前に出てきた。
「この場には不在でございます」
「如何した」
「先日、狩りに出た子供を四足大から庇い怪我を負いましてございます」
久しぶりに聞きました。魔物の呼び名。四足大ってかなり大きいわよね。取り敢えず、怪我の状態見せてもらわなくちゃ。
「怪我人はどちらにいらっしゃいますか?」
「村の集会所に運び込まれたままでございます」
「お医者様は何と」
「村に医者はおりません。先触れに来てくださった騎士団の方が応急処置をしてくださいました」
流石です。騎士の方なら応急処置は万全ですね。
「ライアス様、私は怪我した方の元に参ります」
「ヒンス、聖女様にお供しろ」
「はい」
老人に案内されて集会所に来て驚いた。大怪我をした代表者だけじゃなく、怪我人が大勢、大人も子供も床にそのまま横になっているんだもの。
「皆さん、怪我を?」
「ここ最近、大物の魔物が頻繁に出るようになりましてな。」
代表者の側に行く。まだ、二十代くらいみたい。身体中に巻かれた包帯代わりの布が血で赤黒くなってる。こんな状態の人見るの初めてで怖い。足が震えて後一歩、近付けない。傍らには、母親だと言う女の人が寄り添ってる。
「聖女様、お願いです。息子を、ブレイビィをお助けください」
口が渇く。でも、覚悟を決めなくちゃ。
「いきます! ヒール!」
集会所の中が金色の光で包まれた。眩しくて目を瞑っていた私の耳に歓声が聞こえてきたんだけど。何、どうなったの。
「セイジョサマ、ス、スゴイデス」
ヴォカロちゃん、何んでカタカナになってるの?
周りを見渡すと怪我をしてた人達が皆つやっつやした顔でこっちを見てるんですけど……治ったのかしら?
「プレイビィ、気がついたのかい」
「やあ、母さん。俺、どうしてここに……」
代表者さんと目がバッチリ合いました。
「天使がお迎えに来たのか?」
「……?」
「なんて可愛いんだ!」
代表者さん、私の足にしがみつかないでください!
「こら、聖女様に無礼だろ!」
ヴォカロちゃん、元に戻って良かったね、じゃない。代表者さん、急に飛び起きて大丈夫なんですか!?
バーン!
集会所の扉が乱暴に開きました。たぶん、あの人ですね。
「サーヤ、大丈夫か! 物凄い光が、って何をしているんだ、お前は!」
連獅子さん、代表者さんを勢いよく放り投げました。
「ジャッカス様、今、治したばかりなんですから。また怪我させないでくださいよ」
「でも、サーヤにしがみついておっただろうが」
「目覚めたばかりで朦朧としてたんですよ。きっと、たぶん、きっと」
「で、今のは何の光だったんた?」
「私が治癒力を使ってみました」
「おお、そうか。と言うか、何故皆、健康そうで艶々しているんだ」
「代表者さんを治そうとしたら、集会所全体が光ってしまって」
「お前の聖力、ハンパないな」
「エヘヘ」
そう、神殿長に治癒魔法も使えますよって言われて『治れ』って言うのかって聞いたら、『いいえ。ヒールです』って答え。そこだけ呪文なのかーい。取り敢えず、聖女の力恐るべし。
代表者さん、服を着替えて整えたら、なかなかの美男子でした。まではいいんだけど、やけにくっついてくるんですこの人。
ライアス様がツウェン村での話をして、長距離になるけどワンゲルまで移動して欲しいと伝えてくれました。
「動ける者は避難させますが、老人や体力の無い者は残してもいいでしょうか。浄化に邪魔になるようでしたら、近くにある洞穴に一時身を寄せさせます」
「聖女様如何でしょうか?」
「直接の影響下になければ大丈夫かもしれませんね」
「では、そのように」
この代表者さんも仕事は出来る人だったみたいで、あっという間に村人を二班に分け、其々の責任者を決めて送り出してってテキパキ動いてくれました。その都度、私に報告に来なくてもいいんだけど。で、無人になったので浄化を願い、これから魔王討伐の最終の作戦会議を開きます。うん? 何故か代表者さんが加わっていますね。
「俺、今回子供を庇ったので不覚にも怪我しましたけど、結構戦えるんですよ」
代表者さんの他に三人、討伐に参加すると言ってくれた。
さあ、乾坤一擲の大勝負が始まる。




