その7 浄化
ヴォカロちゃんが、書類一式作り上げましたぁ。騎士より文官向きなんじゃないのって言ったら怒られるかな。
連獅子さんと黒髪さんの承認も得て、先触れは今日の夜明け前に出発しました。動き出したと思ったら、本当に仕事が早い。こんな風に出来る人達だからエリートなのよね。凄く納得です。
私達は二班に別れて活動ってことで、連獅子さんの本隊は避難民の受け入れに必要な物資とか食料とかの準備に。黒髪さん班は私を含めた五人で南西の町に向かう予定。大柄なラジャスタさん、ご一緒ですね。恥ずかしそうに頭下げてくれてます。何か可愛い。
さて、私達は南西目掛けてお昼前には出る予定なのよね。ご飯食べてからで良いんじゃないですか~って聞いたら『馬に揺られて酔わないか?』 なるほど! 絶対酔う自信あります。と言うか馬、牧場のポニーしか乗ったことないんですけど。どうしましょ。馬車だと時間が掛かると言うことで馬での移動が採用されてって、馬乗れないの私だけだし。
尚且つ、馬、滅茶苦茶大きい!! 軍馬っていう奴ですよね。横も縦も想像以上。どうやって登り着こうかと思っていたら、黒髪さんがひょいって乗せてくれました。そうなんです! 私、黒髪さんと一緒の馬に乗っての移動なんです。前に乗ってる私を後ろからハグして、なんて幸せなんでしょう! 死んでもいい! いやいや、私としたことが縁起でもない。
デンデンデン……
馬の背中の跳ね上げと私のバウンドが合わないと、お尻が痛い! 乗り始めたばかりなのに根を上げそうなんですけど。
「聖女様? 大丈夫ですか? 体の動きを私に合わせれば馬の動きに合いますから」
「……はい」
『はい』しか言えませんよ。ハグされて耳元で囁かれたら。黒髪さん、私を殺す気ですか!
「貴女には驚かされました。あちらの世界では何か指導されていたのですか?」
「私がですか? いえいえ、常に指導される側ですよ」
「では、貴女の国の指導者は優秀なのですね」
「うーん、ある意味優秀なんでしょうね。何か不測事態が起きた時にどうするかと言う教本」みたいなのって騎士団にもありますよね」
「ええ、ありますね。でも、今回聖女様がご提案くださったような内容ではありませんね」
「国や会社、えっと勤め先には、きっちりありますね。国や町からは個人向けの教本が無料で配られていたりします」
「個人にまでですか」
「ええ、全員が読んでるとは限りませんけど、指揮する側だけだと混乱が大きいですし。あっ、幼い子供達でも学校があるんですけど、そこでも避難の仕方とか習いますね」
「幼き時から学校で学ぶのですね」
「七才から十五才までは義務教育で全員が。後は大人に成るまでいろいろな学校とかがあって行く人と行かないで働く人とか個人で違いますね」
「素晴らしい制度ですね。皆に学べる機会が与えられる国ですか。想像以上でした」
そうだよね。学校行ってる時は、特に何にも思わなかったけど。学べる機会があるって凄いことなんだよね。この国に来て、王城しか知らないのに身分差とか凄く感じるもの。貴族の人達以外の識字率も低いって聞いたし。
こんなお話して、ちょっとお近づきになれたかななんて思っていたら、魔物、出てきました。げっ、でかい!? 熊、それもグリズリーみたいな体に虎の顔が付いてる!
「四足中だ! 臨戦態勢に入れ!」
「「おー!!」」
あれで中なの!? 大ってどんなだろう。取り敢えず、私もやってみよう。
「弱れー!!」
シューって縮んでく、縮んでく……どら猫みたいになっちゃった。
「あの……いっそ、消した方が良かったですかね」
「……いや、いいんじゃない……かなぁ」
黒髪さんが言葉濁した。『中』から『極小』だと食料にもなりませんよね。すみません。たぶん、力加減がわからないだけだと思います。善処します。
初めての夜営体験だったのに私ったら、ご飯食べたらグーグー寝ちゃって。焚き火を囲んでちょっと語らったりしてみたかったのに。思った以上に疲れてたのかな。お尻痛いし。
翌日の昼過ぎには、廃町に着いたけど、これが瘴気なのね。真っ黒なのかと思ってたんだけど、実際には霧が掛かっているみたいに見えるんだ。でも、空気が重いって言うのかな、息がしづらいっていうのかな。えっ、騎士さん達、蹲ってる? 黒髪さんまで苦しそう。そこまでじゃない私が異常なの? 早く浄化しなくちゃ。
「消えろ!!」
慌てたから、目一杯願っちゃった。
空気は澄み、日差しは柔らかく、爽やかな風が吹き、緑は息吹き、空には小鳥が舞っている……素敵……じゃない!
黒髪さんも騎士さん達も唖然としてる。しますよね。私もですもの。
「ライアス様、こ、これは何なんでしょうか」
「さあ……浄化、なんでしょうね」
「浄化ってこんな風になるんでしょうかね」
「いやぁ、どうなんでしょう」
取り敢えず、町中の安全を確認してから戻ることになったけど、こんな町なら私も住みたいかも。




