その3 聖女の力
翌日、宰相閣下から聖女の役割について説明を受けました。要するに聖女の仕事って、瘴気=毒ガスみたいなものを祓って、魔物=怪獣をやっつけて、魔王=悪玉のボスを倒すってことらしい。
「無理です」
「いえ、やって頂かねば」
「書類仕事とかパシリなら得意です」
「パシリは何かわかりませんが、聖女様のお役目は、先程の三つだけですので」
「三つだけって、その三つが物凄い内容なんですけれど?」
宰相さんがどれだけ食い下がっても、これだけは負けませんからね。
「無理です。瘴気の祓い方も魔物の倒し方も、ましてや、魔王を倒すなんてやり方も知りませんから」
「大丈夫です。これから神官達がやり方をお教えしますし、魔物や魔王と対峙する時は、お一人ではありませんのでご安心ください」
「その方達が戦うのでは駄目なんですか?」
「聖女様の祈りで相手の力が弱まり、そこを討伐隊が討つのです。絶対に聖女様のお力が必要不可欠なのです。私達は生死の境にいるのです。我が国を救う事ができるのは、聖女様だけなのです。どうか宜しくお願いいたします」
えー、断り辛い言い方。私みたいな普通の人がそんな大層な事出来るの? いや、出来ないでしょ。と、宰相さんとやり取りしていたら神殿から来た神殿長ですって方が来た。
「ご機嫌麗しゅう、聖女様」
「ご機嫌よう……」
「では、聖力の使い方をお教え致します」
「もうですか?」
着いて直ぐなんだ。せっかちなの?
「はい、先ず瘴気を感じたら『消えろ』と願います」
「願うんですか。呪文とか祝詞とか要らないんですか?」
「はい、願います」
「願うと?」
「消えます」
「……」
願うだけで消えるって、何言ってるの? 何で、何で?? その後どうするの?
「次に魔物ですが」
「えっ? 瘴気って消すのに願うだけで終わりなんですか?」
「はい。魔物につきましては『弱れ』と願ってください」
「『消えろ』じゃなくて?」
「魔物に『消えろ』と願いますとその物が消えてしまいますので」
「消えちゃ駄目なんですか?」
「……」
「……?」
「魔物の体が消えてしまうと食料になりませんから。聖女様に弱らせて頂いたところを騎士達が止めを刺します」
「食べるんですか!!」
「勿論です。次に魔王についてですが」
魔物、食べるんですね……。衝撃です。美味しそうには思えないんだけど。
「魔王も食べるんですか?」
「フォホホ。食べられませんよ」
良かった。食べなくていいんだ。流石に食べたくないよね。
「魔王につきましては、わかりません」
「……? 今なんとおっしゃいました?」
「魔王につきましては、わかりません」
「どうするんですか!!」
「その場で臨機応変に願ってください」
り、臨機応変って。倒し方もわからないのに討伐隊を行かせるな。
「聖女様のお国では、魔物をご覧になったことが無いとの事でしたので、実戦を兼ねまして一匹連れて来てもらいました」
神官長の合図で扉が開いてウサギ擬きが入れられてる檻が運ばれてきた。黒髪さんも入っていらっしゃいました。今日も眼福です。
「失礼致します。四足小を連れて参りました」
「四足小?」
「この魔物の事です」
えっ? それって名前なの?
「因みに他にはどんな魔物がいるのでしょうか」
「四足中、四足大、二足小、二足中、二足大、無足小、無足中……」
「あ、ありがとうございます!」
個体名ないんだー。しゅ、種類が少ないってことだよね。良かったって、喜ぶべきかな。
「これが四足小……」
「四足小の白です」
「白?」
「他に別種類が黒、灰、朱、藍……」
「へぇ~、たくさんいるんですね」
種類が多すぎて大中小だったのねぇ。アハハ……。
それにしても、このウサギ擬き、頭にゆらゆらしたアンテナみたいなのが生えてるだけで可愛いんだけど。ふわふわしてるし、触ってみたいなぁ。
「不用意に近付かないよう」
「あ、すみません。可愛いかったのでつい」
「可愛いい? 見た目で判断なさいませんよう。こいつらは普段群れで行動していて家畜や人を喰らいます」
「喰らう……」
「頭の突起には絶対触れないよう。痺れて身動きが取れなくなりますから」
痺れさせて喰らっちゃうってことだよね。こ、怖いよ。
「では、聖女様願ってみましょうか」
「は、はい。」
「(願う、願うって、えーっと) 消えろ?」
ポンという音と共に四足小ちゃんが消えた。
「あれ? はっ、すみません。間違えました。」
「はい。魔物には、『弱れ』ですね。まあ、慣れてください」
空っぽになった檻を黒髪さんがじっと見ている。
「すみません。お肉消しちゃって。」
「普段は食しません。討伐時の非常食です」
「そ、そうですか……」
討伐時のってことは、私も討伐に行ったら食べるのかな。嫌だな。
バーン!
びっくりした!! 扉を開けて連獅子さんが来ました。この人、遅れて来るのが得意なの? 遅刻魔なの!?
「もう、終わったのか。四足小は何処だ」
「消えました」
「すみません! 私が間違えて消しちゃいました」
「本当に消えたのか?」
「はい。確かに間違いありません」
連獅子さんも黒髪さんと一緒に空っぽの檻をみつめている。
「凄いな。聖女の力とは。これで討伐に向かう者達も少し休める」
「消しちゃって大丈夫だったんですか?」
「出会った全ての魔物を倒していたら、熟練の者達でも負傷するし、いつまで経っても魔王の元に辿り着けん。一発で消せるものなら、その方が良いに決まってる」
「なるほど。お肉は食べなくてもいいですか?」
「食料が必要な時だけ狩れば良い」
ああ、やっぱり食べるんだ。
「良くやった、サーヤ。これなら直ぐにでも出立出来るな」
別に行きたいとは思っていないんですけどね。




