その29 監禁
今、何時だろう? 窓がないからわからないわ。お腹の空き具合からすると七時、う~ん八時くらいかな。皆、心配してるよね。どうにか抜け出せないかな。こんな時、ドゥマさんなら抜け出せそうな気がするな。すると、扉の下の小さい扉からトレイに乗った食事が出てきた。
「待って! 出してください! 仲間が心配してると思うんです」
「大丈夫です。神殿長が上手く話されましたから」
「上手くってどういうこと?」
「女神様は元の世界に戻られたと。神殿長のお言葉に皆様納得されてたと思います。明日の朝には神殿を引き揚げられるかと」
何で神殿長の言葉なんか信じるのよ。有り得ないわ。私が元の世界に戻ったですって! 一方通行で戻れないって宰相さんも言って……た? あの時、言葉は濁したけど認めてはいなかった。戻る事の可能性があるって思ってたの? だからって、まさか皆『ああ、戻ったんだ』って納得しちゃったって言うの? 嫌よ! 誰か助けて。ジャッカス、私の事守るって言ったじゃない。貴方は信じてないよね。
それから、私は出された食事も手を付けず、眠ることも出来ずにベットの上で一晩中踞ってた。
扉を叩く音がした。私は慌てて扉の側に駆け寄った。
「誰か知らないけど、お願い助けて! 私、監禁されてるの」
一縷の望みを掛けて願った言葉には、いま、一番聞きたくない声が返ってきた。
「女神様、我々は監禁などしておりませんよ。」
「じゃあ、ここから出しなさい、神殿長!」
「これは貴女に課せられた試練なのです。貴女は、この場所で女神様について学び、深く理解して頂いた後、再びこの世界の表舞台に立っていただくのです」
何を言ってるの。私を洗脳でもして神殿の、いいえ、神殿長の傀儡にしてから戻そうって事?
「有り得ない! 絶対に貴方の思い通りになんてならないわ」
「我々は何年掛かろうとも構わないのですよ。貴女様が女神様としての自覚をお持ち頂けるまでいつまでもお待ちしております」
「貴方の邪悪な心なんか浄化してやる」
「女神様は人間に対して『消えろ』と、仰れるのですかな?」
「……」
「さあ、今夜はお休みくださいませ。そして、明朝、お連れ様方が王城にお帰りになられたならば、女神様のお勉強を始めるとしましょう。いやぁ、楽しみですな。ウホホホ」
悔しかった。神殿長の言う通りだわ。確かに人間に対して『消えろ』なんて言える訳がない。だからって、こんな所で朽ちたくなんかない。助けが来ないなら自分でどうにかしなくちゃ。
私は、先ず部屋の中を見回した。広さは八畳くらいかな。初めて生活した聖女用の部屋を彷彿させるような白い色で統一されている。シングルベットに衣装箪笥が一竿、小さな机と椅子、奥の小さい扉の向こうが水回りになっていた。
箪笥は、倒れないようにかボルトみたいなので止められている。中身は、真新しい聖女の衣装に下着の替え、タオル類が何枚かはいっているだけ。机の上には何も置かれてなく、引き出しの中も空。筆記具は置いてないのね。部屋の作りとしては、窓がないところを見るとやっぱり地下なのかも。外への扉は、鉄製で下の方に食事を入れてきた窓が付いてる。まるで監獄みたい。元々は何の部屋だったのかしら。
ベットに戻り、布団を剥がし、マットを退かしてみると下には何もなく、脚が床に固定されていてた。本当に変な作りの部屋。枕元の壁紙が少し浮いてる? 壁紙自体は真新しい物だから、急遽張り直した物だったのかしら。端に爪を掛け一気に剥がした。そこで目にしたものの驚愕に言葉を失った。
『聖女じゃない、聖女じゃない、聖女じゃない、聖女じゃない、聖女じゃない、聖女じゃない、聖女じゃない、聖女じゃない、……』
何これ……。赤黒い文字が壁一面に書かれていた。これを書いたのは、コインスデンスなのよね。じゃあ、この部屋は只の監獄なんかじゃない。お母さんの部屋だったんだ。気が付けば、涙が止めどなく流れていた。
お母さんは只、流されていたんじゃない。誰にも助けてもらえない中でも抵抗しようと踠いて踠いて、唯一の救いの手となった魔王の手を取ったんだ。私は、お母さんの二の舞にはならない。コインスデンスにはならない。絶対にここから出てやる! 絶対に! 絶対に!
私の体から金色の粒子の混ざった光が溢れ出ていた。力尽きた私は、再び気を失っていた。




