その28 いざ神殿へ
『お清め』当日の朝、神殿に着くと神殿長を始めとする神官達がずらりと並んで私達を出迎えた。こちらもジャッカスや第一騎士団という大人数、実に壮観な眺めでって言ってる場合じゃなくて、戦争でも始まるのかというほどお互い睨み合い、火花が散ってる状態ですね。
「聖女様、ようこそ、おいでくださいました。騎士団の皆様方におかれましては、やはり宿舎のご用意が間に合わずお引き取り頂きたく存じます」
「安心しろ。我が第一騎士団は夜営にも慣れている。一週間でも、一月でも困りはしない。食料も持参しているから気を遣う必要はない。普段通りにしてもらって構わない」
黒髪さんの返答に神官長は苦々しい顔で、騎士達を受け入れた。睨み合いの末、漸く用意されていた部屋に案内されたんだけど、私には綺麗に整ってはいるけどかなり奥まった一部屋、その向かいに侍女達の二人部屋、ジャッカスと黒髪さんには通路一つ離れた所に一部屋ずつだった。
「何だ? 随分と面白い部屋割りをしてくれたな。」
「皆様にゆったりと過ごして頂ける部屋をご用意したまでで……」
「おい、サーヤの部屋に何処からでもいい、侍女達用に二台ベットを運べ。俺とライアスは、サーヤの向かいの部屋に入る」
「お、お待ちください。何を勝手に」
神殿長の制する言葉など無視して、騎士さん達が私の部屋に空いている部屋から持ってきたベットを運び入れた。部屋は手狭になったけど、夜営は別として、この世界に来て誰かと一緒に同じ部屋で寝るのは初めて。昔やったお泊まり会みたいでちょっと楽しみ。あら、トワさんの目もきらきら輝いていますね。
「サアヤ様と同じお部屋で寝起き出来るなんて光栄です」
「いつも広い部屋で一人で寂しかったの。だから私も楽しみよ」
「だったら今度、俺が一緒に寝てやる」
「……!?」
何を赤くなりながら言ってるのよ。場所を考えてしゃべりなさいよ。敵の本陣の中なんだから、もっと緊張しなさいよ。こ、こっちまで赤くなっちゃったじゃない。連獅子の馬鹿!
どうにかこうにか落ち着いて、早速『お勤め』をする事になった。久しぶりに見た女神像は、やっぱりお母さんと私の顔をしていた。そして、見れば見るほど私にもジャッカスが言っていた通り、二人の微笑みが慈悲の微笑みというよりもちょっと小馬鹿にしたような、何らかの意図を含んだ笑みに見えてきた。
女神像自体は等身大だと思うんだけど、その下に二段になった台座があって、その上に建っているので実際には五、六メートルくらいあると思う。礼拝する場所からは離れていて見えないけど、女神像の台座に何か模様か文字が細かく彫られているみたい。公爵家のコインスデンス像の時と同じように日本語で何か彫られていたら謎解きが進展出来るんだけどな。時間が惜しいもの。今夜、皆が寝静まったら結構よ。
なんて、勢い込んでいたのにまさか初日のまだ日の高い内にこんな目に合うなんて思いもよらなかった。
事の発端は、昼過ぎに起こった。怪我をしたという親子が神殿を訪れたという知らせを受けた。治癒魔法を使える神官が皆、式典の準備で出払っているとの事で私に話が来たのだが、ドゥマさんは、黒髪さんの所に今後の予定を伺いに行っていて、トワさんは式典で身に着ける神具を受け取りに行くところで、行く向きが一緒なので安心して神殿の治癒室に向かった。
トワさんがまず治癒室内をチェックして、五、六才の男の子を抱きかかえた母親だけしかいないことを確認した。
「直ぐに戻りますけど、鍵を掛けておいてくださいね」
と言って、二つ先の部屋に取りに行った。私は、言われた通り扉に鍵を掛けて、親子に向き直った。
「お願いです……うっ」
「怪我をしたのは坊やですか? 何処を怪我されたんですか?」
「女神様、目を覚ましてください。王子を使って王家は貴女様の力を一人占めしようとしてるだけなんです。」
「何を言っ……!?」
怪我をして抱きかかえられていたはずの男の子が、私の足元に向かって液体の入った瓶を投げつけた。砕けた瓶からは白い煙が立ち、私も親子もその場に倒れ込んだ。
気が付くと見たことない小部屋に寝かされていた。頭がぼーっとして暫く状況が飲み込めなかった。私は、えっと、怪我をしたって言う親子会っていてと、男の子が投げた瓶から白い煙が出たのよね。その後が思い出せない。起き上がって部屋を確認した。扉は施錠されているし、窓もないわ。私、拉致されたんだ。漸く理解した。どうしよう。
その頃、治癒室の辺りは大騒ぎになっていた。トワは物の二分も掛からず治癒室に戻ったのに声を掛けても中から返事がない。やむを得ず扉を蹴破った所、部屋には紗綾の姿が見えない。怪我をしていたはずの親子が倒れていただけだった。トワは慌てて近くにいた騎士に事の次第を告げて、彼女自身は治癒室をもう一度確認している間に王太子と騎士団長を呼んでもらった。
駆けつけた二人は、気を失っている親子に気付け薬を嗅がせ状況を訪ねた。
「女神様は、この子に治癒してくださっている最中に突然消えてしまわれました」
「そんな馬鹿な!?」
「女神様は元の世界に戻られたのでしょう」
その言葉に一同、ゾッとして振り返った。そこには、いつの間に来ていたのか神殿長がひっそりと立っていた。




