その26 見解の違い
生誕祝賀会は、どうにか乗り切ったんだけど、神殿側完全に押さえ込んだって訳ではないものね。フェイト像の謎も残っているし。たぶん、ジャッカスの言っていた通り、魔王の『嫌がらせ』であってると思ってはいるんだけど。今の状態で神殿に容易に近付く事は出来ないし。先ずは、身近なところから片付けよう。
はい。身近なところの王太子妃教育です。何にもしなくてもいいなんて調子の良いこと言ったのは誰でしたっけ? 収穫としては神殿で習った歴史と王家側の歴史の解釈って微妙に違うと言うことはわかりましたよ。
先ず、共通認識としては、この世界に魔王がいると言うこと(今は消滅してけど)で、根本的な違いを言うと、王家側は聖女は偶然の産物ってこと。だって、この世界には元々魔法があって攻撃魔法が得意だったり、治癒魔法が得意だったり、植物の生育に関する魔法を操れる人なんかもいる訳で。マルチな力を持つ聖女も一つの個性みたいに捉えている。
これに対して、神殿側の考える聖女とは、自分達が女神に祈る行為への恩恵として使わされた女神の配下みたいに捉えてるってことなのよね。だから、自分達の功績って言葉が出てくるのよ。
神様や女神様を信じているのは、いいのよ。心の拠り所にもなるしね。でも、それを信じてる人達を利用したり、扇動したりするのはどうなのかな。祝福も何度か見せてもらったし、私もやってみたけど、施してるっていうのって、自分達の方が上にいるって感じがするのよね。勿論、身分差とか貧富の差とかあるのはわかるけど、私はちょっと聖魔法が得意な普通の人間だし。あっ、ちょっと体が光るのも付け加えておくけどね。
元々、王家側は聖女召喚にそれほど乗る気じゃなかったみたいなのよね。実際にそんなことが出来るのかって事だったんでしょうね。出来ちゃったけど。今は王家も知っている通り、魔王の差し金だった訳で。そう、皆、特に神殿が魔王に踊らされていたって言えばいいのかしら。
でも、もし魔王がコインスデンスを違う世界に送らなかったら、私、今、一緒にいる人達と出会わなかったのよね。そのまま、この世界で育っていたなら、勿論、とっくに死んでるんだろうけど、どんな一生を送っていたんだろう。
「何かあったのか」
「ジャッカス……」
「神殿のことでも考えてたんだろ。眉間に皺が寄ってるぞ」
「もしね、コインスデンスが魔王と出合わなかったらって……」
「うん?」
「ラルスは、トレイターに引き取られたけど、私は神殿で育てられたはず。何も知らず、只、言われるままに消耗品のように朽ちていったのかもしれない。次の聖女を確保するためにトレイターみたいな男の子供を産ませられていたかもしれないって。今更ながらなんだけど恐ろしくなって」
「魔王に感謝って事か? 俺が思うにそのまま育ってたとしてもお前ならきっと神殿を掌握してたんじゃないか」
「掌握って。私を何だと思ってるのよ」
「小っちゃくて弱っちい癖に前を向いて逃げない頑固者の俺の可愛い婚約者」
「長い上に褒めてない」
ジャッカスが私をギュッと抱き締めた。
「やっぱり、魔王に少しは感謝するかな。今、お前は俺の腕の中にいるしな」
「……うん」
暫くジャッカスの抱擁を満喫してから、私は午後からの王太子妃教育に向かった。




