その18 密談
今日も2話投稿します。
四十分ほどしてヴォカロちゃんが迎えに来てくれた。本当に死ぬかと思ったんだから。連れてきてくれたのは、大広間からだいぶ離れた場所にある部屋だった。一人だと戻れないかも。
「僕はここまでなので。聖女様、じゃあまた」
「ありがとう。ユーアさんにも宜しく伝えてくださいね」
「はい。必ず伝えます」
ヴォカロちゃんと別れ、扉をノックすると黒髪さんが顔を覗かせた。部屋の中には既に連獅子さんもいて手招きされたので指示通りにソファに腰かけた。黒髪さんが何も言わずに紅茶を入れてくれた。テーブルには、サンドイッチやカナッペ、一口大のお菓子が置かれていた。
「サーヤ、お前、何も食べてないだろう。少しでも胃に入れておけ」
「ありがとうございます」
言われてみれば、確かに空腹だった。お言葉に甘えてサンドイッチにかぶりつく。紅茶の優しい香りが緊張を解してくれる。一息ついて前を見ると連獅子さんと目が合った。
「少しは落ち着いたか? 『腹が減っては戦ができぬ』って、討伐の時、良く言ってたもんな」
「はい。これから戦ですか?」
「言えなくはないな。ライアス」
黒髪さんが一枚の紙を広げた。そこには、派閥の簡略図が示されていた。王権派、神殿派、中立派、其々の中でも細かく分かれている。王家でも連獅子さんだけではなく弟妹殿下達の派閥もあるのね。
「今日、お会いしたサクレッドール公爵閣下は中立派の筆頭です」
「王家にも神殿にも思うところがあるんだろうな」
「コインスデンス様の件ですか?」
「ああ。一人娘を無理やり連れていかれ挙げ句に酷使して死なせた。わかんでもないがな。それは一族に脈々と受け継がれている。でだ、お前に婚姻を勧める」
「はい? どういう意味ですか?」
「殿下、省略し過ぎです」
「そうか。このままだと一生神殿に飼い殺しになる。下手をすると神殿派の旗頭にされて王家に反旗を翻す事もあり得る。高い爵位を与えて牽制したが、今朝の出来事で奴らに大義名分を与えてしまったからな」
「爵位って、只の気まぐれじゃなかったんですか?」
「人を何だと思ってる。まあ、ほかにも意図はあったが……」
連獅子さんの話によると、今朝の出来事で神殿側は既に私の身柄を渡すよう進言してきたそう。女神の再来を守るのは神殿の役割とか言って。筋は通っているのか。でも、王家に反旗をって内乱になるってことでしょ。そんなのお断りよ。叙爵って、牽制だったのね。ちゃんと説明してくれないとわからないじゃない。で、次は結婚? ええっ、結婚!
「爵位の高い方との婚姻を成せば、もう聖女ではないと突っ跳ねる事が出来るのは間違いありません。聖女様には、突然の話で不本意な事とは思いますが、国の為にも貴女自身の為にも是非ご一考ください」
「……」
『わかりました』って、言わなくちゃいけないのにどうしても言葉が出てこない。貴族の令嬢なら良く聞く話なんだろうけど、見ず知らずの人と結婚するなんて考えられない。そんなの嫌だ。
「泣くな、サーヤ。」
「……私、どうしてここに来ちゃったんだろう。今までだって、恋人なんていたことないのに。いつかそういう人と出会って、お互いに好きになって一生一緒に居たいって思って……それなのに知らない人と結婚だなんて……グスン」
「し、知らない者でなくてもいいんだぞ」
「誰よ! ライアス様だってヒンス様だってお相手がいるじゃない」
「わ、忘れてないか! 知り合いは他にもいるだろう」
「えっ? 後は誰かの後妻とか第二夫人になれって言うの?」
「馬鹿か! 俺を忘れてるって言ってるんだ!!」
「……貴方、王太子じゃない。隣国のお姫様とか高位の貴族のご令嬢とかと結婚するんじゃないの?! だいたい貴方の年なら婚約者がいるんじゃないの?」
「俺は、討伐に明け暮れてたからな。何時命を落とすかわからないからと言って婚約はしていない」
「私を助ける為? 違うわね。国の為に犠牲になるのね。貴方らしいわ。」
「本当にお前は馬鹿だな! そんなことで決めるかよ。」
「……だって」
「ああ、もういい! 俺はずっとお前の事が好きだったんだよ! いい加減、気付けよ、馬鹿が!」
「馬鹿、馬鹿って、何よ! そんなのわからないわよ! 何時も小さい、小さいって揶揄ってただけじゃない!」
「小さいってのは、可愛いってことだろうが!」
「小さいは小さいよ!」
「お二方共、落ち着いてください! 今後の事を真剣に考えてください」
黒髪さんに怒られた。連獅子の馬鹿。何よ、どさくさに紛れて。
「聖女様、神殿側はどう動くかわかりません。早急にこちらも手立てを考えなければならない状況は変わりません。僭越ながら私の気心の知れた者もご紹介させて頂きますので、どうか前向きにお考えを」
「……はい」
「ライアス、お前。裏切り者め!」




