第4話 負け犬の課題
「……で、感想は?」
訓練場から教室へ戻る廊下で、隣を歩く エリシア・ノヴァ が、何でもない顔でそう聞いてきた。
「何のだよ」
「敗北の」
言い方がいちいち鼻につく。
「次は勝つ。それだけだ」
「反省は?」
「……してる」
「見えないわ」
俺は眉をひそめた。
さっきの模擬戦。
何もできずに負けたわけじゃない。
ただ、通じなかった。
力任せの突進も。
無理やりの連打も。
限界以上の身体強化も。
全部、こいつには届かなかった。
「あなた、才能はあるのよ」
「急にどうした」
「事実を言っただけ」
エリシアは俺の方も見ずに続ける。
「出力は高い。踏み込みも速い。痛みにも強い。でも――」
少し間を置いて、こっちを見る。
「雑」
……否定できねえ。
「魔力の流し方が粗い。力みすぎ。無駄が多い。だからすぐ消耗する」
「分かってる」
「分かっていて直していないなら、なお悪いわね」
「お前、ほんと感じ悪いな」
「あなたほどではないわ」
少しだけ口元が緩んでいた。
教室へ戻ると、また視線が集まった。
「帰ってきたぞ」
「特待生相手に善戦してたな」
「でも負けたんだろ?」
好きに言えばいい。
俺は席に座り、机に肘をついた。
悔しい。
その感情だけが、まだ腹の底に残っている。
「ほら」
横から紙袋が差し出された。
ユウト・セルヴァ が、にやにやしながら立っていた。
「なんだこれ」
「慰めの焼き菓子。敗者にも糖分は必要だろ?」
「言い方が腹立つな」
「食う?」
一つ取って口に入れる。
……うまい。
「どうだった? 特待生」
「むかつくくらい強い」
「だろうな。あの人、本国じゃ若手有望株らしいし」
ユウトは楽しそうに笑う。
「でもお前も相当変だったぞ」
「褒めてんのか?」
「半分な」
こいつは敵意がなくて楽だ。
そこへ教室前方の扉が開いた。
ガイゼン教官 が入ってくる。
「午後の授業は変更だ。寮説明と施設案内にする」
教室がざわつく。
「移動しろ。騒ぐな。遅れた奴から減点だ」
全員が一斉に立ち上がった。
ユウトが俺の肩を叩く。
「よし、新入り。俺が案内してやる」
「頼んでねえ」
「遠慮するなって」
「してねえ。拒否だ」
「似たようなもんだろ」
こいつ、妙に絡んでくるな。
――学生寮。
石造りの大きな建物だった。
「一年は基本二人部屋。上位者は個室に移れる」
「成績主義か」
「実力主義、な」
ユウトは廊下を歩きながら続ける。
「この学校、なんでも順位で扱い変わる。設備、教師、飯の質まで違う」
「分かりやすくていい」
「お前そういうの好きそうだよな」
嫌いじゃない。
努力した分だけ上に行けるなら、それでいい。
部屋番号札を見る。
312号室。
扉を開けると、簡素だが十分な広さの部屋だった。
ベッド二つ。机二つ。窓あり。
「ルームメイトまだ来てないな」
「お前じゃなくて助かった」
「ひでえ」
ユウトは笑いながら窓の外を指さした。
「あれが訓練場。その奥がランキング闘技場。さらに向こうが特別棟」
「特別棟?」
「上位者専用施設。教師も設備も別格らしい」
窓の外を見る。
遠くに見える立派な建物。
……ああいうのは嫌いじゃない。
上に行った奴だけが手に入る場所。
「お前、狙うんだろ?」
ユウトが聞いてきた。
俺は少し黙った。
名門校の合格発表。
不合格通知。
総合適性不足。
あの紙切れが、まだ頭に焼きついている。
「ああ」
拳を握る。
「この学校の上まで行く」
ユウトは嬉しそうに笑った。
「いいね。そういう分かりやすい野心、俺は好きだ」
日が沈み、ユウトが自分の部屋へ戻ったあと。
俺は一人で寮を出た。
向かう先は、夜の訓練場。
誰もいない石畳の中央で、拳を構える。
負けたままで寝られるか。
雑だと言われた。
燃費が悪いと言われた。
……なら、直すだけだ。
昼間より少し丁寧に、身体強化を流す。
さっきよりわずかに軽い。
「……なるほどな」
俺は小さく笑った。
まだやれる。
ここからだ。
明日もご愛読お願いします!古参の皆様大好きです!




