第23話 誇りの旗 祖国の英雄
今回はエリシア視点の回です。
ルミナ教皇国への想い、そしてレオ・ブラッドフォードとの戦いへ向かう決意を描きました。
いつもとは少し違う空気の一話、楽しんでいただけたら嬉しいです。
中央大闘技場の熱狂は、試合終了後もしばらく収まらなかった。
『圧勝!』
『王立附属学院、盤石の勝利!』
『レオ・ブラッドフォード、やはり別格!』
観客たちは興奮したまま席を立ち、通路でも売店でも、話題はその一戦でもちきりだった。
先ほどまで行われていたのは、今大会屈指の注目試合。
ブラッドフォード家
vs
ルミナ教皇国 筆頭代表、聖堂騎士学園 。
結果は、一方的だった。
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だが、その喧騒が遠く聞こえる場所で。
エリシア・ノヴァ は、一人立ち止まっていた。
視線の先には、敗れて退場していく聖堂騎士学園の選手たち。
担架に乗せられた後衛。
肩を借りながら歩く前衛。
そして、先頭を自分の足で歩いている槍使いの少年。
彼の背中を、エリシアはずっと見つめていた。
同い年。
それでも、自分より先を走っていた人だった。
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彼の名は、ルミナ国内で知らぬ者のいない若き騎士。
“神護の若槍”。
国内大会優勝。
辺境魔獣討伐に最年少参加。
教皇直々に表彰され、国民栄誉章まで授与された天才。
まだ学生でありながら、将来の聖騎士団長候補とまで言われていた。
幼い頃のエリシアにとって、それは雲の上の存在だった。
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祝祭の日。
白い大通り。
花びらの舞う中、白馬に乗った彼が街を進む。
民衆の歓声。
子供たちの憧れの眼差し。
エリシアもまた、人混みの中からその姿を見上げていた。
白い鎧。
誇り高い姿勢。
誰よりも真っ直ぐ前を見る目。
「すごい……」
思わず漏れた声に、隣の父が笑った。
『お前も努力すれば、ああなれる』
『……本当に?』
『努力した者にしか、届かない場所だがな』
その日から、彼女は槍を握った。
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尊敬していた。
だが、それだけではなかった。
同い年。
同じ国に生まれ。
同じ時代に育ちながら。
どうしてここまで差があるのかと、胸が苦しくなる日もあった。
訓練で倒れた夜。
一人で泣いたこともある。
『どうして私は、あんな風になれないの』
その悔しさごと、努力へ変えてここまで来た。
いつか並びたい。
いつか超えたい。
そう思っていた背中だった。
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その背中が、今日。
一分も経たずに、折られた。
巨大な斬撃。
リングを裂く一閃。
誇りも歴史も関係なく、すべて飲み込む暴力的な力。
あの少年は立ち向かった。
最後まで槍を捨てなかった。
それでも届かなかった。
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通路で囁き声が聞こえる。
「やっぱりルミナも落ちたな」
「国が傾けば人材も育たん」
「昔の名門も終わりか」
「帝国戦の敗北が尾を引いてるんだろ」
エリシアの指先が、わずかに震えた。
違う。
それは違う。
聖堂騎士学園は弱くない。
あの槍使いは本物だ。
神聖結界の完成度も高かった。
連携も洗練されていた。
あの実力なら、多くの代表校に勝てる。
敗北の理由は、国の衰退なんかじゃない。
ただ一つ。
レオ・ブラッドフォード が、強すぎただけだ。
それだけだ。
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「……でも」
エリシアは小さく呟く。
その“強すぎる”相手と、次に戦うのは自分かもしれない。
そう思った瞬間、胸の奥に冷たいものが落ちた。
恐怖。
認めたくない感情だった。
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「エリシア」
背後から声。
振り向くと、レナ と仲間二人が立っていた。
「こんなところにいたの」
レナはいつも通りの口調だったが、目は真剣だった。
「次の組み合わせ、出たわよ」
一枚の紙を差し出される。
エリシアは無言で受け取った。
そこに書かれていた対戦カードを見て、空気が止まる。
次戦――中央大闘技場。
エリシア隊
vs
ブラッドフォード家
レナが苦く笑う。
「最悪の相手ね」
後衛の一人が乾いた声を漏らす。
「……よりによって次かよ」
もう一人も表情を硬くした。
「観客は盛り上がるでしょうね」
エリシアは何も答えなかった。
ただ、その紙を静かに握りしめていた。
宿舎へ戻る途中、王都の街はまだ祭りの熱を残していた。
屋台の灯りが石畳を照らし、酒場からは笑い声が漏れてくる。
広場では楽師が演奏し、通りでは観光客が大会の話で盛り上がっていた。
『今日の斬撃、見たか!?』
『あれ本当に学生かよ!』
『ブラッドフォード家が優勝だろ、もう』
『いや、留学生の銀髪も強いらしいぞ』
『でも相手が悪すぎる』
そんな声が、通り過ぎるたび耳に入る。
だが、エリシア・ノヴァ の足は止まらなかった。
脳裏に焼き付いていたのは、歓声ではない。
リング中央から外周まで走った、あの巨大な一閃。
空気ごと切り裂くような斬撃。
圧倒的な力。
「……強い」
認めざるを得ない。
今まで見てきた誰よりも。
自分が追い続けた背中よりも。
そして、今の自分よりも。
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隣を歩く レナ が、横目で見た。
「珍しく静かね」
「考えているだけよ」
「怖い?」
少し間が空いた。
「……少しだけ」
レナが笑う。
「正直でよろしい」
「でも」
エリシアは夜空を見上げた。
王都の上空に、開会祭の花火の残光が薄く残っている。
「逃げる理由にはならない」
レナの口元が少し上がる。
「それでこそ隊長」
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## ルミナの記憶
宿舎の自室。
窓辺に立ち、エリシアは静かに目を閉じた。
思い出すのは、幼い日の ルミナ教皇国 。
白い石造りの街並み。
朝になると鐘が鳴り、人々が祈りを捧げる。
大聖堂の前では、貧しい者へ食事が配られ、怪我人には治癒術師が無償で手を貸した。
騎士たちは威張らず、子供に剣の持ち方を教え、老人の荷物を運んだ。
力ある者が、弱い者のために動く国。
それが、彼女の誇りだった。
近年は乱れ始めている。
教会内部の争い。
増える税。
減る人材。
失われた余裕。
それでも。
あの国の根まで腐ったとは、エリシアには思えなかった。
「私は、あの国が好きだった」
誰に聞かせるでもなく呟く。
「……今でも」
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## 朝
翌朝。
中央大闘技場へ続く選手通路には、すでに人が溢れていた。
今日最大級の注目カード。
エリシア隊
vs
ブラッドフォード家
観客席へ向かう者たちの会話が飛び交う。
「留学生エース、どこまでやれるかな」
「十分強いけど、相手がレオだしな」
「三分持てば大健闘じゃないか?」
レナが肩を鳴らす。
「言ってくれるじゃない」
後衛の一人が苦笑する。
「完全に噛ませ犬扱いだな」
もう一人も肩をすくめた。
「嫌いじゃないけど」
エリシアは前を向いたまま歩く。
その背中に、迷いはなかった。
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## 仲間たち
控室。
装備確認を終え、全員が静かに座っている。
緊張していない者はいない。
それでも誰一人、逃げたいとは言わなかった。
レナが槍を肩に担ぐ。
「で、隊長。どうする?」
後衛の一人が口を開く。
「真正面からやって勝てる相手じゃない」
「でも、勝つ気がないならここにいない」
短い沈黙。
全員の視線がエリシアへ集まる。
彼女は立ち上がった。
青い瞳が、真っ直ぐ仲間を射抜く。
「私が倒す」
その一言で空気が変わる。
「レオ・ブラッドフォードを倒して、証明する」
一歩、前へ出る。
「ルミナ教皇国の誇りは、まだ折れていないと」
レナが笑った。
「いいわね」
後衛二人も立ち上がる。
「乗った」
「最後まで付き合う」
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## 開門
巨大な扉が開く。
光と歓声が、一気に流れ込んできた。
中央大闘技場。
何万人もの視線が、その先にある。
実況の声が響く。
『本日最大注目カード!』
『留学生エース率いる エリシア隊 !』
『対するは無敗の怪物! ブラッドフォード家 !』
歓声が爆発する。
エリシアは真っ直ぐ前を見た。
その先。
既にリング中央には、レオ・ブラッドフォード が立っていた。
感情のない目で。
まるで、誰が相手でも結果は同じだと言うように。
エリシアは槍を構える。
「その顔、崩してみせるわ」
誇りを賭けた戦いが、始まる。
今回も読んでいただきありがとうございます!
第23話は、エリシアが抱える祖国への誇りと、レオ戦へ向かう覚悟の回でした。
これまで強敵として描かれてきた彼女ですが、今回は一人の少女としての感情や背景を意識して書いています。
次回はいよいよ中央大闘技場での注目試合。
誇りを懸けた戦いを楽しんでいただけたら嬉しいです!
次回もよろしくお願いします!




