第18話 始まらない戦い
三位決定戦、当日。
第一訓練場は朝から異様な熱気に包まれていた。
観客席は満席。
立ち見まで出ている。
「トライ・ブレイク、本当にここまで来たな」
「相手はグランセイルだぞ」
「名門相手の最後の壁って感じだな」
ざわめきの中、俺たちは控え席にいた。
ユウト・セルヴァ がそわそわしている。
「緊張する……」
「珍しいな」
「いや最後の一戦だぞ!? ここ勝てば本戦だぞ!?」
横で カイト が机に突っ伏していた。
「眠い」
「お前は昨日寝ただろ」
「こういう日は余計眠い」
意味が分からない。
だが少し笑ってしまった。
昨日までなら、こんな空気はなかった。
俺たちはようやく、チームになった。
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リングの反対側を見る。
すでに レッドファング の三人が観客席にいた。
昨日の勝者側通過組。
主将 ガレス が大声で手を振る。
「ようクロウ! 負けんなよ!」
「うるさい」
「今日は声小さめだぞ!」
十分でかい。
さらに上段席。
エリシア隊 もいた。
勝者側一位通過。
エリシア・ノヴァ は腕を組み、静かにこちらを見ている。
隣の レナ は槍の手入れをしていた。
余裕だな。
気に食わない。
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開始時刻。
だが、相手が来ない。
ざわめきが広がる。
「遅れてる?」
「グランセイルが?」
十分。
二十分。
教官たちが慌ただしく動き回っていた。
ガイゼン教官 の顔まで険しい。
嫌な空気だった。
ユウトが小声で言う。
「……なんか変じゃない?」
「ああ」
カイトも机から顔を上げた。
「眠気が飛ぶくらいには」
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やがて、中央リングに学院長が現れた。
会場が静まり返る。
「三位決定戦について通達する」
嫌な予感がした。
「グランセイル は本日付で棄権届を提出。学院を自主退学した」
会場が爆発した。
「はあ!?」
「なんで!?」
「退学!?」
ユウトが立ち上がる。
「え、えええ!?」
俺は舌打ちした。
「ふざけんな」
学院長は続ける。
「よって三位決定戦は不戦勝。トライ・ブレイク の本戦出場を認める」
歓声と困惑が入り混じる。
ユウトが俺の肩を掴んだ。
「やった! 本戦だぞ!」
「……こんなの勝ちじゃねえ」
カイトが珍しく真面目な顔をしていた。
「うん。変だね」
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## 表向きの理由
その後、追加説明がなされた。
グランセイルは先日の エリシア隊 との敗北で、自分たちの限界を悟った。
兵の道を諦め、帰郷を選んだ――という。
観客席はざわついた。
「そんなことあるか?」
「名門が?」
「エリシア隊、そこまで……」
エリシア本人は無表情だった。
俺はその顔を見て確信した。
こいつも信じていない。
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## 裏で起きていたこと
控え席へ戻る途中、廊下の奥から怒声が聞こえた。
軍服の男たち。
学院上層部。
聞こえないよう抑えているつもりらしいが、漏れていた。
「武器庫の確認は終わったのか!」
「……一つ消えています」
「ありえん! あれは二重封印だぞ!」
「グランセイルの寮室は空です」
足が止まる。
ユウトも顔をこわばらせた。
ガイゼン教官が現れ、俺たちを睨む。
「聞かなかったことにしろ」
「無理があるだろ」
「なら忘れろ」
「もっと無理だ」
教官は深くため息をついた。
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## Aランク武器
「一つだけ教える」
低い声だった。
「今朝、国営武器庫からAランク武器が盗まれた」
ユウトが青ざめる。
「Aランクって……部隊長級しか持てないやつ!?」
「そうだ」
Aランク武器。
国宝には届かない。
だが戦場の流れを変えうる兵装。
適性が必要で、誰でも扱えるわけじゃない。
だからこそ数が少なく、一つ一つが国家級の価値を持つ。
本来なら今回の大会で、有望株に寄贈される予定だったらしい。
「盗まれたのは?」
俺が聞く。
ガイゼン教官の目が細くなる。
「籠手バルグナック」
拳に装着する黒鉄の籠手。
装備条件が極端に厳しく、使い手がほぼいない代物。
だが、適合者が使えば近接戦の常識を覆すと言われている。
ユウトが俺を見る。
俺も無言だった。
……体術用か。
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## 違和感の正体
「グランセイルは兵の道を諦めたんじゃない」
俺が言う。
「最初から別目的だった」
ガイゼン教官は否定しなかった。
「表には出すな。国家間問題になる」
つまり、黒だ。
カイトがぼそっと言う。
「スパイってやつ?」
「そういうことだろうな」
ユウトが震えた。
「学園大会ってもっと青春イベントじゃないの!?」
「どこを見てそう思った」
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## 本戦出場
外へ出ると、観客席ではもう次の話題で盛り上がっていた。
トライ・ブレイク、本戦出場。
不戦勝でも結果は結果。
祝福の声も飛ぶ。
だが俺の中に残ったのは、勝利感じゃない。
奪われた感覚だった。
戦うはずだった相手。
確かめるはずだった今の実力。
全部持っていかれた。
その時、後ろから声がした。
エリシアだった。
「不満そうね」
「当たり前だ」
「でも現実では、戦いは始まる前に終わることもある」
「気に食わねえ理屈だ」
「そうでしょうね」
少しだけ、口元が緩んだ気がした。
「だからあなたは面白いのよ」
言い残して去っていく。
……何なんだ、あいつ。
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夕暮れの校舎前。
俺は拳を握る。
本戦出場。
それは嬉しい。
だが、それ以上に思うことがある。
盗まれた 籠手バルグナック 。
もし本当に体術向けなら――
いつか俺が、取り返す。
その時は、拳ごと奪い返してやる。
今回も読んでいただきありがとうございます!
第18話は、タイトル通り“始まらない戦い”でした。
三位決定戦という大きな舞台でまさかの棄権。
その裏で動いていたスパイ、そして盗まれたAランク武器――少しずつこの物語の舞台が学園の外へ広がり始めました。
クロウたちは本戦出場決定。
ですが、気持ちよく終われないのもクロウらしいかもしれません。
そして体術使い向けとされる籠手も今後大きく関わってきます。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!
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次回もよろしくお願いします!




