第17話 眠っていた天才
敗者側トーナメント準決勝。
第一訓練場は、これまで以上の熱気に包まれていた。
ざわめきの中心は、今日の対戦カードだった。
「おい、見たか?」
「ストーム・ハウルが敗者側に落ちてる……」
「普通なら本戦側に残る実力だぞ」
「相手が悪すぎたんだ。エリシア隊に当たったからな」
「トライ・ブレイク終わっただろこれ……」
本来なら、ここにいるはずのないチーム。
リーグ上位常連。
優勝候補の一角。
それが、エリシア隊 に叩き落とされ、この敗者側へ流れてきた。
つまり――
敗者側にいるには強すぎる。
控え席で、ユウトが青ざめていた。
「いやいやいや、なんでこんなの残ってんの!?」
「運が悪い」
カイトが欠伸する。
「他人事みたいに言うな」
俺が言うと、カイトは肩をすくめた。
「実際、半分くらい他人事だったし」
「今から当事者に戻れ」
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掲示板には対戦カード。
トライ・ブレイク
VS
ストーム・ハウル
ユウトが深呼吸した。
「……でも、勝つしかないか」
「当然だ」
リングへ向かう。
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相手チーム
向こうに立つ三人は、余裕すら感じさせた。
中央の長身男、ヴァルト 。
風属性強化と高速連携を操る主将。
左右には双短剣使いの シエラ と、後衛術師の ロイド 。
ヴァルトが笑う。
「災難だったな、お前ら」
「何がだ」
「俺たちとここで当たったことだよ」
「じゃあ、もっと災難にしてやる」
俺が返すと、観客席が少し湧いた。
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「始め!」
開幕と同時に風が走る。
速い。
ヴァルトが一瞬で懐へ入り込む。
拳を合わせる。
重くはない。
だが流される。
横からシエラの蹴り。
さらにロイドの風弾。
「っ!」
三方向同時。
ユウトの補助障壁がぎりぎり間に合う。
「速すぎるって!」
「かなり仕上がってるね」
カイトが珍しく真面目な声を出した。
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## 圧倒的な完成度
相手は隙がない。
ヴァルトが前へ出れば、シエラが側面を取る。
シエラを追えば、ロイドが術式で止める。
ロイドを狙えば、ヴァルトが割り込む。
まるで一つの生き物みたいだった。
レッドファングが“個の強さ”なら、こっちは“集団の完成”。
「クロウ!」
ユウトが叫ぶ。
「前に出すぎ!」
「見えてる!」
見えている。
だが、打開策がまだない。
その時、カイトがぼそっと言った。
「速いんじゃなくて、順番がうまい」
「……何?」
「攻める順番。見て」
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## カイトの過去
整った動き。
その光景は、昔の家を思い出させた。
姿勢。礼儀。成績。結果。
全部、外から見える綺麗さが求められた家だった。
父は世間体を気にし、母は比較ばかりした。
『うちの子は優秀で当然』
カイトは何でもできた。
剣も、体術も、勉強も。
やれば結果が出た。
だから期待された。
そして息が詰まった。
勝てばもっと求められる。
できればさらに要求される。
なら――やらなければいい。
手を抜く。
怠ける。
本気を見せない。
失望された方が、ずっと楽だった。
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「カイト!」
現実へ戻る。
クロウが二人に挟まれていた。
ヴァルトの拳。
シエラの短剣。
「ちっ」
滑り込み、二人の足へ触れる。
崩し。
だが片方しか崩れない。
「惜しい」
シエラが笑う。
……まだ足りない。
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## 今の居場所
「寝てんじゃねえ!」
クロウの声が飛ぶ。
「起きてるよ」
「なら来い!」
その一言が、妙に胸へ残った。
昔は並ぶことすら許されなかった。
今は違う。
こいつらは“優秀だから”呼ぶんじゃない。
一緒に勝つために呼ぶ。
それが少し、嬉しかった。
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## 追い詰められる
中盤。
ユウトは魔力切れ寸前。
クロウは被弾が増えている。
俺も崩しが読まれ始めた。
ヴァルトが笑う。
「終わりだ」
ロイドの拘束術式。
シエラの突撃。
クロウの腹へヴァルトの拳。
「ぐっ……!」
膝が落ちる。
観客席が息を呑む。
「決まったか!?」
その時。
カイトが一歩前へ出た。
「……面倒だけど」
小さく呟く。
「少し、本気出す」
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## 影で磨いていた技
放課後。
二人が帰った後。
誰もいない訓練場で、カイトは一人残っていた。
崩しは触れて倒す技。
だが読まれれば終わる。
なら、接触した瞬間に重心そのものを回せばいい。
何百回も失敗した。
転んだ。
痛かった。
眠かった。
面倒だった。
それでも続けた。
あの二人と並ぶために。
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## 新技
ヴァルトがクロウへ止めの一撃を振り下ろす。
その足元へ、カイトが滑り込む。
「遅い」
ヴァルトが見下ろす。
「そうだね」
カイトの手が、床とヴァルトの足首へ同時に触れる。
瞬間。
身体の軸がねじれた。
踏ん張りが消える。
上体が勝手に回る。
「なっ――!?」
ヴァルトの身体が宙を舞った。
「崩歩・反転落とし」
叩きつけられたヴァルトは、起き上がれない。
観客席が総立ちになる。
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## 決着
ロイドが慌てて術式を組む。
ユウトが最後の妨害を撃つ。
「通させるか!」
シエラが飛ぶ。
そこへクロウが立ち上がった。
「遅え」
右拳一発。
シエラが吹き飛ぶ。
残るロイドは両手を上げた。
「降参だ!」
「勝者――トライ・ブレイク!」
歓声が爆発した。
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## 初めて楽しい勝利
ユウトが真っ先にカイトへ飛びつく。
「お前やばい! 最高! 見た!? 今の見た!?」
「近い、暑い、うるさい」
そう言いながら、カイトの口元は笑っていた。
クロウも近づく。
「隠してたな」
「驚かせたかった」
「性格悪いな」
「今ちょっと楽しい」
自分でも驚くほど、声が弾んでいた。
観客席から拍手が降る。
昔は嫌いだった。
期待の音だったから。
でも今は違う。
仲間と勝ち取った歓声だった。
カイトは両手を上げた。
「うおー!」
ユウトが吹き出す。
「お前そんなキャラだったの!?」
「たぶん今日だけ」
クロウも笑った。
「似合ってねえな」
「うるさい」
その返しさえ、どこか嬉しそうだった。
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掲示板が更新される。
三位決定戦。
対戦相手――グランセイル
ユウトが青ざめる。
「また強そう……」
クロウが拳を鳴らす。
「関係ねえ」
カイトはまだ笑っていた。
「次も勝てたら、もっと楽しいかも」
その言葉に、二人は少し驚いた。
次が、最後だ。
今回も読んでいただきありがとうございます!
第17話は、カイト回でした。
これまでのびのびとして、やる気があるのかないのか分からない立ち位置だったカイトですが、今回ようやく少し踏み込んで描くことができました。
何でもできる人間が、必ずしも幸せとは限らない。
期待され続けることが重荷になることもある。
そんな彼が、クロウやユウトと出会い、「誰かと勝つこと」「成長すること」に少しずつ喜びを感じ始める――今回はそんな変化の回でもあります。
そして、影で努力していた新技《崩歩・反転落とし》での逆転勝利。
普段やる気のないカイトとのギャップも楽しんでもらえていたら嬉しいです。
クロウ、ユウト、カイト。
ようやくこの三人が、本当の意味でチームになってきました。
次回はいよいよ三位決定戦。
相手は上位実力派チーム、グランセイル。
国営武術大会への切符を懸けた最後の戦いになります。
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次回もよろしくお願いします!




