閑話 三 兵どもが夢の先
「――なあ、昭和か平成のどっかを境に、日本兵の霊を見なくなったって話、聞いたことあるか?」
「ああーまあ、そんな眉唾な話があるけど、まさかたいちゃんの口から聞くとは思わなかったよ」
ある夏の日、平桐寺の本堂(来客のために空調を入れているが、来客がない限り、春木の裁量で使っている)で水出し緑茶を飲みながら、江角はふと思い出したことを訊ねた。
「眉唾?」
「うん。そりゃ頻度は低くなったかもしれないけど、今でも見かけるよ」
「――へえ」
春木の話に江角は食いついた。元号が令和になり、日進月歩の技術進化がうたわれる世の中の一体どこで見かけるというのだろうか。
「どこって……普通にそこの境内だよ。特に多いのは盆の時期になって、九〇過ぎたおばちゃんがお参りに来たあととかね。普通に盆でこの世に帰って来てるんだなって。まあ、残念ながらおばちゃんには見えてないみたいだけど。わたしと明理姉さんは大体見えるね」
春木が指さした方には、ただ陽炎で揺らぐ境内があるばかりで、江角には普段の境内と同じように見えた。今も誰かいるのだろうか、と思ったが藪蛇になりそうで江角は黙っておいた。
「……お前に現代日本のオカルト与太話が通用しないってことはよくわかった」
「聞く分には興味深いよ。わたしは宗教関係の知識はあるけど、民俗学っぽい話とかオカルト雑学みたいなものには疎いから助かる」
そう言って春木は緑茶を飲み干す。
「あ、でも日本兵の話はそのうち本当に見えなくなるだろうね。その人のことを思い出す人がいなくなったら、もうきっとこの世では見えないんだと思うよ」




