Case3:見守りの蔵5 終
数日後。
無事に一空寺から新しい御札をもらい、蔵の奥に貼り付けたことで、ようやく蔵の外に見えていた目玉は消失した。一空寺の住職曰く『しっかり念をこめておいた』とのことだったが、言葉通り効果は抜群だった。
「ありがとうございました。曾祖母も問題ないと言ってくれましたので、これからしばらくは問題なく過ごせると思います」
江角と春木が御札を貼り終えたあと、それを見届けた藤右衛門が改めて二人に頭を下げた。
「蔵の公開についても中止の方向で検討すると伝えました。まだまだ調整は必要ですが……そこは私と曾祖母で押し切ります」
公式の発表としては、蔵の老朽化が進んでいたため、安全のため一般公開はしない方向にするらしい。それを聞いて江角はほっと胸をなで下ろした。
「これは私からのお願いですが……あの御札はおそらく数十年に一度、供養して取り替える必要があります。今回はかなりぎりぎりでしたが、これからは、代替わりのたびに取り替えるようにしていただけるとよいかと思います」
春木の忠告に藤右衛門は神妙な顔をしてうなずいた。その様子を見た江角はぽつり、と言葉を漏らす。
「驚かれませんね」
「え?」
「いえ、なかなか現代において信じがたいことばかり起きましたけど、落ち着いていらっしゃるので」
江角の言葉に藤右衛門は困ったように笑って言った。
「うちのような古い家には、蔵以外にもいろいろと残っていますから。不思議なしきたりも多く目にしながら私は育ってきました」
その一言の後ろを想像して江角は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「ですから、蔵の一つや二つで、不思議なことが起きてもおかしくないかと」
「……そうですか」
穏やかな微笑を浮かべながら言う藤右衛門に江角はただ返事をした。
「ええ。ですからご心配なく。でも、今回はありがとうございました。今度は単純に遊びにきてくださいね」
そう言って藤右衛門は江角と春木に最新版とおぼしきO町のパンフレットを手渡した。特に断る理由もないので、受け取る。
「こちらこそ、お役に立ってよかったです」
敬礼をした江角に藤右衛門はにこり、と笑いかけた。一切の邪気を含まない美しい笑顔だったが、すごみのようなものを感じて、江角は若干頬をひきつらせた。
「なあ、利生」
O町から平桐寺への道を運転しながら江角は春木を呼ぶ。
「なに?」
「この前のオレのルーツ探しの話なんだが」
江角が話し出すと助手席の春木が緊張したのがわかった。
「オレもいい加減、この仕事をするうえで、オレ自身のルーツを知っとくべきだと観念した。――手伝ってくれないか」
家系に由来しない力である以上、江角の力はいつ消えてもおかしくない。そのとき仕事をしていた場合、最悪命を落とす可能性もある。そのようなリスクを少しでも減らすべきではないか――。というのが江角の結論だった。
「……利生?」
黙ったままの春木に江角はもう一度呼びかけた。春木は「ごめん、本当にちゃんと考えてくれると思ってなかったからちょっとびっくりして」と謝ったうえで、言葉を続けた。
「もちろん、私でよければ、いくらでも手伝うよ」
【Case3:見守りの蔵 完】




