油断
海流のE(海流のエコー)です。
今回は、謎の美少女・リリアン=フロイデも登場します。
どうぞ、物語をお楽しみくださいませ。
意識が遠のいていく中で、勇名は叔父・誠十郎の声を聞く。
「ドクターは陛下の治療に専念。ここに転がってるのは患部を圧迫止血しとけば大丈夫だ」
その声への反発で意識を持ち直した勇名は、顔を上げて誠十郎を睨みつける。視線に反応して、誠十郎の冷徹な視線が勇名に向けられる。
「たかがここへ来るだけでその状態はなんだ。なんのために幼時から訓練をさせたと思っている」
「ああ、させられたよ。おかげさまでまだ動けるよ」
勇名は看護兵に包帯を巻かれながら、立ち上がる。
「早ヶ瀬が一人で苦戦している。お前も出ろ」
「言われなくても」
「無理です。骨折もあるんですよ。そんなバイタルコンディションで機甲神骸に乗るなんて」
女性看護兵が勇名を支えながら、誠十郎に抗弁する。
「羽佐間司令なら、コックピットで何Gかかるかご存知のはずです」
「それでへたるなら、それまでだ」
「俺は大丈夫です。止血と、肋骨の患部の保護だけお願いします。あとは、永遠がうまくサポートしてくれます」
「そんな、無茶だよ。大体、語り部がパイロットを気遣うなんてあり得ないよ」
語り部、とは機甲神骸のOSの役割を果たす人格のことをさす。
「行けます。永遠なら大丈夫なんです。取り急ぎの応急処置だけ、お願いします」
勇名が看護兵に応急処置を始めて貰う頃、誠十郎は可能な限りの人員を集めろと指示を出している。
「わだつみのCICを先に制圧する。急進派に殺されたくなければ、銃を持って戦う他ないぞ」
勇名は誠十郎を睨みつける。ここは陸戦群の兵営ではない。年に二回程度の銃撃戦訓練しかしていない機甲神骸大隊の人員で黒戦闘服たちと戦うのは無茶が過ぎる、と勇名は思う。
何か言わなくては、と考えた勇名を遮るかのように、三雲螢が自分も行くと声を挙げる。鈴までがそれに続こうとしている。
「殿下は女皇陛下のお側に。三雲はこちらに借りる」
「でも、皆だけを戦わせて自分は奥に引っ込んでるなんて、できない」
「殿下、三雲を借りる分、陛下の護衛は少なくなる。ここは、陛下のお側にいなさい」
「……でも」
「上官の命令です。ここでは貴方はただの一等学徒だ」
「……わかりました」
「さあ、小銃、拳銃、その他、屋内戦に使えそうなものはここに集めろ」
誠十郎の指示で、武器が集められていく。
応急処置を受けている勇名を、誠十郎が睨む。
「お前は早く出ろ。早ヶ瀬が死んでもいいのか」
「わかってる!」
勇名は丁寧な処置をしてくれている看護兵に礼と謝罪をすると、処置を途中で切り上げさせて六式に向かう。
永遠の意思の元、起動状態のままの六式が膝をつき、右掌を下ろす。そこに乗ると、手が下腹部の辺りに持っていかれ、コックピットが開く。
乗り込んだ勇名は小銃を座部の脇に置き、患部の状態を永遠に説明する。同時に、手動操縦の準備をしていく。
「お兄ちゃん、そんなボロボロの状態で乗ってくるなんて」
「早ヶ瀬先生がまずいんだろ」
「敵の水上型が現れて、ひとりぼっちで苦戦してる」
「A-11Sのパイロットたちは?」
「今日はわだつみ艦内のいろいろな場所に散らばってるから、誰もここに辿り着いていないみたい」
「そうか。敵の数は12柱か。厳しいな」
リンクされた情報を見て、勇名は厳しい顔になる。早ヶ瀬はとうに消耗しているだろう。そこに大戦中に開発された旧型である六式だけが加わって、どうすれば勝てるだろうか。
もし叔父の思惑通りに進み、わだつみのCICを確保すれば、無数の砲やミサイルによる飽和攻撃が可能になる。それまで時間を稼げばいいということだろうか。
「そのつもりなのか……」
おそらく、叔父はその見通しを持っているだろう。その思惑通りに自分が動くことが悔しいように感じられるが、百戦練磨の叔父が考えた戦術はとても合理的だと感じられる。
「お兄ちゃん、出撃時の出力は少し抑えるよ。代わりに着水により繊細さが必要になるから、私もサポートする」
「頼む」
神骸に稀に付随している語り部という人格型OSは、通常感情を持たないとされている。この世界で、永遠ともう一人だけが感情を持つ語り部だとされている。
出撃準備が整った勇名は、カタパルトに六式の足を載せる。永遠がいれば大丈夫、サポートして貰える。その信頼がなければ、この体調で出撃などできない。
「滑空準備よろし」
「管制塔B了解。滑空を許可する」
「永遠・羽佐間機、出ます」
カタパルトが蒸気を噴き出しつつ動き始める。1秒もたたないうちに、数Gの重みが勇名の身体を潰そうとする。骨折している肋の痛みに、歯を食いしばりつつスロットルを調整する。
永遠がより繊細に調整した速度で、滑空が始まる。いつもより速度がないため、海面が近づくペースが早い。
滑走用のブレードが、鋭利な刃物のように海面に下ろされる。
「着水、フルスロットル! ……着水できた。速度一度落とすよ。お兄ちゃん、かなり痛そうだけどいける?」
「ああ、おかげさまで。早ヶ瀬先生のところへ急ごう」
「了解。今度は少しずつ速度を上げていくよ」
「頼む。 ――六式、着水成功」
「無理は禁物ですよ。ご武運を!」
戦術データリンクを使って得られている情報によると、早ヶ瀬三尉は敵に包囲されそうになっているのを、必死に防いでいるようだ。
「永遠、ところで、各国の動きは?」
「八洲の内戦の可能性ありとの判断で、どの国も表立っては動いていないよ」
「くそっ、なんのためのGOSTO軍だよ」
内戦であれば、内戦不干渉の義務からGOSTO軍が手を出せない可能性がある。しかし、わだつみは現在GOSTOが使用権を持つ艦であり、戦っているのが八洲自衛隊同士だったとしても、GOSTOによる安全確保が行われてもいいはずだ。
しかしおそらく、騒ぎがどのように展開していくかを見定めようというのだろう。内戦の勝利者がわだつみの所有権を持つからだ。学園は、あくまで使用権を貸与されるだけの存在だ。
内戦に勝利した陣営と揉めたくないから、様子見を決め込んでいるのだろう。
各国の対応に腹を立てるうち、すぐに敵水上型機甲神骸がミサイルの射程圏内に入ってくる。挨拶代わりとばかりにブレットミサイルを4発発射する。
敵の機種は八洲やわだつみ学徒隊の主力機甲神骸であるA-11Sだ。諸元のバランスがよく、パイロットの腕次第で動きが変わってくる傾向がある。
すぐに右肩部無反動砲の射程に入り、照準を合わせ永遠の微調整を経て発射する。ブレットミサイルと無反動砲で、それぞれ一柱ずつを撃破できた。
「敵の練度はおそらく高くないね。――早ヶ瀬、生きてる?」
「……こちら早ヶ瀬、増援を待っていた。このまま囮の動きを続けるので、そっちで仕留めてくれ」
「了解! 無理せずいい判断だったね」
「見た目が少女の永遠三佐に褒められて微妙な気分だ」
「冗談言う元気あるなら問題ないね」
永遠が次々に敵をロックオンして、ブレットミサイルを発射し、右肩部と携行式の無反動砲を交互に撃っていく。
その苛烈な攻撃により、三柱の敵を捉え、破壊する。
「永遠、嫌な空気だ」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「敵の前三人、あいつらだけわざとらしくないか」
「わざとらしい……、素人のふりってこと?」
敵のA-11Sのうち三柱が、ベテランでないとできない鋭い角度で曲がり始める。
「来るぞ!」
こちらの動きを読んでいたのか、敵の三柱と真正面からすれ違う形になる。敵は滑走の軌道を揃え、一つの影になる。
先頭の一柱が右肩部無反動砲を撃ってくる。それを躱そうと軌道を代えると、敵の二柱目が新しい軌道で直撃するように無反動砲を撃ってくる。
急旋回してそれを避けようとすると、凄絶なGが勇名の肋を潰そうとする。
「ああああああああ!」
「お兄ちゃん!」
敵の三柱目がミサイルを放ったように見える。また軌道を変えないと直撃になると判断した勇名が、逆方向に旋回を始める。
「網、網だよ、お兄ちゃん」
「何!?」
敵の放ったミサイルのように見えたものが、蜘蛛の巣状に広がり、急旋回と逆急旋回で速度が落ちている六式を完全に捉える。
「なんだよ、網くらい」
勇名が網を引きちぎる操作をしようとすると、全身を貫くような衝撃が走る。視界が真っ白になりかけた勇名がそれでも耐えてモニターを見るが、画像処理に影響があったのか、モザイク状にフリーズしており状況がよくわからない。
「お兄ちゃん、今の、電撃だよ」
「新兵器か!?」
「また来る!」
再び全身を襲った電撃に、勇名の意識が持っていかれてしまう。
「お兄……」
◆◇◆◇◆
羽佐間葵は、薄暗い用具室の中で拳銃を握りしめ、外の音に注意を払っていた。
隣にいる革命の女神リリアン=フロイデは、この緊急事態にも冷静さを一切失うことなく、時折戻ってくる自分のSPから得た情報を分析しているようだった。
突然にリリアンの手を引いた彼女のSPを追っていなければ、葵も艦橋で無反動砲の直撃を食らい、死んでいたかもしれない。
SPはリリアンと葵を用具室に隠し、情報収集をしてくると外に出ていったのだ。
「やはり、今の時点では八洲の急進的獲真主義者による反乱だと思うわ。八洲本国に関わる女皇や八洲自衛隊への攻撃、学徒隊への攻撃、意図して二つ同時に攻めているのよ。内戦不干渉義務で他国を牽制するために」
「あなたを八洲の内輪もめに巻き込んで、大変申し訳ないです」
「ふふ。私はどこにいても政治の道具だから、気にしないで。最初の砲撃で私を殺したら、私が八洲の盾にされた悲劇のヒロインだというだろうし、今回は運良く生き残ったから、旗頭に担ごうと必死に捜している。私はいつどこにいても獲真主義者に利用される偶像でしかないの。今回はたまたま八洲にいただけよ」
獲真主義革命の女神は、淡々と自分を偶像だという。
「エインが戻ってきたようね」
エインと呼ばれたSPの男は、一定のリズムのノックをしてから扉を開け、用具室に入ってくる。
「統合幕僚監部とCICの守りは堅いようだ。学徒隊の精鋭を相手に、急進派が手こずっている。そこに、機甲神骸大隊から学徒隊の援軍が加わるようだ」
「そう。ありがとう。ねぇ、アオイ=ハザマ少尉は、私がどこにつけばいいと思う? 急進派? 八洲自衛隊? それとも、学徒隊?」
革命の女神は、悪戯っぽい瞳で挑発するように葵を見ている。
リリアンって、ちょっと悪女系な少女なのかしらん。
次回更新も来週木曜日0600(まるろくまるまる)です。
よろしくお願いいたします!
どうぞ、↓の☆☆☆☆☆への入力もよろしくお願いいたします。




