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特命

お正月の三日連続更新以来、初めての投稿となります。木曜午前六時、末永くお付き合いいただけたら嬉しいです。

螢(けい)から死傷者について聞いた勇名(いさな)は、冷静でいられなくなり、早ヶ瀬(はやがせ)三尉に押さえつけられる。最終的には近くにいた医師に鎮静剤を注射され、その日は入院することとなった。


 死者35名、負傷者106名、うち、同期の死者は12名だった。


 高校二年生で、ほとんどが一等学徒になったばかりの同期たちは、比較的浅い階層で任務を遂行している者が多かった。そのため、潜航型に取り付けられていた小型ミサイルによる被害が大きかったのだという。


 その翌日、事件の明後日には葬儀が行われ、勇名の友人たちは英霊として祀(まつ)られた。

「学問の自由のために命を捧げた、勇敢な仲間たちのために、残された我々は学問の自由、学園の自治、超古代文明遺産の保護、与えられた恩恵の平等な分配という学園の使命と責任を全うしていかなければなら……」


「今さら美辞麗句を並べたって、死んだ人間には届かない……」

 病室で放送を聞いていた勇名はそう呟き、右拳を強く握りしめた。


 超古代文明遺産が集中している要塞艦は、かつては有力国家がそれぞれに保有し、奪い合った。二度の全洋大戦の本質は、要塞艦の取り合いだったといってよい。


 それを防ぐためにGOSTO(ゴストー)(全洋安全保障条約機構)が支援をし、国際的に独立した学園要塞艦として、自治と独立が認められた各個の学園によって運営されるようになった。


 その自由と独立を守るのが、学徒隊の役割であり、GOSTO経由で持ち回りで警備艦隊を派遣する主要国軍と協力して防衛任務を行うのだ。


 午後になり、退院した勇名を迎えに来たのは、羽佐間(はざま)誠十郎(せいじゅうろう)一佐だった。

「体調に問題はないか」

「……はい」

「乗れ」


 羽佐間誠十郎一佐は、学徒隊艦艇群機甲神骸大隊司令であり、勇名の叔父である。第二次全洋大戦で限界時間を遥かに超えて六式に乗り続けた後遺症で、左半身不随の障害を持っている。


 右手右足だけで運転できる特注の自動車に、勇名は乗り込む。約一年半前、この車に送られて御旗(みはた)学園に入学した。もう一年半もたったのかと勇名は思ったが、確かに密度の濃い特別な時間を過ごしたと感じもする。


「どこへ行くんですか」

「統合幕僚監部だ。詳しい話はそこでする」

「はい。わかりました」

 沈黙が続く。

「あの、葵姉は元気ですか」

「一週間ほど前に会った。健康上の問題はない」

「そうですか」


 従姉(いとこ)の葵(あおい)は、勇名と年齢は二つしか違わない。しかし、飛び級で御旗学園大学四年で学びつつ、学徒隊では統合幕僚監部の幕僚として働いているらしい。


「今日、このあと合流する」

「そうですか……」

 勇名は葵の顔を思い出して、少し赤面してしまう。

 葵は、勇名にとって憧れの女性でもある。幼くして両親と離れて暮らすことになった勇名の面倒を見てくれたのは葵だ。姉代わり、母代わりの存在であった。


 そんなことにお構いなしといった様子の誠十郎は、黙々と車を走らせている。幼い勇名を両親から預かって育てたのは、永遠(とわ)の成長のためであり、鈴(すず)の学友にするためでもある。


 勇名は、冷徹な叔父が自分を道具のように使うことは仕方ないと諦めている。しかし、永遠や葵まで道具扱いすることに反発を感じているのだ。


 車はやがて、艦橋の近くにある入口から降りて第二甲板、第三甲板へと進んでいく。勇名は第二次全洋大戦の英雄・羽佐間誠十郎の甥ということで時折このエリアまで来ることがあるが、通常は一等学徒が入り込める区画ではない。


 戦闘指揮所とも呼ばれる、わだつみの中枢であるCICのすぐ隣に、統合幕僚監部がある。


 車から降りた勇名の元へ、葵がやってくる。

「いっくん、ここで会うのは初めてだね」

「葵姉の士官服、かっこいいよ」

「ありがとう! いっくんに言ってもらうと嬉しいよ」

 休暇や非番が重なった日には同じ家で過ごすとはいえ、仕事中に会うのはまた違った気分である。


「お父さんは専用エレベーターを使うと思うから、先に行こう」

「わかった」

 エレベーターで降りると、勇名が以前に入ったことのあるフロアだった。いわゆる密談室であり、遮音や電波妨害など、機密情報を守る工夫がなされた部屋だ。


 室内では白河鈴皇太女と三雲螢が待っていた。ちょうど誠十郎も到着して、ドアをロックする。


「時間があるわけじゃない。早速始めるぞ」

 誠十郎はそういうと、勇名と葵を適当な席に座らせる。すると勇名の隣に、いつの間にか永遠の姿がある。


「殿下と三雲、勇名、葵、永遠には、内偵をして貰いたい。敵の密偵がどこにいるかわからない今、信用できるのは君たち四人だけだ」

「ちょっと待ってよ。俺はともかく、鈴や永遠を危険に曝すのは反対だ」


「ああ。平常時ならそう考えるのが妥当だ。とはいえ、一昨日の事件で、現在の艦隊全ての艦のソナーマンが最低一人裏切った可能性がある。君たちも知ってるように、ソナーマンは熟練を必要とする役割で、潜航型の接近を防ぐための大切なポジションだ。そんな奴らが獲真(かくしん)主義に染められていたようだ」


「全艦で最低一人……」

勇名は血の気が引くような感覚に襲われる。

「三人は警務隊が逮捕したが、一名は不審死を遂げ、七名は人知れず姿を消している。これはかなり深刻な事態だ。他のポジションにもかなり多くの獲真主義者が紛れ込んでいるかもしれない」


「つまり、信用できる人材が限られている」

「そういうことだ。警務隊の人間や、統幕の連中も含めて信用ならないということだ」

 誠十郎は小さなため息をつきつつ、鈴と永遠に目をやる。

「護衛対象を安全に匿えない以上、むしろ君たちを分散させず協力させた方が安全性が高いと判断した」


 叔父の判断は正しいと勇名は納得した。鈴と永遠を警護するとして、手駒がたったの三人なのだ。そこから更に人数をさいて内偵などできない。護衛対象も一緒に行動して貰った方が良い。


「具体的な内偵の対象は?」

「早ヶ瀬三尉だ」


「そんな、早ヶ瀬先生が裏切り者なんて」

鈴が思わず立ち上がり、誠十郎に訴える。

「あの人がテロの黒幕なんてありえない」

「まぁ、落ち着くんだ、殿下。早ヶ瀬が主犯格とは思っていない。ただ、彼が学園内の獲真主義組織に属していることは、警務隊の調査でわかっていることだ」


 早ヶ瀬先生が獲真主義者であることに、勇名は心当たりがある。主犯格とは思っていないという叔父の言葉にほっとしつつ、しかしこれまでだまされてきたかのような落胆がないわけでもない。


「このところ、艦内の獲真主義組織で警戒が強まり、警務隊での内偵が難しい。早ヶ瀬の教え子でもある三雲、勇名、殿下を中心に、早ヶ瀬の行動を確認し、獲真主義者たちが学園内のどこでどのように活動しているのか、それを調べて欲しい」


「わかったよ。でも、敵の目標かもしれない二人を守るには、少し戦力が不足なんじゃないか」

 勇名は幼い頃から鈴殿下を守るために、一通りの武道や警護術は学んでいる。葵も合気道の達人だ。そして、代々皇室に仕えてきた家系の螢が並大抵の強さではないことも知っている。


 しかし、護衛対象二名に対して、周囲を固めるのはたった三人だ。しかも、その護衛対象も一緒に敵の本拠地をこちらから探すというのだ。いくらなんでも戦力が足りない。


「言うことはわかるが、人材はリスクがあって預けられない。これで戦力を上積みしてくれ」

 そう言った誠十郎は、机の上にキャビンケースを置く。開かれたそれには、士官用の9㎜拳銃が四丁入っている。


「勇名は初めて触るだろう。今、射撃室を抑えているから葵と三雲に教えて貰え。殿下は練習しているな?」

「ええ。月に一度は」

「この任務は統幕長の特命だ。各自の判断での発砲も許可されている。この任務の成否によって、一カ月後の国際観艦式への参加可否が決まる。うまくやって、敵の尻尾をつかんでくれ」


「……」

 勇名は初めて持つ拳銃の重さに驚きながら、当たり前のように自分や周囲を危険に巻き込んでいく叔父への反発を強く感じていた。


 その日は射撃訓練を一時間こなして、それぞれの宿舎に帰った。


 翌日、葵と永遠はチューターとして御旗学園高校2年3組に派遣されてきた。学業や課外活動をサポートするためだ。

 突然のことに他の生徒に不審がられないよう、主に鈴殿下の特訓のためにやってきたと思わせることにした。一国の次期君主に特別扱いがあって、反発を感じる者こそいても、誰も不思議とは思わないからだ。


 一見しただけなら、いつもと同じ日常が帰ってきたかのような学校生活がスタートした。


 生徒組である勇名、鈴、螢は、通常通り授業を受けつつ、人目を盗んでは早ヶ瀬の机の中を確認したり、早ヶ瀬の授業のときには、何かいつもと違う言動がないかを探る。

 放課後は、職員室に近い自習室を利用して、誠十郎に課された宿題を皆でやるふりをし、学徒隊活動開始まで出来るだけ早ヶ瀬の動きを観察している。


 チューター組の葵と永遠は、常に二人で行動し、授業がない時間の早ヶ瀬を尾行している。


 学徒隊では、それぞれに任務をこなしつつも、出来るだけ早ヶ瀬と近い場所で任務を貰えるよう誠十郎に取りはからわせている。


 一週間がたち、全く手がかりが見つからないことにメンバーが焦りを感じ始めていた。

 しかし、早ヶ瀬が非番の日にどこかへ出かける素振りを見せたため、士官用宿舎の前にある公園にメンバーが集まった。植え込みがあるため、低い姿勢なら早ヶ瀬の死角になるはずだった。


「昨日から何回か携帯でやりとりしてるみたいなの」

葵はそういいながら、早ヶ瀬の部屋の窓に注意を払っているようだ。


「これでただのデートだったら笑えるけど」

勇名が半分願いを込めていう。担任が獲真主義者であることなど、できれば偽情報であって欲しい。


 ドアが開閉し、鍵がかけられる音が響く。おそらく早ヶ瀬が動き出したのだろうと、皆が息を潜める。


 階段を降りて第一甲板まで来た早ヶ瀬が、迷いなくまっすぐに近づいてくる。


「おまえら、なんのつもりだ」


勇名が伏せていた顔を上げると、早ヶ瀬が植え込みの陰に隠れていたメンバーを睨みつけている。


お読みいただき、ありがとうございます!

ついでに評価や感想、レビューをいただけましたら作者はより励まされます。


今後とも『海流のE』をよろしくお願いします。

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