状況終了
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六式が会敵してから、十分が過ぎようとしていた。早ヶ瀬三尉のA-14Sも合流し、この二柱が攻撃、その他のA-11Sが相手を艦隊に近づけないための防衛を担っている。
一柱を六式が撃破し、敵の残数は七柱となっている。戦術データリンクの情報では、対空戦も上手くいっており、ほぼ撃退できた様子だ。
「早ヶ瀬は左から、こっちは右からアプローチするよ。六式がミサイルを撃つから、相手の隙をみて砲撃して」
「了解」
六式のミサイルランチャーから二発のブレットミサイルが飛び立つ。ミサイルはほぼ垂直に発射され、百メートルほどの高さを稼いだあと、落ちるように目標に向かっていく。
対空機関砲対策に不規則に曲がりつつ、あるところで分裂して敵に襲いかかる。
永遠が照準を合わせ、右肩部無反動砲を放つ。それがよけられた瞬間、違う方向からの射撃が敵の頭部を吹き飛ばした。
バランスを崩して水しぶきを上げて転倒する敵に、分裂した小型ミサイルが命中し、派手な水柱を上げる。
「さすが早ヶ瀬、敵は戦意をなくしつつあるみたいだけど、もう一柱くらいやるよ!」
「了解」
永遠が攻撃対象を決めると、レーダーで敵機を表す赤い点が黄色い丸で囲まれる。それは戦術データリンクにより、早ヶ瀬機やA-11Sの部隊に共有されている。
勇名はブレーキ、アクセル、姿勢制御を駆使して器用に敵の背後をとる。自然の風や波があるところではなかなか難しい操作になるが、勇名は苦にしない。
ロックオンでき次第、永遠の管制でブレットミサイル二発が発射される。
ミサイルが敵を追尾し、分裂した頃に、永遠が携行式速射砲で敵の逃げる経路を狭める。同じことを早ヶ瀬機もしており、思うように動けない敵の直上で小型ミサイルが炸裂する。
バランスを崩して失速した敵に数発の小型ミサイルが命中し、激しい爆煙に巻き込まれる。敵機甲神骸の右腕一本が燃えながら空を飛ぶのが見える。
「敵水上型機甲神骸五柱が撤退を始めました」
敵を艦隊に近づけないことに徹底していたA-11Sの部隊から通信が入る。
「深追いは無用だよ。お疲れさま」
出撃中の機甲神骸部隊で一番階級の高い永遠が、通信を入れる。
通信越しに、ほっとしたような雰囲気が広がる。
「水上型機甲神骸全隊、帰投せよ」
管制塔Bからの指示が聞こえると、「やった、生きてる」などの言葉が漏れ聞こえる。幸にして、水上型機甲神骸部隊には被害がなかったのだと勇名は胸を撫で下ろす。
「お兄ちゃんもお疲れ様。敵の残骸回収は八洲艦隊でやると思うから、帰って検査して休憩だよ」
「ああ。永遠のおかげで初陣で死なずに済んだよ」
「お兄ちゃんは私が守る。絶対に」
「俺がお兄ちゃんなのに、な」
「ふふふ。優しいお兄ちゃんを強い妹が守るのも、今の時代ありなんだよ!」
気づくと早ヶ瀬機が隣を滑走している。
「羽佐間、永遠、よくやったな」
「早ヶ瀬先生もお疲れ様でした。なんかほっとしたら、めちゃくちゃ眠くなってきました」
「実戦でそうとう身体も心も疲れてるはずだ。羽佐間が休暇を貰えるように、校長に掛け合ってやる」
「ありがとうございます」
「俺も初実戦だったから、お前と同じだけ休むつもりだけどな」
「ははは。校長先生に掛け合う理由って、そっちがメインじゃないんですか」
「ばれたか」
勇名は早ヶ瀬と話すうち、陸戦群司令部や、周囲の戦車にいたはずの同期たちの顔を思い出す。
高校生としての学業も、学徒隊としての訓練も、寮生活での食事や風呂も一緒に過ごした仲間たちの死は受け入れがたい。
「陸戦群のやつらって、結構死者が出てるんですよね」
「……ああ。多分な」
「俺、当直だったのに何もできなかった」
「誰にも何もできない状況だったはずだ。お前が気に病むことじゃない。敵潜航型の上陸を許した件については、明白な責任者がいるはずだ。小銃一丁だけ装備した当直員に責任なんてない。絶対にないからな、羽佐間」
「……」
水上型機甲神骸は水面ギリギリの高さにある帰投時用滑走路で減速しつつ第三港湾ブロックに入り、エレベーターで第二港湾ブロックまで昇る。
帰投時用滑走路もエレベーターも二組しかないため、推進剤が少ないものから順に上がっていくことになる。
先に出撃して包囲網を作っていたA-11S部隊の方が推進剤に余裕がないため、そちらを優先して上がらせる。
そのうちに空が白み始め、東の空から太陽が昇ってくる。勇名はそのまばゆさに目を細めつつ、もっと太陽に近い天体にいたとされる超古代文明人が、どれほど眩しい朝日を見ていたか想像し、気が遠くなるほどの時間の長さを感じていた。
◆◇◆◇◆
わだつみ襲撃事件後、水上型機甲神骸で出撃したパイロットたちは御旗大学病院で検査を受けていた。
機甲神骸の操作は神経接続を伴い、パイロットの感覚や思考に神骸側からも作用を及ぼす。その汚染度がどれほどか管理するため、搭乗の度に検査が義務づけられている。
「初めての実戦で、入念に検査してるんだろうな。訓練のときの倍は時間かかってるな」
早ヶ瀬が呆れたようにいう。
「そうみたいですね。早ヶ瀬艇長の元で短艇ができなくて残念です」
短艇は大勢で漕ぐボートのようなものだ。体力的にきつい授業ナンバーワンである。
「お前、嬉しそうに」
「そりゃ、尻の皮が剥けるよりか、剥けない方が嬉しくないですか」
短艇を漕ぐとき、臀部に摩擦が発生して皮が剥ける。痛みも酷い。下着が血で汚れもする。
「まぁ、そうだな」
「昔は、緊急時に短艇漕いで逃げたのかもですが、救命ボートにエンジンが付いてる時代、なんで、あんなきついことやらされるんでしょうかね」
「ネガティブな発想だなぁ。血と汗と涙を乗り越えた先にこそ、シーマンシップの熱い絆が醸成されるんだよ。正に青春じゃないか」
早ヶ瀬が熱血教師モードに入りそうな様子のため、勇名は話題を変えることにする。
「襲撃してきた奴らって、やっぱり獲真主義者でしょうか」
「どうだろうな。確かに、戦後すぐは獲真主義者による学園要塞艦強奪未遂が多かったそうだが……、七賢帝体制の象徴が学園要塞艦という考え方も、七賢帝体制に反対する者が即、獲真主義者だという発想も少し古いよな」
早ヶ瀬は時々、獲真主義者をかばうような素振りをみせることがある。勇名の世代の若者にとって、獲真主義者はテロリスト以外の何ものでもない。獲真主義者を擁護する早ヶ瀬の気持ちが全くわからない。
「羽佐間勇名〜! 羽佐間勇名はどこなの?」
聞き慣れた少女の声に、勇名と早ヶ瀬が顔を見合わせる。
「殿下? なんでこんなところまで」
「俺に聞かれてもしらん」
「いた! 羽佐間勇名!! ――早ヶ瀬先生、おはようございます」
小柄で長い黒髪をもつ気の強そうな少女と、背の高いショートカットの少女がタイミングを合わせてお辞儀をする。
小柄な少女は白河鈴皇太女殿下、背の高い少女は護衛兼学友の三雲螢だ。御旗高校の制服姿でこちらを見ている。
「ああ……、おはよう」
白河皇太女殿下は、勇名を指さして可愛らしい声できついことを言う。
「勇名、あんたそんなボケッとして精神汚染されたの?」
「初実戦で体調不良はないかとご心配なさっています」
とっさに、三雲螢が翻訳してくれる。
「お蔭様で、鈴がいなかったから平気だったよ」
「何よ、私が守ってやらなかったらいじめられてビービー泣いてばかりだったくせに」
「幼い頃のように傍で見守ってあげたかったそうです」
「螢、そういうの翻訳みたいに言うのやめて」
「はい、殿下」
「それで、なんでここにいるんだ、白河」
白河鈴も三雲螢も、勇名と同じクラスにおり、担任は早ヶ瀬三尉である。
「はい、クラス代表として、早ヶ瀬先生と羽佐間のお見舞いにまいりました」
勇名は紙袋を渡される。
「おっ、これは! どら焼きじゃないか」
「それはわざわざありがとう。学校の方はどうなってるんだ」
「はい、敵の情報が少ないため、再襲撃に備えて第二種防衛体制で待機です。学校としては休講です」
「そうか……、それはわざわざご苦労さま。ところで、学校が休講なら、白河にも待機任務があるんじゃないか」
「正確には、羽佐間一佐の命で様子を確認しに来ました」
「ああ、羽佐間一佐の」
「……」
「羽佐間、そのどら焼き、あんたの叔父さんの心遣いなんだよ。勇名の好物だからって」
「やっぱ、食欲ないや」
勇名は紙袋を早ヶ瀬三尉の方にさりげなく渡す。
「おいおい、叔父さんとの確執はまだ続いてるのか」
早ヶ瀬三尉が心配そうに勇名の顔を覗き込む。
「確執とか、別に。俺が一方的に苦手なだけです」
勇名は、叔父の羽佐間誠十郎が永遠を戦いの道具にし続けていることに反抗している。
大戦末期に永遠をスクラップ同然まで戦わせたのも叔父なら、死にかけて子供返りした永遠を勇名に引き合わせ、また戦いの道具に育てあげたのも叔父だからだ。
「全く、まるで子供ね」
鈴が呆れ顔でどら焼きの袋に手を伸ばす。
「うるさい。子供体型の鈴に言われたくない」
「だ、誰が子供体型よ!」
「低身長、まな板、アニメ声」
「こ、これは目立たないようにしてるだけだから!」
鈴が胸を押さえる。
「殿下、お静まりください」
鈴をたしなめる螢の胸は、制服で隠しきれない立派な存在感を放っている。
「こうなったら、どら焼き私が食べてやる! はい、早ヶ瀬先生。螢も食べる?」
「ま、待て! お前が食うくらいなら、俺が食う」
「うるさい! さっきいらないって言ったでしょ、あんた」
「食欲がなかったけど、復活したんだよ!」
「そんな都合のいい話、信用しません」
「いいから寄越せ、俺のどら焼き……」
「いい加減にしなさい!」
強い叱責に顔を上げると、病院の看護師が顔を真っ赤にして怒っている。
「まず静かにする! 飲食は面会スペースのみで許されています」
「す、すみませんでした」
一同すぐに謝り、面会スペースへ移動するのだった。
「昨夜のことがあって、殿下は八洲本国に帰るのかな」
早ヶ瀬三尉がどら焼きを頬張りながら鈴を見る。八洲皇国の皇太女は、代々御旗学園で学ぶのが慣例となっており、鈴も旧来の伝統に従って学園要塞艦で学んでいるだけである。リスクを負ってまでいる理由はない。
「わだつみが八洲の所属だった頃はともかく、GOSTO(全洋安全保障条約機構)に管轄が移った今でも鈴を寄越したこと自体、国民の戸惑いや反発が大きかったんだ。今回の襲撃でより反対派の声が大きくなるんじゃないか」
鈴の学友でもある勇名は、幼い頃から鈴と同じ学校、同じクラスで過ごしてきている。代々皇室に仕える忍の家系である三雲螢も含めて、三人は幼なじみだ。
「何よ、私がいなくなってもいいとでも? 勇名、あんたはそれでいいの?」
「うん。問題ない」
「そんなはずないわっ。わ、私がいないと何も一人でできないくせに」
「いや、何も出来ないお前を、螢と二人で助けてただけなんだが……」
「それについては、本国で方針を変えるにしても先のことになるかと。問題は、敵の目標が殿下の身柄だった場合の対処法です」
三雲螢は、冷静に状況を捉えている。
「確かに、殿下を誘拐することが敵の目的だという可能性はあるな。敵の諜報員が入り込んでいる可能性も否定できないし、殿下の護衛について改めて考えないとな」
早ヶ瀬三尉は真剣な表情でうなずくと、司令に上申しないと、とため息をつく。
「なあ、螢、今回の死傷者数や同期の安否ってわかってるのか?」
「はい。勇名殿、まずは心を落ち着けてください。本当に嫌な報せになります」
螢の真剣な表情に、勇名はすでに表情を曇らせる。
仲間思いの勇名は、厳しい現実と向き合います。
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