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味方の範囲

またも戦闘です。

 1317(ひとさんひとなな)、午後1時17分。慣熟訓練を兼ねて哨戒(見張り)をしていた六式とA-8Sに、航空機のスクランブルが発生したことが伝えられる。


「クレール=セラ三尉、対空スクランブルの経験は?」

 永遠がA-8Sのパイロットに質問をする。

「初めてです。指示をください」


「航空機と水上型機甲神骸は連携して行動することが多いので、所属不明航空機の方向に少し移動をします。しかし、陽動であることも考えられるので、味方艦隊からの距離は離れすぎないよう気をつけます」

「承知しました」


 クレール=セラ三等学尉は、先日、潜航型機甲神骸の攻撃で多くの死傷者を出したときに生き残った機甲神骸パイロットだ。


 ヴェリテリア帝国の出身で、八洲の機甲神骸操縦技術を学ぶ目的で大学から御旗学園に入学したそうだ。同時に学徒隊員として入隊して、初任神骸操縦士官課程をトップで修了したらしい。


 永遠が指定したポイントで、待機のために緩い角度で旋回する。水上型機甲神骸は速度を落とすと海面を滑走出来ないため、航空機のように旋回しながら待機する事が多い。


「総員起こし、合戦準備。航空隊が戦闘開始。所属不明水上型機甲神骸を確認」

「こちらもレーダーで確認!」

 永遠の声が響く。

「早ヶ瀬隊到着まで侵入防止行動をせよ」

「了解」


 増援が着くまでは艦隊に近づけさせない戦い方で良いということだ。早速、六式とクレール機で敵水上型の反応があるところに向かう。


 ぎりぎり敵を目視できる距離に入る。拡大画像から、敵は再び、八洲自衛隊のA-8Sであることを確認する。敵は挨拶代わりにミサイルを発射してくる。


「回避行動に出るよ」

「わかった」

「はいっ」


 クレールがついてこられるか確認しつつ、旋回する。一方で、携行式無反動砲でミサイルを狙うと、二つに命中して空中で爆発が起きる。


「旋回、タイミングを見てチャフ放出、フレア放出、CIWS(シーウス)による迎撃の順に展開しますよ」

 勇名がクレールに流れを教える。パイロット教育中に習っているはずだが、実際の場面を前にして確認してもいいかと思ったからだ。


「ありがとう、勇名君。頼りになるわ」

 クレール=セラ三尉に褒められて、くすぐったいような気持ちになる。


 先ほど勇名が確認した流れ通り、うまく旋回しつつデコイを放ち、CIWS(シーウス)で迎撃する。問題なく敵のブレットミサイルから逃げることが出来た。


「面倒だから、敵がミサイルを使える距離より詰めちゃうよ!」

 永遠の提案に、勇名もクレールも同意する。

「肩部無反動砲で牽制しつつ、敵水上型に近づくよ」

 威嚇射撃をしつつ距離を詰めると、敵も肩部無反動砲で反撃をしてくる。


 こちら同様、ロックオン出来る距離ではないためか、危険を感じるような砲撃はない。

「もうすぐ無反動砲本来の射程圏内だから、方向転換して距離を保つよ」

「了解」

「わかりました」


 管制塔B(コントロールブラボー)からの指示は、早ヶ瀬小隊の到着を待って攻撃すること。今は、艦隊への攻撃を許さない範囲なら無理して撃破する必要はない。

 無理をして、万が一にもクレール機が危険に曝されないよう充分に注意して行動をするべきなのだ。


 お互いに当たる見込みの少ない射撃を続けながら、少しずつ戦域をずらしていく。わだつみ艦隊の動きに合わせて、敵を遠ざけるからだ。


 早ヶ瀬小隊の出撃が報告された直後、テレビの音声が通信によって聞こえてくる。


「我々八洲大皇国政府は、わだつみ艦隊および御旗学園の行動が深刻な反逆行為であり、艦隊指導層と学校側関係者を処断することとした」


 早ヶ瀬小隊が到着するが、永遠が攻撃命令を出さない。今はこのテレビ中継が大切という判断だろう。


「我が八洲自衛隊第1機動艦隊は、現在、北中央海上で反逆者が不正に乗っ取ったわだつみ艦隊と交戦中であり、すでに少なくない犠牲を強いられている。敵は我らの女皇陛下と皇太女殿下を不当に拘束中であり、お二人の安全を確保しながら戦闘するのは非常に困難な任務である」


「拘束中だと? 全くの嘘じゃないか」

「それでも、先に言ってしまった方が事実らしく感じられるものでしょ」

「そんな嘘が通るんじゃ……」


「自衛隊統合幕僚監部は、女皇陛下と皇太女殿下を取り戻し、現在のわだつみ艦隊簒奪者たちを処断するために、決死の任務を遂行中である。これについて、国民の理解と協力を求める……」


「戦時体制への移行をしようというの?」

「自衛隊と獲真主義急進派が手を結んでいるってことなのか……?」

「どうやら、そうみたいだね……」


 かなりきな臭い内容の放送を聞かされ、勇名の中にどす黒い感情が渦巻き始める。勇名にとって、八洲自衛隊の発表は嘘だらけであり、それによって仲間が危険に曝されるのが許せなかった。


「なんでこうなったのかはわからないけど、反乱軍扱いでやられるなんてやだよね。行こう、お兄ちゃん」

「ああ。もちろんだ」

「戦闘を開始するよ!」


 水上型機甲神骸小隊二つで中隊扱いとなり、中隊長は永遠になっている。クレールともう一人の生き残り、ダニエル=ハートマン三尉がサポートを務め、六式とA-14Sがメインに行動することになっている。


 早速、基本戦術として六式とA-14Sが二手に分かれ、クレールとダニエルがそれぞれに着いていく。


 充分な距離を稼いだら、ロックオンしてミサイルを放つ。一度上に飛んで距離と位置エネルギーを稼いだミサイルが目標に向かい飛び始めると、それを追いかけるように敵に突進し、肩部無反動砲を放つ。


 少し距離が近づくと、携行式無反動砲での砲撃も始める。無反動砲もロックすればかなり精度が上がるため、敵に近いところで信管が反応して爆発するようになってくる。


 やがて、無反動砲かブレットミサイルのどちらかが命中し始める。ミサイルの有効射程まで離れて先手を打ったことが、この状況を生み出している。


 やがて、敵が撤退を始める。普段なら追撃はしない永遠だが、今日は追撃の指示を出した。

「やれるときにやっておくよ。敵は八洲自衛隊全体なんだから、手を緩める余裕はないよ」

「永遠……」


 しばらく追撃を続ける。十機以上あった敵水上型機甲神のレーダー反応が、四つまでに減っている。


「このレーダー反応、相手の神骸母艦じゃないかな。それと、汎用護衛艦が二隻。空母はもっと離れていそうだね」


「そのまままっすぐ帰るとは思えないな」

「そうだね。汎用護衛艦からの攻撃も気にしないと」

「挨拶代わりの対艦ミサイルをぶち込んでおこう」

「そうだね」


 背部汎用ミサイルランチャーには、通常2本の短距離対艦ミサイルが搭載されている。中隊全体でいえば、8本の対艦ミサイルがあり、それを全部放てば何本かは命中する可能性がある。


「わだつみCICより永遠中隊。敵艦隊には攻撃禁止。敵艦隊には攻撃禁止」

 オペレーターの慌てた声が響く。

「永遠、了解……」


「八洲自衛隊は、本来味方であることを忘れるな」

 誠十郎がたしなめるように言う。

「永遠、了解……」

「お前らはムキになりすぎてる。即時撤退しろ」

「了解」


 勇名は六式を旋回させ、わだつみに向けた針路をとる。永遠もきっと同じ気持ちだろうと思う。


 本来味方であるはずの八洲自衛隊に、仲間が殺されているのだ。

 どうせ殺し合いをしなければならないなら、やれるときにやってしまう方が、仲間の犠牲が少なくて済む。


「俺は、止めてもらってよかったと思う」

 沈黙の中、早ヶ瀬三尉が六式にだけあてた通信を送ってきた。

「どうして、ですか」


「俺たちは、八洲人だからさ。八洲人同士の殺し合いなんて、出来る限り避けたい」

「八洲人だろうが、何人(なにじん)だろうが、降りかかる火の粉は払わないと、普段から一緒に暮らしてる仲間を失うんですよ」


「羽佐間は、幼い頃からわだつみで暮らしていたからかな。八洲には、俺たちと同じ日本語を話し、よく味噌汁を食う同胞が暮らしてるんだぞ。お前のいう通り、火の粉を払うのはやむを得ないと思う。でも、それ以上痛めつける必要はないと思うんだ」


「そうですか。俺にはやっぱりわかりません」

「そうか……、俺の力不足で申し訳ない」

 早ヶ瀬三尉の通信が切れる。


「お兄ちゃん、わだつみだよ」

 早ヶ瀬三尉と話しているうちに、水平線上にわだつみの威容が見えるところまで戻って来ていた。


「ああ、俺たちの家……だよな、永遠」

「うん。帰ろう、お兄ちゃん」


 哨戒任務の都合でまだ昼食をとっていないからか、勇名は腹が減って仕方がなかった。


やれるときにやってしまえば……!?

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