犠牲
後半に戦闘シーンあります!
「みんな喜べ。生きた伝説、ヴァルタザール=コーヴァン会長が我々のクラスを視察してくださることになった。どうぞ」
早ヶ瀬が教壇をおり、コーヴァンを壇上に招く。大柄な老人は、力強い足取りで教壇に立つ。
「いやはや、大げさになってしまったな。まあ、いいや。諸君、私はヴァルタザール=コーヴァンという。町工場のオヤジみたいに見えるだろうが、こう見えてもあのコーヴァングループの会長だ」
コーヴァンが町工場のオヤジと言ったところで、勇名の周囲で軽く笑い声が聞こえた。確かに、いわれてみればそう見えてしまう。
「なぜ日本語ペラペラなのか気になるか。そうだな。見るからに外人のおじいちゃんなのに、なぜこんなに流暢な日本語しゃべるのか。それは恋をしたからさ。八洲の造る機甲神骸にな。誰がメカマニアだ、言葉を慎みたまえ。メカオタクと呼べ」
クラスの多くが笑っている中で、達彦は周囲の男子生徒からつつかれている。
「会長さん、ここにもメカオタクがいますよ」
どこからかわからないが、男子の声だ。
周りにはやされて、まんざらでもなさそうに達彦が立ち上がる。
「コーヴァン会長閣下……陛下? 会長様? おおおおおお会いできて光栄です!」
達彦は目を輝かせ、顔を真っ赤にしている。
「おや、君は私のファンなのか」
「ファファファファパパパパ……パンです!」
「実に光栄だ。詳しくは後でゆっくり話そう」
「ありありありありありがとうごじゃいまふ」
「さあ、では早ヶ瀬先生、あなたの授業を楽しみにしているよ」
そう言ったコーヴァン氏は教壇をおり、教室の後ろの方に移動する。
この日の授業は午前中がわだつみの艦内設備の確認で、一般生徒は主に避難場所の確認を行い、学徒生徒は緊急集結場所の確認と、それぞれの部隊の集結場所への移動経路確認に費やされた。
午後は一般生徒が避難訓練、学徒生徒は地上戦訓練で、昨日と同じだった。勇名は第4匍匐に挑戦し、ちゃくちゃくと回復が進んでいることを確認した。
女子も同じことをしているが、鈴と螢の姿はない。鈴は皇太女として女皇陛下のそばを離れておらず、螢も二人を護衛している。三人はCIC近くに防弾パーティションで作られた簡易個室におり、女皇陛下の容体を医師が常にモニタリングしていた。
一日の授業を終えて、早ヶ瀬と勇名はコーヴァンの車で第二港湾ブロックに向かう。
「しかし、勇名君はすごいな。肋骨が折れてるとは知らなかった」
コーヴァンが感心したように言う。
「やせ我慢してるだけです。すごいことは何も」
「我慢しようと思ってできるのがすごいんだよ。しかし、しんどいよな。誠十郎も無理をさせるものだ」
車を第一甲板の駐車場に置き、エレベーターを待っていると、近くの伝声管から起床ラッパが鳴り響く。
「総員起こし」
続いて、サイドパイプの音。
「合戦準備」
早ヶ瀬と勇名は顔を見合わせる。現在、周囲を哨戒中の機甲神骸はA-8Aの4機編成の部隊だけだ。実戦経験のほとんどない彼らが心配だった。
到着したエレベーターにコーヴァンと三人で乗り込む。焦れながらエレベーターの到着を待ち、コーヴァンに先に行く旨を伝える。そして、扉が開くと当時にダッシュする。
漏れ聞こえる声によると、第三小隊も出撃するらしい。
「嫌な予感しかしないな」
早ヶ瀬がそういう。
「急ぎましょう」
呼吸が激しくなると、肋骨の痛みが思い出したように出てくる。虎の子のA-8Aとパイロットを失いたくない。
「早ヶ瀬着いた! 準備は?」
「第三小隊がカタパルトに並んでるので、その後なら」
「順番ねじ込めないのか?」
「狭いから無理ですよ!」
「クソッ」
「永遠、行くぞ」
「お兄ちゃん、最近乗りすぎじゃない? 搭乗時間管理、して貰ってるの?」
「最近は知らないけど。どっちにしても、味方がやられるのを黙ってみてるのは嫌だ!」
「もう」
早ヶ瀬機と永遠・羽佐間機の準備が急ピッチで進められ、第三小隊の出撃後すぐに出られることになる。
早ヶ瀬機、永遠・羽佐間機の順で出撃後、十数秒で会敵する。
敵は八洲皇国自衛隊の水上型機甲神骸で、ウチと同じA-8Aだった。こちらの動きに対応したのか、素早く隊形を整えている。
一方、ウチのA-8Aは散開したままで、単騎で強引に後ろを取ろうとしては、整った陣形からの反撃に被弾しているようだった。
8機いたはずの味方A-8Aは6機に減っている。さらには、半壊状態にまで追い込まれた機体が3機はある。
「被弾した機体はすぐに退却して。無傷の2機は敵と距離を取りつつ、私たちに合流すること」
永遠からの指示に、各機からの返事が聞こえる。
退却する4機をかばいながら、こちらの隊形を整える。勇名は通信でこちらの声をミュートするボタンを押す。
「クソッ、もう2機もやられてたなんて!」
「仕方ないよ。お兄ちゃん」
「パイロットだって行方不明なんだろ?」
「きっとじっくり捜索すれば見つかるよ」
「だといいけどさ……」
そんなものは希望的観測に過ぎない。
「ん? アクティブソナー!?」
六式の足元から、確かにアクティブソナー音が聞こえた気がする。急ぎ速度を上げ、急旋回をする。早ヶ瀬機を始め、残り2機もなんとかついてきている。
しかし、爆発は退却中の味方の足元から起こった。4機そろって両脚を失い、海面に叩きつけられている。
「ああっ、ミスった! あっちをやられた!」
勇名は自分の判断ミスを悔やむ。退却中の仲間の方が餌食にされやすいとわかっていたのに。冷静さが足りなかった!
「お兄ちゃん、ミュートにもせずに! せっかく無事な2機が動揺しちゃうよ」
音声発信をミュートにして、永遠がたしなめる。
「とにかく、まずは冷静になって。敵の潜航型に近づかれてるんだよ」
「わかった。すまない」
永遠は返事をすると、ミュート機能をオフにする。
「こちら永遠・羽佐間機。CICにつなげ」
「了解。……こちらわだつみCIC。なにか?」
「潜航型がいる。以上」
「わだつみCIC了解」
「各員、ソノブイ投下」
「了解」
ソノブイとは海に浮かべるソナーである。
わだつみや随伴艦では、永遠からの潜航型発見の報を受け、対潜哨戒機を追加で出撃させようと動き始めている。
敵の水上型がいる上に、海中からは潜航型に狙われている。厳しい状況だった。
勇名は、アクティブソナーに気をつけながら、敵の水上型の数を確認する。
「4機、こちらと同じ数だ」
「永遠より各機。連携して敵の背後を狙う。本機と早ヶ瀬機が囮になる。残り2機で背後を取ってロックオン後に射撃すること」
「了解」
「アクティブソナー音が聞こえたときは指示するので、急旋回で逃れること」
「了解」
六式とA-14Sが先行し、敵にわざと後ろを取らせる。案の定、囮がいれば敵が食いついてきて、陣形が崩れ気味になる。六式がわざと旋回を弱くすると、敵から無数のミサイルが飛んでくる。
「タイミング……今!」
味方のA-8Sに発射指示を出しつつ、フレアを放出して敵ミサイルを撹乱する。
「アクティブソナー!」
急旋回を余儀なくされる。魚雷音が聞こえないので、潜航型に攻撃させないことは成功したようだった。しかし、味方のA-8Sもミサイルを発射するタイミングを逃してしまっている。
もう一度、敵水上型を食いつかせたいが、先ほど後ろを取られただけに動きが慎重になっている。
「クソッ、タイミングが悪い!」
海中に潜んでいる間、通信することはできない。そのため、まさかタイミングを計ってアクティブソナーを使ったわけではあるまい。とはいえ、タイミングが悪かった。
「わだつみCICより各機、敵潜航型を捕捉。各個の攻撃禁止。各個の攻撃禁止」
「了解」
「わだつみの対潜ミサイルだけで対処するのか?」
「わからない。もしかしたら、こっちにも潜航型がいるのかも」
「まさか。そんなの、全く聞いたことないぞ」
「とにかく、これで水上型だけに絞れるね」
「そうだな。180度ターンで挟み撃ちで行くか?」
「いいね。永遠より各機、ターンで挟み撃ちにする」
「了解」
「1、2、3、はい!」
最大戦速のまま左に身体を倒し、ブレードと海面との摩擦を起こす。左手も海面につけると、うずくまった姿勢になり、出力を抑えた地面効果翼をぐるりと回すイメージで、六式を回転させる。
地面効果翼のジェットエンジンをまた最大にすると、ほぼIターンで正面に敵を見据えることに成功した。
そこで永遠が火器管制を握り、肩部と携行式の無反動砲を連発する。
敵の背後を取ろうとしていたA-8S2機も無反動砲を連発し、挟まれた相手に次々に命中する。
敵とすれ違うなり、味方A-8Sとぶつからないよう大きく旋回し、先回りして敵の背後を取った。
無反動砲で牽制しつつ、ミサイルを何発も同時に発射する。
早ヶ瀬機からもミサイルが飛び、敵周辺でたくさんの爆発が起きる。飽和攻撃に近い状況で、敵は次々に海面に倒れ、爆発していく。
「永遠・羽佐間機より各機、敵の殲滅を確認。散開して待機」
「了解」
「こっちは終わったな」
「うん。対潜戦はどうなったんだろう……」
「聞いてみるか?」
「待って。通信きた」
「わだつみCICより各機、敵の殲滅を確認。状況終了」
「聞いた? 撤収するよ」
「対潜戦は終わってたってことかよ」
「そうみたいだね」
管制塔Bからの指示に従い撤収後、勇名と永遠はわだつみCIC に向かう。
対潜戦の成り行きは、どういうことだったのか。なぜ、撤収中の4機が犠牲になる前に対応出来なかったのか。誠十郎に確認しないと気が済まないからだった。
味方のA-8Sは2機だけになってしまいました。




