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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
アンディエル帝国編
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地下通路にて

 ノブナガが帝都の広場で行った扇動。

 その場にいた騎士たちが途轍もない咆哮を上げ、問題なく騎士たちの助力を得る事に成功した。


 のだが、なかなか収まらなかった。

 ノブナガの初めての扇動が騎士たちの心を強烈に動かしたらしく、朝っぱらから近所迷惑な叫声をずっと上げていた。

 台の上に立っていたノブナガが「これ、どうやって収まるの……?」と顔を痙攣らせながら助けを求めてハルサーマンに視線を向けるも、なぜかハルサーマンも騎士に混じって叫声を上げていた。


 なんであんたもそっち行ったんだよ、と思いつつ視線をザンやカレン、アリンカへと移す。

 視線に気づいたアリンカが肩を竦ませながら顔を振って『無理です』のポーズを取る。

 ザンとカレンに関しては、近くの騎士たちを煽っていた。

 セリフがなぜか「お前らの限界はその程度か!?」とか、「諦めるな!諦めた時っ、そこがお前たちの限界なんだ!ガッツだっ!ガッツを見せろー!!」などと、熱血系の体育教師が言いそうな事ばかり言っている。

 ザンがセリフを言い、カレンがそれに続いているような型である。


 とりあえず、ザンは後で説教しようと心に決めたノブナガ。


 結局、収まったのは騎士たち全員の喉が枯れた時だった。


 ようやく台から降りた後はハルサーマン、それにアリンカとカレンに任せ、ノブナガとザンは広場を後にする。

 アリンカとカレンは、魔族軍と対峙する時に騎士たちと隊を組んでもらう予定なので、今のうちにコミュニケーションを取ってもらいたかったのだ。



 アリンカとカレンと別れたノブナガとザンは誰もいない帝都の道を歩く。

 ハルサーマンの屋敷に戻ると思っていたザンは、突然ノブナガが進路を変えた事に驚く。


「あれ?屋敷はあっちだよ?」

「屋敷に戻る前に、会いたい奴がいるんだ」

「会いたい奴?」


 それだけ言って歩き出したノブナガに、ザンは首を傾げながらノブナガの背後を付いて行く事にした。


 時々辺りを見渡しつつも、ノブナガは確かな足取りで歩き続ける。


「お」


 建物同士の間の裏路地に入ると、ノブナガが何かを見つけたような声を漏らす。

 すると、地面に埋もれているマンホールを持ち上げた。

 その奥からは、下へと降りる為の梯子が現れる。

 場所は違うが、それは間違いなくザンたちが帝城に侵入する為に使用した地下通路である。


 それを梯子を使わずに跳び下りるノブナガ。

 そんなノブナガにギョッとしながらも、ザンはちゃんと梯子を使って降りた。


 ノブナガが“フラッシュ”で暗闇を照らし、地下通路を歩く。

 途中の分かれ道も迷う事なく歩き、ノブナガとザンは暗闇の中を歩き続けた。


 そして、ついにノブナガは目的の場所にたどり着いた。


「よ、ネルラ」


 そこには、昨日いつの間にかどこかへ行ってしまったネルラがいた。

 通路の壁を背に膝を抱えて座り込んでいる状態で。


 ノブナガに声を掛けられ、一瞬だけ肩を震わせてからゆっくりと顔を上げた。


「あら、ノブナガじゃない。よく生きていたわね」

「離れた所で見てたくせによく言うよ。て言うか、ネルラの方が大丈夫なのか?すごい顔になってるぞ」


 “フラッシュ”の光がネルラの顔を照らし出すと、その顔は完全に疲れ切っていた。

 隈まではできていないが、いつもの余裕な笑みが疲れた笑みになる程には疲れるらしい。


 ノブナガが会いたいと言っていた相手がネルラとわかったザンは眉を顰める。

 何せ、昨日まで敵だった奴だ。

 あまり良い思いをしないのも無理はない。

 だが、今は切羽詰ったような空気じゃないのを察知して、ノブナガの背後で待機する。


「それで、わたしに何か用なの?」

「ああ。俺たち人間族は、魔族軍と“魔神”に立ち向かう事にした。そこで単刀直入に言う。俺たちにネルラの力を貸してくれ」


 言葉通り、単刀直入に切り出すノブナガ。

 その言葉に一瞬呆気に取られるネルラだったが、次の瞬間には眉を顰める。


「正気?わたしは魔族なのよ。敵に協力を求めるなんて」

「魔族だけど、半分は精霊族だろ。それに、もうネルラは敵じゃない」


 ジト目なネルラに、キッパリと言い切るノブナガ。


「父親の“魔王”は倒した。もうネルラを縛るものは何もない。自由なんだよ」

「…………わたしは、北のダンジョンを解放した時点で自由だったのよ」


 視線が落ち、ネルラの口からボソリと呟かれた。

 その言葉にノブナガは首を傾げる。


「ノブナガたちが帝都に来る数日前に、お父様に言われたのよ。自分の下を離れて自由に生きなさい、って」


 ネルラから告げられた言葉に、ノブナガは驚いた様に目を剥く。


 あの“魔王”の印象的に、ネルラを物としか思っていないように思えたからだ。

 “魔王”と戦った時も、ネメシルラとして使っていたのは使い潰すまで使うという心情だったからだと思っていた。


「でも、わたしはお父様の傍を離れる事ができなかった。そこで、気づいたのよ。使命の為に生きて来たわたしには、お父様以外何もなかったんだって事を」


 ネルラは目的の為に生まれ、育てられた存在。

 その目的の為だけを胸に生きてきたネルラは、それ以外の物がなかったのだ。

 何をしたいとか、何が欲しいとか、そんな誰もが持っている欲望が抜けてしまった。


 そのせいで、目的を果たした途端、途方に暮れてしまったのだ。

 他人に自分の行動を決められていたが故に、自分で決めるという事ができなかった。


 それを、ネルラは痛感してしまったのだ。


「お父様の目的だった約束の日も成し遂げた。お父様もいないし、わたしには生きている理由がない」


 胸の想いを吐露したネルラは立ち上がる。

 そして、ノブナガの前に立って両腕を広げた。


「さ、わたしを殺しなさい。ノブナガの手で、わたしを楽にさせて」


 ノブナガの顔を見定め、真っ直ぐとした目で言うネルラ。

 その目は、その決心がついているかの様に定まっている。

 真正面から見ているノブナガには、それが血迷って言っているわけではないと分かった。


 だが、ノブナガはその願いに首を横に振った。


「殺さない」

「どうして?早く楽にさせてよ」

「ネルラが本心からそう思っているんなら、殺してやる。でも、そうじゃないだろ」

「そんな事ないわ。心の底から死にたいと思っているわ」

「じゃあ、何でそんな寂しそうな笑みを浮かべてるんだ?」


 ノブナガの目には、笑みを浮かべたネルラがいる。

 しかし、その笑みはいつもの余裕たっぷりな笑みではない。

 悔いを残しているように、寂しげな笑みだった。


「ネルラもわかっているんだろ。自分の生き方が寂しい、って」

「そ、そんな事……」

「思ってる。だから、俺に殺してくれと言った。俺なら、生きる理由を与えてくれると期待したから」


 死にたいのなら、自ら命を絶ってもいい。

 ノブナガに頼んだのは、少なからず心の中で期待したからだ。

 ノブナガが“魔王”サランの代わりに、生きる理由をくれる存在になってくれると。


 だが、それはただの甘えだ。


「本当に生きる理由が欲しいなら、人に縋るな。そんなのは他人に与えられるものじゃない。物でもない限り、それはネルラ自身で決めろ。ネルラが生きる理由を見つけた時は、俺が全力でサポートしてやる」


 人生は他人に決められるものではない。

 それが例え、神によって引かれたレールだったとしても、人はその意思で変える事ができる。

 天紋という1つの運命がありながら、その人生が別々であるのと同じように。


「……話が逸れたな。悪い、無茶な頼み事をして。じゃあ、元気でな」


 自分から生きる理由は自分で決めろと言った手前、本題の頼み事がし辛くなったので、踵を返したノブナガ。


 ザンが去って行くノブナガに付いて行こうとした時、


「待って」


 その背中をネルラが呼び止めた。

 踏み出そうとしていた足を止め、肩越しに振り返るザン。


「何かな?」

「……わたしは、何を選んでもいいの?」

「いいんじゃない?この戦争で人間族側に付こうが、魔族側に付こうが、はたまた戦争とは無縁の地に逃げようが。誰も文句なんて言わないよ」


 まだ若干眉を顰めながら、振り払うように言い放つザン。

 その言葉に、ネルラは塞ぎ込むように顔を下に向ける。

 敵として、故郷の仇としてはまだ許せないザンだったが、見てられないネルラの状態に心がもやもやする。


 ため息を吐き、また投げ捨てるようにザンが口を開く。


「まぁ、ノブちゃんの言葉に甘えなよ。ノブちゃんの事だから、アナタが選んだ事はサポートしてくれるはずだよ。だから、自信を持って選びなよ」


 それだけ言い残すと、ザンは足早にその場を後にし、ノブナガの背中を追った。



 その場に残されたのは、バタリと座り込んだネルラだけだった。



 ************************



 ネルラと別れたノブナガとザンは、今度こそハルサーマンの屋敷へと帰る。

 道中は会話もなく、2人の間に流れる静寂を噛み締めながら歩いていた。


 屋敷に着き、扉を開けて中へ。


 そのまま、近くの部屋へと入る2人。

 その部屋は、昨日“人神”ミウからいろんな話を聞かされた部屋だ。

 大人数を囲めるソファやテーブルなんかが置かれている。


 気軽に入ったノブナガとザンだったが、部屋に入るなり固まった。

 動作の一切をやめ、完全に停止する。



 なぜなら、部屋の中に知らない女性がいたからだ。

 それも2人も。


 1人は海のような青色の髪を1つに束ねた20代前半ぐらいの女性。

 もう1人は炎のような赤い髪と背の高さが特徴的な10代後半ぐらいの女性だった。

 どちらも、ノブナガが知らない人ではある。


 その2人の女性もノブナガたちが入ってきた事には気づいているようで、ノブナガに2人の視線が集中する。


 ノブナガと2人の女性の目が合った瞬間、敵意のようなオーラを放ち始める女性たち。

 その敵意に当てられ、ノブナガが“ストレージ”から短剣を転移させようとする。


 その前に、


「ラミスっ、タニー!!」

「「ザンっ!?」」


 ノブナガの後ろにいたザンが跳び出し、2人の女性に向かってダイブした。

 その2人の女性は突然出てきたザンに驚きながらも、ダイブしてくるザンを受け止め、そのまま抱き締め合った。


「よかったー!目が覚めたんだね!!」

「うん!ザンも目が覚めたみたいで良かった!!」

「相変わらず元気そうで何よりです。そろそろ苦しいので、離してくれませんか?」


 ザンと青髪の女性が尻目に涙を浮かべながら、赤髪の女性は嬉しそうに口を綻ばせながらも本当に苦しそうでザンの肩をポンポンしながら抱き締め合っている。


 その状況とザンが呼んだ名前で、ようやく2人の女性が誰だかわかったノブナガ。



 そう、2人の女性こそが、数千年前に人間界に送り込まれた4人の最後の2人。


 聖槍ラミスピアと、聖弓タニボウル


 その人である。

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