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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
アンディエル帝国編
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夜の地下室

 魔神、そして魔族軍の襲来した日の夜。


 話し合いを終えたノブナガは、みんなが寝静まった時間を見計らい、ハルサーマンと一緒に屋敷を出た。

 確認したい事があったノブナガは顔が効くハルサーマンに頼んで付いて来てもらう事にしたのだ。


 “気配探知”を発動した時、ハルサーマン以外に1人だけ起きている者がいたが、それが現王アブリー・アンディエルが眠っている部屋にいるのがわかると何も言う事なく出てきた。


「こんな時間に付き合ってもらってすいません」

「君には返し切れない恩があるからな。これぐらいさせてくれ」

「だから、それは……まぁ、言っても仕方ないですね」


 いつもの様に「アリンカに頼まれたから」と言おうとしたノブナガだが、返ってくる言葉がだいたい想像できるので諦めた。

 正直、今でも自分が謙遜しているなんて思えないが、言われるとどう返したらいいかわからなくなるで言わない事にしたのだ。


 月明かりが照らす夜道を歩き、2人がたどり着いた場所は帝城があった場所。

 つまり、ミウの“神域”の白銀のドームがある場所だ。


 ノブナガたちが去った後は、騎士に交代で見張りをして貰っている。

 その騎士がノブナガを見るなり、目をギョッと剥いて驚いていた。

 多分、ノブナガが湖に放り込んだ騎士の中にいたのだろう。


(ん?あの子……)


 驚かれたのでつい騎士に視線を向けたノブナガは、小柄な女の子とその身に合わない大きな剣を目にして思い出す。

 確か、一本橋で1番最初に斬りかかってきた少女だ。


「1番最初に湖に落とした人」

「ちょっ、その覚え方酷くない!?」


 ノブナガが指を差しながらそう呟くと、少女はその指をバシッと叩いて抗議してくる。

 後になって、「ヤバい奴の指を叩いてしまった!!」と内心焦るのだが、ノブナガがちょっと笑っているのを見てホッとする。


「ノブナガくんはサフィを知っているのかい?」

「知っているというか、一本橋で騎士たちに囲まれた時に最初に斬りかかってきたのがその人なんです」

「ほぉ、そうだったのか。サフィ、この少年を相手に良く立ち向かった。偉いぞ」

「か、かかか感激であります!その言葉を胸にっ、より一層鍛錬に勤しみます!!」


 ハルサーマンはすべての騎士を纏める軍将。

 そんな者にお褒めの言葉を貰った少女は若干涙目になりながら惚れ惚れするような敬礼をしていた。

 どうやら、ハルサーマンのお言葉は泣くほど嬉しい事らしい。

 背後にいるノブナガは「どういう意味だ」とハルサーマンにジト目を向けていたが……


 そんなノブナガを余所に、ハルサーマンは「明日の早朝に集会を開く。帝都にいるすべての騎士に帝都の広場に集まるように伝えておいてくれ」と少女に言い残し、歩き出した。



 歩いて数分、白銀のドームにたどり着く。

 夜にも関わらず光っているので、正直良くも悪くも目立つ。


 ハルサーマンは見張りの騎士たちに変わった事がないかを聞きに行っている。

 その間、ノブナガは瓦礫の方へ行き何かを探していた。

 歩いては目を配り、歩いては目を配りを繰り返しているので、側から見ていた騎士たちは首を傾げるばかり。


 そこに、ハルサーマンが戻ってくる。


「変わった事はないようだ」

「そうですか」

「君の探し物は見つかったかい?」

「ちょうど今見つけたところです」


 近づいてくるハルサーマンを肩越しに見ながら、“ストレージ”から“アドバンス・サモナー”を取り出す。

 一緒に取り出したカードを差し込み、魔改造されていない“ストーンゴーレム”が召喚される。


 突然出てきた“ストーンゴーレム”に騒めきが起きるが、ノブナガに気にした様子はない。

 というか、これぐらい普通だと思っているので、何に驚いているのかわからないといった心情だろう。


「ここら辺の瓦礫を退かしてくれ。周りに人がいるから慎重にな」


 主人の命令を受け、ストーンゴーレムはゆっくりとした動作で瓦礫を掴み退かしていく。


 瓦礫を退かすぐらいなら、ノブナガのバグったステータスでもできるし、もし無理でもスキルでどうにでもなるのだが……“限界突破”を使用した後に来るひどい疲労感がまだ抜け切っていないのだ。

 しかも、今回は無茶な使用をしたせいで肉体もボロボロだ。

 正直、すぐにでも横になって休みたいと思っている。


 しかし、それでもここに来たのには理由がある。


 それが、今ストーンゴーレムが掘り起こしている瓦礫の先にあるものが理由だ。


「見えた」


 瓦礫を退かし、ノブナガが探していたものが現れる。


 それは、下へと続く階段。


 これにはハルサーマンも眉を顰める。


 ここはすでに地下空間、つまりエリーナたちが通って侵入した地下水路だった場所なのだ。

 騎士を束ねる軍将として隠しルートがあるのは知っていたハルサーマンだが、それよりも下に何かがあるなんて聞いた事もなかったのだろう。


「ハルサーマンさんはここに居て下さい」

「わかった。気をつけてな」


 ストーンゴーレムに待機命令を出し、ハルサーマンにも声をかけると階段を降りて行く。

 さすがに階段の中まで白銀のドームの光が入って来なかったので、“夜目”を使って階段を降りる。

 もちろん、“気配探知”と“魔力探知”も使って警戒しながらだ。


 体感で10メートルぐらい降りただろうか。

 降りた先には、鋼鉄の大きな扉があった。

 取っ手の部分や床を見る限り、何回も扉が開かれた形跡がある。

 更に扉の向こうから鉄の匂いとは違う悪臭が鼻を刺激し、眉を顰めるノブナガ。


 扉の先に誰もいない事を確認し、扉を開けた。

 そこには謁見の間と同じぐらいの広さと、そしてその広さを満遍なく使われた魔法陣が床に描かれている。


 “フラッシュ”を唱え、部屋の中心の屋根に設置する。

 部屋には魔法陣しかなく、ノブナガは悪臭の元を辿った。

 すると、その部屋の入り口とは違う扉を発見する。


 人一人が通る分ぐらいの扉を開けた先にあったのは、骨の山。

 脊髄や骸骨を見るに、この骨たちは人間だった事が伺える。

 更に扉や床、壁、天井のほとんどに煤が付いている事から、火葬はこの部屋で行われた事がわかる。

 一体、何人の人がやられたのか。


「エリーナさんには見せない方がいいよな……」


 せめて地面に埋めてあげようと思い、すべての骨を“ストレージ”に回収するノブナガ。


「ん?」


 その時、部屋の隅っこで光るものを目にしたノブナガはそれを拾い上げた。

 光るものは、どうやら指輪だったらしい。

 銀のリングに美しい青の宝石が組み込まれている指輪だ。


 よく見てみると、リングの内側に文字が刻まれているのを発見する。


「アブリー・アンディエルより、エルフィーナ・アンディエルへ…………」


 読み上げた瞬間、ノブナガの心に言葉にはできない感情が流れ込んでくる。

 怒りや悲しみ、切なさ、無力感、いろいろな感情が溢れ出してどうすればいいかわからなくなる。


 ギュッと指輪を握り締めたノブナガは、ゆっくりと力を抜くと丁寧にポケットの中に仕舞った。


 そして、小さな部屋を後にし、大きく描かれた魔法陣を調べ始める。

 調べ行くにつれて、それがノブナガの予想通りの物であった事に確信を持つ。


「やっぱり、これが人間界から出られない原因だったか」


 “賢者”の天紋を持つノブナガにはすぐにわかった。

 この魔法陣は時空魔法の一部を利用し、この世界の時間と他の世界の時間を同調させないようにしていたらしい。

 外の世界からこちらの世界に時間の流れを合わせる事は出来るが、人間界から外の世界の時間の流れに合わせる事が出来ない。

 つまり、この魔法陣は人間界の時間の流れを固定する効果があるのだ。


 時空魔法の理論をどうやって知ったかは知らないが、どうせ精霊界の“異界の門(アストラル・ゲート)”から引用して来たとかだろう。

 問題は、そんな魔法陣の発動と維持に必要な魔力をどっから持って来たかである。


 魔法陣は必要以上の魔力を流し込めば補充する事が出来るが、これ程の魔法陣となれば補充なんて一瞬で使い果たしてしまう。

 一瞬でも発動すればいい方だ。


「この線……血か。血を触媒にして魔力を増強していたのか?この魔法陣を描くのに全部血が使われているのなら出来るかもしれないが……そもそも血を触媒にできるのか?」


 まだ疑問は残るが、それしか考えられないので一旦放置する事にしたノブナガ。

 とりあえず、魔法陣に補充されている魔力を分解魔法で霧散させた。

 魔法陣の効果が切れるのを確認すると、ノブナガは気配を隠しもせず降りてくる奴に気がつき大きな扉の方を振り向いた。


 しばらくすると、降りてくる気配は大きな扉の前にたどり着き、その扉を開けた。


 そこから現れたのは、白銀の球体を浮かせた“人神”ミウだった。

 ノブナガを見るなり、人当たりのない笑みを浮かべるミウ。

 それに対し、ノブナガは訝しげに眉を顰める。


「何の用だ?」

「そんな素っ気ない事言わないでよ。寂しいじゃないか」

「鬱陶しい。さっさと本題を言え」

「はぁ、仕方ないなぁ」


 見るからに不機嫌なノブナガの事を軽く受け流し、本題に入る。


「じゃあ言うけど……“魔神”を倒す覚悟はできた?」


 笑顔のはずなのに、圧力を感じるような声。

 常人だと、その声を聞いただけで体温を奪われてしまうだろう。

 仮にも神の言葉を平然と受け止めているのは、きっとノブナガがそれ以上の圧力を浴びたからだ。

 “魔神”の時に感じた圧力に比べれば、正直どうって事はない。


「それは昼にも言ったはずだ。それを決めるのは、俺じゃない」


 ノブナガの答えは変わってなどなく、はっきりとした声で言う。



 そう、それ半日ほど前に遡る。



 ************************



「だからっ、君の前世は先代の“人神”なの!!」


 ミウがそう言った部屋の者たちは、一同に固まった。

『今なんて言った?』という心の声が完全に顔に書かれている状態で。


 そんな中、いち早く我に返ったノブナガ。


「俺の前世が先代の“人神”?そんなわけない。俺の前世は地球っていう星の人間だった。ほとんど覚えていないが、それは間違いない」

「確かに、君はーー君の魂は数千年前からこの時代まで別の星に移っていたみたいだね。“叡智”じゃどの星までかはわからなかったけど、間違いなく君の過去世は先代の“人神”だよ」

「待って。つまり、ノブちゃんはこの星から別の星で転生して、またこの星に戻ってきて転生したって事……?」

「うん、その通り。ちきゅう?っていう星で過ごした前世は確かなもので、その更に前世では“人神”としてこの星にいたのさ」


 ノブナガとザンが食い入るようにミウの言葉を聞いているが、他の者たちは何が何やらで話に付いていけてないようだ。


「でも、所詮は前世での話だ。倒せるのは、今の“人神”であるミウだけだろ」

「まあ、そうなんだけどね。だけど、僕は“魔神”に勝てない。間違いなくね」

「“魔神”の方が強いって事か」

「それもある。でも、最大の問題は僕が戦えない事だよ」

「戦えない?“神域”っていうスキルがあるだろ?」

「あれは戦闘向きじゃないんだ。“神域”は領域を指定してその領域の因果を自由にできるスキルなんだけど、制約が多くてね。それに、今はまだ壊されてないけど、“魔神”が本来の力を取り戻せば“神域”なんて簡単に破られる」


 ミウの言葉で、不穏な空気が流れ始める。

 その言葉に、ノブナガは泡を食ったように問いかける。


「あ、あの“魔神”は、まだ本気じゃなかったのかっ?」

「ん?まあ、本調子ではなかったと思うよ。まだこの世界の魔力と通力に馴染んでなかったし」

「馴染んだらどうなるんだ……?」

「“無限通力”と“無限魔力”が使えるようになって、文字通り無限の力が手に入るかな」


 まるで、ミウの言葉が死刑宣告のように重たさを感じる。

 ノブナガはおろか全員が、息を呑んで生唾も飲んだ。


「“魔神”のスキルは“無限魔力”。大気の魔力を吸収して自分の魔力にする事ができるみたいだよ。あと1つは、“魔王”と同じ“魔力操作”だったかな」

「“無限通力”はハバキ様の力だった……つまり、」

「記憶を取り戻した時に、当時のスキルにも目覚めたらしいね。厄介な事極まりないよ」


 [+身体強化]は身体能力を強化するスキルで、肉体が耐え切れない以上の強化は不可能である。

 しかし、通力は違う。

 通力は身体能力はもちろんのこと、肉体すらも強化する事ができる。

 つまり、通力で肉体を強化しすれば、本来よりも強く強化する事ができるのだ。


 通常、それはMPとPPに限界がある為、それをするにも限度が存在した。

 が、今回のような“無限魔力”と“無限通力”なるスキルがあれば、限度という概念はない。


 大袈裟に言えば、不可能がないのだ。

 破壊したければそれだけの強化をすればいいし、早く移動したければそれだけの強化をすればいい。

 この2つが揃えば、出来ない事というのが存在しないという事だ。


「でも、ノブナガくんなら勝てる。君が“人神”だった頃の記憶を思い出し、君だけのスキルがあれば必ず勝てるんだ」


 絶望しか見えない中、ミウはそう豪語した。

 ノブナガを一直線に眺め、強くノブナガを見つめている。


 仮にも“叡智”を持つ神の言葉だ。

 さっきまで絶望しかなかったところに、希望の光が差し込んだかのように思えるのも無理はないだろう。

 全員の視線がノブナガへと集まってくる。

 ノブナガもミウの言葉を一身に受けたのか、ミウの目を逸らす事なく見続けている。


 少しの間見つめ合い、思考するように目を閉じたノブナガが不意に口を開けた。


「倒すって言ったな。それは、殺すという事か?」

「うん。何を当たり前の事をーー」

「“魔神”の意思に侵されているとしても、中身は“精霊神”だったハバキさんなんだろ?ーーハバキさんを殺すのか?」

「ーーッ!?」


 ノブナガがそう口にして、ザンは初めてどういう事なのかを理解した。

 “魔神”を殺す、それはハバキを殺すという事。

 それを認識したザンは、どうすればいいのかわからず固まった。

 スフィも、表情は通常通りだが考え込んでいるのか視線を一点に留めていた。


「ザンとスフィは、どうなんだ?」


 そこに、ノブナガが問いかける。

 もちろん、戦うのはノブナガであってザンたちではない。

 それでも、ノブナガはハバキを知るザンたちに問わないといかない。

 これはノブナガだけの問題のようには、思えなかったから。


「わ、わたしは……」


 ノブナガに問われたザンは、口にしようとした言葉を呑み込んだ。

 自分の気持ちと人間界の命運を天秤に掛けてしまったのだろう。

 ノブナガの自分の気持ちを大切にして欲しいというのは伝わってくるのだが、それを足し測っても1つの世界は重過ぎたのだ。


 2つの答えがザンの中で衝突し合い、声にする事すらできない。


 その葛藤は、側から見ていてもわかった。


「答えを急ぐ必要はない。その答えは、すぐに決める様な内容じゃない」


 さすがに見ていられなくなったノブナガがそう言うと、ザンが力なく頷く事しか出来なかった。



 結局、その時は具体的な対策を考えず、休息を求めて解散となった。



 ************************



 そして、現在。


「あのねえ。“魔神”を倒すのは君なんだよ?決める権利は君にあるんだ」

「その俺が言ってるんだ。決めるのはザンとスフィだ、って」


 ミウが言葉を紡ぐも、ノブナガの決意は固く揺らぐ事はない。

 神を相手に、きっぱりとした口調で言う。


「なら、彼女たちが殺さないと言えば、君は殺さないの?」

「ああ、殺さない」

「つまり、人間界を見捨てるのかい?」

「見捨てない。世界も救って、“魔神”の意思からハバキさんを解放する」

「はぁ……それは綺麗事だよ、ノブナガくん。わかってるよね?それがどれだけ難しい事のか」


 ため息混じりに言うミウ。


 そう、ノブナガだってわかっている。

 それが綺麗事で、ノブナガには到底できると言えるような事ではない事を。

 “魔神”に手も足も出なかった自分にできる事ではない事も。


「……自分が苦しい綺麗事を言ってるのは理解してる。俺の身の丈に合ってない事も」

「なら、どっちかを選ばないとーー」

「でも……それでも……俺たちは見捨てないんだ。それが、俺たちの戦いだから」


 ノブナガに似合わない弱々しい言葉。

 胸の中に渦巻く苦しさを噛み締めながら、それでも言葉を紡いだ。

 今までして来た戦いに、意味を失くさないように。


 この場に用が無くなったノブナガは、それだけ言うとミウの横を通って部屋を後にしようとする。


「君が神だった時のスキルは、あの金色の光の事だ」

「っ、あの光か……」


 ノブナガが大きな扉に手をかけると、背を向けたままノブナガに言うミウ。


 ノブナガは扉にかけた手を引っ込め、“魔神”に放った最後の一撃を思い出した。

 吸血界で“異門(ゲート)”を発動した時にも漏れ出していた金色の光。

 確かに、あの光を纏った拳で殴った時、受けるはずもないダメージを“魔神”は受けていた。


「記憶を取り戻していないのにスキルの欠片を使えたという事は、記憶に目覚める兆しだと僕は思う。でも、君は当時を話しても目覚めなかった」

「それは、その前に地球に転生したからじゃないのか?」

「そうかもね。それでも、いくらなんでも思い出さな過ぎる。聞けば、そのちきゅうとかいう所での生活もまともに思い出していないみたいだし」


 ミウにそう言われ、そう言えばそうだと思うノブナガ。

 コ○ンやポ○モン、その他のサブカルチャーについては思い出すのに、自分の顔や生活については何も思い出せないのは不自然な気もする。


 でも、現にそうなのだから仕方がないと言おうとしたが、その前にミウの言葉によって阻まれた。


「僕はノブナガくんがその星で過ごした事はわからないから、仮説の中の結論を言うよ。君は、前世の君に記憶を封じられてる」

「ーーッ!?何のために……」

「さあね。所詮は仮説だし違うかもしれないけど、それだと思い出すのは困難だね」


 ようやく振り返ったミウは扉の前に立っているノブナガに歩み寄る。


「もし、そうじゃなくても君が1週間以内に思い出すのも困難だ」

「1週間?」


 突然期限が言い渡され、眉を顰めるノブナガ。


「“魔神”が“神域”を破る期限だよ。さっき見たけど、“神域”の中の“魔神”は着実にこの世界の魔力に馴染み始めている。僕の“神域”を破る力を付けるのは、最短でも7日」


 ノブナガを通り過ぎ、大きな扉に手をかけて開けるミウ。


「まあ、その事はどうでもいいんだ。僕が言いたいのは、君の記憶が目覚めない理由の方。後者だと僕にはどうしようもないけど、前者なら僕でもどうにかできるよ」


 ミウの言葉に驚いて振り返るノブナガ。

 すでに扉を開き、出かかっているミウは肩越しに振り向いて言う。


「試してもいいけど、考えていて。前世の君が記憶を封じたのなら、それなりの理由があるはずだから。どんな記憶が目覚めてしまうか、僕にも想像できない。だから、慎重に考えておいて」


 それだけを言い残すと、部屋を後にしたミウ。


 大きな音を立てて閉まる扉を、ノブナガはただ眺めていた。


 頭の中では、さっき話していた記憶の事でいっぱいだ。

 もし、前世の自分が記憶を封じたのなら、それはミウが言う通り、そうせざる得なかったからだろう。

 その封印を解けば、どんな記憶が蘇るか計り知れない。


「もしかして……あの夢で見たやつが、その内の1つだったのかな……」


 思い出すのは、“魔王”サランに背後から刺されて意識を失った時の事。

 あの時の夢では、悪魔とかいう怪物に囲まれて背後から親友に刺されていた。

 目が覚めた時はひどい汗をかいていた事も思い出した。



 結局、考えてもわからなかったノブナガは、ミウが去ってから十数分した後に、部屋を出たのであった。

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