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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
アンディエル帝国編
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あの日の夢

戦闘も終わり、説明回です。


ごちゃごちゃとしてますので、またどこかで改めて説明すると思います。 作者より

 数千年前、その更に昔。


 生命の光が溢れる精霊界で事。


 4人の精霊が、他の世界に行き来する事が出来る門ーー“異界の門(アストラル・ゲート)”の前に集められた。

 その4人の精霊の前には、白髪の男が立っている。


「よく来てくれた。ザンガルド、ミラスピア、タニボウル、スフィーリア、4人の勇気に感謝する」


 そう、ザンガルドーーザンたちが集められたのは、白髪の男にして“精霊神”であるハバキに呼び出されたからである。

 その理由も、4人はすでに知っている。


「改めて、説明させてくれ。魔界に人間界に通ずる時空の穴が空き、その穴を通って魔族の王とその兵たちが人間界に雪崩れ込んだ。今、人間界は破滅の危機に晒されている」


 時空の穴が空くという異常事態が、数日前に起きた。

 それは今まで起こった事のない事で、精霊界中で話題になった。

 時空の穴が空くだけながら良かったが、悪さを企んだ“魔王”が時空の穴を潜って別世界に渡ったのだ。

 人間族と魔族の間には、種族での力の差が存在しており、正直人間族の方が武が悪い。


「このままでは人間族が滅びかねないという事で、“人神”から救助要請が来た。“人神”とも話し合い、作戦を決行する事にした。その為には、4人の力が必要だ」


 そして、“精霊神”ハバキはザンたちに作戦を語った。

 “人神”のスキルで作った術式を使い、龍脈を利用した儀術式で魔族たちの出現を阻止する。

 その為に、ザンたち4人には四方に散らばって龍脈の魔力を通力で強化してもらうという事も。


 話によれば、ザンたちはこれから先、永遠に1人寂しく過ごしていかなければならないという事。

 しかし、ザンたちは嫌な顔をする事なく、それに頷いた。


 もともと、精霊は時間の流れというものに乏しく、何より1人でいる方が好みの種族だ。

 ザンは他の精霊よりも感情が豊かで、よく話したり遊んだりしているのだが、それでもそれが苦とは感じなかったのだ。

 まあ、それが精霊なら誰しもが憧れる“精霊神”ハバキからの頼みであったからというのも理由の1つに入っているのだろう。


「ありがとう。そして、スフィーリア。君にはもう1つ頼みたい事があるんだ」


 そう言うと、ザンの隣にいるスフィに“人神”と考えた作戦を語るハバキ。

 正直、さっき語られた作戦も何を言っているのかよくわからなかったザンにとっては、今語られている内容もいまひとつわかっていないようだ。

 ただ、ざっくりと“聖女”と契約してある事をするという事だけは理解した。


 すべての説明が終わり、ハバキは4人に歩み寄る。

 すると、ザンたち一人一人の頭に手を伸ばし撫で始める。


 憧れの強いハバキに撫でられる光栄さもあるが、ハバキの手から感じる優しいさと暖かさに目を細めた。

 優しいさと暖かさが、ザンたちの中にずっと印象に残る。


「さあ、4人共。人間界を、頼んだよ」


 ザンたちに背を向けると、そこにある巨大な門ーー“異界の門(アストラル・ゲート)”を起動させる。

 “異界の門(アストラル・ゲート)”を起動させるには通力が必要で、膨大な通力を消費する。

 消費量は門を潜る人数に比例。

 しかも、起動させた張本人が潜ろうとすると更に膨大な通力を消費してしまうのだ。


 ハバキが“異界の門(アストラル・ゲート)”を起動させると、両開きの扉がゆっくりと開かれた。

 扉の向こう側から光が漏れ出しているせいで向こう側を見る事が出来ないが、すでに人間界に繋がっている。


 ハバキが聖母のような優しい笑みを浮かべて見守られる中、ザンたちは門を潜る。


 男のはずなのに、聖母のような笑みを浮かべるハバキに見守られながら……



 ************************



「ザン、大丈夫か?」

「え?…………あー、うん。大丈夫だよ」


 昔の記憶に浸っていたザンは、隣にいるノブナガの声に咄嗟に反応できず、間が空いてるから返事をした。



 “人神”ミウに助けられたノブナガたち。

 突然現れた“人神”に驚き、言葉を失ったノブナガは我に帰ると「本当に“人神”なのか?」と問おうとするが、そこにハルサーマンが駆けつけて来た。

 ハルサーマンが率いた騎士たちに治療してもらい、少しは動けるようになったノブナガたちは場所を移動して事情を話す事にした。


 移動しは場所は帝城の領地から少し離れたハルサーマンとアリンカの家だった。

 そこに先に移動していたマリーとアリンカが対面し、泣きながら抱き締め合うイベントもあった。


 今はそれも落ち着き、マリーにお茶を用意して貰っている状況である。


 そんな中、ぼーっとしているザンにノブナガが声を掛けたのだが、どう見ても大丈夫には見えない。

 エリーナの隣に座っているスフィもデフォルト顔と変わらないように見えるが、心なしか暗い表情をしているように見える。

 もう一度声を掛けようとすると、丁度良くマリーが入って来て阻まれてしまった。


 “奪還者”メンバーとハルサーマン、マリー、それに“人神”ミウの分まで配り終わると、早速本題に入った。

 まず、状況を知らないハルサーマンとマリーにこれまでの事をすべて話す。


 次期王が魔族の王だった事。

 現王が洗脳されていた事。

 目的が日食を起こして時空の穴を開ける事。

 “魔神”が人間界に来た事。

 その“魔神”に、手も足も出なかった事。



 すべてを話し終えると、ハルサーマンは思考するように目を閉じていた。

 マリーは話のスケールの大きさにやられ、口を開けて固まっていた。


「つまり、私がダンジョンに取りに行った聖剣というのは、精霊だったのか?」

「うん、そうだよ。というか、わたしだよー」

「わたしも精霊」

「あと、そこの槍と弓も精霊だ」


 ザンが「はーい」というように手を挙げ、スフィは自分の存在をアピールするように主張する。

 ノブナガは机の上に置いている槍と弓ーー聖槍“ミラスピア”と聖弓“タニボウル”を指差した。


 ここに移動する際、瓦礫に埋もれている中から見つけ出して持ってきたのだ。

 エリーナの父親ーー現王アブリー・アンディエルも眠り続けているので、この屋敷の客間で眠っている。

 ちなみに、ネルラも連れてこようとしたのだが、いつの間にかどこかへ行ってしまった。

 気配の[+特定探知]で探ってみたところ、まだ帝都内にはいるようであるが。


 ハルサーマンたちが状況を理解した所で、ノブナガは本題に入るべく、おそらく知っているであろう者に問いかけた。


「“人神”、あんたが知っている事すべて教えろ」

「ミウって呼んでよ。“人神”なんてただの天紋に過ぎないんだから」

「なら、ミウ。ミウは知っているか?“魔神”が通力を使っていた理由を」

「あぁ、知ってるよ」


 ノブナガの問いを、さも当然のように答える“人神”ミウ。



「あの“魔神”は、“精霊神”ハバキが転生した姿さ」

「ーーッ!?」


 ミウの言葉に、ザンは息を呑んで驚いた。

 スフィはデフォルト顔でありながらミウの顔を凝視して真偽を確かめている。

 それに反し、他の者たちは頭に疑問符を浮かべている。


「“精霊神”が転生したのが、“魔神”?どういう事だ?」

「まんまの意味だけど」

「転生って言ったろ?神って死ぬのか?」

「そりゃ死ぬよ」


 ノブナガが目を点にしながら言う言葉に、ミウは当然だというように答える。


「天紋が与えられるだけで、元は普通の人間と変わらないからね。不老にはなるけど、僕だってHPが0になれが死ぬよ」

「じゃあ、先代の“人神”的な奴がいたのか?」

「うん、そうだね。……この質問をするって事は、ノブナガくん本当に覚えていないんだね」

「?覚えていないって……何をだ?」

「いや、いいんだ。話を元に戻そう」


 なにかノブナガに確認する様な視線を送るが、何でもないと首を振るミウ。

 そんなミウに目を細めるが、今は話が逸れるので追求は後にした。


「それじゃ話を戻すが、なんで“精霊神”が転生したのが“魔神”なんて知っているんだ?」

「神になると、2つのスキルを習得するんだ。“人神”だと、“人神”としてのスキル“神域”と、もう1つは本人の要望で習得できるんだ」

「本人の要望?誰に望むんだ?」

「この星を作った、“唯一神”にだよ」

「“唯一神”?」


 誰もピンと来ない言葉に、全員が首を傾げる。

 その反応に、「ああ」と声を漏らすミウ。


「“唯一神”は、まぁ簡単に言うと各世界の神よりもすごい神かな。とりあえず、今は“唯一神”について置いといて。つまり、その“唯一神”にもう1つのスキルを得られるんだ」

「ミウは何を望んだんだ?」

「知識さ。知らない人、知らない場所、知らない世界、すべてを知りたいと望んだんだよ。それで手に入れたスキルが、“叡智”。“唯一神”の知識を覗く事が出来るスキルだよ」

「それで転生した“精霊神”について知っているのか……」


 ノブナガが納得するように頷くと、なぜかそれを話したミウから意外そうな声を漏らす。


「あれ?結構あっさり受け入れるんだね?僕の言っている事が本当だと言う保証はないのに」

「確かに、ミウが言っている事に確証はない。でも、“精霊神”の転生した“魔神”なんだとしたら、儀術式に詳しかった事に説明がつく」


 スフィの話によれば、数千年前に発動した儀術式は“人神”と“精霊神”が考えたものだと言う。

 考案した張本人だとすれば、封印の事も数千年もの前の日食についても知っていて当然だ。

 ミウの言う事が本当かは判断できないが、それでもわからなかった事の辻褄は合う。


「でもっ、“魔神”は精霊界を滅ぼしたんだよね……そんな事……そんな事っ、ハバキ様がするはずない!」


 突然大きな声で言い放ったザンに、隣にいたノブナガはビクッと身体を震わせた。

 ザンをよく知る“奪還者”メンバーたちも、ノブナガ程ではないが、今まで見た事がないザンの声に驚いているようだ。

 そして、ザンと同じく“精霊神”のハバキを知るスフィも、何かを訴えるようにミウを見ていた。


(あぁ、そうか。あの時のスフィが言っていたのは、そういう事だったのか……)


 ノブナガが思い出したのは、スフィがエリーナに歩み寄っていた魔神に立ちはだかった時の事。

 まるで知ってる人のように話しかけていたのは、おそらく“精霊眼”で視たからなのだろう。


「ハバキ様は誰よりも命を大切にする人だったよ!仲間を想って、助けを求める人に手を差し伸べるような優しい人なんだよ!世界を破壊するような人なんかじゃない!!」

「それはまぁ、“叡智”で過去の事を知ってるし、僕もそう思うよ?でも、神になるとそうはいかないんだ」


 なぜか肩を竦めて欧米のようなリアクションをするミウ。

 そんなムカつく態度にイラッとしながらも、ノブナガたちはミウの話に耳を傾ける。


「神は天紋以外は人と変わらないって言ったよね?じゃあ、その天紋には何があるのか。それはーーーー意思だよ」

「?天紋に意思があるとでも言いたいのか?」

「正解」


 若干もったいぶる言い方に、ノブナガは青筋を浮かべながら結論を言うと、これまたイラッと来るような仕草で言ってくる。


「正確には、紡がれてきた意思と言うべきかな。君たちが持つ天紋と違って、神の天紋ーー神級紋は受け継がれていくんだよ。神たちはみんな、その意思に侵されていく」

「それはミウもなのか?」

「うん、僕も例外なく侵されてるよ。いや、産まれながらある意思だから侵されているというよりも、それが自分の意思だと思っているよ。まあ、“人神”はそれ程強い意思みたいなのはないらしいけどね」


 産まれながらにしてある意思を認識するのは難しい。

 それが他から来た意思だったとしても、物心つく前の子供にそれを正確に感じ取れるだろうか。

 きっと、それが自分の意思だと思って、生きていくに違いない。


「で、“精霊神”ハバキさんの話に戻るけど。僕が知った限りだと、“魔神”の意思は途轍もなく強力らしいよ。壊したい、潰したい、滅ぼしたい、そんな破滅の意思があるらしい。多分、ハバキさんは今もそれに侵されているだと思う」

「破壊衝動、か」


(目の奥にあった、あの闇はそう言う事だったのか)


 魔神の虚無の目。

 その奥に押さえ込まれていたドス黒い感情。

 あのいつ爆発してもおかしくないような強烈な破壊への執念は、これまでの“魔神”たちが紡いできたものなのだろう。

 もし自分があの感情に駆られたらと思うと、ゾッとしてしまう。


 ザンの方を見てみると、ミウの言葉に納得したのかそれ以上何も言う事はなかった。

 それでも、暗い顔が晴れる事はない。


「……でも、俺が見た感じだと、その意思をどうにか抑え込もうとしていた。ザンやスフィの名前を呟いたり、撫でたりしたという事は、まだ完全にその意思に呑まれたわけじゃないって事だ」


 それを見かねたノブナガが少しでもフォローしようとするが、逆に作り笑いをさせてしまうだけだった。


 しばらく静寂が流れるが、ミウは御構い無しに話を進める。


「まぁ何はともあれ、僕から言いたい事は1つだ。ノブナガくん、“魔神”を倒して欲しい」

「ーーッ、倒すって……殺すって事か?」

「うん」

「ミウだって知ってるだろ。人に神は殺せない。俺には無理だ」

「はぁ……本当に覚えていないんだね」

「だから、何をだよ?」

「自分の前世について」


 何でもない様に紡がれたミウの言葉に、ほとんどの者が疑問符を浮かべる。

 しかし、張本人のノブナガ、それに前世を知っているザンは驚きのあまり固まってしまった。


 そのノブナガの反応に、まだ思い出さないかとジレンマのようなものに駆られながら、ミウは言い放った。



「だからっ、君の前世は先代の“人神”なの!!」

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