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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
アンディエル帝国編
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降臨した魔族軍 その1

 数千年ぶりの日食。


 太陽と月が重なる空の下では、絶望が広がっていた。



 アンディエル帝国の帝都、そのど真ん中に立っていたデカい城は見る影もなく瓦礫の山となっていた。

 その真ん中で、1人立ち尽くす青年。


 まるで壁が迫ってくるかのような圧力がノブナガたちに襲いかかる。

 常人なら立っている事すらままならず、正常に息が出来なくなっているかもしれない。

 それを全身を小刻みに震わせるだけに抑えているのは、ノブナガたちがこれまでに経験してきた死闘があったからだろう。


 そんな中、魔神はただ立っているだけ。

 身動き一つしないどころか、どこを見ているのかもわからないような虚無の目をしていた。

 心ここにあらずのような、感情を押し殺しているような、とにかく何も宿っていない目だ。


 しばらく、魔神の威圧に当てられていたノブナガだが、弱気になっている心を叩き起こすかのように叱咤する。


(っ、今更ビビるな!予想とは違う展開だがっ、こうなる事は想定されていただろ!?あの世界での覚悟を思い出せ!!)


 叱咤すると同時に思い出すのは、別世界である吸血界に飛ばされた時の事。

 建物の地下で1人静かに眠っていた吸血王の想いを聞き、覚悟を決めた時の事を思い出す。

 自分が『何の為に戦っているのか』を。

『己のやりたい事』を。


(俺はエリーナさんたちの望みを叶えてあげたい!ただそれだけだ。今はそれ以上の事はーーいらない!!)


「エリーナさん、お父さんの方お願いします」

「ノブナガさん?」


 瓦礫を払い除け、左腕に抱えているアブリーをエリーナの近くへとソッと置く。

 ついでに、左手に持っていたネメシルラも置く。


 立ち上がり、魔神へと歩を進めようとする。


「待ちなさい!」


 しかし、歩み出そうとしていたノブナガの腕を掴む者がいた。

 振り返れば、“刀化”を解き人型になっていたネルラがそこにいた。

 いつも余裕の笑みを浮かべるネルラとは違い、ノブナガの腕を握る手を震わせ目を泳がせていた。


「“あれ”はダメよ。ノブナガでも勝てない……それに人が神に触れる事すら出来ないわ」

「わかってる。けど……やるしかない」


 決意の篭った声で答え、ネルラの手を振るって歩み出す。


 一歩を踏み出したノブナガは、“大猩々”のスキル“威圧”を発動する。

 このスキルは、簡単に言えばプレッシャーを放つもので、威嚇などに使うスキルだ。

 そのプレッシャーはNITによって異なる。


 バグったステータスを持つノブナガの“威圧”は、間違いなく竜も慌てて逃げ出すようなプレッシャーなのだが……

 魔神のスキルなしの威圧に比べると、ゾウに犬1匹で立ち向かうようなプレッシャーにしか感じない。

 それでも、魔神から感じる威圧を弱める事は出来る。


 壁が迫ってくるような圧力から岩が一直線に飛んでくるぐらいの圧力に感じ始めると、ノブナガは魔神へと歩を進めた。


 未だ魔神はどこを見ているのかわからない虚ろな目をしており、ノブナガを認識しているのかも怪しい。


 そんな魔神を見て好機と思ったノブナガは、一気に[+身体強化]×6を発動し更に通力で肉体+身体能力を強化、光となって斬りかかる。

 正面から斬りかかると見せかけ、“隠形”の[+影狼]を使ったフェイントで背後を取る。

 目の前の残像が剣を振るうよりも先に、背後から捉えた首に向かってザンガルドを薙ぎ払った。


 誰も認識できなかった、ノブナガ渾身の一振り。


 エリーナたちとネルラはおろか、振るわれたザンですらわからなかった。



 だから、次の光景を目にして更に驚かずにはいられなかった。


「ーーッ!?(ウソだろっ!?)」


 背後から振るわれた、聖剣の斬撃。


 それは、背後すら見る事もなく、まるでただ振り上げただけかのように挙げられた左手によって防がれた。


 まるで、白刃どりをするかのような親指と人差し指で刀身を掴んだのではなく、無造作に開かれた掌によって、だ。


 ザンガルドは最硬鉱物だって紙切れのように斬り裂くほどの斬れ味。

 ノブナガのステータスも合わされば、それはもう万物ならなんでも斬り裂く『絶対切断の聖剣』と言っても過言ではなかった。


 なのに、止められた。

 精霊の武器でもない、ただの素手で。

 しかも、一切の傷を負わず。


(ーーッ。まだだ!!)


 驚きで停止していた思考を無理矢理稼動させ、ザンガルドを押す力を引き上げる。

 “剛力”を発動させると同時に通力を全身に行き渡らせて膂力を強くしていき、[+武器強化]2つにザンガルドに通力を流し込む。


「我が剣に宿れ闇光。その刃は暗く輝く黒き月光の剣ーー“ダーク・ライト・ソード”!!」


 更に2重属性付与を唱える。

 闇と光がザンガルドに纏わるが、魔神に止められた剣は一寸たりとも動かない。


 聖剣を押すのを諦めて魔法に切り替えようとした瞬間、今まで微動だにしなかった顔を動かす魔神。

 その視線が、自身の左手で受け止めているザンガルドへと向けられた。


「っ」


 その時、ノブナガは間近で虚ろな目を見た事で気づいた。

 魔神の虚ろな目の奥にある、闇に。

 ぐつぐつと溢れんとばかりに、爆発させたいとばかりに、何よりも、壊したいとばかりに黒い感情がそこに住み着いていた。

 一体何があれば、そんな感情を生み出す事ができるのだろうか。


 だが、ノブナガが真に驚いたのはそこではない。


 そんなどす黒く深い闇の感情を持ちながら、魔神はそれを抑え込もうとしていた事に、ノブナガは疑問を抱かずにはいられなかったのだ。


 そんなノブナガには一切目を向けず、魔神は白と黒を纏ったザンガルドをジッと見つめている。

 すると、その虚ろな目が一瞬、ほんの一瞬だけ揺らいだ。


「ザンガルド、か」

「え?」

(え?)


 まるで、久しぶりに口を開いたかのような渇いた声で、小さく呟かれる。

 エリーナたちには聞こえなかったが、間近にいたノブナガとザンには確かに聞こえた。

 間違いなく、魔神は聖剣の名を呟いた。


 それに気を取られてしまったノブナガ。


 その隙を突くように、魔神が左手のザンガルドを弾き返す。

 ただ弾かれたとは思えない力に、ノブナガの体勢は乱れる。


 そこに、振り返りながら右拳が放たれる。

 否、すでに放たれていた。


 咄嗟に[+局所展開]した結界を触れた瞬間に破壊していき、“金剛”と“鋼鉄化”を集中させた左腕に炸裂する。


 パンッッッッッッッッッッッッッッ!!!!


 人体を殴ったとは思えない音が、周囲に広がった。


 殴られたノブナガの左腕を中心に、まるで空間を穿たれたように消滅した。

 胴体の左半分を持っていかれ、叫声をあげる事もできずに吹き飛ばされるノブナガ。


 壁だったであろう瓦礫をいくつもぶち破り、山になっていた瓦礫の中に突っ込んであった。


「ノブナガさん!!」

「ノブナガ!!」


 今までノブナガが吹き飛ばされるところなんて見た事がなかったエリーナたちは、見えなくなったノブナガへ焦燥の声を挙げる。

 瞬間、瓦礫に埋もれたノブナガに光が降り注ぐ。

 “セルブ・サテライト”による、回復魔法と再成魔法の光だ。


 光が収まると同時に、瓦礫を押し除けて跳び出してくるノブナガ。

 見上げるほど上空に跳び上がったノブナガの左腕に装備されているのは、スパークしている“アラビオン”。

 すでに弓型へと変型され、[+充電]でチャージされている状態。


 “空踏”でしっかりと大気を踏ん張ったノブナガは、魔神に向けて杭をぶっ放す。

 ズドンッという重たい音が鳴り響いた時には着弾している超電磁砲(レールガン)。


 それを前に魔神は、


「“魂装(こんそう)”」


 そう呟くと同時に、魔神の右手に剣が出現する。

 鍔も付いていないシンプルな剣を握り、一振り。


 単なる動作のように見える一振りは、光速度を超えた数トンの杭を真正面から真っ二つに斬り裂いた。

 魔神の背後の瓦礫に真っ二つにされた杭が着弾し、見る影もなく粉々になる。


 ノブナガの手札の中でも高火力の部類に入る攻撃が、真正面から防がれた事に目を剥く。

 ノブナガ自身も驚きつつも、すぐに意識を呼び戻す。


「ザンっ!!」

(うん!!)


 ノブナガが呼びかけると同時に、魔神の周囲が輝き始める。

 光が収束し現れるのは、ザンガルドの[+浮遊剣]100本。


 瓦礫から跳び出す前、ザンガルドを見えないほどに光の粒子に分解し隠蔽状態で魔神の周囲に待機してもらっていたのだ。

 防御するなり躱すなりした時の不意打ちとして待機していたのだが、まさか正面から防ぐとは思いもしなかった。


 100本のザンガルドが一斉に魔神に襲いかかるが、駒のように身を捻って回りながら振るわれた剣圧によって吹き飛ばされた。

 それは一瞬、竜巻が発生したように見えるほどの剣圧だ。


 吹き飛ばされていくザンガルドを尻目に、ノブナガは“ストレージ”に“アラビオン”を仕舞いながら黒剣を取り出す。

 身体を狭めて溜めを作り、大気を蹴ると同時に一気に伸び上がった。


 [+縮地移動]を使い、さらに[+充電]を己にかける事で光速度を遥かに超えた勢いで迫る。

 そんな速度で移動すれば間違いなく事故を起こすところだが、知覚能力を爆発的に増強する[+知刹]を使えばどうって事ない。


「我が剣に宿れ五帝っ。その刃は自然に恵まれし天命の剣!ーー“エレメント・ソード”!!」


 魔神に迫る刹那の最中で、ノブナガは5色の属性を剣に纏わせた。

 そして、光り輝く黒剣を魔神に突き放つ。


 かつて、ネルラの全身全霊の“カオシック・バスター”を斬り伏せた“エレメント・ソード”だ。

 あの時よりステータスが一桁も上がった今のノブナガが振るえば、ダンジョンの中ボス程度一振りで終わる。


 なのに、受け止められた。

 左手で刀身を握るように、がっしりと。


「ーーッ」


 まさかの防がれ方に、瞠目せざるを得ないノブナガ。

 握っているだけで大ダメージだというのに、何事もなく握り続けているのもそうだが、あの速度の動きを見抜いていた事も驚きだ。

 側から見れば、もう瞬間移動と変わらない動きだったはず。

 そんな突きを受け止めるなんて……


 黒剣を掴まれ、驚きのあまり動作を停止してしまったノブナガ。

 その脳天目掛け、魔神の剣が振り下ろされる。


 “金剛”を使っても防げないと悟った瞬間、


「風・収束・毀つーー“エア・バレット”!!」

「“エア・バレット”!!」


 魔神の背中に風弾が着弾。

 大気が弾ける音が2つ響き渡る。

 一切ダメージを負っていないが、振り下ろしていた剣は止まったようだ。


 突然の魔法に驚きつつもノブナガが魔神の背後に視線を向けてみれば、そこには“ロードオベーロン”を構えるエリーナと左手を突き出した状態のアリンカがいた。


「ノブナガさんっ、離れくださいッス!」


 さらにそこから少し離れた場所にカレンが立っている。

 両手を突き出した状態でノブナガに言うと、ノブナガもすぐさま察し黒剣を手放して魔神から離れた。


 魔神がノブナガを追うよりも先に、カレンの[+破壊炎線]が発動する。

 カレン渾身の一撃が魔神の身体を簡単に呑み込むが、油断する者は誰1人としてない。


 それほどまでに、これまでの魔神のヤバさが身に染みているのだ。


 そして、嫌な予感はよく当たるもので、呑み込まれたはずの魔神が振るった剣圧で[+破壊炎線]を弾け散らした。

 しかも、すべてを焼き潰す炎を弾け散らすだけに留まらず、その剣圧は周囲にいるノブナガたちに襲いかかった。


「風・集う・要塞ーー“ストーム・フォート”!2門!!」

「“ストーム・フォート”!!」


 アリンカが[+省略詠唱]で[+並列発動]させて2つ、エリーナが“ロードオベーロン”で1つ、計3つの風壁を展開するが、そんな咄嗟の防御をあっさりと突破してエリーナたちを吹き飛ばす。

 ノブナガは“結界構築”に[+衝撃反射]を付けた事でどうにか吹き飛ばされずに済んだ。


 動作の終わり目を狙い、ノブナガは速さ重視の魔法を詠唱する。


「ーーッ。紫雷・雷・煌めく・槍・痺れーー」

「生きの良い奴っ見ーつけた!!」


 直後、ノブナガの上空に影が差した。

 魔神に集中し過ぎて周囲に気を配っていなかったノブナガは、突然現れた影へと顔を向ける。


 そこには、巨大な戦鎚を上段に構えて落下してくる10代ぐらいの茶色肌の少女がいた。


 重力に任せて落下してくる少女は、驚いたように見上げるノブナガに向かって戦鎚を振り下ろす。

 バンッと大気を破裂させるような音と共に振り下ろされた戦鎚がノブナガを潰さんと迫るが、急いでバックステップを踏む事で躱す。

 戦鎚が地面を砕き、巨大なクレーターが出来上がる。


「私の鉄鎚を躱すなんて、やっぱり生きが良いね!」


 少女と同じ大きさぐらいの戦鎚を軽く持ち上げてくるくると回し、これまた軽く肩にトントンとする。


「新手かよーーッ」


 苛立つように呟いたノブナガだが、上空から聞こえてくる翼を打つ音に引かれ、慌てて空を見上げた。


 そこから降りてくるのは、数多くの影。

 人の形とは思えない影たちが、上空に空いた時空の歪みから這い出てくる。


「なんスか……あの数……」

「あれが全部魔族ですか……?千はいますよ……」

「いえ。桁が違うわ……一万よ」


 エリーナたちも上空を見上げ、空を埋め尽くさんと飛び出してくる魔族たちに絶望の表情を見せる。



 それでも、それはまだ絶望の序章に過ぎない。

1つにまとめたかったんですけど、収まらなかったです……(- -:)

あと、戦闘続きで申し訳ないですm(._.)m 作者より

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