続・戦う少女たち その2
遅くなりました。
すいませんm(_ _)m 作者より
“開空”から取り出した聖槍、ミラスピアを構えるサラン。
そこに、エリーナから“ロードオベーロン”の攻撃が放たれる。
「“アクア・スプラッシュ”!“エレキ・ショック”!!」
魔法名だけの詠唱で放たれた水の一閃と稲妻。
2色の初級魔法がサランに襲い掛かるが、そのすべてを片手で振るわれたミラスピアの一閃で薙ぎ払われる。
聖槍を振り抜かれた瞬間、アリンカが精神操作した“天下五剣”が斬りかかる。
背後から首を狙って振るわれた1本目をミラスピアで防ぐサラン。
次に足元に振るわれた2本目を跳躍して回避。
空中に逃げたサランを追うように残りの3本が迫るが、左拳を突き出す動作で放たれた“震空”によって吹き飛ばされた。
瞬間、サランの背後から途轍もない速度で迫る人影。
それは強化によって大ジャンプし、更に天井を蹴って空中のサランへと急接近したザンだ。
急接近する速度を乗せた重たい一振りがサランに放たれる。
「くっ」
またもやミラスピアで受け止めるが、踏ん張る場所がない空中では受け止める事は出来ない。
苦悶の声を漏らしながらザンと同じ勢いで地面に叩きつけられたサラン。
地面にクレーターを作り上げ、その背中の痛みに身体を硬直させそうになるが、頭上から迫ってくるザンに気がつき身を捻って飛び起きる。
魔剣に“風刃”を纏わせ、落下の勢いを利用して振り下ろすザン。
それに対し、サランは槍のリーチの長さを利用して迎撃する。
鋭く突かれた聖槍がザンの胸元へと吸い込まれる。
が、ザンはすぐさま剣線を修正して槍を弾く。
剣を振るった勢いで身を捻って回転し、戻ってきた右脚でがら空きとなったサランの顔に蹴りを放つ。
流れるような修正からの反撃。
これには何の迎撃も出来ず、咄嗟に挙げた左腕で凌ぐ。
足を引きずりながら後方へ飛ばされたサランに、ザンがもう一度追撃。
それに対し、サランは通力の強化に対抗するように自身の強化も10倍に引き上げ、ミラスピアを薙ぎ払って迎え討つ。
魔剣と聖槍が交差し、一歩も押さない鍔迫り合いに入った。
「ミラスッ、何してるの!?早く“槍化”を解いて!!」
「無駄よ。この精霊はすでに[+支配]してある」
「支配?くっ!」
鍔迫り合いの中で叫ぶザンの言葉をサランが打消する。
気になる単語に気を取られた隙を突き、ミラスピアを振り抜いて弾き飛ばした。
「我々魔族は精霊契約が出来ないのでな。我が“魔眼”を使ったまでよ。まあ、[+支配]もいろいろと制限があるのでな。封印を解いて全盛期の力を取り戻す前に[+支配]させてもらったのだ」
“魔眼”の派生スキル[+支配]は文字通り、相手に強力な暗示をかけて支配するスキルだ。
もちろん、そんなヤバいスキルに制限がないわけがなく、続けて5分間相手に触れていなくてはならない。
それと同時に、支配し続けられるのは5人まで。
もっと言えば、“魔眼”である以上、[+支配]も言わば呪い。
耐性とそれなりのMNDが防げる。
条件が厳し過ぎるせいで、なかなか使い所が難しいスキルでもある。
「なら、お前を倒して返してもらうだけだね」
「ふっ、容易にできると思うなよ?槍、氷弾だ」
一体誰に向かって言ったのか?
そんな疑問が浮かぶ前に、その答えはサランの周囲に出現した5つの氷の塊によって応えられた。
通力を流したエリーナの目に、こう出現する。
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ミラスピア ????歳
天紋:槍 レベル:291
スキル:槍化[+長槍][+短槍][+三叉槍][+十文字槍]・氷魔法[+遅延発動][+並列発動][+省略詠唱]
========================
つまり、サランが指示を相手はミラスピアだったのだ。
“槍化”しているミラスが、サランの指示によって氷の初級魔法“アイス・バレット”を[+並列発動]させたのだろう。
そんなミラスの“アイス・バレット”がザンに向かって放たれた。
詠唱する暇もなかったザンは、迫り来る氷塊を“武器強化”と“風刃”を纏わせて斬り払う。
が、5つ目の氷塊を真っ二つに両断したと同時に、その影に隠れて接近していたサランに気づく。
そこからミラスピアによる突きが放たれる。
すでに槍の間合いに入られた後。
咄嗟に反応し、魔剣に通力を纏わせて剣腹で防ぐ。
しかし、不十分な体勢だったせいで威力までは殺せず、後ろに弾かれた。
ザンが空中で立て直している間、カレンが翼の推進力を使って一気に間合いを詰める。
槍の間合いを一瞬で詰め、サランの腹目掛け拳を放つ。
“炎纏”の[+集炎]によって纏われた炎の拳だ。
一気に間合いを詰められた事に驚きつつも、放たれた右拳を柄で防ぐサラン。
しかし、次に放たれた炎の左拳にはどうにも出来ず、身を捻って回避。
槍の間合いに持ち込もうとするにも、カレンが張り付くように追撃を仕掛けるので防戦一方になる。
「くっ、鬱陶しいっ。槍、氷矢だ!」
なかなか攻めに回れない事にイラつき、またミラスに指示を出す。
さっきよりも少し時間がかかってから、カレンの背後に氷の矢が出現。
拳や脚を振るうカレンに向かって放たれた。
指示は声に出ているので、気がついていないわけがないのだが、回避する素振りを一切見せないカレン。
その様子を回避しながら見ていたサランは、「まさかっ気合いで防ぐ気か!?」と目を剥く。
しかし、それは別の方法だった。
「“フレイム・ウォール”!“フレイム・ウォール”!!」
カレンよりも後方から聞こえてくる、エリーナの声。
“ロードオベーロン”によって発動された炎の壁が、2重となってカレンの背後に聳え立つ。
それに触れた氷の矢は、すぐに溶けてただの水へと変わった。
「アブリーの娘めっ。槍っ、短槍だ!!」
その結果を目にし、魔法での対応を諦める。
次の瞬間、ミラスピアは一瞬光の粒子へと分解すると、また小さくなって再構築される。
それは、サランの指示通りの短いミラスピア。
60センチほどの片手で扱うような槍だった。
それをカレンの拳を身体を仰け反らせて間合いを少し開けてから薙ぎ払うサラン。
それと同時に、“魔力操作”でミラスピアに魔力を流し込み、擬似的な“武器強化”を発動させる。
その魔力を本能で感じ取ったカレンは腕を右側に組んだ防御姿勢、それと[+竜鱗硬化]を発動。
ちょうど刃の部分がカレンの腕を切り裂いた。
「ーーッ」
“武器強化”されたミラスピアはカレンの右腕の鱗に決して浅くない切り傷を刻む。
かつてのノブナガも3つの強化を重ねても傷しか付かなかったあの鱗が、ただの一振りで切り裂いたのだ。
聖槍を傷1つで凌いだ事がすごいのか、ドラゴンの鱗に傷を刻んだのがすごいのか、微妙なところではあるが……
切り傷が刻まれた事にカレンが表情を歪めている間、サランは薙ぎ払ったミラスピアを下から上へと振り上げる。
さっきの結果から考えて、鱗に覆われていない股下からでは真っ二つになる運命は間逃れないだろう。
それを阻止すべく、カレンはまだ痛む右腕と左腕でクロスし、振り上げられてくるミラスピアの柄部分を抑え込む。
それでも、[+身体強化]10倍のサランの一振りを受け止める事は叶わない。
すぐさま翼を打って振り上げる力を上空へと逃す。
それと同時に上空へと飛び立った。
瞬間、アリンカの“天下五剣”がサランに襲いかかる。
5本の浮遊剣が別々の箇所を同時に斬りかかるも、一瞬で展開された5つの“絶界”に阻まれる。
無駄だと言わんばかりに、サランの口がニヤリと笑う。
が、次の瞬間、その表情を驚愕に染める。
なぜなら、展開された空間遮断の間を縫うように剣を振るってくる、アリンカが目の前に居たからだ。
すでにその刀身はプラズマの光が纏われ、剣先がサランの首元に吸い込まれていく。
「前の時と同じと思わないで!」
「ーーッ!?」
そう、セインズ村に滞在していた2週間の稽古で、アリンカは“天下五剣”を操りながら自身も6本目の剣として戦う事が出来るようになったのだ。
咄嗟に“絶界”を発動。
空間そのものを隔てた障壁がアリンカの剣を止めるが、咄嗟だったゆえに他の5つの維持を誤ってしまった。
阻まれていた障壁が消え、5本の浮遊剣がサランの身体を斬り裂いた。
決して浅くない切り傷が身体中に刻まれ、痛みで顔を歪める。
激痛に頭に血が上ったサランは“魔力操作”の派生スキル[+魔力放出]で魔力を勢いよく対外へと放り出した。
“震空”ほどの衝撃ではないが、空中を浮遊する剣を吹き飛ばすには十分な衝撃。
“天下五剣”をあらぬ方へと飛ばすと、アリンカの剣を受け止めていた空間遮断を解除。
それと同時にミラスピアを薙ぎ払う。
短槍のミラスピアはコンパクトになった分、間合いが短い。
すぐにバックステップを踏んで間合いから逃れるアリンカ。
が、
「槍っ、槍だ!」
サランがそう指示が飛び、ミラスピアの形態が一瞬で変わった。
それは最初の時と同じ1メートル半ほどの槍。
通常の槍と同じものだ。
元に戻ったという事は、当然間合いも元に戻ったという事。
「ーーッ!?」
突然伸びた槍に、アリンカは目を剥いて驚いた。
瞬時に剣を盾にして防いだが、体勢が不十分だったせいで受け止めるまでにはいかなかった。
体勢を崩した事によって着地に失敗し、バランスを崩して転倒する。
「“エア・バレット”!!」
転倒してしまったアリンカを庇うべく、エリーナが不可視の風弾を放つ。
アリンカを追撃するタイミングを失い、イライラしたような顔で不可視の風弾を薙ぎ払った。
不可視と言えど、“魔眼”の[+炯眼]を使えば魔力を見る事はできる。
「燃え飛べッス!!」
それと同時に、上空にいるカレンから[+破壊炎線]が飛び出す。
そのタイミングでザンもサランに向かって駆け出した。
サランが[+破壊炎線]を防ぐ瞬間に斬撃を加えるつもりなのだろう。
「思い通りになると思うなよぉッ、人間共!!」
左手を上に突き出し、空間魔法を発動。
左掌の先に展開されたのは空間遮断の“絶界”ーーーーではなく、空間と空間を繋ぐ穴の“開空”だ。
対の空間の穴が開かれた場所は、サランの1つ左。
空間の穴に入っていった一閃の炎は、サランのすぐ左にある対の穴から飛び出す。
その先にはーーサランに駆け出しているザンが。
「ッ!?」
すべてを燃え潰す炎がザンに襲いかかる。
咄嗟に魔剣を盾に掲げるが、その程度で防げるほど[+破壊炎線]の威力は弱くない。
簡単にザンを呑み込み、そのまま壁へと衝突。
壁の空間遮断をぶち壊すが、壁そのものは壊せないほど威力が弱くなっていた。
収まる一閃の炎。
そこから出てきたザンは全身が焼かれ、服もボロボロになっている。
盾になった魔剣は柄部分を残して何もなくなった。
瞬間、突然壁を越えてやって来た光がザンを包み込む。
全身を黒くなった部分がみるみる元通りになり、ボロボロになった服と魔剣も元通りになった。
“セルブ・サテライト”による回復魔法と再成魔法の光だ。
そんな光をサランは次の行動に移す為に見ていなかった。
右手に持ったミラスピアを振りかぶり、穂先をエリーナに向けて放り投げる。
[+身体強化]した腕力で槍投げされたミラスピアは狙い違わずエリーナに迫る。
「スフィさん!鋼鉄モードです!!」
(わかった)
瞬間、純白のスフィーリアが茶色のスフィーリアへと変型する。
迷わず衣に通力を流し込み、防御力を爆上げする。
が、さすがは聖槍というべきか。
精錬の衣の防御力を突破してエリーナの左肩に命中した。
ぶすっと突き刺さった左肩の激痛に、エリーナは堪らず膝をついてしまった。
痛みに耐えながらも、ゆっくりと詠唱する。
「再成は巡る……過去に残されし記憶を呼び戻せ…………“再逆”」
自身にかけた再成魔法により、さっきまであった激痛が嘘のように収まった。
さらに突き刺さっていたミラスピアも、時間が巻き戻された事で、エリーナの目の前に横たわっている。
エリーナが再成魔法をかけている間、サランはまた“開空”を展開。
その空間の先から取り出したのは、神秘的な弓だった。
それは迷宮都市ババロンのダンジョンに封印されていた弓だ。
あの時、ザンがタニーと呼んだ彼女こそが、“弓”の天紋を持つ精霊。
聖弓 タニボウル
取り出すと同時に弦を引くと、通力で構成された矢が出現。
照準を上空のカレンに向けて放った。
一切逸れない通力の矢がカレンに迫るが、両手を前に突き出して“咆哮”を発動する事で迎撃した。
「弓っ、貫通矢ッ!!」
サランがそう指示を出すと同時に、弦を引いて矢を放つ。
またもやカレンに向けて放たれた通力の矢を“咆哮”で迎撃しようとする。
が、両手から放たれた衝撃波はタニボウルの矢の表面だけを削り、その中から飛び出した第2の矢がカレンを貫いた。
ただ貫いたのではなく、矢がカレンを通り過ぎたのだ。
正しく貫通である。
「かはっ」
カレンの口から血から飛び出す。
突然全身の力が抜け、空中に滞在していたカレンは地面へと衝突した。
受け身も一切取っていない落下に、カレンの意識はブラックアウト寸前まで堕ちる。
“セルブ・サテライト”の光が降り注ぐが、意識までまだはっきりとしていない。
「カレンッ!!」
「弓っ、炸裂矢だ!!」
アリンカが心配する様に声を上げるが、攻撃の手を止めないサランの指示がタニボウルに飛ぶ。
次の瞬間、アリンカに向けて矢が放たれる。
「ッ!?《五剣・“絶界”》!!」
ただの矢ではない事を直感で感じ取ったアリンカは、“天下五剣”を操作して4本を周囲に刺して1本を頭上に浮かせて“絶界”を発動。
空間遮断がタニボウルを受け止める。
が、その衝撃は1回ではなかった。
まるで、何発もの矢を受けているかのように衝撃が何回もやって来る。
計5回の衝撃が空間遮断を襲い、ついに“絶界”を破った。
「砕けよ!」
その瞬間、サランが“震空”を発動する。
空間そのものを揺らした衝撃がアリンカを襲い、冗談のような勢いで吹き飛ばされた。
エリーナの横を通り抜け、背中から謁見の間の扉に衝突する。
「かっ」
強制的に肺の空気が抜け、ばたりと倒れ込むアリンカ。
2割まで減らなかったのか、“セルブ・サテライト”の光が降り注ぐ事はなかった。
「はぁ……ようやく静かになったな。まさかここまで手を煩わせられるとは思わなかったぞ。この“魔王”をここまで追い込んだのだ。誇っていい事だぞ、アブリーの娘」
「まだっ終わっていません!!」
「いいや、終わりだ。他の仲間は戦闘不能。“聖女”の貴様に我を倒す事など出来ぬよ。弓、延焼矢」
照準をエリーナに向け、弦を引く。
通力の矢が番え、冷たい視線がエリーナを射抜く。
「さらばだ。アブリーの娘」
矢を放とうとするサラン。
が、
「まだ終わりじゃねぇよ」
瞬間、謁見の間に第3者の声が響き渡る。
聞き慣れた声。
エリーナたちとサランから驚いた様子はない。
まるで来る事がわかっていたかのような反応に、全員の視線が謁見の間の扉へと向けられた。
ゴゴッ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッという音を立てながら開かれたゴージャスな扉。
その奥にいるのは、服をボロボロした黒髪の少年。
見た目だけ見れば満身創痍に見えるが、その足取りはハッキリとしていた。
少年ーーノブナガはエリーナの前までやって来ると、“魔王”サランを相手以上に鋭くした目で射抜いた。
その視線にゾッとするような寒気を覚えながらも、サランは震えそうな声を抑えてノブナガに話しかける。
「よくぞ来た、小僧よ。我の仲間やハルサーマンはどうした?」
「お前の仲間は倒した。ハルサーマンさんの方は戦う理由の方を潰したから、もうお前の言う事を聞く理由もないだろ」
「ーーはぁ……バケモノが」
「褒め言葉として受け取っておく。ザン!」
「オッケー!」
壁にもたれ掛かっているザンを呼ぶと、元気の良い返事とともに“剣化”を発動。
光の粒子となって分解し、ノブナガが伸ばした右手の中で再構築する。
ノブナガの手に、数千年前に魔王を殺した聖剣、ザンガルドが顕現した。
「よかろう。“魔王”の名において受けて立とう。来い、ネルラ」
持っていたタニボウルを壁の端に放り投げ、ネルラへと右手を伸ばす。
「……はい、お父様」
顔を少し曇らせ何かを迷った後、ネルラは光の粒子になってサランの手で再構築する。
その手には、黒い刀身をした刀が握られている。
ネルラの“刀化”である。
互いに精霊の武器を両手で握り構える。
正眼に構えあった2人は、ただ静かに睨み合い、
そして、
「ハァア!」
「シュッ!」
元奴隷VS魔王の戦いが、始まった。




