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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
アンディエル帝国編
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元奴隷VS“剣聖” その2

「えーー」


 ノブナガは突然襲ってきた左腰の痛みに、そう声を漏らす事しか出来なかった。

 溢れ出る鮮血を抑えるように患部を押さえる。

 患部を押さえた事で、自身の左腰が斬り裂かれたのではなく斬り穿たれたのだという事に気づく。


 振り向けば、ハルサーマンが剣を振り抜いた状態で残心している。


 状況を理解しようにも、ノブナガに認識できたのは動き出しにハルサーマンに流れた伝達信号(インパルス)のみ。

 それ以降は気づいた時には斬られていた、としかわかっていない。


 左手で抑えていた傷が“魔素再生”によって塞がる。

 さすがに溢れ出た血までは回復しないので、ちょっと頭がくらくらしているが、それは“高速自己回復”と[+自動自己回復]に任せて油断なく構える。


「……胴体を斬り飛ばすつもりだったのだがな」

「さらっと殺すつもりだったなんて言わないでください」


 ノブナガのバグったステータスは、すでに常人には傷つけられないところまで来ている。

 “剣士”の斬撃だったとしても、浅く小さい傷ができるぐらいだ。

 防御力を突破してノブナガの左腰を斬ったのは、ハルサーマンの腕とアルザンタイト製の剣、それに先ほどの速度あってこそだろう。


「すぐに傷が塞がった事といい、君は本当に人間か?」

「自分でも怪しいところですけど、人間族ですよ。てか、ハルサーマンさんこそ、何ですかあの動き。人間が出せる速度じゃないでしょ?」

「出せるさ。ちょっとした技術と耐えれる肉体がいるがね」


 そう言い、ハルサーマンは精神統一するかのように薄く息を吐き、剣を構えた。


 その瞬間に感知する、ハルサーマンの全身に行き渡る電流。


(来るッッッ!!)


 “金剛”、さらに“鋼鉄化”を発動。

 一瞬で展開された防御が、これまた一瞬の斬撃を防ぐ。

 が、その衝撃は凄まじく、ノブナガの身体がくの字に曲がりながら吹き飛ばされる。


(クッソっ!速過ぎるだろ!!)


 対物ライフルの弾丸すらゆっくりに見える知覚能力を得る[+知刹]ですら知覚できない速度の斬撃。

 内心で悪態を吐きつつも、派手に地面を転んだ勢いで素早く起き上がるノブナガ。


 追撃を防ぐ為、“ストレージ”から取り出した短剣を[+即擲]で投擲。

 コンマ1秒で放たれた短剣がハルサーマンの胸元に吸い寄せられるが、迷わず振り抜かれた剣に弾かれた。


「英雄の御楯よっ。使い手を守りし加護をここに輝かせろ!召喚っ、英霊の楯(プリトウェン)!!」


 間合いを開けると同時に、[+神具召喚]を唱える。


 ノブナガの左腕に光が収束して現れる、六角形の小さな楯。

 腕に装着された英霊の楯(プリトウェン)は眩しい光を放ってノブナガの全身を覆う。


 誰もが知っている英雄、アーサー・ペンドラゴンが使っていた盾とされるプリトウェン。

 その効果は装着者に防御の加護を与え、VITとMNDを強化するというものだ。


 刹那、またもやハルサーマンの斬撃が振るわれる。

 さっき同様、一切知覚できない不可視の斬撃。

 それをまた“金剛”と“鋼鉄化”で防ぐ。


 先程は防ぎ切れない衝撃があったが、英霊の楯(プリトウェン)のお陰で衝撃すら耐え凌ぐ事ができた。


 自身の剣が胴体で完全に受け止められた事に、驚愕を隠し切れない様子のハルサーマン。

 ノブナガが振るった黒剣の反応が少し遅れ、頬に“剣聖”らしからぬ浅い傷が付いた。


 まだこの後に“魔王”が待ち構えているのでMP消費は最低限にしておきたいところであったが、今はそれを言っているほど余裕がないと見定めた。

 ただでさえバカでかいMP消費の[+神具召喚]をもう一度唱える。


「英雄の智兜よっ。汝が与える窺知なる目を我に!召喚っ、聖錬兜(ゴスウィット)!!」


 またもやアーサー王の兜、ゴスウィットが召喚される。

 ノブナガの頭に動きが制限されない程度の豪華な塗装がされた兜が装備されると同時に、聖錬兜(ゴスウィット)の能力を発動させる。

 瞬間、ノブナガの視界に映るものすべてが色を無くし、すべてのものがゆっくりと動く。


 聖錬兜(ゴスウィット)の能力は知覚能力の増強。

 [+知刹]と同じ効果を持つ兜である。


 ノブナガは、それに[+知刹]を重ねる。

 限界まで増強された知覚能力が、その限界を取り払うかのように世界が遅くなる。


 ハルサーマンの動きも、溜めるような動きの遅さで剣を構える。

 瞬間、さっきまで遅かった動きが普通の速度に戻る。

 現実の速度では刹那の時間に行われた事でも、今のノブナガには普通の動きに見える。


 ノブナガの右腕が動く。

 ハルサーマンが描く剣線に、自身の剣を重ねる。

 普通なら速度に負けて押し振るわれるところだろうが、アーサーの楯である英霊の楯(プリトウェン)の加護のおかげで完全に受け止めた。


「ーーッ!?」

「なる、ほどっ……な」


 ハルサーマンが驚くと同時に、ノブナガのぼそりとした言葉が呟かれる。


 鍔迫り合いになった上体でノブナガの顔を見ると、ハルサーマンは息を呑んだ。


 なぜなら、ノブナガの目と鼻から血が流れていたからだ。


 正直、今のノブナガは限界に限界を重ねていた。

 限界まで増強する聖錬兜(ゴスウィット)と爆発的に高める[+知刹]を同時に使っているのだ。

 今のノブナガの身体に許された知覚容量を簡単に超えている。

 脳の処理能力すら容量を超え、オーバーヒートしたのだ。

 常人であれば、意識など保っていられず、下手をすれば死んでしまう。


 そんな脳が締め潰されそうな痛みに耐えながら、ノブナガは血色に染まった目をしっかりと見開いている。


「今の伝達信号(インパルス)とっ……あの斬撃の時の伝達信号(インパルス)の情報量が違う……あなたはっ短い伝達信号(インパルス)の中に濃密な情報を送って加速の存在しない斬撃を放っているッ」


 “電流感知”、その[+集中感知]で感じ取った伝達信号(インパルス)。

 聖錬兜(ゴスウィット)と[+知刹]を使った知覚能力も相まって、ハルサーマンの刹那の斬撃を看破する。


 人が動作を行う時、脳から送られる伝達信号(インパルス)を身体が受信する事で動いている。

 人は伝達信号(インパルス)を意識する事は出来ないし、操るなんてもってのほかだ。


 しかし、この“剣聖”はそれを可能にした。

 情報を濃密にするという事は、人が動作を行う為の過程が無くなるという事。

 今回は剣をA地点からB地点へ振るうという動作の過程ーーつまり、加速が無くなるのだ。

 加速のない急激な緩急は、人間が目で終えるようなものではない。

 目の焦点も合わず、剣が振るわれたとも知覚できないだろう。


 これが、ハルサーマンが編み出した“剣聖”の剣技が1つ。


 ーー秘剣技 “雷鳴之剣(らいめいのつるぎ)”


「でもっ……そんな無茶な身体の使い方をすれば負荷が掛かるっ。回避にそれを使ってなかったって事は……連続で使えないって事だ」

「まったくっ……少年は相変わらず無茶をする!」


 ぐっ力を込められた剣でノブナガの黒剣を弾く。

 ノブナガの剣があらぬ方向へ向き、ガラ空きになった胸元へ神速の斬撃ーー“雷鳴之剣”が振るわれる。


 が、すでにその技は見切っているノブナガ。

 予想していたかのような動作で“ストレージ”から取り出した短剣を左手に握って斬撃を防ぐ。

 そのまま剣を弾き上げ、右手の剣が一閃に疾る。


 ノブナガに振るわれた剣を胸元に集中した“金剛”で防御。

 弾き上げられた剣を両手で持ち、“剛力”を発動させながら力強く振り下ろした。


 それを剣と短剣をクロスさせて受け止める。

 ノブナガの足元にクレーターが出来上がりつつも、ノブナガも“剛力”を発動させて押し退けた。


 それから、激しい攻防の斬り合い。


 ハルサーマンの終わりのない斬撃を浴びせる秘剣技、“豪雨之剣(ごううのつるぎ)”を放ってくるが、知覚能力が限界を超えていたノブナガには何の脅威でもない。

 お返しとばかりに浮遊短剣の雨を降らせるも、すべて剣で弾かれた。


 英霊の楯(プリトウェン)の魔力が切れて消滅した。


 更なる秘剣技、“偽影之剣(ぎえいのつるぎ)”である足捌きと急激な緩急をつけた残像でノブナガの空振りを誘ってくるが、ノブナガも[+影狼]で残像を作っていて互いに空張った。


 聖錬兜(ゴスウィット)が消滅した。


 気が付けば、ノブナガとハルサーマンの身体中に斬り傷がたくさん出来上がっていた。

 左手に持っていたはずの短剣はどこかへ行き、着ている旅服は斬られた痕と血が滲んでいる。

 ハルサーマンの方もアルザンタイト製の甲冑が凸凹と穿たれ、その隙間からは血という血が溢れ出ていた。

 もう両者とも満身創痍の状態。


 なのに、


 にも関わらず、


 ーー2人は笑っていた。


 頰を釣り上げ、子供のような無邪気な笑顔。

 己たちが繰り広げている死闘には似つかない、笑顔だ。


 否、この一瞬も気を許せないような攻防だからこそ、2人は楽しげに笑っているのだ。


 互いの剣を弾き合い、己の最高の一振りを振るい合う。

 それすらも弾かれ、もう一度、さっきよりも更に最高の一振りを振るう。


 一合交える毎に、自分が強くなっていると実感する。

 この短時間で、自分が成長しているのだと実感する。


 そんな闘い、心が高まらないで何が剣士か。


「我が剣に宿れ闇!」

「我が剣に宿れ光!」


 示し合わせたように唱え始める2人。

 詠唱がハモった事に、お互い驚きながらも詠唱を続ける。


「ーーその刃は暗き暗黒の剣!」

「ーーその刃は一瞬に輝く月光の剣!」


 攻防の中、互いに剣を上段に振り上げーー


「ーー“ダーク・ソード”!!」

「ーー“ライト・ソード”!!」


 属性を纏った剣を一気に振り下ろす。


 互いの剣がぶつかり合う。

 纏われた闇と光が至近距離から敵を呑み込まんと奔流となって襲うが、互いに相殺し合って無力化されていく。


 が、ついに互いに相殺し切れなかった闇と光の奔流が互いの敵へと命中。

 鍔迫り合いだった状態から吹き飛ばされた。


 互いに真逆の方へ飛ばされ合い、一本橋の上をバウンドしてはゴロゴロと転がって行った。


「はぁはぁはぁはぁ…………」

「こほこほ……ひぃふぅひぃふぅ……」


 肩で息をしながら、剣を杖代わりにして起き上がろうとするノブナガ。

 ハルサーマンも肩を上下しながら、全身に力を入れて起き上がろうとしている。


 しかし、その動作は極めて遅い。


 2人ともすでに体力の限界を迎え、肉体の疲労が極限状態まで来ているのだ。


「ぐおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「ふんぬぅぅぅうううううううううううううう!!!!」


 強烈に襲ってくる眠気。

 身体が休めと訴えてくるが、そんな事は知らんとばかりに叫声をあげ、2本の足で立ち上がった。


 その足は生まれたての子鹿以上に震えているが、ノブナガたちの目からは一切消えていない闘志が宿っている。

 折れない闘志だけで、その身体を支えている。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……ふぅ……」


 肩を大きく揺らし、睨み合う両者。


 通じ合うものがあったのか、2人ともフッと笑うと構え始める。

 ノブナガは右足を引いて半身になり、引いた剣先をハルサーマンに向けた突きの構えを。

 ハルサーマンは右足を半歩引き、両手で持った剣を振り上げた上段の構えを。

 2人とも、これが最後の一合だと覚悟を決め、極限の集中力を持って構える。


 優しい風が吹く。

 ノブナガとハルサーマンの傷だらけの肌を撫でる。


 それと同時に、風に運ばれてきた小さな葉っぱが舞い降りる。

 ゆらりふわりと落ちてくる葉っぱ。

 もったいぶるようにゆっくりと落ちてきた葉っぱがーーノブナガとハルサーマンの中間地点に舞い落ちた。



 それは刹那の出来事。


 ノブナガが[+縮地移動]でスタートダッシュを踏み、音速を超えた一直線の速度を乗せた突きが放たれる。

 対するハルサーマンが放ったのは秘剣技“雷鳴之剣”。

 両者とも速度を重視した技が交差する。


 その刹那の出来事が、ノブナガとハルサーマンにはとてつスローに見えていた。

 自分たちの剣が少しずつ進んでいくを眺められるほどゆっくりに。


 その刹那な時間の中、先に剣が届くのはーーーーノブナガだった。


(ッ、身体が……秘剣技を使い過ぎたか)


 そう、ハルサーマンが編み出した秘剣技は、肉体に負担が掛かるものが多い。

 いつもなら使用回数を制限しているのだが、ノブナガという相手に制限などと言っていられるわけもなく多用してしまったのだ。

 そのせいで、本来出るはずだった神速を肉体が反応できなくなって出せなかった。


(負けてしまうのか……)


 ゆっくりと近づいてくるノブナガの剣を眺めながら、ハルサーマンはそんな事を思う。


 この心踊る闘いが終わる残念さもあるが、自分が敗れてしまうとどうなるのかを考えられずにはいられなかった。


 自分が無鉄砲に悪に踏み込んだせいで、妻と娘の命が危険に晒された。

 そして、今この瞬間も、妻の命は握られている。

 したくも無い闘いにも慣れた。

 奪いたくもない命を奪う事にも慣れた。

 それでも、ハルサーマンの胸の中は嫌になるほどのドス黒い靄が掛かっている。


 が、それでも戦う必要があった。


 家族を守る為にも、剣を振るい続ける必要があった。


 自分のせいで人質になった妻の為にも。


(そうだっ。私は、負けるわけにはいかないんだッッ!!この身に変えてもッッッッ!!!!)


 時間が引き延ばされる刹那、ハルサーマンの中で何かが弾けた。

 生存本能を捨てたハルサーマンのリミッターが外れたのだ。

 “雷鳴之剣”の速度、否、それ以上の速度を発揮し、ノブナガの上を行く。


 肉体の激痛すら捨て去り、ノブナガの脳天に剣を振り下ろす。

 吸い込まれるように迫る剣。


 その光景を、ノブナガもまたゆっくりとした世界で眺めていた。

 対処しようにも、意識が引き延ばされているだけなので、身体を動かす事も防ぐ事も間に合わない。

 [+縮地移動]での移動中のせいで、例えリミッターを解除しても速くはならない。


 だが、事前に行動しようと決めていたものなら別だ。


「[+縮地移動]ッ!!」


 バンッッ!!


 一直線に超音速移動し、未だ宙に浮くノブナガの足元の空気が破裂した。

 破裂したのはもちろん、“空踏”による大気の足場だ。

 ノブナガの身体がさらに加速し、1発の弾丸となってハルサーマンの横を通り過ぎた。


「くはっ、ぐへぇ」


 [+縮地移動]に[+縮地移動]を重ねたせいでまともな着地も出来ず、顔面からスライディングしてしまうノブナガ。

 なんとか自分で崩した橋の縁の手前で止まったが、上げた顔は鼻血で真っ赤になっていた。


「痛ってぇ、超痛い……」


 ぽたぽたと落ちる紅い雫を無視しながら、体勢を変える。

 振り返りながら座り込むと、倒れ込んでいるハルサーマンに目を向ける。


「くっ……うぅ…………」


 意識はあるようだが、身体が動かせないでいるようだ。


「な、なぜ、最後……剣を逸らした……?」


 蹲りながらも、ノブナガの視線に気づき、そう問いかけるハルサーマン。


 そう、ノブナガの黒剣がハルサーマンの胸元を貫こうとした瞬間、剣先がズレて空を突いたのだ。

 実際には当たっておらず、完全な空突き。


 だが、超音速の人間が横切ったのだ。

 大砲の弾が横切ったのと同じ。

 その衝撃は凄まじなんてレベルではなく、満身創痍の者が受ければ間違いなく昏倒する。

 正直、ハルサーマンに意識があるのが不思議なレベル。


 とりあえず、


「俺はあなたを殺せない。エリーナさんもアリンカも悲しむし。それに、アリンカに頼まれたんで」

「たのまれた……?」


 目線で何をと問うハルサーマン。


 それに目線で答えるようにハルサーマンの後ろを見た。

 起き上がれない身体を必死に動かし、ノブナガが向けた視線の先に顔を向けた。


「ーーーーぅぁ」


 瞬間、声にならない息が漏れる。


 だって、その先にはーー


「あなた……」


 分身体のノブナガと、その隣に並び立つ金髪の女性。

 金髪の女性が倒れ込んでいるハルサーマンを見るや否や、息の混じった呟きを零す。


 そう、その女性こそがーー


「マリー……」


 ハルサーマンの妻にして、アリンカのお母さんである。


 しばらく立ち尽くしていたマリーは、弾かれたように駆け寄る。

 駆け寄ったマリーは、倒れ込んでいるハルサーマンを起こすのと同時に抱き締める。

 そこにいる事を確かめるようにギュッと。


 一方、ハルサーマンはまだ理解が追いついていないようで、呆然とした表情になっている。


「マリー……どうして、ここに……?」

「あの子が助けてくれて、ここまで連れてきてくれたの。今もあなたがしたくもない闘いをしてる、って聞いたから。居ても立ってもいられなかったの」

「…………そうか。そう、か……よかった……無事でっ……本当によがぁっだぁ……」


 マリーの温もりを感じ、ようやく実感する。

 抱き締め返し、年甲斐もなく涙を流した。

 マリーももらい泣きし、抱き締め合う夫婦が泣きながら「よかった」と言い合う図になった。


 ちなみにだが、マリーのいうあの子とは、もちろんノブナガの分身体の事だ。



 ハルサーマンとの戦闘が始まる前、ノブナガが分身体4体を帝城と都市の方へと送った。

 その内の1体を人質になっているハルサーマンの妻ーーマリーを助け出す為に向かわせたのだ。


 だいたいの場所はアリンカから聞いていたのもあるが、巨人騒動でほとんどの者が混乱であちこちを駆け回っている中、避難どころか慌てた様子すらない2つの気配を城領地の隅で探知したので1発でわかった。


 まぁ、アリンカ同様、2つの内の1つは魔族だったので、戦闘になったわけだ。

 それがまた面倒だったようで、倒すのに時間がかかったそうだ。

 で、その魔族を倒した分身体はマリーに事情を説明し、マリーの声もあってここに連れてきた、という流れだ。


「うわぁ、ボロボロじゃん、“本体”俺」

「うるさい。“救助”俺がもっと早く来てくれればここまでの闘いはしなかったての」

「仕方ないだろ。あのカエル野郎が面倒だったんだから」

「それは共有されてくる情報で知ってる。とりあえず、回復魔法かけてくれ。これ以上無駄にMPを使いたくない」


 いくらノブナガのステータスがバグっているからと言っても、いくつものスキルや[+神具召喚]を使ったのだ。

 その消費は常人であればすでに倒れている。

 これから“魔王”と闘うので節約が必要なのだ。


 分身体に回復魔法をかけて貰い、斬られた傷や痣、あと鼻血も治った。

 体力も万全に回復し、黒剣を拾い上げながら立ち上がる。

 分身体と並び、ハルサーマンとマリーに歩み寄った。


 すぐ傍まで来ると、ノブナガ2人の存在に気づいたらしいハルサーマンたち。


「少年、感謝する。娘だけでなく、私の妻まで助けてくれた事を。この恩は、絶対に忘れない」

「いいですよ。俺はアリンカに頼まれただけなんで。この戦いが終わった後にでも、家族団欒してあげて下さい」

「ははは、やはり君は謙虚だな」

「またそれですか……いいんですよ、俺は仲間の望みを叶えたに過ぎないんですから」


 そんな会話を聞いていたマリーは事情がよくわかっていないらしく、「アリンカのお友達?仲間?」などと首を傾げていた。

 ハルサーマンが手っ取り早くかくかくしかじかと説明するや否や、マリーの顔が驚愕になり途轍もない速度でノブナガにお礼の言葉のマシンガンが飛んできた。

 そのすべてを両手を振って、謙虚な対応をするノブナガ。


 止まらないマリーのお礼がいつまで続くのかと思われた時、


 上空から光が降り注いできた。


 その光に真っ先に反応したのは、ノブナガと分身体の2人。

 2人は降り注いできた光、正確には回復魔法と再成魔法の光を目を剥いて眺めていた。


 遥か上空に浮遊する衛星型再成回復アーティファクトーー“セルブ・サテライト”から投射された光はノブナガの頭上を通り過ぎ、帝城の中へと降り注ぐ。


 “セルブ・サテライト”はHPが2割まで減った時に起動するように設定してある。

 つまり、さっき光が投射されたという事はーー


「っ!!すいませんっ、俺先を急ぎます!“救助”俺っ、ハルサーマンさんたちを頼んだ!!」

「ああ!行ってこい!!」


 一瞬の思考を終えたノブナガは後を分身体に任せて駆け出す。


 嫌な想像をしてしまう頭を振り払いながら、一心不乱に駆ける。



「待ってろっ、みんな!今すぐ行くからな!!」


 そう言い、ノブナガはようやく帝城へと足を踏み入れた。

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