戦う少女たち その1
迷宮都市ババロンのダンジョン、その最深部。
そこでは、“奪還者”の少女たちと4人の魔族との戦いが始まっていた。
「燃え食べッス!!」
開戦と同時に、カレンが両手を突き出して[+破壊炎線]を放った。
途轍もない熱を帯びたレーザーが、4人の魔族に迫り来る。
[+破壊炎線]に対し、魔族のうちの1人ーー背中に巨大な甲羅を背負った男ーーカメ男が射線上の前に躍り出た。
そして、その巨大な甲羅で圧縮熱線を受け止めた。
着弾と同時に鳴り響く爆音。
[+破壊炎線]の熱が最深部の部屋に広がり、爆発が止む。
晴れた場所には、無傷の甲羅があった。
さっきまではゴツゴツとした石のような甲羅だったが、今は鋼のようなテカテカとした甲羅をしていた。
(“鋼鉄化”)
「っ、“鋼鉄化”というスキルです!気をつけてください!!」
スフィの“精霊眼”がカメ男のスキルを暴き、エリーナが注意を促す。
それに対し、魔族たちはスキルを言い当てた事に驚き、それと同時に警戒心を高めた。
「む?やはり、“精霊術師”が1番厄介だな。悪いが、先に倒させて貰う!」
そう言い、4枚の薄い羽とお尻が膨れて針が突き出ている魔族ーーハチ男が羽をうって飛び上がった。
ブウゥゥウウウウウウウウッという音を立てながら飛び上がったハチ男はお尻の針をエリーナに向け、狙撃のように放たれた。
それが連続で6回も放たれる。
(“毒針”、[+連針])
「旋風・荒れ吹く・渦・吹き飛び・毀つーー“ストーム・タンク”!!」
連続で放たれた毒針はアリンカの放った突風の渦によって吹き飛ばされた。
だが、今度はアリンカが長い髭と太い尻尾を生やした紺色の肌の魔族ーーウナギ男の標的にされる。
右手を指鉄砲の形にしてアリンカに向けられ、指先が弾けたかと思うと次の瞬間には稲妻が放たれた。
(“放電”、[+閃電])
稲妻の速度はまさしく雷の如く。
音速を超え、常人では知覚できない速度でアリンカに迫り来る。
“剣聖”であるアリンカはその稲妻の矢を知覚する事が出来たが、それに反応する事まではできない。
咄嗟に剣で防ごうとするが、間に合うかどうかも怪しい。
だが、ここに音速を超える速度を出せる人物たちがいるとすれば、知覚する事も対応する事も容易い事だ。
「“錬成”!」
剣を持ったノブナガ、“A”ノブナガが地面に手をついてスキルを発動する。
アリンカと[+閃電]の間の地面が高速で隆起し、稲妻の矢を容易く受け止めた。
「なっ!私の[+閃電]を受け止めるとは……天紋複数持ちの分身体はバケモノかっ!!」
ノブナガ分身体とザンが内心「なぜそのネタを!?」と驚愕している中、ヘビ男ーークグゥが地面を這って迫ってくる。
長身をくねくねさせながら高速で迫り、間合いを詰めてくる。
「あんたは近づけさせない。重力は加重するっ。すべてはここに押し潰される!ーー“重潰”!!」
クグゥの拘束力を嫌という程味わった本体からクグゥの攻撃方法を心得ていた“Z”ノブナガが、接近される前に超重力で足止めをする。
「くっ」
ストーンゴーレムを容易くペッチャンコに出来る魔法は、クグゥの足を完全に止め、地面に押し付けられる。
しかし、クグゥのステータスと持ち前の身体能力のせいか、押し潰すまでにはいかなかった。
“Z”ノブナガは“重潰”の維持に半分以上の処理能力を費やす事になる。
「クグゥ様!貴様っ、クグゥ様を離せ!!」
「アナタの相手は自分ッス!!」
ハチ男が“Z”ノブナガに向かって[+連針]を放とうとするところに、カレンが襲いかかる。
“炎纏”の派生スキル[+集炎]で右爪に凝集された斬撃を振るう。
爪に魔力が浴びているので、[+竜爪鋭化]を使っているのだろう。
そんな斬撃を身を捻って回避するハチ男。
近接戦闘向けではないハチ男は、羽をうって間合いを開けに動く。
間合いを開けてくるハチ男に対し、カレンは両手から[+火炎放射]を放とうと突き出す。
火力の高い[+破壊炎線]にしかなったのは線の攻撃だと躱されると考えたからだ。
威力を捨てても、広範囲の方が命中率は上がる。
だが、その選択は失敗に終わる。
[+火炎放射]を放ったカレン。
目の前をいっぱいにする炎が迫るハチ男の背後にはーーハチ男の両肩に手をついているウナギ男の姿が。
いつの間にそこにいたのかはわからない。
だが、カレンの意識はウナギ男の存在よりも、ハチ男の針の根元がばちばちと音を立てている方に向いていた。
フィードバックするのは、ノブナガがコウモリ男を撃ち落とした狙撃銃モドキ。
あの時も、銃に雷が宿っていた。
(“放電”、[+充電])
「ッ!?」
「“エレキ・フィールド”!!」
カレンが気づいた時にはもう遅かった。
ハチ男が“毒針”の引き金を引いた瞬間、突如として出現する光の線。
電磁加速された“毒針”は光速度を超える。
カレンが放った[+火炎放射]など容易く払い除け、そしてカレンの次の瞬間を想像したエリーナが展開した磁場の障壁も軽々と貫いた。
“毒針”が発射されてからカレンに届くまでにコンマ1秒も掛からない。
カレンは何の反応もできず、その小柄な身体のほとんどを焼いて貫くだろう。
そうはさせないと動いたのは、短剣を手にしている“K”ノブナガである。
“歩法術”の派生スキル[+縮地移動]を発動させ、瞬間移動したかのような速度でカレンを横から助け出す。
しかし、分身体のノブナガが全力の[+縮地移動]を行なっても、光速度を超える事は出来ない。
完全な回避など出来なかったのだ。
先程までカレンがいた場所に、紅い花が咲く。
もちろん、本物の花ではない。
飛び散った鮮血である。
「の、ノブナガさん!」
ノブナガの腕の中にいるカレンが、空中に散った大量の血を目にして叫ぶ。
“K”ノブナガの腹部には、直径30センチの穴と焼き跡が残っていた。
至近距離からのレールガン。
“K”ノブナガが咄嗟に纏った“金剛”もなかったかのように突破され、分身体とはいえステータス1万の肉体を貫通させたのだ。
急激に沈んでいく意識。
それを歯噛みして耐えたノブナガは、次が来る前に“空踏”と[+縮地移動]を連発させて撤退した。
無茶な連続発動をしたせいで、ろくな着地もせずにエリーナの傍に倒れ込む。
「ノブナガさん!?」
「俺の事はいいですっ。それよりもっ、次が来ます!」
倒れ込んだ“K”ノブナガは腹部の穴を押さえながら言う。
その声をハッとしたようにハチ男とウナギ男の方を振り返るエリーナとカレン。
そこには、既に針の根元がスパークしていた。
「ちっ。“A”俺!ヘビを頼んだ!!」
「了解!!」
それを“重潰”を維持していた“Z”ノブナガが横目に見る。
さすがにマズいと感づき、クグゥの足止めを“A”ノブナガに任せて空間魔法を詠唱する。
「空間は固定するっ。この境は不進の領域!ーー“絶界”!!」
狙われているエリーナたち一帯を覆うように展開される空間遮断の魔法。
それが展開されるのと、電磁加速された“毒針”が発射されるのは同時だった。
光の線となって放たれる“毒針”。
光速度を超えた速度は、それ=絶大な威力となる。
が、今回は防御をしっかりと固めていた。
そのおかげで、どうにかギリギリ耐える事が出来た。
しかし、“Z”ノブナガが展開した空間遮断の障壁はたった一撃でヒビが広がり、また同じ場所に撃ち込まれれば確実に貫通するだろう。
「まだだっ。まだ終わらんよ!」
またまたウナギ男から飛び出して来るシャ○少佐の台詞。
内心「またシ○アか!?」と叫んでしまったせいもあり、“絶界”を展開し直す時間を失ってしまった。
“結界構築”を[+局所展開]でどうにか射線を晒そうと展開しようとする。
その前に、
「再成は繰り返すっ。幾重もの過去は今この瞬間に有り!ーー“再刻”!!」
エリーナが再成魔法を発動する。
“再刻”は遡る時間は短いが、一定時間ごとに再成されている再成魔法である。
中級回復魔法“純回”が再成魔法にしたものである。
それにより、“絶界”はヒビが広がる前の、展開されたての状態へと戻る。
それと同時に放たれるレールガン。
さっきよりも威力が衰えたように見えるのは、おそらく十分なチャージが行われていなかったからだろう。
完全な状態に戻った空間遮断の障壁に点のようなヒビを入れる。
しかし、電磁加速された“毒針”はそれだけで終わったのだ。
「なっ!止めただと!?」
「今度は[+連針]で行くぞ!!」
「おう!」
八尾事が貫くはずだった“毒針”が防がれた事に驚きながらも、ウナギ男に叱咤されて次の攻撃に移った。
すぐに[+充電]が開始され、そして明らかに少ないチャージで放たれる。
威力より数を重視したのか、次々と“毒針”が発射されていく。
どれもが光の線となって放たれるが、一定時間で元の状態に戻る“絶界”を突破する事は出来ない。
「ーー“再逆”!!」
その間に、エリーナはさらに再成魔法を発動して“K”ノブナガを回復させる。
さっきまであった腹部の穴が、何事もなかったかのように消えていった。
「くそっ!こうなったらフルチャージした“毒針”でっーー」
「そんな時間は与えないよ?」
「「ーーッ!?」」
障壁が突破できない事に痺れを切らしたのか、一撃目のように十分な[+充電]ができたレールガンを放とうとする。
が、そんな時間を黙って待っているわけがない。
魔剣の“身体強化”、それに通力強化も施し、地面から壁へ、壁から天井へと足場を変えて駆ける。
そして、空中にいるハチ男とウナギ男へと天井を蹴って襲いかかる。
ウナギ男が背中にいる状態で激しく羽をうつ事がない為に、不意を突かれれば回避は難しい。
ウナギ男はすぐにハチ男から離れ離脱。
飛べないウナギ男は自由落下で離れていく。
天井を跳躍したザンは“武器強化”を発動した魔剣でハチ男の両腕をすれ違いざまに斬り払い、自由落下中のウナギ男へと迫る。
「くっ!」
途轍もない速度で迫ってくるザンを見て苦悶の声を漏らすウナギ男。
空中でどうにか体勢を立て直し、指鉄砲をザンに向ける。
指先が弾け、[+閃電]が放たれる。
空中にいるザンに、これを躱す事は出来ない。
しかし、ザンは指鉄砲を向けられた時点で次の攻撃が何なのかわかっていた。
ゆえに、音速を超えた速度だろうと対処はできる。
“ストレージ”から1本の短剣を取り出す。
ただ[+感応操作]が“生成”された短剣なのだが、今は機能など関係ない。
取り出した短剣をウナギ男に無造作に投擲する。
聖剣であるザンは剣を磨く知識はあれど、投擲という技を磨く知識はない。
それゆえに、その短剣は狙いから逸れた。
が、それでいいのだ。
短剣の役目は、投擲する為ではないのだから。
ザンに放たれた[+閃電]は確実にザンの身体を貫こうと迫る。
だが、その一閃は突如として曲がった。
綺麗な弘を描き[+閃電]がたどり着いた場所はーー短剣の先端だった。
「っ!!避雷針だと!?」
「正解っ!」
ザンが[+閃電]を逸らした方法を看破し叫ぶと、ザンからまるでクイズ番組のような言葉が返ってくる。
そう、本来は雷から建物などの被害を守る為に屋根に設置される針、避雷針。
受けた雷を地面に流す事で建物などの被害を防ぐ方法なのだが、今回は軌道を逸らすのが目的だったので地面に流す必要もない。
もう一度、[+閃電]を放とうとするウナギ男。
だが、その時にはザンが目の前に到達している。
この間合いなら、ザンの斬撃の方が速い。
ザンの神速ともいえる斬撃が、ウナギ男に放たれる。
新たに“生成”された“風刃”を使い、ウナギ男の胴を斬り裂いた。
瞬間、ザンに襲いかかる強烈な電流。
ザンの身体全体に走った電流は、その強烈さゆえに動きを一瞬止められる。
(“放電”、[+帯電])
「かかったな!!」
ザンが動きを止めた瞬間、ウナギ男はスキル“放電”を発動させようとする。
“放電”は自身の周囲に問答無用で電気を浴びせてしまう為、味方といる時には扱い辛いスキルであるが、見境のないゆえに威力は強力だ。
そして、そのスキルのトリガーが引かれようとした瞬間、
「精霊を舐めないでよね!」
脳天にザンの踵落としが炸裂した。
地面に蹴り落とされ、蜘蛛の巣のようなクレーターを作り出すウナギ男。
そして、その傍に着地するザン。
ザンは精霊なので、自身の肉体を通力で構成している。
普通の人間であれば、筋肉が麻痺して当分は動けなくなってしまうのだが、肉体を制御できる精霊には意味をなさない。
もちろん、通力に影響を及ぼすほどの毒であれば効くだろうが、今回は麻痺程度であった。
肉体を正常に戻す為に一瞬の停止が発生してしまったが、その一瞬で持ち直すのだから反則である。
ザンは地面にめり込んで倒れ込んでいるウナギ男にとどめを刺そうと、“風刃”を纏わせた魔剣を振るおうとした。
が、そこに上空から放たれた“毒針”の雨に妨げられる。
急いでその場を離脱したザンは、邪魔された事に内心舌打ちをしつつ、魔剣本来の能力を発動する。
瞬間、倒れ込んでいるウナギ男の腹部から血が弾けた。
さっきザンが神速の斬撃で中途半端に付けた傷が開いたのだ。
突然の事で深層部の部屋に、ウナギ男の叫声が響き渡る。
「っ!!貴様っ!!」
その光景を上空から見ていたハチ男は、怒りの感情を吐露しながらザンに“毒針”の弾幕を浴びせる。
それを“Z”ノブナガが“結界構築”で防ぐ。
「さっきのリベンジッス!!」
「ッ!?」
怒りのあまりか、カレンの接近にまったく気がつかなかったハチ男。
ハチ男の背後を取ったカレンは[+火炎放射]を放つ。
緊急回避も出来ず、ハチ男は竜の炎をまともに喰らう。
ハチ男の羽が燃え上がり、地面に墜落する。
一方、クグゥを相手している“A”ノブナガは“腐蝕”の派生スキル[+腐纏]を纏った剣を振るっていた。
濁った泥のようなものが、あの黒い悪魔と同じスキルだと直感したクグゥは回避に専念して攻め切れていないようだ。
アリンカはカメ男の方を“天下五剣”を駆使して抑えていた。
カメ男の動きは、本物の亀のように遅いので“天下五剣”で途切れのない斬撃を浴びせているだけだ。
それを甲羅に篭った亀のようになって“鋼鉄化”で防いでいる。
「さて、そろそろ俺も動かないとな」
エリーナの再成魔法で復活した“K”ノブナガはスキル“限界突破”を発動する。
全ステータスとMPが5倍になり、さらに“分身”の派生スキル[+多重分身]を発動。
一気に10体の分身体が出現し、4人の魔族に襲いかかった。
もちろん、分身体からの分身体なので、ステータスは本体の100分の1である。
それでも、ステータス的にはエリーナたちより少し弱いぐらいである。
そんな分身体たちがスキルをフルに使って襲いかかる。
“放電”で一切合切を焼こうとしても“結界構築”で防ぎながら接近して、ダメージを与えている。
ガトリングのように放たれる[+連針]に“ストーム・フォート”で払いながら魔法を命中させいる。
絡み付こうとしているところを他の分身体に千切っては投げを繰り返される。
一撃一撃が鉄を砕くかのような斧が振るわれる。
魔族たちが感じたのは、絶望。
どんなに抗おうとも防がれ、力で、あるいは物量で返してくるのだ。
じりじりと削られていくHPが、魔族たちを絶望へと確実に向かわせていた。
これなら、押し通せる。
エリーナたちが思った瞬間だった。
「やれやれ。ただの物量で押されよって。それでもお前たちは魔族なのか」
独り言のように呟かれた、“魔王”の言葉。
しかし、なぜかその言葉はこの空間全体に鮮明に広がり、誰もがその声に宿った圧力に目を向けた。
“魔王”サランが突然虚空に右の掌を向ける。
「こんな虚像、一捻りよ」
「ーーッ!?マズい!みんなっ下がれ!!」
サランの右手に集められた魔力。
それも尋常ではない量の魔力が集められ、それを感じ取った“A”ノブナガが泡を食ったように叫ぶ。
その指示に従い、エリーナは[+飛翔衣]で、カレンは自前の翼で飛翔して、アリンカは一瞬で唱えた“ゲイル・ラビット”で、ザンは通力で強化した足で跳躍して退避した。
分身体のノブナガたちも一緒に退避しようかとしたが、魔力同様に尋常じゃない魔法の気配に前に出た。
詠唱している暇もないので、4列に並んだノブナガが“結界構築”を目の前に[+局所展開]する。
ノブナガが結界を展開し終えるのと、サランが魔法を発動させたのは同時だった。




