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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
迷宮都市ババロン編
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世界を超える魔法

 光のない世界に飛ばされたノブナガとネルラ。

 人間界に帰る方法として、ノブナガは“時空魔法”を完成させようと奮闘した。


 そして、現在はーー


「…………」

「うふふふふふ」


 ネルラがノブナガを膝枕していた。


 楽しそうに笑うネルラに対し、ノブナガは虚無な顔をしていた。

 顔に「どうしてこうなった……」と書いてあるのがはっきりと見える。



 遡る事、数日前。

 “時空魔法”を作ろうと躍起になっている間、月が5回登ってきた。

 この世界に太陽というものがないのか、光が存在しないにも関わらず光る月はあるらしい。

 それが登って沈むのを、ネルラは5回見たと言う。


 ノブナガは没頭し過ぎたがゆえに、いつの間にか5徹していたようだ。

 それを力尽きた時に知ったノブナガ。


 丸5日使っても“時空魔法”が完成できていない事に焦りを覚えたノブナガだが、これ以上したところで無駄に体力を使うだけだと自分を抑え込んだ。


 とりあえず、今できる事をする為にノブナガは魔改造した“グリフォン”ーー“ネオグリフォン”を召喚して周囲を偵察するように指示した。

 当の本人はソファに横たわり、しばしの休息に入った。

 ほんのちょっとの休憩のはずが、知らずのうちに溜まっていた疲労に眠ってしまったのだ。


 そして、パッと起きたノブナガの視界にはネルラの顔があった。

 ドアップに映るネルラの顔、後頭部に感じる柔ない感触。

 あれ?これ前にもあったな……と思った瞬間、ノブナガの寝ぼけていた頭は覚醒し、自分の状況を把握した。


「うふふふふふ」


 なぜか上機嫌なネルラの笑い声を聞きながら、ノブナガは虚無な顔になりながら思った。


 ーーどうしてこうなった……、と。


「随分と疲れてるようだったわよ?わたしが近づいてきた事にも気づかないほどに」

「あー……そうみたいだ」


 確かに、敵が近づいているのにも気づかなかったのは、そういう事なのだろうと頷くノブナガ。

 上体を起こさず、腕で目元を隠しながらネルラに問う。


「どれくらい寝ていた?」

「半日ってところじゃないかしら。まだ月は登ってきていないから、それくらいよ」

「そうか」


 ネルラの言葉に、なんとも疲れたような声で返すノブナガ。

 どうやら、早く帰らなくてはという焦りがノブナガを疲れさせたのだろう。

 今なお、エリーナたちが戦っていると思うと、焦らずにはいられなかったのは仕方がない事だが。


 気持ちが暗くなりそうになったノブナガは、ついでとばかりにネルラに聞く。


「なあ。ネルラは、ショックとかないのか?」

「ショック?」

「“魔王”に、父親にこんな所に飛ばされて」

「ショック、ではないわね。わたしはお父様にとっての道具だったし、もともとその為に作られたものだもの」


 ネルラは割り切ったような、捉え方を変えれば諦めたように言う。

 そんなネルラの言葉が、どこかズシリと心に刺さるノブナガ。


「わたしは約束の日を迎える為に必要だったから作られた。だから、その役目を終えれば捨て駒にされる事もわかっているわ」


 そう言ったネルラの顔は、いつもの上品で余裕などない乾いた笑みを浮かべていた。

 未練タラタラなのが丸わかりである。

 そんなネルラの顔をチラッと覗いていたノブナガ。


 いつものノブナガであれば、ここで声をかけていたと思う。

 だが、今のノブナガにはその余裕がなかった。


 代わりに、疑問に思っていた事を口にした。


「ネルラの役目っていうのは、その約束の日と関係あるのか?」

「えぇ。正確には、あのダンジョンの扉を開く為にね」

「?あの扉は条件式なのか?」

「そうよ。通力を扱える者だけが開かれるようになっているらしいわ」

「なんで、そんな事知ってるんだ?人間界のダンジョンの事なのに」

「“魔神”が言ってたのよ。どうして知ってるかまでは知らないけど」


 “魔神”という言葉に、ノブナガは眉を顰める。


 今回の“魔神”はどうにも異常……いや、おかしい気がする。

 どうして、“精霊神”にしか扱えない“異界の門(アストラル・ゲート)”を扱え、人間界のダンジョンについて詳しいのか。

 ここまでくると異常な力というよりも、異様な知識に目を向けられずにはいられない。


「じゃあ、約束の日っていうのは?」

「……ここまで来れば、話してもいいわよね。わたしたちが言う約束の日。それは“魔神”が人間界に現れる日の事よ」

「なっ!?」


 疲れを見せていたノブナガも、その言葉を聞いてさすがに上体を起こした。


「正確には、今のままでは現れる事はないわ。今は、その前段階をわたしたちはしているのよ」

「前段階?それって、4つのダンジョンの事か?」


 ノブナガは城塞都市ガラールの地下資料で見つけた魔語の計画書を思い出した。

 そこには『4つのダンジョンの封印を解く』と書かれていた。


「えぇ、あのダンジョン以外の他3つはすでに攻略され、封印が解かれているわ。あの扉さえ開かれれば、すべての封印が解かれる」

「……その封印が解かれれば、どうなる?」

「すぐには何も起きないわ。でも、問題が起きるのはわたしたちがここに送られてくる1ヶ月後よ。その日、太陽と月は重なる」


(太陽と月が重なるって、日食の事だよなーーッ!?)


『魔族に世界を渡る力はないけど、1つの例外が存在する。太陽と月が重なる瞬間、魔界に人間界に通ずる穴が開く』


 前にタルワーリア町のイクレの教会で聞いた、ザンの言葉がフィードバックする。


「太陽と月が重なる瞬間、魔界に人間界に通ずる穴が開かれる……つまりーー」

「そう、それを通って“魔神”は人間界にやって来るのよ」

「…………」


 ノブナガは驚愕に何も言えなくなった。

 ヤバい言葉だとは思っていたが、まさか人間界の終わりの日になるかもしれないだなんて思いもしなかったのだろう。


「そもそも、どうして数千年前から今まで一度も日食がなかったと思う?」

「ーー……まさか、ダンジョンの封印って……」

「えぇ。ダンジョンが日食が起きない為の儀術式だったのよ。数千年前の“人神”と“精霊神”が考えて作ったらしいわ」


 儀術式は龍脈の魔力を利用した儀式で完成する術式である。

 ノブナガがセインズ村に作った空間を歪める結界と違い、自然の魔力を使っている為に効果が切れる事はない。

 その儀術式を止める方法は、その術式自体を破壊するしかない。

 その術式を止める方法が、今回数千年前に“人神”と“精霊神”が作ったダンジョンを攻略するという事だったのだろう。


「じゃあ、あのダンジョンの最深部の扉が開かれたら……」

「あと1ヶ月後にくる太陽と月が重なる瞬間に、“魔神”がやってくるわね」


 ノブナガは無意識に辺りを見渡した。

 地平線の端には登り始めた月が現れ、何もない辺りを月明かりと“フラッシュ”が照らす。


 この何もない世界にした者が人間界にやってくる。

 それだけで、ノブナガは身震いした。

 全身の血が引いていく感覚がノブナガを襲う。


(ダンジョンの攻略は絶対に阻止しなければ……)


 恐怖がノブナガにそう覚悟させる。


 しばらく、2人の間に無言が続く。


 ノブナガが“時空魔法”について唸っていると、偵察に向かわせていたネオグリフォンが帰ってきた。


「グェエエエエエエエッ!!」

「戻ってきたか。どうだった?」

「グエッ、グエグエグゥエ!」

「え、建物があった!?本当か!?」

「グェエエ!!」


 ノブナガとネオグリフォンのやり取りを、なんとも胡散臭そうな目で見ているネルラ。

 どう聞いてもネオグリフォンは『グエ』としか言っていないのに、なぜか意思疎通出来ている事にツッコミたいところなのだが、まだネルラにそれが出来るほど“ツッコミ”スキルがないせいで出来ないようだ。


 そんなネルラを余所に、ネオグリフォンは鋼の翼を器用に動かして月が登ってきている方とは真反対の方を指した。

 どうやら、そっちにネオグリフォンが見つけた建物があるらしい。


「そこに人はいたか?」

「グェェ」


 首を振るネオグリフォン。


「そうか。とりあえず、そこに連れて行ってくれ」

「グエ!!」


 そうと決まると、ノブナガはソファやらテーブルやら結界やらを“ストレージ”に仕舞い、ネオグリフォンの背中に乗る。


「ネルラも来るか?」

「えぇ、一緒に行くわ」


 そう言い、黒い翼を出現させて飛翔するネルラ。

 ネオグリフォンが飛び立ち、進んで行くのを後ろからついて行く。



 すぐに到着するかと思われたが、たどり着いたのは2時間ほど経った頃だった。


 ネオグリフォンがその建物の前に降り立ち、ノブナガも地上に降りる。

 すぐ隣にネルラが降り立ったのを横目に、ノブナガは目の前の建物を見上げた。


 その建物は一軒家と同じぐらいの大きさをし、土のレンガが積まれて出来たような建物だった。

 塗装も何もなく、まるでピラミッドのように積んで出来ただけの建物。

 建物を見た時、この何もない世界にぴったりな建物だと思ったのは内緒である。


 一応、“気配探知”と“魔力探知”で建物の中を確認するノブナガ。

 もちろん、杞憂に終わり、ノブナガはネルラに向く。


「行くぞ」

「えぇ」


 ノブナガとネルラは頷き合い、扉も何もない入り口から建物の中へと入って行った。

 ネオグリフォンはお疲れだろうと還しておいた。

 還したと言っても、ただ召喚を解除しただけなのだが……


 そんなこんなで建物の中に入ったノブナガたち。


 月明かりも差し込まない建物の中は、何も見えないほど真っ暗だった。

 “夜目”を使おうと思ったが、ネルラもいるので“フラッシュ”の光で建物内全体を照らした。


 そこには、何もなかった。

 砂漠と同じように地面も砂で、何があるわけでもない。

 別の部屋もなければ、階段があるわけでもない。

 ただだだっ広い空間があるだけのようだ。

 正直、何かあるかもしれないと期待したのがバカらしくなるほどだった。


「何もないわね」

「ああ」


 建物内を歩き回り、壁やら砂やらを触ってみるノブナガ。

 隈無(くまな)く探してみるが、やはりただ何もない建物だとわかっただけだった。


「はぁ、無駄足だったな」

「そうね。さっきの場所に戻る?」

「いや、丁度いい建物だし、ここにいた方がいいだろうーー?」


 別に風が吹いているわけでもないので、砂風凌げる建物がなくても問題ないのだが、どうせなら建物の中の方がいいだろうと考えたノブナガ。

 とりあえず、ソファやらテーブルやらを出そうとしたノブナガだったが、そこで砂とは違う硬い物を踏んだ感覚が足裏に返ってきた事に首を傾げる。


 眉を顰めながらも、足元の砂を払ってみる。


「なんだ?これ」


 すると、そこから銀色の硬い板のような物が現れた。

 ネルラも何だろうと首を傾げる。


 とりあえず、拾い上げようとするノブナガ。

 しかし、設置されているようで取る事が出来ない。


「こうするんじゃないかしら?」


 その様子を見たネルラが、板の端を持って上げた。

 すると、反対側の端を軸にガバッという音を立てて開けられた。

 その奥には、下へと進む為の梯子が出現した。


「地下への入り口みたいね」

「そうみたいだな。深さは……それほどだな」


 “遠目”と“夜目”を使って奥を覗いたノブナガが床を見る事が出来るぐらいの深さらしい。

 “遠目”を使っている時点で軽く500メートルほどあるのだが、ダンジョンの30階層ボス部屋から落ちた奈落と比べれば随分と浅い方である。


「……行ってみるか」

「そうね」


 とりあえず、降りてみる事にしたノブナガたち。


 “フラッシュ”の光を先導させて下を照らしながら梯子を降りて行く。

 どれほどの時間梯子を降りたかはわからないが、途中から梯子を使う事が面倒になってきたようで、ネルラを抱えたノブナガが“空踏”を使って降りる事になった。

 どうしてネルラが自前の翼で降りなかったかというと、単純に翼を広げるスペースがなかっただけだったりする。


 ものの数十秒で下に到着するノブナガとネルラ。


 すると、梯子がある方とは逆の方に鉄の扉を発見する。

 手入れがされていないのか、所々に錆(さび)が出来ている。


 ノブナガとネルラは顔を見合わせ、扉を開けた。


 ギギギギギッと不安になるような音を立てながら開かれる鉄の扉。


 その奥には、地下とは思えない白い空間が広がっていた。

 まるで、壁や天井が光っているのかと思わせる部屋の明るさにノブナガたちは思わず目を庇う。


 光に慣れ、ようやく扉の向こうを目にする。


 そこには光り輝く壁と天井、そして部屋の奥には静かに横たわっている長方形の物体。

 それ以外の物は何もない、広々とした白い空間が広がっているだけだった。


 光る壁や天井をまじまじと眺めながら、2人は唯一存在する長方形の物体へと近づく。


「っ!これは……」


 物体に近づいた事で気がついたノブナガ。

 隣にいるネルラも声には出さなかったが驚いているのが見て取れる。


 長方形の物体は上部分が開いていて中は空洞になっている。

 そして、その中には横たわっている女性がいた。

 両手を胸下あたりで組み、安らかな顔で目を閉じているを見て、長方形の物体が何なのかを察する事が出来た。


 ノブナガとネルラは静かに棺に近づく。

 “気配探知”に引っかからない事から、女性がすでに亡くなっている事は明白である。


「どうして、こんな地下で息を引き取ったのかしら……」

「わからない。どうして、この人の死体だけが残っているのかもわからないし……?これは……」


 女性の最期を考えていると、眠っている女性の頭のすぐ傍に小さいながら美しい塗装が施された小物を発見する。

 微量に魔力を感じたノブナガがアーティファクトの類だと思い[+術式鑑定]をする。


「なるほどな」


 小物に施された術式を理解したノブナガは出っ張っていたボタンを押してアーティファクトを起動させる。

 すると、中に嵌められた魔石から光が投射され、ノブナガとネルラの前に紅い瞳の女性が映し出された。

 間違いなく、目の前で眠っている女性である。


『私はダクデダルト王国の第一王女グレワーレと申します。世界が魔族の神によって滅ぼされた、吸血族の生き残りです』

「吸血族……それがこの世界の住人だった種族なのか」


 女性の頭の傍に置かれていたアーティファクトは、記録映像を保存、投映する事が出来るらしい。

 あくまで過去に保存されたものが投映されている為、ノブナガたちとの会話は出来ない。


『この映像が誰かに見られる時が来るのか、私にはわかりません。もし、この世界にまだ生き残りがいるかもしれないという淡い期待で、私はこれを残す事にしました』


 映像の女性は肌白だが、目の前で眠っている女性に比べれば健康的な肌をしている。

 そして、口を開くと時たま見える鋭い2本の歯が吸血鬼である事を彷彿とさせられる。


『私たちの神、“吸血神”が“魔神”との戦いに敗北してから、世界には何もかもが消えてしまいました。自然、建物、文明、そして人、私たちが積み上げてきたものすべてが消されました。唯一、幾人もの凄腕の結界師によってこの建物は無事に済みましたが、その結界師の方たちも深手を負って亡くなってしまいました』

「だから、この建物だけが残っていたのね」

『1人になった私は復讐心に駆られました。魔族共を、そして何より、“魔神”を殺す為の方法を研究しました。私のような王でも神を殺す為の方法を。しかし、どうても人が神の存在に傷を負わす方法は見つかりませんでした。私では、“吸血王”では、ダメだったのです』

「人が神を傷を負わす方法って言ったけど、どういう事なんだ?」


 映像はまだ流れているが、ノブナガはよくわからない言葉を聞いてネルラに問いかける。


「神は人が触れられるような存在じゃないのよ。もちろん、わたしのような魔族もね。高次元の存在を低次元の者が触れる事は出来ない。そういうものなのよ」

「マジか……」

『だから、私は託す事にしたのです。これを見てくれる者がいるかわかりませんが、それでも希望を残したかったのです。私の研究資料はこのアーティファクトに入っています。この資料を見て、あなたが“魔神”を倒すのも、また違う事に使うのもあなたの自由です。ただ、私の勝手な願いですが、どうかこれ以上私たちと同じ想いをする者が現れない為にも、“魔神”を倒して下さい。お願いします』


 映像の中の女性ーーグレワーレが深々と頭を下げる。

 そこで映像が終わり、投映が止む。


(グレワーレさん……あなたはずっと1人で頑張っていたんだな)


 無意識に小物のアーティファクトを握る力が強くなるノブナガ。

 ごく自然に言葉が出てくる。


「安心してください、グレワーレさん。あなたの意思は、俺が受け継ぎます」


 ノブナガはアーティファクトのもう1つの機能、魔石の中の空間を拡張して収納する機能を起動し、その中に入っていた資料を取り出す。

 資料だけを受け取り、アーティファクトの方はグレワーレの両手に戻した。


「“魔神”を倒せるの?」

「わかんねぇよ。でも、恐怖だの不可能だのを言う弱気はなくなった」


(そうだよ。忘れてんじゃねぇよ、俺。俺は何の為に戦ってきたんだよ)


 いつの間にか、当たり前過ぎて忘れてしまっていた事。

 自分が何の為に武器を取り、国に喧嘩を売っているのか。


 エリーナの、みんなの望みを叶える為だろう。

 そして、何より自分のしたい事だからだろう。


 なら、逃げる選択肢も、力がないから諦めるなんて選択肢もない。

 ただ望みの為に戦うだけだ。

 それ以上の事は、今はいらない。


 ノブナガはグレワーレの研究資料を開く。

 最初に書かれていたのは、神の存在にダメージを与える魔法ーー神撃魔法についてだった。

 魔法陣や理論が書かれていて、実践と修正を繰り返した事が見て取れる。

 しかし、これは完成していないらしい。

 ページの最後に、存在にダメージを与える為の何かが足りないとメモ書きのように書かれていた。


 神撃魔法を後にし、次に研究していたであろう魔法のページをめくる。


「っ、これは……」


 そこに書かれていた魔法にノブナガはつい声を漏らした。

 その声に気になったように資料を覗き込むネルラ。


 そこに書かれていたのはーー時空魔法。

 正確には、空間魔法で世界を超えられないか研究していたようだ。

 もちろん、上手くいかなかったようだ。


「理由は……『世界同士で時間の流れが違うからだと思われる。世界同士の時間を固定し、世界の境に穴を開けられれば可能かもしれない』…………時間の流れ?」


 ページの最後に書かれていたメモ書きを読んだノブナガは頭の中でスパークした。


「そうか……そういう事か!!」


 突然ノブナガのテンションが上がった事にネルラは訝しげな目でノブナガを見る。


「何かわかったのかしら?」

「あぁ。これで、間違いなく完成する。時空魔法が!」


 ノブナガは興奮気味にそう言うと、“ストレージ”から紙とペンを取り出して魔法陣を書き出した。

 いつも書いているものよりも複雑かつ大きな魔法陣。

 ネルラは魔法陣なんて見てもわからないので、ただ眺めているだけだ。


 そうして、完成した魔法陣。

 それを覚え、詠唱化させたノブナガは右手を虚空に突き出して左手を右手に添えるような構えを取る。

 目を瞑り、集中する。


 想い浮かべるのはエリーナの姿。

 世界を超えるのにも転移先の座標が必要になる。

 だから、まずは転移先を探らなくてはいけないのだ。


(エリーナさんっ)


 心の中でエリーナの名前を叫ぶ。

 しかし、今は世界が違うので見つかりようがない。

 世界を渡った探知など、不可能である。


(エリーナさんっ)


 それでもノブナガは呼ぶ。

 心の中で、求める者の名を。


「ちょっ、ノブナガ!」


 耳からネルラの叫声のような声が聞こえてくる。


 ノブナガは目を瞑っていて気づかなかったが、この時ノブナガから通力とは違う金色の光が漏れ出していたのだ。

 金色の光に比例し、ノブナガのMPはバケツをひっくり返したように減っていっている。

 10万もあるMPがもう半分も消耗しているのだ。


(エリーナさんっ!)


 その光はエリーナの名前を呼ぶ毎に強さを増し、ついには白い部屋が金色に染まる。

 それと同時に、ノブナガのMPがさらに減り、意識が沈もうとしている。

 それでも、集中力を切らす事はない。

 何度も何度も心の中で呼ぶ。


 そして、


(っ!?見つけた!!)


 世界の向こうのエリーナを見つけ出した。

 奇跡とも言える事に、ノブナガは一瞬集中力を切らしそうになりながらも、エリーナを転移先の座標として固定し詠唱する。


「時空は今この瞬間に開かれるっ。我が前に現れるは世界を渡る金色門!ーー“異門(ゲート)”!!」


 人間界と吸血界の時間は今この瞬間だけ同じになる。

 そして、いざ開かれようとしたその時、ついにノブナガのMPが底をついてしまった。

 世界を超える為の代償(MP消費)は伊達ではないようだ。


(まだだっ!!)


 ノブナガはスキル“限界突破”を発動する。

 すべてのステータスとMPが5倍になり、復活したMPをまた“異門(ゲート)”に注ぎ込む。


 それでも、バケツをひっくり返したように消費するMP。

 何度も意識が飛びそうになるのを耐えーー


 ーーそして、ついに開かれた。



 世界を超える、金色の膜が。

最後の方、適当ぽくなってしまいましたが、後でちゃんと回収するで、今はそっとしておいて頂けると助かります。 作者より

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