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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
迷宮都市ババロン編
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戦う少女たち その2

 右手に集められた魔力が爆ぜ、それと同時に空間が大きく揺れた。

 地震なのではなく、空間そのものが揺れたのだ。

 その衝撃は強力で、この空間全体に響き渡った。


 分身体のノブナガが展開した結界は容易く破壊され、さらに後ろにいたノブナガたちの結界も破壊する。

 3列目の結界は数秒の拮抗を見せた後に破壊され、4列目で結界を破壊されながらも食い止める事が出来た。


 しかし、13体もいたノブナガは一瞬にして消し飛ばされ、今は“限界突破”のお陰で耐える事が出来た“K”ノブナガ1人である。

 その分身体も、空間爆砕のせいでボロボロの状態だ。


「ほお。我が魔法を耐えるか。大した虚像よな」

「はぁ……はぁ……はぁ……“震空(ディザスト)”。やっぱり、空間魔法が使えたか……」


 サランの言葉を軽く無視し、“K”ノブナガは肩で息をしながら呟いた。

 空間魔法“震空(ディザスト)”は空間そのものを揺らす魔法だ。

 サランが空間を超えてやって来たので、空間に干渉できる魔法が使えるとは想像していた。

 だが、まさか詠唱なして魔法を発動させるとは思いもしなかったようだ。


「の、ノブナガさん!ーー“再逆(リケイル)”!!」


 駆けつけたエリーナが再成魔法で“K”ノブナガを回復させる。

 HPはおろかMPまで元通りになる“K”ノブナガだが、すでに切り札(“限界突破”)を切ってしまった為に、活動時間が限られている。

 どうにかして、残りの制限時間までにケリをつけなければならない。


([+多重分身]……は心持たないな。また“震空(ディザスト)”みたいな広範囲魔法をされたら今度こそ耐えられない……ここは別の方法で凌ぐしかない)


 本体の100分の1を10体出した程度では防ぎ切れないと悟った“K”ノブナガは“ストレージ”からアーティファクトを取り出した。


 3世代前の携帯ゲーム機のような、それ。

 もちろん、あの汎用型召喚アーティファクト“アドバンス・サモナー”である。

 ソフトである魔力結晶はすでにセット済み。


 そこに、“アドバイス・サモナー”と同時に取り出した召喚カードを差し込んだ。


「来い、“ネオバイコーン”」


 そして、“K”ノブナガたちの傍に召喚されたのは、不純を司る二角獣ーー“バイコーン”である。

 しかし、その姿は自然のものとは少し違う。


 代名詞である2本の角は透け通るような紫の鉱石で出来ており、4本の足裏には人工のものが装着されていた。

 間違いなく、ノブナガが魔改造した形跡である。


「みんな、昨日ぐらいに俺が渡したアーティファクトを使ってくれ」


 ネオバイコーンを召喚した“K”ノブナガは作戦開始前に配ったアーティファクトを取り出してもらった。


 それは5センチほどの筒のようなカプセル。

 片端には小さな魔力結晶が取り付けられており、もう片方は空洞になっている。

 そして、そのカプセルの内側には薄っすらと見える魔法陣が。


 エリーナたちは空洞になっている方を上に向けるようにして掲げ、アーティファクトを起動させた。


 魔力結晶から魔力が消費し、カプセルの内側の魔法陣が淡く光を放ったかと思うと、次の瞬間に出現するのは幻想獣たち。


 エリーナが召喚した、肉体すべてが水でできた女性ーー“ウンディーネ”。

 ザンが召喚した、黒い皮膚をした三頭獣ーー“ケルベロス”。

 カレンが召喚した、大きな翼を広げる紅色の聖鳥ーー“ガルーダ”。

 アリンカが召喚した、1メートルの一角を生やした巨大な兎ーー“アルミラージ”。


 創造されし4体の幻獣。

 そのすべてが、生物に存在し得ない鉱物が組み込まれている。


 ヤバそうな武装をした幻想獣が突然5体も出現し、魔族たちは警戒しながら驚いている。

 そして、出した本人たちも盛大に頰を引き攣らせていた。

 自身の身長を上回る武装幻想獣(ネオ・モンスター)たちに、さすがに無視できない驚きがあったのだろう。


 固定型召喚アーティファクト“サモンズ・コア”


 “アドバイス・サモナー”と違い、筒の内側に刻まれた魔法陣以外の幻想獣を召喚する事は出来ない。

 しかし、それゆえに消費魔力は少なく、何より戦闘中でも使いやすい形へと変えられた。


 そんなその場にいる全員が唖然としている中、“K”ノブナガはネオバイコーンに指示する。


「行けっ、ネオバイコーン!!」


 命令を受け、ネオバイコーンは弾かれたように飛び出した。

 蹴った地面がバンッという音を立て、それを置いていくかのように駆け出した。


「っ、喰らえ!」


 そんなネオバイコーンに対し、真っ先に我に返ったハチ男が迎撃せんと[+連針]を放つ。

 “毒針”がネオバイコーンを阻む壁となって襲いかかる。

 駆ける速度の速いネオバイコーンでは回避不可能なタイミング。

 横跳びという緊急回避行動ができないネオバイコーンの身体を針が突き刺さろうとした瞬間、


 ネオバイコーンは空を蹴った。


「ッ!?」

「なんだと!?」


 あり得ない回避をされた事にハチ男は目を剥き、ウナギ男は声を上げた。

 ただ裏足に付けられた物……“空踏”と[+縮地移動]が“生成”されたユニットを使っただけなのだが……

 そんな事を普通の者が想像できるわけないので、驚くのも無理はないだろう。


 ネオバイコーンが宙へと回避する間に、エリーナたちが召喚した武装幻想獣(ネオ・モンスター)も動き出す。


 鋼の角と両脚にユニットを付けたアルミラージーー“ネオアルミラージ”が兎のように前に飛び出した。

 巨体となった事で強くなった脚力で途轍もない迫力で迫るネオアルミラージ。


 迫り続けるネオアルミラージがキイィィィイイイイという音を立て始めたかと思うと、額の鋼の角がドリルのように回転し始める。

 額のドリルを突き出しながら迫る様は、まるで己自体を一槍となったかのようである。


 そんな一槍の前に躍り出たのは、カメ男だ。

 スキル“鋼鉄化”を発動し、自慢の甲羅でネオアルミラージを受け止める。


 激しく火花を散らしながらも、どうにか受け耐える事が出来たカメ男。

 ほんの一瞬、安心したようなため息を漏らす。


 が、それも束の間のことで、次の瞬間にはユニットで“豪脚”を発動したネオアルミラージの蹴りを喰らい息を呑む事となる。

 “鋼鉄化”している甲羅には擦り傷1つ付いていないが、威力まで抑えられるわけではない。

 強く踏ん張りながらも、後方へと蹴り飛ばされるカメ男。


 カメ男が蹴り飛ばされるのを目端に、蹴り終わった体勢のままであるネオアルミラージに這い迫るヘビ男ーークグゥ。

 足に絡みつき、そのまま全身で絞め殺そうと考えていたクグゥだったが、やはり阻む者……武装幻想獣(ネオ・モンスター)がいる。

 透き通る紫の爪と三色の真珠のようなものを付けている首輪を一首ずつ付けたケルベロスーー“ネオケルベロス”だ。


 ネオケルベロスは魔石の爪に“生成”されたスキル“風刃”を使い、地面を這っているクグゥに向かって振り下ろす。

 危うく胴体をちょん切られそうになるクグゥだったが、どうにか長い胴体を仰け反らせて躱す。

 そのままネオケルベロスの足元に入り込み、爪の攻撃が来ないようにする。


 ネオケルベロスによって奇襲が失敗してしまったクグゥは、仕方なく標的をネオアルミラージからネオケルベロスへと変える。

 足元からネオケルベロスの足に絡みつき、長い身体を使って全身を縛り上げる。


 肉どころか骨も縛られているようで、ミシミシと軋む音が鳴る。

 その音と同時に、ネオケルベロスが苦痛の声を漏らす。


「ふははははっ、どんなに胴体がデカかろうと所詮は脳のない獣だな!このまま絞め殺してーー」

「《五剣・“隔間(ディレイズ)”》!!」


 ネオケルベロスを締め上げているクグゥが鋭い牙を剥いた瞬間、アリンカが浮遊剣型攻守混合アーティファクト“天下五剣”を差し向ける。

 空間をズラす魔法“隔間(ディレイズ)”を発動しながら振るわれた浮遊剣は、ネオケルベロスに絡みついているクグゥの胴体を容易く斬り裂いた。


「ぐはっ!」


 深々と斬り裂かれたクグゥは堪らず拘束を解いてネオケルベロスから離れる。

 5箇所の傷を負いながらも俊敏に動く様は、間違いなくベビである。


「これでも喰らえ!」


 指鉄砲をネオケルベロスに向けたウナギ男。

 その指先から放たれた稲妻は寸分違わずネオケルベロスに迫り来る。

 野生の感で稲妻を察知したネオケルベロスだったが、背後から近づいてくる武装幻想獣(ネオ・モンスター)に気づくと回避をやめた。


 そして、その背後から近づいてきた武装幻想獣(ネオ・モンスター)……両手と額、それに胸元に宝石のようなものが飾られたウンディーネーー“ネオウンディーネ”が、ネオケルベロスの前に躍り出る。


 瞬間、狙い違わずネオケルベロスを射抜くはずだった[+閃電]は、まるでネオウンディーネの胸元の宝石に引き寄せられるかのように吸い込まれた。

 結果、何事なかったかのように終わる。


「なな、なに!?」


 少し自信があった[+閃電]がこう何度も防がれる事に驚きの声を漏らさずにはいられないウナギ男。

 胸元の宝石には重力魔法と空間魔法が“生成”されており、拡張された宝石内に吸い込む事が出来る。

 さすがに生物や大きい物は吸い込まないが、音速を超える稲妻ぐらいなら吸い込める。


 そして、ネオウンディーネの特徴は吸い込んで無力化するだけではない。

 吸収するのであれば、その放出も可能である。


 ネオウンディーネの胸元がピカリと光る。

 まるで、雷が落ちる瞬間のように光ると、お返しとばかりに光の柱がウナギ男に放たれた。

 吸収した[+閃電]が重力魔法によって圧縮されて放たれたそれは、射程範囲は狭ばまれど威力は向上する。


 返された[+閃電]を“放電”を使って相殺したウナギ男。

 ネオケルベロス以外を狙いに定めて[+閃電]を放とうとも、ネオウンディーネの両手に飾られた宝石から放たれる強力な引力に引き寄せられ、また胸元の宝石に吸収されてしまう。


「エリーナさんっ、ザン!カレン!!今のうちに、ハチを倒すっ!アリンカはベビの足止めを!!」


 素早く指示を飛ばした“K”ノブナガは剣を手に荒れる戦場を駆け出した。

 “K”ノブナガの言葉に応えたカレンは上空から炎魔法で牽制しつつ、ザンは“K”ノブナガに並んで駆ける。


「くっ!鬱陶しいっ!!」


 羽が燃やされた事で機動力を失ったハチ男だったが、上空から降り注いでくる“フレイム・ボール”の数々を自足で躱す。

 そして、躱しながらも地を蹴って迫り来る“K”ノブナガとザンに向けて[+連針]を放つ。

 躱しながらのせいもあり、なかなか狙いが定まっていないようだ。


 だが、それでも当たりそうな“毒針”もあるので、“K”ノブナガが結界を正面に[+局所展開]する事で防ぎ接近する。


 そして、その光景をジッと眺めていた魔王サランはーー


「はぁ……また物量か。芸がないな。つまらん」


 ゆっくりとした動作で、右手を虚空に突き出すサラン。

 その右手には魔力が凝縮され、唸るように脈立つ。

 その尋常じゃない魔力の集まりは、間違いなく空間爆砕の予備動作である。


「砕けよ」


 その言葉と同時に、魔力が爆ぜ空間が揺れる。

 さっきのように、殲滅するのが目的だろう。


 が、分身体ではあるが、ノブナガが一度見て警戒したものに対策を立てないわけがない。


「ネオバイコーンッ!!」


 何のために、ネオバイコーンをフリーにしていたのか。


 それは、この空間爆砕を封じる為である。



 “空踏”を使って空中に留まっていたネオバイコーンは、特徴的な二角を魔王へと突き出す。


 瞬間、透き通る紫の角が振動し、大気の揺れが視認できるほどの揺れを発生させる。

 二角には空間魔法が付けられており、正確には大気ではなく空間を揺らしている。

 そう、ネオバイコーンの角は、今サランが使った“震空(ディザスト)”と同じ効果があるのだ。


 そんな空間爆砕同士がぶつかり合えばどうなるか。


 不安定な空間同士がぶつかり、それ以上空間を揺らす事ができなくなる。

 つまり、空間爆砕の相殺である。


「むっ」


 これには、さすがの魔王も困惑の声を漏らす。


「ネオケルちゃんっ、押さえ込んで!!」


 “K”ノブナガの隣を走るザンがネオケルベロスに指示を飛ばす。


 ネオケルベロスは仲良く三頭の口を開け、魔王サランへと向ける。

 そして、首輪に付けられている真珠のようなものに“生成”されている魔法を繰り出す。

 炎、雷、氷の3系統が一気に放たれた。


 3色の光線がサランに襲うが、空間遮断を張られて防がれてしまう。


「青炎・槍・ 一突き・放つ・燃えるーーブレイズ・ランス!!」


 カレンから放たれる青き炎の槍。

 燃え盛る青炎がハチ男に命中、爆発と共に吹き飛ばされる。


「行くぞっ、ザン!」

「うんっ!!」


 “K”ノブナガとザンはギアを上げ、未だ宙を舞うハチ男へと迫る。

 ハチ男に追いついた“K”ノブナガとザンは追い越しざまに剣を振るう。

 クロスするように2本の剣閃が煌めき、ハチ男を斬り刻む。


「ーーッ!ゴホッ」


 斬られた事で声にならない叫声を上げそうになったハチ男だったが、追い打ちをかけるかのように2人から放たれた蹴りが出そうとした息を詰まらせる。

 さっきとはまったく別方向へと飛ばされるハチ男。


 一気に畳み掛け、ハチ男を倒そうと追撃をかけようとする“K”ノブナガとザンだったがーーまたもや響く、魔王の声。


「我が力が空間を操るだけだと思うなよ」


 そんな言葉と共に光る、サランの左目。

 ダークパープルの瞳に、魔法陣のような模様が浮かび上がる。


 瞬間、ザンの動きが止まった。


 否、固まったのだ。


 ーー石となって。


「ーーッ!?ザン!!」


 それを隣にいた“K”ノブナガがいち早く気づき、驚きと焦りを織り交ぜたような声を上げる。

 そんな声に、一同の視線がザンに向く。


 魔族たちが感激の声を漏らす中、“奪還者”の面々は驚きのあまり息を詰まらせた。


 ザンの様子は、まさしく石の状態だった。

 動きも表情も、そして服すらも石と成り果てたその姿に、驚かずにはいられないのだろう。


「ッ、エリーナさん!」

「過去に残されし記憶を呼び戻せ!ーー“再逆(リケイル)”!!」


 一拍置いて我に返った“K”ノブナガがエリーナに再成魔法をかけて貰おうと呼びかけるが、すでに詠唱に入っていたらしいエリーナが魔法を発動させる事で応える。

 一切動かぬ石となったザンだったが、次の瞬間には再成魔法のおかげで元に戻る。


「大丈夫かっ、ザン!?」

「ッ!?はぁはぁはぁ……大丈夫だよ、ノブちゃん」


 詰まった息を吐き出すと、“K”ノブナガに答える。


「ほお。我が“魔眼”の呪いを解いたか。中々やるようだな、アプリーの娘」


 視線をスライドさせ、エリーナに向ける。

 そして、また左目に模様が浮かび上がる。


「ッ!!」


 それを見た瞬間、“K”ノブナガは[+縮地移動]でエリーナの前にやって来る。


 エリーナの代わりに“魔眼”を受けた“K”ノブナガだったが、なんの変化も見られない。

 これには目を細めるサラン。


「ふぅ……賭けだったけど、ちゃんと“毒呪耐性”が効いたみたいだな」


 安心したようにため息を漏らす“K”ノブナガ。

 サランが『“魔眼”の呪い』と言ったのを聞き、もしやと思って“毒呪耐性”に頼ってみたのだが、うまくいったようである。


「まあ、いい。殺すのに少し手間がかかるだけだ」


 最初は、どうしてノブナガに“魔眼”が効かなかったのかを考えていたサランだったが、どうでもいいで自己完結して次の行動に移す。


 まず、“魔眼”の視線をネオケルベロスへ向ける。

 止めどなく、サランを抑える為に3系統の魔法を放っていたネオケルベロスだったが、その身体をさっきのザン同様に石となる。


 エリーナがまた再成魔法を詠唱し始めるが、サランは更に視線を動かして宙にいるネオバイコーンを石化させた。

 空中からガタンッと落ちてくるネオバイコーン。


「さて、これでもう防げまい」


 右手に魔力を集め出すサラン。


 それを目にした途端、“K”ノブナガはマズいと顔を歪める。

 相殺してくれるネオバイコーンは石に変えられてしまった。


 わざわざネオバイコーンを石化させたのは、それが理由だったのだ。


「(さっきの呟きはそう言う事かっ!)みんな退がれ!ネオガルーダはみんなを守れ!!」


 みんなが後ろへと退がる中、“K”ノブナガだけが前に出る。

 今出せる10体の[+多重分身]体を召喚し、5人2列で結界を[+局所展開]させる。


 後ろでは、紅い翼と首、それに長い尻尾にユニットが付けられたガルーダーー“ネオガルーダ”が女子陣全員を翼で包み込んでいる。


「砕けよ」


 防御体勢が完成すると同時に放たれる、空間爆砕。


 結界に[+衝撃反射]を付け足してみるも、特に何もなく結界が壊される。

 が、壊される間にできた時間で、“K”ノブナガは詠唱を完成させる。


「空間は固定するっ。この境は不進の領域!ーー“絶界(クローズド)”!!」

前回と似た終わり方ですいません……


今回で「戦う少女たち」を終わらせようと思ったんですけど無理でした……

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