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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
城塞都市ガラール編
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62/123

“仙人”とは……?

 軍の拠点を目指して砂漠を歩くノブナガ一行。


 途中で休憩を挟み、そして今その拠点にたどり着いた。


「見張り番が“遠目”で見えない範囲に結界張って、みんなは待機」

「ノブナガは?」

「捕虜の救助。全員逃すとなるとバレずには無理そうだし、ここまで連れてくるから保護を頼む」

「わかったー」

「気をつけてくださいね」

「はい。行ってきます」


 そう言って、ノブナガは空間歪曲から出て、1人拠点へと向かう。

 出るなり、気づかれないように“隠形”と“気配遮断”を発動させ、本気で気配を消す。

 これで、例え目の前を通られても鈍い奴なら気づく事はないだろう。


 そうやって歩く事、数分。

 拠点の簡略に建てられた砦も前に到着する。


(見張りは……いない?入り口にもいないなんて不用心だな)


 砦の外から高台らしきものを発見するが、そこには誰にもおらず、出入り口であろう場所にもいない状態。

 何かのトラップが仕掛けられているのではと、魔力の[+特定探知]を発動させるが、侵入妨害らしき罠もない。

 一応“気配探知”も発動させてみるが、入り口から数百メートルの範囲には誰もいない事がわかった。


 ちょっと不審に思いながらも、堂々と拠点に入っていくノブナガ。


 入り口から入ってみると、目の前には大きな建物があった。

 たくさんの気配が移動している事から、騎士たちのどこなのはわかる。

 その大きい建物と繋がって建っている小さ目の建物には、数人の気配がチラホラある。

 小さ目な建物の窓から建物の中の様子を伺ってみると、騎士たちがガヤガヤと騒いでいる部屋があった。

 二段ベッドが並んでいる事から、この小さい建物は騎士たちの就寝室なのだろう。


 ノブナガはそう当たりをつけ、さらに気配を探る。

 すると、拠点内に大きい建物と小さい建物から少し離れた場所に十数人が固まっている気配を捉えた。


 その気配の場所に向かう。



 そこは見るからに監獄だった。


 建物の大きさは小さい建物と比べても小さく、唯一の出入り口であろう扉も鉄格子である。

 その建物の周りには、立ち入り禁止とでも言うかのような鉄線が張られている。


(ここまでしっかりした作りのくせに、見張りがいないのか?さすがにざらじゃね?)


 そんな事を思いながら、とりあえず中に入ってみる。


 鉄格子は鍵がかかっていて開かなかったので、適当に“錬成”して中に入った。

 中は窓もないので、牢獄一つ一つに付いている蝋燭の火だけが頼りのような状態だった。

 “夜目”で気配が固まっているところまで歩き、そしてようやくその姿を目にする事が出来た。


 数人が入った牢獄の前に立つノブナガ。

 そんなノブナガに恐怖の目を向ける者、興味がなさそうに見る者、そして目が死んでいる者と、別々の反応が返ってくる。

 そんな人たちから視線を逸らし、他の牢獄に目を向けると、他の牢獄からも同じような反応が返ってきた。


 そんな人たちを目にしたノブナガはかつての奴隷時代を思い出し、拳を強く握り締めた。

 特に、目が死んでいる者を見ると思い出す。

 生きる屍のような者たちの事を。


 ノブナガは怯えを与えないように、明るく優しい声で話しかける。


「あなたたちは、ラン公国の人ですか?」

「…………(コクン)」


 当たり前のような事を聞かれた捕虜の人たちは、怯えながらも恐る恐る頷く。


「僕はアンディエル帝国の騎士ではありません。どちらかと言えば、帝国の敵です。あなたたちを助けに来ました」

「ほっ、本当に!?」


 ノブナガがそう言うと、怯えていた女の子が目を輝かせて勢い良く鉄格子に手をかける。


 その女の子はノブナガよりも年下で、どう見ても軍に所属しているとは思えない。

 こんな関係のない女の子まで捕虜にして巻き込んでいるのかと、ノブナガの中に怒りが込み上げてくる。


 しかし、今は目の前の事だ。

 胸の中を隠し、女の子の言葉に頷こうとする。


 が、


「はっ。そんなの嘘だろ」


 それよりも先にそんな言葉が吐かれた。


 女の子が入っている牢獄と対象になっている牢獄に目を向けて見ると、そこには他の人よりも酷い状態の男がいた。

 両腕には火傷のような痕がいくつもあり、顔はどこもかしくも腫れていた。

 それを見ただけで、酷い仕打ちを受けたのだとわかる。


「ここは軍の拠点だぞ。ここまで侵入するのに誰も気づかないわけねぇだろ。第一、俺たちを助けてあんたに何のメリットがあんだよ」


 吐き捨てるように言うその男の目は、驚く事に死んではいなかった。

 この絶望の中、ノブナガが罠である可能性を捨てずに思考している。

 絶望している者ならまだしも、正気のある者からそんな言葉が飛び出してくるとは、ノブナガも思わなかった。


 そんな男を驚いたように見た後、少し面白くなって口端を釣り上げる。


「そうですね。あなたの言う通り、疑われても仕方ないです。それじゃあ、まずどうやってここまで侵入して来たかというと」


 証明するように、ノブナガは“隠形”と“気配遮断”を発動。

 目の前にいたはずのノブナガを見失い、捕虜の人たちが戸惑いの声を漏らす。


 少しして、パッと解除する。


「こんな風にしてここまで来ました」


 これには反論した男も口をポカンと開けた状態で固まっている。


「そして、僕があなたたちを助けるメリットですけど……冷静に聞いてくださいね?」


 そう前置きをした後、ノブナガは今回の捕虜公開処刑の作戦について話す。


 それを話すと、反応は十人十色。

 青ざめる者や頭を抱える者、神に祈りを捧げる者などいろいろだ。


「というわけで、僕は都市の人々を巻き込まない為にも戦争の激化を止める必要があるんです。これが僕があなたたちを助けるメリットです」

「…………そうか。帝国はそこまで出ちまったか」


 最後まで聞き終えた男は、何か残念そうな顔で天井を見上げた。


(軍人だったのか?)


 男の反応からそんな事を考えるノブナガだったが、今は一刻も早く脱出させる必要がある。


 ノブナガは“錬成”で牢獄に穴を開け、捕虜の人たちを出す。

 さらに“ストレージ”から絨毯を取り出した。

 絨毯といっても、ただの絨毯ではない。


 誰も居なくなった牢獄の中で広げると、魔法陣が描かれている。


 この魔法陣は空間魔法で、対となっている魔法陣に転移できる。

 これと対になっている魔法陣の絨毯は、エリーナたちがいる空間歪曲の中に置いて来た。

 空間魔法で転移する事は出来るが、詠唱して発動するとなるとどうしても座標を認識しなくてはならない。

 必然的に視認している場所にしか転移できない為、こうして魔法陣や術式に頼っているのである。


「この上に乗ってください」


 十数人の捕虜が訝しげながら絨毯の上に乗る。

 脱出するとは扉から出るという認識しかない人たちにとっては、訝しむのも仕方ない事だろう。


 みんなが絨毯に乗る中、ノブナガの袖が引っ張られる。

 それに気づいて視線を動かすと、最初に反応してくれた女の子がノブナガの袖を掴んでいた。


「どうかした?」

「あの子は?」

「あの子?」


 女の子が少し離れた牢獄を指したので、ノブナガはそっちに視線を向ける。


 そこには、10歳ぐらいの女の子が1人いた。

 座った状態で微動だにしない顔。

 足には壁に繋がれた鎖が付けられている。


 ノブナガは思った。


 ーーこれヤバい奴じゃね?


「え、えーと……あの子は?」

「わかんない。わたしが来る前から居たから」

「そ、そうか……」


 正直な気持ち、すごく助けたくないノブナガさん。


 だって、鎖で固定されてる時点でヤバい奴決定じゃん!

 しかも、女の子相手にそれをするって事は、それ相応のヤバさって事でしょ!?

 絶対に関わっちゃいけないやつじゃん!!


 心の底からそう叫びたいノブナガさん。

 しかし……


 チラッと女の子を見る。

 純粋無垢でキラキラとした目をノブナガに向けていた。

 ノブナガが助けてくれる事を信じ切っている顔である。


 こんな女の子に、下衆な事を言う勇気が出ないノブナガ。


 キラキラした目の女の子にサムズアップで答えると、ノブナガは“錬成”でヤバそうな女の子がいる牢獄へと入っていく。

 牢獄の中は特に何もなく、女の子がいるだけだった。


 とりあえず、声をかけるノブナガ。


「えっと、脱出するけど……大丈夫?」


 なんと声をかければいいのかわからなかったノブナガは、自分でもよくわからない事を問いかけてしまった。

 ノブナガの頬に冷や汗が流れる。


 女の子は女の子で、ノブナガの顔をジッと見つめている。

 肩まである緑髪の隙間から、まるでデフォルトのような顔でノブナガを見ている。

 なぜジッと見られているのかわからないノブナガは苦笑してしまう。


 すると、ようやく女の子が口を開いた。


「生命の光」

「え?」


 ぼそりと呟かれた言葉に、ノブナガはつい聞き返してしまった。

 だが、『生命の光』と言われ、心当たりがないわけではない。


(通力の事を言っているのか……?)


 生命の、とまで来て光となると、考えられるのは通力である。

 が、どうして女の子が通力の存在を知っているのか……


 この時、ノブナガはやっぱり関わっちゃいけないものに関わってしまったと、思った。


「わたし、スフィ」

「え?あ、俺はノブナガ。とりあえず、脱出するけどいい?」


 なぜここで名乗られたのかはわからないが、とりあえず自分も名乗っておく事にしたノブナガ。

 足に付けられた鎖を“錬成”で強引に引き千切り、女の子を絨毯の上まで運ぶ。


「これで全員ですか?」

「……実は、村長が帰って来てないんだ」

「村長?」


 さっきの軍人の男が、言い辛そうに切り出す。


 村長という事は、ここの人たちのほとんどが村の人たちという事だろう。


「自分たちの命を保証してもらう為に、村長が代表で掛け合っているんだ。だけど……軍の奴らの真っ只中に村長はいる」

「なるほど。ちょっと急がないとヤバそうだな」


 男の話を聞くと、ノブナガの顔が少し険しくなる。


 まだここまで捕虜の公開処刑の作戦の話が来ていないが、それがここまで来れば間違いなく村長は拘束される。

 さらに増援の軍隊も来るのだから、厄介な事になるのは避けられない。


「わかりました。村長さんの特徴を教えて下さい。僕がささっと助けて来ます」

「む、無理はするな。切り捨てたくはないが……これ以上君を危険に晒すわけにはーー」

「大丈夫ですよ。パパッと行ってくるんで、先に脱出していて下さい」


 ノブナガは特に危機感を出さずに言う。


『てすてーす、こちらノブナガ』

『あ、ノブナガさん』

『準備が出来ました。これから捕虜の人たちを送ります。ただ、村長がいないみたいなんで、その人を救出してから行きます』

『わかりました。気をつけてくださいね』

『はい』


 念話で連絡が終わったノブナガは、魔法陣に手を当てる。


「それじゃあ、行きます。動かないで下さい。ーー“天界(バイプ)”」


 瞬間、魔法陣の上に存在する空間が入れ替わり、ノブナガの目の前には誰もいなくなった。


 絨毯を片付け“ストレージ”に放り込んだノブナガは“気配探知”でそれらしい気配を探る。

 気配だけではよくわからないので、気配をフルに消して大きな建物に侵入。

 時に物陰に、時にドアの裏に、時に天井に張り付く事で誰にも気づかれる事なく建物内を彷徨(うろつ)いている。


 そんななんの変哲も無い廊下を歩いていたその時、近くの部屋から話し声が聞こえてくる。

 外まで声が聞こえてくるという事は、ただの世間話というわけではなさそうだ。

 ノブナガは音も無く声が聞こえてくる部屋の前まで移動し、ガラスになっている部分から中を覗き込む。


 そこには、長机に囲まれた白髭のハゲたお爺さんと、向かい合うように豪華な塗装の椅子に座っている豚……失礼、太った男と付き添うように立っている細身の男がいた。

 太っている男は、お腹を上に向けて座っていた。

 いや、おそらくそうでないと座れないのだろう。


 一瞬、あの豚に目が釘付けになったノブナガだが、頭を振って現実に帰ってくる。


「どうしても、我々村人たちの命の保証はできませんか?」

「掛けられたものが村付近の鉱山発掘許可書だけだろ?お前たちの命はそんなにも無価値なのか?」

「鉱山で採れる鉱石はっ、我々が生きていく上で重要なものです!それ無くては生きていくのもやっとですっ。どうかっ、それで勘弁してくれませんか!?」


 村長の必死な声が扉越しに聞こえてくる。

 その声は少し掠れていて、ずっとそのように懇願していた事がわかる。


 そんな必死に頭を下げる村長に対し、豚は干し肉をずっと食べていた。

 まるで、興味のないものを見せられているかのような目を村長に向け、側に控えている男に干し肉のお代わりを要求する始末。


 この時に、ノブナガが取るべき行動は決まった。


 まず、扉の前で拳を構えて振りかぶる。


 付き添いでいた男が干し肉を取りに行く為に部屋から出て来ようと扉を開けた瞬間、見知らぬ少年が拳を振りかぶっている光景に動きが止まった。

 が、次の瞬間には顔面を凹ませて吹き飛ぶ事になる。


 目の前に何が通り過ぎた事で、豚もようやくノブナガの存在に気づいた。


「な、何だ、お前は!?ここをアンディエル帝国の拠点としってブヒィ!!!!」


 椅子から立ち上がる豚だったが、その言葉を言い切る前にノブナガがビンタをぶっ放した事で倒れ込んだ。

 うつ伏せに倒れた豚を押さえ込むように背中を踏み付けるノブナガ。

 そして、急な出来事でポカンとしている村長に話しかける。


「どうも、ノブナガっていいます。ラン公国の捕虜の村長さんですか?」

「あ。は、はい」

「そうですか。実は事情があって捕虜の人たちを解放しています」


 とりあえず、あれやこれやを説明する。


 ただ、あまりに突然過ぎる事で村長はずっとイエスマンになっていた。


「他の人たちはもう脱出しました。さ、行きましょう」

「あ、はい」

「捕虜を解放しただと!?お前っ、帝国に刃向かうつもりか!!」

「ブヒブヒうるさい。家畜小屋に送り返すぞ」

「ふざけるな!しかも、お前っ。誰を足に履いているかわかってるのか!?」

「豚だろ?どうせ脂肪がクッションになって痛くないだろ」


 ノブナガの豚を見る目が、完全に冷え切っていた。

 確かに豚の脂肪がクッションになっているが、ノブナガが反発する力以上の力で踏んでいるので結構痛い。


「お前っ!余はビッグベェリィ家の五男で第19番隊隊長である“仙人”のピッグ・ビッグベェリィだぞ!!」

「いや、豚じゃん。ピッグは豚じゃん。しかも、言っちゃうと家名も直訳したら大きい腹だからな」


 ピッグ=豚

 ビッグ=大きい

 ベェリィ=腹である。

 完全に、名で体を表していた。


「てか、ちょっと待て。今お前、“仙人”って言った?」


 ここでノブナガさん、もっとツッコまなければならない事に気がついた。


「そ、それがどうした!?なんか文句あるか!?」

「……」


 ノブナガは思った。


 大有りだ、と。

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