異世界ホラー その3
時を遡って、ゾンビ民に襲われているザン、カレン、ガルアーク。
急な展開ではあったが、どうにか落ち着いて対処している。
…………ある竜人を除いては。
「ひぃぃぃいいいいいい!ヤバいッスっ。ヤバいッスよ!!直視出来ないぐらいっ外見がヤバいッスよーーーー!!」
「もぉお!カレンっうるさい!!騒ぐか、対処するかどっちかにして!!」
1人の炎竜が両手で目元を覆いながら、ゾンビ民が伸ばしてくる腕を器用に躱しながら足を払って転倒させていた。
まるでそれが普通のように気にしていないザンだが、初対面なガルアークは目元をひくひくさせながらゾンビ民を捌いていた。
対処が結構ギリギリなガルアークさんとしてはザンの言葉によって、ぜひ対処を選んでもらいたいと思うのであった。
すると、相手の勢いを利用して転倒させていたザンがふと虚空を見つめ始め、ふむふむと頷き始めた。
それと同時に若干顔が真っ青になるカレン。
急な2人の変化に目を点にして首を傾げるガルアークさん。
「ぎゃゃゃぁぁぁぁああああああ!今若干服に触れられたッス!!感染するッスよーーーー!!」
青ざめていたカレンは捌くのに失敗して服にゾンビ民の手が触れたらしい。
なんの被害もないというのに、服に触れられただけでこの叫声だ。
竜らしからぬ、なんとも腰抜けな悲鳴である。
「カレン!聞いたでしょっ!さっさとやるよ!!」
いつの間にか、ザンの手に収められていたサングラスと白手袋。
サッとサングラスをかけ、右手に手袋を装着する。
伸びてきたゾンビ民の腕を払い、手袋をはめた手で魔法陣に触れ分解する。
魔法陣を分解する事自体はザンにとって容易い事だ。
しかし、問題があった。
精霊特有の魔力極小のせいで、どう考えてもザン1人で分解し切れる量じゃなかった。
こういう時はカレンに任せるのが一番なのだが……チラッとカレンを見てみれば四点空間遮断を張って避難していた。
さりげなくその中にガルアークも入っているので、完全にザン1人になっていた。
「ちょぉお!カレンさん!?お願いだから手伝ってはくれませんかねぇー!?」
「無理ッス!!自分はこういうのが一番苦手なんすから!!」
空間遮断の中で目を瞑って両手で耳を塞いでイヤイヤしていた。
ザンの声が届いている時点で耳の方は優秀に機能しているようだ。
カレンがダメならもうガルアークでも良いから手伝って貰おうと視線をスライドさせたザン。
その視線で何が言いたいのか察したガルアーク。
両手と首を動かして必死な無理ですアピールをする。
実はガルアークさん、この歳で恐いものが苦手だったりする。
カレンが居なければ、今頃発狂してたぐらい苦手だ。
今も鼓動が早まっていて心の臓がバクバクだったりする。
が、年長者の意地なのだろうか。
そんな表情や素ぶりを一切見せない。
と言っても、その努力も必死な無理ですアピールで今にも崩れそうだが……
『みんな大丈夫か?』
そこにノブナガから念話が入ってきた。
その声が、ザンにとって救世主の声に聞こえたのは今の状況からお察し出来るところだ。
『応援が欲しい奴は念話をーー』
『の、ノブちゃんっ。ヘルプミー!わたしの魔力量じゃこの数はキツいよー!カレンは怖がっててしようとしてくれないしー!!』
『……わかった。他は問題ないか?』
『こっちはもうすぐ終わりそうだから問題ないわ』
『私はまだ掛かりますけど大丈夫です』
『了解しました。無理だと思ったら言ってください。分身を送りますから』
そこで念話が切れる。
周囲を見渡すザン。
結構な数が残っているが、ノブナガが来ればすぐに終わるだろう。
問題はーー
「ノブちゃん来るまで持つかなぁ」
分解作用のある手袋は魔力結晶ではなく自前の魔力で発動しなくてはならない。
しかも、分解魔法は術式だとしてもザンにとっては無視できないほどのMPを消費するのだ。
カレンが正常やら問題ないというのに……
こっそりと通力を操作し、体内に行き渡らせる。
肉体を強化したザンは一斉に襲いかかってきたゾンビ民と対立する。
伸びてくる無数の腕を掻い潜り、すれ違いざまに魔法陣を分解する。
が、それが出来たのは数体だけ。
背後に立つザンに向かって、もう一度襲いかかる。
その前に、ザンが強化した膂力で地面を殴る。
一瞬にしてヒビが地面を駆け抜け、クレーターが捲れる。
それほどの膂力で殴られ、近くにいたゾンビ民たちは揺れる地面に足を取られて動きを止める。
そこに瞬光の如く、駆けるザン。
背後にいたすべてのゾンビ民の魔法陣を分解した。
怯えながらもザンを見ていたガルアークは、目で追う事が出来なかったザンの動きに目を剥いて固まった。
どんなステータスをすればあんな動きが出来るんだ、と改めてノブナガたちのおかしさにちょっぴり遠い目をする。
そんな無双のような光景を見せるザンだが、内心では追い込まれていた。
ぶっちゃけ、さっきので随分とMPが減った。
あと2回使えればいい方だ。
しかし、
「そろそろかな」
焦った様子を見せないザン。
それどころか、ゾンビ民を警戒しながらそんな事を呟く。
瞬間、狂気的な呻き声しか聞こえなかったところに、風を切るような音が耳に入ってくる。
それは一瞬の事で、聞き漏らしてしまいそうで、そして、壁を走った影を見逃してしまうほど一瞬だった。
ザンの背後に位置していたゾンビ民たちがバタバタと倒れる。
不思議な現象が起きた事に首を傾げるガルアークだが、次の瞬間には驚いたように目を剥いた。
ザンの背後に影が降っていた。
否、ザンの背後に誰かが降り立ったのだ。
それは言わずがもがーー
スケボーに片足を乗せているノブナガさんである。
「待たせた。結構ギリギリだった?」
「駆けつけありがとう。それはもうギリギリだよ。カレンはあんなだし」
「うわ、カレンの奴、目と耳完全封鎖してるし……て、ガルアークさんは何してるんだ?」
「さあ?なぜか避難してるんだよねー」
ノブナガがなんかよくわからない物に乗ってきた事にギョッと固まっていたガルアークを見て、ノブナガとザンはよくわからないと首を傾げる。
ノブナガですら、その冷や冷やとした内心は見抜けないようだ。
「ところでノブちゃん。さっきスケボーで壁を走ってるように見えたんだけど?」
「あぁ。スケボーのローラーに[+無法移動]を付けてみたんだよ。この前使った時に改良してみた」
「またビックリな物を作ったねー。後で使わせて」
「オーケー」
なぜかサムズアップし合う2人。
どうやらアニメの如く壁や天井すら走れるようになったらしい。
この前のキック力増きょーー“豪脚”を“生成”した靴を改良した時に、スケボーも魔改造したようだ。
「それでMPは?」
「あと2回使えれば良い方」
「じゃあ、これ使え。ザンでも至近距離なら当たるだろ?」
「ありがとう」
ノブナガは両手の“ガンゼール”をクルッと回して空中リロード。
それを背中越しにザンに投げ渡す。
見もぜず器用にキャッチするザン。
その間、ノブナガは“ストレージ”から白手袋を取り出して、右手に嵌めた。
今にもフィンガースナップで焔を出しそうな嵌め方だが、決してそんな機能はない。
いつか、作りそうだが……
それから2人の蹂躙……ではなく、解呪劇が始まった。
通力を使った強化でゾンビ民以上の動きを見せ、サングラス越しに見える魔法陣を超至近距離から撃ち抜き。
ノブナガは“錬成”で壁を作って一本道を構築し、そこを通ってくるゾンビ民を1人1人無力化していく。
それが開始されて、たった数分。
されど数分。
雪崩のように襲ってきたゾンビ民の影は1つもなく、あるのは地面に転がる一般人たちのみ。
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「というわけで、後処理は任せた」
「ちょっとは手伝ってくれたまえよ?」
「一般人に一般人の後処理させるなよ。急変者を抑えただけでも感謝状ものだろ」
エリーナやアリンカから終わった念話が届いてから数分が経過し、ようやく警備騎士が都市中を駆け回り始めてた。
ガルアークの所に部下がやって来て、他の地区に行っている部下も無事である事を知って、ホッとしていた。
とりあえず、ノブナガたちは調査しに行きたいので、面倒な後始末をガルアークたち警備騎士に丸投げしようとしている。
が、こんな状況を作り出したのはノブナガたちなので、どうしても原因を知りたい騎士としてはノブナガたちにいてほしいのだ。
それを面倒の一言で拒否、言っている事が若干正論なせいで強く出られないガルアークさん。
そこに1人の騎士がやって来る。
「団長、少しいいですか?」
「ん?なんだ?」
「あ、えっと、団長じゃなくてですね……」
話しかけて来た騎士の視線がノブナガをロックオン。
「俺に何か?」
「あ、はい!ライデンさんからの伝言を預かって参りました!!」
「ライデンさんから?」
「はい!ライデンさんから『おかしくなった人の中にターサさんがいた。至急来てくれ』との事です」
「ッ!?ザンっ!カレンっ!!」
その伝言を聞いたノブナガはさっきまでの雰囲気を一転させ、ザンとカレンを呼び寄せるとすぐさま“ゴルスケートボード”で東地区に移動する。
エリーナやアリンカにも念話を飛ばし、すぐにターサの喫茶店のレプランに来るように伝えた。
“ゴルスケートボード”を最速で飛ばしたノブナガたちは、すぐにさっきまでノブナガとライデンが居た場所までたどり着いた。
たくさんの騎士が居て、“治癒師”の者がボロボロの身体になった一般人を癒していた。
が、そこにライデンの姿はない。
手短にいた騎士に聞けば、ライデンはレプランの方に行ったらしい。
みんなとの合流地点と同じなので、すぐに向かい店内へと入っていった。
気配のある場所までズカズカと歩めば、1つの部屋の前までやって来た。
おそらく、この部屋はターサの部屋なのだろう。
コンコンコンッ
「ノブナガです。ライデンさん、いますか?」
しばらくして、扉が開いた。
そこからライデンが姿を現わす。
「……入って」
「お邪魔します」
ライデンの声がいつもよりも小さかったので、ノブナガも小さい声で言う。
その後ろをザンとカレンが付いていく。
部屋に入れば、1人部屋にしては広い空間と多くの家具があり、1人にしては広いベッドの上でターサが静かに息を鳴らしながら眠っていた。
胸元が上下しているので、死んではない事はわかる。
ホッと胸を撫で下ろすノブナガたち。
「ターサさんの容態は?」
「……回復魔法をかけて貰った……肉体は元に戻ったけど…………まだ意識は戻っていない」
「そうですか……」
魔力の[+特定探知]を使ってターサを見てみる。
さっきみたいな異常な魔力の流れが感じられないし、魔法陣もない。
これ以上、急変する事はなさそうだ。
あとは意識が戻って来るのを待つしかないらしい。
「あの、ターサさんがゾンビみ……おかしくなった人たちの中にいたっていうは本当なんですか?」
「……うん……他の人と同じく…………肉体がボロボロになってた」
「そうですか」
今回の騒動。
どう考えても人がするような事ではないし、魔法陣もこの世界の人間が構築できるようなものではなかった。
それに襲われる前に聞いた、あの脳に響くような音。
あれがまるで合図のようにも思える。
「連続殺人犯に襲われたターサさんがゾンビ民なった。これは偶然なのか?いや……」
(アイツの言っていた事……それがハマれば……)
「……ちょっと待って……ターサさんが連続殺人犯に襲われたって……どういう事?」
「?そのままの意味なんですけど……ターサさんが連続殺人犯襲われて殺されかけたじゃないですか?何を言って……」
「……そんな報告…………警備騎士は受けてない」
ライデンの言葉がノブナガの脳に染み渡る。
ノブナガは勘違いをしていた。
いや、考えてみれば当たり前の事だったのに、当然のように思っていたのだ。
ターサが連続殺人犯に襲われた。
これは間違いない事実である。
だが、それはノブナガの干渉によって未遂に終わった。
本来であれば、ターサは死体となって発見され、被害者リストに載るはずだった。
だが、未遂に終わり、現場もノブナガが“錬成”で整理してしまったので、事件があったなんて気づくはずがない。
ノブナガかターサ、もしくは黒装束が漏らさない限り。
ここで、ノブナガの頭の中に揃えられたピースがカチャリと嵌め込まれた。
「ライデンさん。今までの被害者の死体って、まだ残ってますか?」
「……?……1人目と2人目の死体はもう火葬されてた……でも……他の死体なら警備騎士が腐敗しないように預かっている」
「なら、その人たちの所に連れて行ってください。今すぐに」
「……今すぐ?」
「はい。お願いします」
「…………わかった」
有無を言わせないノブナガの重い言葉にライデンがコクリと頷く。
ターサのベッドの横に立てかけていた杖を手に取り、部屋を後にするライデンに続いてノブナガも部屋を出る。
「ザンとカレンはターサさんを頼む」
「オッケー」
「はいッス!」
そう言い残し、店を出ようとしたノブナガとライデンが今しがた到着したエリーナとアリンカと出会う。
その後ろにいる老夫婦に気づくが、特に気にする事はない。
「エリーナさん。俺とライデンさんは今から出てきます。二階の奥でターサさんが休まれているんで、看病の方をお願いします」
「わかりました」
「では」
短くそう言うと、ノブナガたちは足早に歩き出す。
背後から「ターサちゃんがどうかしたのかい?」という老夫婦の言葉が聞こえて来るが、先を急ぐノブナガとライデン。
時間短縮の為に“ゴルスケートボード”で向かう。
それほど遠くなかったのですぐだった。
「……ここ……警備騎士の死体保管庫」
「死体保管庫、て……」
「……正確には倉庫……警備騎士の中での呼び名」
それは逆にダメじゃね?と思うノブナガだったが、急ぐので軽くスルーする。
重々しい扉を開ける、ライデン。
ギギキィという音を立てながら開けられ、中から強烈な悪臭が漏れ出して来る。
さすがのノブナガも顔を強張らせる。
その中にライデンの後をついて入って行くノブナガ。
人が1人入れるほどの箱がずらりと並ぶ中を歩く。
どれも同じ箱なので見分けがつかないが、ライデンの歩みに迷いはない。
その迷いのない歩みが3つの箱の前で止まった。
ノブナガに目を向け、目でこれが被害者の死体である事を訴えて来る。
ノブナガは一度手を合わせ、それから箱を開ける。
傷口は回復魔法で治したのか、酷い状態ではなかった。
その死体を魔力の[+特定探知]で見る。
1人見ると箱を戻し、もう1つの箱を開けて、また見る。
そして、最後の1人も見たところで、ノブナガの口からボソリと言葉が溢れた。
「やっぱりだ……」
被害者の共通点。
それが、こんな形で見つかるとは思わなかった。
ノブナガの奥歯がギジィとなる。
共通点、それはーー
ーー同じ魔法陣が組み込まれている事だった。
**********************
一方、ノブナガたちが出て行ったレプラン。
ターサの看病をザンとカレンに任せたエリーナは、お客さんとして来た老夫婦2人をもてなしていた。
ちなみにアリンカはエプロンを着て、従業員をしている。
もちろん、着ているのはフリッッッフリのエプロンだ!
そんなアリンカが運んできた紅茶を一口。
その口からふぅ〜という息が漏れる。
エリーナの入れた紅茶は満足の出来だったらしい。
「それにしても……ターサちゃんが倒れてしまうとはねぇ」
「最近、こんを詰めていたみたいだし、これを期にゆっくりしてもらいたいわねぇ」
「お2人はこちらに通われてから長いんですか?」
一昨日に店を手伝った時にも居た事を覚えていたエリーナは、一服している老夫婦に問いかけてみる。
「あぁ。このお店が開店した頃からの常連だよ。ターサちゃんが入れてくれるお茶は最高だからね」
「えぇ。閉店してしまった時はショックだったわぁ。ターサちゃんが入れてくれる紅茶の味が恋しくて堪らなかったわ」
2人上の空のように上を向く、老夫婦。
そこに初耳な情報があり、エリーナは聞き返してしまった。
「閉店、ですか?」
「おや、聞いていないのかい?ターサちゃんの子供の事を」
「初耳ですね」
「そうなのかい。…………これからする話は本人の前では絶対にしないでおくれよ?」
おばあちゃんの方が細かった目をさらに細くして、エリーナとアリンカに釘をさす。
コクリと頷くと、おばあちゃんは語り始めた。
「十年とちょっと前の事でね。ターサちゃんと旦那さんの間に子供が生まれたんだよ」
「子供、ですか?」
十年前と言えば、今は自立出来る力を付けている所だろうか。
エリーナたちの頭に疑問が浮かんだのは仕方のない事だろう。
なんせ、ターサの子供など今まで見たことがないのだから。
「でも、その子供は天紋がなくてねぇ。騎士に連れていかれて、奴隷として持っていかれてしまったのだよ」
「奴隷……」
予想外な言葉が出現し、エリーナとアリンカは顔を顰めた。
「私達も抱かせて貰った事があったねぇ。父親譲りな黒髪の可愛い男の子だったよ」
「そうだったんですね……え、今なんて…………」
「?父親譲りな黒髪の可愛い男の子だったよ、って」
「そ……それって……」
黒髪の奴隷の男の子。
エリーナにとって途轍もなく、身に覚えのある人物。
天紋もなく、元奴隷だった少年。
生まれた年も一致する、身近な少年。
(ノブナガさん……?)
偶然か必然か。
2度と会えないと思われていた2人が、認識もせず出会ってしまった。
それは良き事なのか。
はたまた、良くない事なのか。




