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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
城塞都市ガラール編
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異世界ホラー その2

 時間は遡り、謎の音が鳴り響いた時。


 北地区のアリンカとバゼルは、


「ーーッ!?」

「ん?どうした、嬢ちゃん」


 急に立ち止まり、片手で頭を抑え始めたアリンカを不思議そうに問いかけるバゼル。


 すぐに音が収まり、頭痛もなくなったアリンカは怪訝そうにキョロキョロと見渡し、逆にバゼルに問い返した。


「今の音はなんですか?」

「は?音?そんなの聞こえたか?」


 バゼルもアリンカと同じく周りをキョロキョロし始める。

 アリンカは半端無意識に“気配探知”を発動した。

 危険や嫌な予感がした時、それはだいたい当たっているのだと最近学んだのだ。

 ノブナガたちとの旅もあり、警戒心が強くなったとも言う。


 そんな癖レベルで発動した“気配探知”には特に怪しいと思える気配はなかった。

 なかったのだが、なぜか嫌気感を感じられずにはいられないアリンカ。

 一般人の中で、見えていない場所にも関わらず自分たちを認識している人がいる、ように感じるのだ。


 その感覚は正しく、そちらへと近づいてくる数十人の気配を捉えた。


「どうしたってんだ?」


 探知系のスキルも魔法も持っていない“治癒師”のバゼルには、今の状況がよくわかっていないようだ。

 アリンカの天紋が非戦闘系だと思っているがゆえに、バゼルからは急に頭を抱えて立ち止まったようにしか見えないのだ。


「ぞろぞろと私たちに近づいてきている気配があります。マズい予感しかしないです」


 アリンカがそう口にした瞬間、道の向こう側から近づいてくる者が姿を現した。

 まるで魂が抜けたように生気がなく、足を進める度に身体が横に揺れている姿は、見る者すべてにゾッとする恐怖を覚えさせられる。


 まさに、バゼルがそうなった。

 目に見えてわかるほど顔を青くし、少しずつ後退して行っている。

 が、その後退りも虚しく、すぐに道という道から同じような者たちが現れ、アリンカたちを包囲した。


『こちら、ザンっ。なんか人が豹変して襲ってきたんだけど!?』


 そこにザンからの念話が送られてくる。

 どうやら、接触がザンの方が早かったらしい。


『アリンカだけどっ、こっちもよ!みんなは!?』

『エリーナです!私のところも同じです!!』

『こちら、ノブナガ!こっちも同じだ。どうやら、みんな同じみたいだ。状況が完全にホラーだな』

『ひぃぃいいいいい。今人とは思えない声出したッス!!普通に恐いッスよーーーー!!』


 念話が言い交う。

 カレンがどう考えても大丈夫じゃない気がするが、ザンがなんとかするだろうという事で無視するアリンカ。


 念話から意識を戻し、ゾンビ民の方へ向ける。

 道や裏路地からゾンビ民が現れ、逃げ道らしい逃げ道はどこにもない。


 なんの前触れもなく、ゾンビ民が非戦闘系の天紋ではあり得ない速度でアリンカたちに襲いかかる。

 “治癒師”という後衛紋のバゼルでは反応できない速度。

 しかし、“剣聖”には反応できる速度だ。


 すかさずバゼルの前に躍り出たアリンカは伸びてくる腕を躱しながら掴み、もう片方の手で胸倉を掴んだ。

 懐に入り身を捻り、背負い投げのように投げる。

 自身の速度をそのまま乗せて投げられたゾンビ民は反対側から迫ってきているゾンビ民の群れの中へと消えていった。

 いくら雰囲気がヤバいとは言え、相手が一般人であるがゆえのアリンカの配慮だ。


「ジッとしてて下さい!」

「わ、わかった!」


 自分が役に立たないと自覚しているのか、アリンカの言葉に素直に従うバゼル。


 それから、迫り来るゾンビ民をケガをしない程度にあしらっていく。


 が、いくらアリンカでも数が多過ぎる。

 手加減しているせいで数が減る事はなく、それどころか増えているので埒があかない状況である。


『みんな聞いてくれ。おかしくなった人たちの対策法だけどーー』


 そこにノブナガの念話が入ってくる。


 どうやら、一般人が狂気になっている原因の魔法陣が体内にあるらしく、それを散らせば元に戻るらしい。


『りょーかーい』

『ノブナガのアーティファクトの出番ね』

『皆さん、無茶はしないで下さいね』

『ぎゃゃゃぁぁぁぁああああああ!今若干服に触れられたッス!!感染するッスよーーーー!!』


 1人涙目になってそうな人がいるが、誰1人としてツッコム者はいない。

 ツッコミ担当もツッコマない。


 それはそうとして対処法がわかったのだ。

 手をこまねく理由はどこにもない。


 “ストレージ”から空間遮断の十字架を4つ取り出し、バゼルを入れるように三角錐に配置した。

 安全地帯を作ったアリンカは“ストレージ”から取り出したメガネを掛け、さらに手袋を出した。

 白い手袋の甲の部分に術式が描かれているので、まるで某焔の大佐を連想させるが、決してフィンガースナップで焔を出す物ではない。


 もちろん、メガネも手袋もノブナガ作のアーティファクトだ。


 メガネには気配と魔力の探知、それに望遠も暗視も可能な便利グッズ。

 エリーナが普段掛けている物と変わらないが、これさえあれば探偵ごっこだって出来ちゃう。


 まぁ、それはさて置き。

 今回はそのメガネの魔力の[+特定探知]を起動させる。

 本家のような特定の魔力を見つける事は出来ないが、メガネの特性を生かした魔力視認が可能になる。


 それを使い、ゾンビ民たちの体内にある魔法陣をメガネ越しに目視した。


 そして、迫り来るゾンビ民をあしらい、魔法陣の場所を手袋をしている右手で触れた。

 瞬間、手袋の術式が起動し、魔法陣が分解された。

 原因がなくなったゾンビ民は力なくその場に倒れ込んだ。


 アリンカが付けた手袋の術式は、術式や魔法陣を分解する分解魔法だ。

 分解させるには術式や魔法陣に触れなければならないので、ノブナガのように飛んでくる魔法を無効化するなんてできない。

 ノブナガもそういう目的で作ったわけでなく、魔法のトラップや付与を解除する目的で作られている。


 しかし、今回はその手袋が効果的だった。

 剣は持っていなくとも“剣聖”。

 武術も何もなく、ただ突っ込んでくるだけの集団がアリンカに攻撃を当てられるわけがない。

 すべての攻撃を躱し、そのすべてのゾンビ民の魔法陣を分解する。


 それが永遠に続くかと思われるほどの時間、アリンカはゾンビ民を無力化していく。

 しかし、その数は次第に減っていき、道の奥からさらに現れるゾンビ民も目に見えて減ってきた。


『みんな大丈夫か?』


 そこでノブナガの念話が聞こえてきた。

 どうやら、ノブナガの方はもう終わったようだ。


『応援が欲しい奴は念話をーー』

『の、ノブちゃんっ。ヘルプミー!わたしの魔力量じゃこの数はキツいよー!カレンは怖がっててしようとしてくれないしー!!』

『……わかった。他は問題ないか?』


 一体ザンたちの方は何をしているのだろうか……

 すごく気になるところではあるが、今は目の前の事だ。


『こっちはもうすぐ終わりそうだから問題ないわ』

『私はまだ掛かりますけど大丈夫です』

『了解しました。無理だと思ったら言ってください。分身を送りますから』


 念話の連絡が終わる。

 念話しながらもゾンビ民を捌いていた為、無数にいるのではと思われるほどの数が数えられるまでに減った。


「さて、他は大丈夫そうだし、私の方も終わったらエリーナの方に向かおっと」


 久しぶりに動いた事が楽しいのか、ゾンビ民たちを前にニヤッと口端を釣り上げるアリンカだった。


 ……ちなみに、それを空間遮断の中から見ちゃったバゼルがぶるりと身体を震わせ、鳥肌を立たせたのはまた別の話である。



 **********************



 また時が少し遡り、エリーナと“弓術士”のマクレアがいる西地区。


 こちらも急変したゾンビ民たちに襲われたが、完全に包囲される前に裏路地に入ってなんとか逃げていた。

 警備騎士団の副団長であるマクレアが瞬時に判断し、裏路地の道すら頭に入っているからこそ出来た逃亡劇。

 土地勘の無い者がすれば、逆に追い詰められていたところだ。


 その細く枝分かれしたような裏路地を巧みに使い、今もエリーナたちは走っている。


『みんな聞いてくれ。おかしくなった人たちの対策法だけどーー』


 そこに念話が伝わってくる。


『皆さん、無茶しないで下さいね』


 最後まで聞き終えたエリーナはそれだけ伝え、“ストレージ”からメガネとノブナガと同じ“ガンゼール”を取り出した。


「マクレアさんっ。これを使って下さい!」

「え?メガネ?と、それは男の子がさっき使っていた……」


 何が何やらと首を傾げるマクレアにエリーナはアーティファクトの使い方を教える。

 といっても、メガネはかけて魔力を流すだけで、“ガンゼール”は照準を合わせて引き金を引くだけなので、教えるというほどの事ではなかった。


 なぜ今アーティファクトの使い方をレクチャーされているのかすら謎だったマクレアだが、とりあえずメガネをかけて使ってみる。

 すると、ゾンビ民の体内に1箇所に集まった魔力をメガネ越しに目視した。


「えっ何これ!?すごい!!」

「魔力が1箇所に集まっている部分が見えるはずです。そこをそれで撃ち抜いて下さい!」

「撃ち抜く?」

「え、えーとっグリップを握ってここに指を掛けてーー」


 さすがは異世界と言うべきなのだろうか。

 射抜くならまだしも、撃ち抜くなどという言葉を聞いた事がないのだろう。

 魔法が使えていれば、少しは想像できたかもしれないが……


 さてはともわれ、エリーナの懇切丁寧なレクチャーが終わり、マクレアが引き金を引いた。

 反動もなく放たれた魔力弾は、アリーナに言われた通りの場所を一寸のズレもなく撃ち抜いた。

 レンズ越しから見ていた魔力溜まりが無くなり、ギョッと目を剥くマクレア。

 エリーナはゾンビ民が崩れ倒れるところを見て、やっぱりという顔になる。


 エリーナは後衛紋である事から色々と便利な“ガルゼール”を渡されたが、実はそれほど扱えない。

 ノブナガには“全武具術”というすべての武器を扱うスキルがあるが、エリーナには銃を扱うスキルがない。

 鍛練すれば、スキルがなくとも扱う事が出来るが、今のエリーナはそれほどの銃術はない。


 しかし、弓を使う天紋“弓術士”や“魔弓士”、“狩人”ならどうだろうか。

 弓は弦を引き、狙いを定め、矢を放つ。

 逆に銃は狙いを定め、引き金を引く。

 飛び出す物は違えど、工程はほとんど一緒である。


 ゆえにエリーナは、正確な射撃が出来るであろうマクレアに“ガンゼール”を渡したのである。


 そんなこんなで、“弓術士”のマクレアはなんだかよくわからないまま、ゾンビ民の数を減らしていった。

 押し切られそうになった時には、エリーナが“ロードオベーロン”で風の防御魔法を唱えて吹き飛ばしていた。


 途中、ノブナガたちから念話が届いたが、今のところ順調に数を減らしているので応援は断った。



 そして、その十数分後、エリーナたちの前に立つゾンビ民は居なくなった。

中途半端に終わってしまった……

ザンたちの方も入れたかったのに……

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