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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
城塞都市ガラール編
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異世界ホラー その1

 気不味い空気を無視して酒場を出たノブナガたちは、北地区にアリンカと“治癒師”のバゼル、東地区はノブナガと“風術師”のライデン、南地区にザンとカレン、それに“魔法剣士”のガルアーク、最後の西地区にはエリーナと“弓術士”のマクレアが向かった。

 各地区に分かれ、被害者たちの共通点を探ろうという考えである。


 そして、情報を集めるべく東地区に来たノブナガとライデンだが……


「……」

「……」


 一言も発さず、一切の口を開くこともなく歩く2人。

 別にそれが気不味いというわけではないのだが、探りを入れてくるのではないかと思っていたノブナガは拍子抜けしていた。


 “風術師”ライデン。

 ローブを着た女性で、年はノブナガたちよりも上だろうか。

 目がずっと一点を見ていて、微動だにしないのが少し怖く感じてしまう。

 さっきの酒場でも自己紹介以外では口を開かなかったので、これがライデンのデフォルトなのはわかる。


 特にノブナガも話す事がないので、大勢の人が行き交う道を歩く。

 その雰囲気が、騎士に補導されている人のように見え、すれ違う人たちから視線を集めている。

 そうして、目立ちながら移動したノブナガたちはターサの喫茶店、レプランに近づいてきた。


 そこで、ぼそりと独り言のようにライデンが言う。


「……アナタはターサさんのお店に来た騎士を追い払ったと聞いた」

「?」


 本当に独り言のような声量だったのだが、その言葉からノブナガに話しかけている事がわかる。

 そして、急に話し掛けられ首を傾げるノブナガ。


「……ターサさんを救ってくれて……ありがとう」

「は、はあ……えっと……ターサさんとは親しい、んですか?」


 突然頭を下げられ、困惑を隠せないノブナガ。

 とりあえず、取って付けたような敬語で、なぜか出てきたターサで話題を膨らませてみた。

 ノブナガに問いかけられても、視線は動かないようだ。


「……私は、この都市の出身。……9歳まで両親と暮らしていた。……でも……ターサさんのお店に行った事はない。……1年ぐらい前まで休店してたから」

「へぇ、そうだったんですか。結構年季の入ったお店だったんで、開店して長いものだと」

「……お店自体は長いらしい。……私が物心ついた時には休店してたから……会ったのも……お母さんと一緒の時だけ」

「休店、って何かあったんですか?」


 ライデンが物心つく前から休店しているという事は、結構長い間休店していたのだろう。

 それほどの間、休店していた理由はなんだったのだろうと不思議に思うノブナガである。

 そんなノブナガの問いを聞いたライデンは、動かしていた足をピタリと止めた。

 突然止まった事に、ノブナガはライデンから数歩歩いたところで止まり、振り返った。


 表情は一切変わらないが、どこか暗いものを纏っているように見える。


「……お母さんが言うには……紋無しの子供が奴隷に持っていかれたらしい……父親も子供が生まれる前には亡くなったらしい」

「ーーッ!?……そんな事があったんですね」


 子供の事で何かあったというのはわかっていたが、まさか自身の子供の事だったとは。

 夫がいたような雰囲気がまったくなかったので、全然気づく事が出来なかった。


(あの人、未亡人だったのか……わかんなかった)


「……ターサさんは騎士が嫌いみたい。……だから……騎士を追い払った事……本当に感謝」


 また顔を下げるライデン。

 そこには、ノブナガに対して感謝と敬意が込められているのが一目でわかる。


「いや、そんなお礼を言われるほどの事はしてませんよ。仲間に絡んでいた奴らにイラッとしただけで。そんな大層な事はーーッ!!」

「ーーッ!!」


 大層な事はしていない、と言おうとしたノブナガだったが、突如として頭痛に襲われる。

 ライデンもそうなのか、一切変えなかった表情を歪めながら両手で頭を抱えている。


(っ、これは……音、か?)


 突然来れば、去るのも一瞬。

 次の瞬間には頭の痛みはさっぱりと消え、ノブナガが感じ取った音も聞こえなくなっていた。


「今のは一体……」


 自然と呟くノブナガだが、周囲の所々から射抜かれている視線を察知し、辺りを見回した。


 別に注目される事ぐらいなら、ここまで歩いてくる時にもあった事だ。


 しかし、ノブナガは感じたのだ。

 その視線から、良くない感情を。


 周りを見回したノブナガはすぐ側にいる通行人、建物の窓から覗いている人、向こうの曲がり角から顔を出している人たちから、ゾッとするような無感情の目を向けられていた。

 ライデンも気づいたらしく、身体をぶるっと震わせてから辺りを見回した。


 この異様な状況に、警戒心を高めるノブナガたち。


 その瞬間、そんな視線を送ってくる都市民がノブナガたちに襲いかかった。


「グガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアア」

「ちょっっ、くっ!」


 人から発せられる声とは思えない声を出し、そして非戦闘系の天紋とは思えない速度で迫ってきた。

 その速度に驚きながらも、ノブナガはバックステップで伸びてきた腕を躱す。


「なっ、なんだ!?ケンカか!?」「あいつ、化け物みたいな声出してたぞ」「警備騎士がいる前でケンカかよ。すげぇ度胸だな」「てか、なんか雰囲気ヤバくね……?」「あ、あぁ。なんか……他の奴とかも、殺気立ってる気が……」


 ノブナガが襲われた事で、周りの都市民が騒めき始めた。

 どうやら、すべての都市民が異様になったわけではないらしい。


「きゃっ!」


 周りの様子を把握していると、ライデンから可愛らしい悲鳴を耳にするノブナガ。

 ハッと振り返ると、そこには異常な状態の男に組み伏せられているライデンがいた。

 後衛紋なライデンには、非戦闘系ではあり得ない速度に対応出来なかったようだ。


 とりあえず、ノブナガは超が付くほどの手加減でライデンを組み伏せている男を蹴り飛ばした。


「大丈夫ですか!?」

「……うん。……一体どうなって……」


 ノブナガがライデンを助けているうちに、異常な状態の都市民がノブナガたちに詰め寄ってくる。

 ゆっくりと詰め寄ってくる都市民は、どっかのホラー映画に出てくるゾンビを連想させる。


(名付けるなら、ゾンビ民ってところか。て、今はそんな事よりもっ)


 アホな事を考えてた頭を振り、現実を直視する。

 道の前後はもちろん、裏路地からもゾンビ民が現れ、ノブナガたちは完全に包囲されている。

 ゾンビ民を薙ぎ払って強行突破する事もできるが、さすがに都市民にケガを負わせるわけにはいかない。

 警備騎士であるライデンなら尚更だ。


『こちら、ザンっ。なんか人が豹変して襲ってきたんだけど!?』

『アリンカだけどっ、こっちもよ!みんなは!?』

『エリーナです!私のところも同じです!!』

『こちら、ノブナガ!こっちも同じだ。どうやら、みんな同じみたいだ。状況が完全にホラーだな』

『ひぃぃいいいいい。今人とは思えない声出したッス!!普通に恐いッスよーーーー!!』


 全員から伝わってくる念話。

 状況はノブナガと同じらしく、涙目になっているカレンが容易く想像できる。


 念話しながらも迫り来るゾンビ民を体捌きで躱す。

 ライデンは完全に反応できないので、ノブナガが脇に抱えられている。


(普通の都市民は無視で、俺たちにしか襲いかかってこない。狙いは完全に俺たちかっ。ならーー)


 さっきから自分たちにしか迫ってきていないのに気がついたノブナガは、逃げの作に出た。


 ステータスを最大限に使って跳躍し、建物の屋根に着地した。

 あり得ない跳躍を見せたノブナガに驚くが、着地の際の衝撃で「ぐえぇ」という女性としてどうかと思う声を漏らすライデン。

 それを無視して、さらに跳躍しようとしたノブナガ。


 だが、ギョッとする光景を目にして硬直してしまったが為に跳ぶ事が出来なかった。


 それはーー壁を登ってくるゾンビ民だった。

 カエルような四つん這いではなく、“暗殺者”のスキル[+立体移動]のように駆け上がり、一瞬にして屋根までやって来た。

 それが20人近くのゾンビ民が一斉にやって来れば、ギョッとするのも無理はないだろう。


 波のように迫ってくるゾンビ民たちに感じられずにはいられない不気味感。

 ノブナガたちのSAN値が削れたのは言うまでもない。


 硬直して回避が間に合わないとわかると、ノブナガは屋根を“錬成”して壁を作った。

 ゾンビ民が壁にぶつかっている間に後ろ向きに跳躍して別の屋根を移動する。

 その時に、壁がゾンビ民の拳によって崩された時は、ノブナガとライデンの口から「うそぉん……」という声が漏れた。

 速度だけでなく、力もあり得ない事になっているようだ。


「……あの人たち……ステータスがおかしい……」

「非戦闘系とは思えないステータスです。何か理由でも……ん?あれは……」

「……どうかした?」


 ライデンの声など聞こえんと言わんばかりに反応せず、ノブナガはジッとゾンビ民たちを見ている。

 よく見てみると、ゾンビ民たちの手足から紅い液体が飛び出していて、目や口からも同じく紅い液体を垂れ流している。

 その紅い液体はどっからどう見ても血だ。


 だが、全員が血を流すようなケガをする行動をした覚えがない。

 そこで、さっき壁を殴り壊したゾンビ民の拳からも尋常じゃない量の血を出しているのを目にし、ノブナガの頭の中に閃いた。


(ケガをしたのではなく、肉体が耐えられない力を発揮して自壊しているだとすれば……考えられるのは1つ)


 屋根に着地したノブナガは脇からライデンを降しながら閃いた事を口にする。


「アレはステータスがおかしくなったんじゃありません。おそらくですが、ステータス以外の要因で異常な力を発揮しているだと思います」

「……ステータス以外の要因?」

「人には生存本能という肉体が耐えられるだけの力しか発揮しないようにリミッターが掛けられているんです。それが今回、なんらかの理由でリミッターが掛かっていないんだと思います」


 ステータスではレベルが上がる毎に上昇し、それに合わせて肉体も強くなっていくものだ。

 しかし、人間としての機能はそれほど万能ではない。

 確かに肉体を鍛えれば、ステータスは変動はせずともそれプラスの力が得られる事はある。

 だが、リミッターを解除して力を得たとしても、肉体は強くはならない。

 自らの力で肉体を壊し、砕け散る。


 まさに、今のゾンビ民のように。


「……じゃあ……このままでは」

「時期に肉体がボロボロになって動かなくなるでしょうね。それでも、あの状態が変わる事はないでしょうけど」


 打開策を得る為に、ノブナガは“魔力探知”の[+特定探知]を発動させる。

 魔力の[+特定探知]は特定の魔力を探る事もできるが、探知の範囲を狭めれば魔力の流れを詳細に探る事ができる。


 その[+特定探知]を使ったノブナガは、ゾンビ民たちの体内に異常な魔力溜まりが出来ており、そこに魔法陣が刻まれている事がわかった。

 人の体内に魔法陣が刻まれているという時点で、その魔法陣が原因である事は間違いない。


 ノブナガは少し思考した後、“ストレージ”から“ガンゼール”を取り出してマガジンを差し替える。


 空中リロードしたノブナガは迫り来るゾンビ民たちに左右の拳銃を向け、連続発砲。

 放たれた魔力弾は魔力の[+特定探知]によって知覚していた魔法陣に寸分違わず着弾する。

 瞬間、撃ち抜かれたゾンビ民たちは倒れ込んだ。


 後ろにではなく、躓いたように前に。


 その光景に目を剥くライデン。


 ノブナガが放ったのは、術式や魔法陣を分解する魔力弾だ。

 もちろん、マガジンに“生成”された分解魔法だ。

 そんな魔力弾をゾンビ民の体内の魔法陣に着弾したのだ。


 原因がなくなれば、異常な状態も解かれる。

 そう考えての行動だったのだが、どうやら当たっていたようだ。

 倒れ込んでいるゾンビ民たちに先ほどの狂気じみた雰囲気は感じられない。


『みんな聞いてくれ。おかしくなった人たちの対策法だけどーー』


 念話を使い、全員に魔法陣の存在と対処法を伝えるノブナガ。


『りょーかーい』

『ノブナガのアーティファクトの出番ね』

『皆さん、無茶はしないで下さいね』

『ぎゃゃゃぁぁぁぁああああああ!今若干服に触れられたッス!!感染するッスよーーーー!!』


 1名大丈夫じゃない奴がいるが、まぁザンがなんとかするから大丈夫だろう。

 そんな感じで念話を切ったノブナガは、迫り来るゾンビ民たちの魔法陣を分解していく。

 左右の腕が別の生き物のように動き、包囲している屋根の上のゾンビ民を元に戻していった。


「ライデンさん。正直、余裕がないので自分の身は自分で守ってください。それと、出来れば足止めをお願いします」

「……うん。……わかった」


 ノブナガに聞きたい事はたくさんあるだろう。

 なんせ、ノブナガを側から見ている者からすれば、銃口を向けて引き金を引いているだけなのだから。

 見える弾を発射していないのだから尚更だ。


 しかし、今の状況を考え、自重してくれたのだ。

 その表情はあった時とまったく変わらないものだが、心なしか口端が少し釣り上がっているように見える。


 その顔を目端で見て、ちょっと驚いた顔になるノブナガ。

 その間も両拳銃は忙しく動いているが。

 ジッと見られている事に気がついたライデン。


「……?……なに?」

「あ、いえ。そんな顔もするだなぁと思いまして」

「……そんな顔?」


 自覚がないらしく、左手で自分の顔を撫で始める。


 その行動が面白かったのか、ノブナガの口から息が漏れた。


「……っ。……そんなに変な顔してた?」

「い、いえ。顔というか、仕草が面白くて可愛いなと」

「……っ!…………今すぐ忘れなさい」


 ライデンが左手でフィンガースナップ。

 直後、ノブナガの背後から迫っていたゾンビ民が見えない壁にぶつかったかのように吹き飛んだ。

 その後ろに続いていた奴らも、同じく吹き飛ばされて行く。

 おそらく、風の防御魔法“ストーム・フォート”を[+遅延発動]させたのだろう。


「ありがとうございます」


 背後に余裕が出来たうちに前と左右を粗方片付け、マガジンを空中リロード。

 左を背後を向けながら、右で正面も片付ける。

 背後も粗方終われば、今度は左右を。


 無限のように駆け上がっていたゾンビ民たちも、今となってはちらほら登ってくるぐらいにまで減ってきた。


 そして、等々屋根に登ってくるゾンビ民はいなくなり、屋根の上には魔法陣を分解されたゾンビ民しかいなくなった。


「……風・澄み渡る・探知ーー“エア・レーダー”……もうこっちに来る者はいない……終わった」

「そうですか」


 ライデンが風の探知魔法で周囲の様子を報告してくれる。

 ノブナガはノブナガで魔力の[+特定探知]を通常探知に戻して、同時に“気配探知”も発動させて確認する。

 別にライデンを信用していないわけではなく、ノブナガの癖のようなものだ。


『みんな大丈夫か?応援が欲しい奴は念話をーー』

『の、ノブちゃんっ。ヘルプミー!わたしの魔力量じゃこの数はキツいよー!カレンは怖がっててしようとしてくれないしー!!』

『……わかった。他は問題ないか?』

『こっちはもうすぐ終わりそうだから問題ないわ』

『私はまだ掛かりますけど大丈夫です』

『了解しました。無理だと思ったら言ってください。分身を送りますから』


 ぷつんと念話を切る。


「他のところも襲われてるみたいです。俺、今から応援に行ってきます。ライデンさんは倒れてる人たちの容態を確認しておいて下さい」

「……わかった」


 こくりと頷くライデンを見た後、ノブナガは屋根の上に魔力駆動型四輪走行板アーティファクトーーゴルスケートボード”を取り出して乗った。

 某名探偵の少年のようにスケートボードで事件現場に向かうつもりのようだ。

 魔力結晶の魔力を使って屋根から屋根へと飛び越えて行ってた。


 その未知の光景をジト目で見送るライデン。


 ノブナガが見えない所まで行ったところで我に返ったライデンは屋根の上に倒れ込んでいる人たちの容態を確認していく。

 どうやら、全員が全員肉体が壊れる痛みに気絶しているようだ。

 回復魔法をかければ、身体も元に戻るだろう。


 そう、安心した矢先だった。


 ライデンの目端に入ってきた者に動きを止めた。


 ゆっくりといた動作で、視界に入ってきた人の方を向く。


 そこには、謎の音が響き渡る前まで話題になっていたーー


「…………ターサ、さん……」


 未亡人のターサその人だった。

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