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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
城塞都市ガラール編
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ギブ&テイク

「君たち。一昨日、東地区の喫茶店であった騒動について話を聞きいたい。詰所まで同行してくれないだろうか?」


 リーダーらしき騎士がノブナガたちに向けて言う。

 チラッと視線を向けてみれば、ご丁寧に2人の騎士が酒場の出口を抑えていらっしゃる。

 逃げ道はないと無言で訴えているかのようだ。


 とりあえず、


「何のことですか?僕たちには何のことだかさっぱり」


 真顔でしらを切った。


((((そ、それで押し通す気ー!?!?))))


 度肝を抜かれた他の“奪還者”さんたち!

 戦慄を覚えたような顔を隠しもしない!!


 なぜかって、エリーナたちはその騒動の中心にいたのだ。

 存じないわけがない。

 つまり、ノブナガの言葉が白々しいほどの真っ赤な嘘である事は明白なのである!


 ノブナガを見てみれば、「なんですか、それ?今初めて聞きましたよ。あははは」とでも言うかのような顔である。

 白々しいうえになんて演技力っ。

 無駄に洗礼された無駄のない無駄なポーカーフェイス。

 エリーナたちが戦慄を覚えないわけがない。


「君たちが騎士たちを追い払った事は、我々の調べでわかっている。素直に従って貰いたい」


 だが、そんなポーカーフェイスは何のその。

 調べたうえで、ノブナガの下にやって来たらしい。

 ノブナガが内心で舌打ちをする。

 マジ面倒い、と。


「僕たちは被害者ですよ。連れが騎士たちに詰め寄られていたので、やめて貰いたいと言ったら襲いかかって来たんだから。撃退するでしょ?」

「…………本当に君が撃退したのか?」

「まぁ、そうですね。だから、自分たちが詰所に行く理由はありません。つまり、平たく言うと従う気はないです」


 ノブナガはリーダーらしき騎士に向かって、堂々とした態度で言う。

 騎士がノブナガたちに話しかけた時から静まり返っていた外野が、ノブナガの真っ向から話をしている事にざわざわと騒めく。


 この都市の人たちにとって、騎士に逆らうという事は死ぬと同等の行為に等しい。

 その恐さがわかっているがゆえの騒めきだったりするのだ。


 が、そんな外野の騒めきなんて何のそのなノブナガさん。

 ジッと騎士たちの方へ視線を固定している。


「いいからさっさと従え!!」

「?」


 そんな声がリーダーらしき騎士の斜め後ろに控えていた騎士から飛んできた。

 急に割り込んで来た事に、ノブナガの顔が「なに?」と訴えるような目を向ける。

 それを挑発と受け取ったのか、目を向けられた騎士が顔を真っ赤にして激昂する。


「なんだっその態度は!?さっさと詰所まで来い!!」


 リーダーを抜かし、ノブナガの胸倉を掴み上げる騎士。

 一昨日同様、椅子から離され足がぶらんぶらん状態になる。

 外野の騒めきがさらに増した。


 そんなところも一昨日と同じである。


 そこまで同じだと、迎える結末も同じになってしまうわけで……


 ヒュンッ


 当然のように前蹴りが放たれ、吹き飛ばされていく騎士。

 ただ、今回は壁に衝突はせず、扉を突き破って外へと放り出されていった。

 酒場の外から悲鳴のような声が聞こえてくる。


 やはり、酒場が静寂に包まれる中、何事もなかったかのように着地するノブナガ。

 静かさゆえにノブナガの声が鮮明に聞き取れる。


「俺たちは襲いかかる火の粉を払ったに過ぎない。今のようにな。そんな被害者の俺たちをまだ何かしようってんなら、さっきの奴と同じ目にあう奴を量産するぞ?」


 いつの間にか取り出された“ガンゼール”をリーダーの騎士に向け、どっしりと重たい威圧が放たれる。

 騎士が吹き飛ばされた事で各々の武器に手を掛けていたリーダー以外の騎士が、その息苦しいまでの威圧に呑まれ、武器に掛けた手の力が抜けていく。

 そんな滝のように汗を流す他の騎士には一切気を向けず、ジッと視線をリーダーの騎士に固定するノブナガ。


 そんなノブナガに見られているリーダーもまた、ノブナガの目をジッと見ている。

 騒がしかった外野も、そんな2人を喉を鳴らしながら静かに見届けている。


 たった数秒の事が数分に感じられるほどの時間。

 そんな静寂を破ったのは、ノブナガに“ガンゼール”を突きつけられているリーダーの騎士だった。


 ノブナガの中に何かを見出したリーダーは徐に頭を下げた。


「すまない。私たちは君たちに危害を加えるつもりはない。自由を奪うつもりもない。私たちの態度が君たちに誤解を与えてしまったのなら詫びよう。すまなかった」


 リーダーの騎士から予想外の言葉が飛び出してきた。

 裏があるのかと眉を顰めるノブナガがだったが、その後ろに付き添っている騎士と出口を抑えていた騎士もが頭を下げた時には目を点にしていた。

 静寂から解放された外野がまた騒がしくなる。

 エリーナたちもどういう事かと訴えたい気持ちでいっぱいである。


 とりあえず、気を取り直すようにワザとらしい咳き込みをしたノブナガが話を進める。


「俺たちに危害を加える気も拘束する気もないと言うなら、なぜお前たちは俺たちの下にやって来た?わざわざ事前調査までして特定して来たんだ。それなりの理由があるんだろ?」

「あぁ。君の言う通りだ。ただ、それを話すのは……」


 ノブナガの予想に頷いたリーダーの騎士。

 ただ、最後の方は歯切れが悪いように声が小さくなっていく。

 そんなリーダーが周囲の人に気を向けている事に気がついたノブナガは、何となくその歯切れの悪い理由を理解した。

 だから、どうしたと切り払ってもよかっただろうが、さすがのノブナガもそこまで鬼畜ではない。


「店員さん」

「はっ。はは、はい!」


 急に呼ばれた事に、酒場の女性の店員が慌てたような、あるいは怯えたような声で返事をする。


「VIPルームってありますか?もしくは個室でもいいんですけど」

「こ、個室はあります!ここ、こちらです!!」


 やはり、慌てたような怯えたような様子で言う店員さん。

 そこまで慌て怯えを見せられると、またやり過ぎたか……?と思うノブナガ。

 まぁ、実際周囲がドン引きするぐらいにはやり過ぎているのだが……


 ささっと案内された個室。

 広さはそれ程なく、机も1つで椅子は5つしかない状態だった。

 そこにさっきの女性店員さんが持って来てくれた椅子を入れて、無理矢理9つにした感じである。

 はっきり言って、結構ぎゅうぎゅうだ。


 ぎゅうぎゅうだが、騎士の1人がノブナガに吹き飛ばされた騎士を拾ってそのまま詰所に帰って行ったので全員が落ち着いて話せる状態になった。

 机を挟み、“奪還者”側と騎士側に分かれて座る。


 移動している間、全員が無言だった。

 何せ、さっきノブナガが騎士1人を戦闘不能にさせたのだ。

 非は騎士の方にもあるで、“奪還者”側も騎士側も何て話しかければいいのかわからず、居た堪れない気不味さが流れていたからだ。


 そんな気不味い空気もこれまでで、全員が腰を落ち着かせたところでノブナガが本題を切り出した。


「それじゃ、さっきの続きの話だが……」

「その前に、名乗らせて貰って構わないだろうか?」

「そうだな。名前がわからないのは不便だしな」


 正直、こんな事早く終わらせて被害者の共通点を探しに行きたいのだが、無理に拒否して時間がかかるのも面倒なので了承した。

 とりあえず、自分たちの名前と旅をしている事だけを伝える“奪還者”たち。

 そして、騎士たちの番だ。


「私はこの都市を守護する警備騎士団団長を務めているガルアークだ。天紋は“魔法剣士”。こっちがーー」

「“弓術士”のマクレアよ。副団長をしているわ」

「俺はバゼル。“治癒師”だ」

「……ライデン。……“風術師”」

「さっき君が吹き飛ばした男はミリアドという“魔闘士”、そしてミリアドを拾いに行った奴が“鎚術士”のリスラだ」


 リーダーの騎士ーーぼさぼさの金髪に髭を生やした40代の男、ガルアークーーを中心に自己紹介する騎士たち。

 さっきは緊迫した雰囲気だったので気づかなかったが、どの騎士もどこか疲れているような顔をしているように見受けられる。


 そんな大人たちの顔を見て、なんとも言えない気持ちになるノブナガ一行。


「それじゃあ、ガルアークさん。どうして俺たちを訪れたのか聞かせてくれるか?」

「あぁ。まったくもって情けない話なんだが、聞いてくれ」


 そう前置きするガルアーク。

 その前置きに不穏な予感を感じないわけはなかった。


「君たちはもう知ってるだろう。この都市の風紀を。騎士が好き勝手に騒ぎ、本来護るべきはずの一般人に危害を加えている事を」

「……知ってる。だから、聞くが、そこまで知っていてどうして何もしない?一般人を護るのは、ガルアークさんだって同じ事のはずだろ」


 警備騎士はそれぞれの町や都市を守護、もしくは治安維持のための騎士だ。

 3年前までは村にも警備騎士がいたのだが……理由はセインズ村と同様で、そんなところに戦力を割くなら軍に加えた方がいいと放置したからだ。


 警備騎士といっても、その活動は担当地域で起きた事件の捜査や解決……要は交番警察官と同じである。


 が、その活動がこの都市でされているとは到底思えないとノブナガは言っているのだ。


「あぁ、君の言う通りだ。弁解の余地もない。だが、私たちは決して都市民を見捨てたわけではない」

「と言うと?」

「もともと3年前はこんな治安ではなかった。活発化し始めたのは、あの制度が広められる少し前だ。軍の騎士も荒事は起こしていたが、我々警備騎士が間に入れば収まっていた。しかし……」

「収まらなくなった、か」


 話の先が読めたノブナガがぼそりと呟く。

 それにコクリとガルアークが頷いた事から正解のようだ。

 しかし、それだと疑問が残る。


「なら、実力行使すればいいんじゃないか?正当な理由があれば、実力行使だった可能だろ?」

「それが無理だったんじゃない?」


 ノブナガの純粋に出てきた疑問。

 しかし、その疑問に答えたのは騎士たちからではなく、ノブナガの左隣に座るアリンカからだった。

 顔で「どうして?」と問いかける。


「まず、軍に所属する騎士か都市や町を守る騎士かが決まるのは、軍に所属して半年後よ」

「半年後?」


 アリンカ曰く、軍に所属する事になると半年間は軍団行動や戦闘訓練、戦術、それに一般知識を叩き込まれるらしい。

 そして、その半年後で下位数十人が戦力外通告を受け、都市や町を守る警備騎士となるそうだ。


「つまり、警備騎士が軍事騎士に実力行使で収める事ができないのよ」

「それ大丈夫なのか?」

「大丈夫なわけないじゃない。その軍隊の隊長が羽目を外さないように釘を刺すのが普通なんだけど」


 さすがは、元軍隊の隊長。

 素人でもわかる完璧な説明である。

 そんなアリンカに納得顔を浮かべるノブナガたちとは裏腹に、素性を知らないガルアークたちは揃って驚いた顔をしている。


「なるほど。とりあえず、アナタたちがこの都市の状況に手をこまねいている事はわかった。それで?それと俺たちの下に訪れる理由になるんだ?」


 この都市の治安の悪さの理由がわかった事は良かったのだが、それと自分たちとの関係がまったくわからなかったノブナガは、団長であるガルアークに問いかけた。

 問いかけられたガルアークは苦悩の顔になって葛藤するような間をおいて、口を開いた。


「君の力はさっき見させて貰った。だから、頼みたい。私たちに力を貸してくれ」


 スッと頭を下げるガルアーク。

 それに合わせ、他の騎士たちもガルアークと同じく頭を下げる。

 またもや不意を打たれ、反応に困ってしまうノブナガたち。


 正直、ノブナガたちにとって警備騎士たちの頼みは面倒で迷惑の何ものでもない。

 すぐに解散して、連続殺人事件の被害者たちの共通点を探りに行きたいところだ。


 だが、ここまで葛藤され、悩んだ結果の末に出した事であると、どうしても断りづらい部分が出てくる。

 軽く振り払うには、想いが重い。

 別にメリットがないわけじゃない。


 ガルアークたちから視線を逸らし、エリーナたちに向ける。

 エリーナたちもノブナガに判断を委ねているようだが、その目はどこか助けてあげたいような目である。


 仲間がこんな状態なので、ノブナガは妥協案を提示してみる。


「俺たちは今、この都市で起きている連続殺人事件の真相を追っている」

「っ!?」

「昨日、その犯人と交戦し、被害者たちに共通点がある事がわかった。その共通点の中心に、この都市を闇に導いている黒幕がいるはずだ」

「黒幕……?」


 聞いた事がない単語を聞き、昨夜のノブナガと同じような反応をするガルアーク。


「俺たちの最終目的は、この都市を都市民の為の都市にする事だ。ガルアークさんたちの頼みは聞く事はできないが、その根本的解決なら手を貸せる」

「都市民の為の都市……」

「俺たちが根本的に解決し、ガルアークさんたちが調査のサポートをする。互いの望みを平等に叶える、ギブ&テイクでどうだ?」

「あ、いや。それはありがたいのだが……」


 警備騎士の目論見は、ノブナガを軍事騎士の抑止力として動いて貰い、後々には暴れる騎士が出てこられなくする事だった。

 つまり、ノブナガが提案したものは警備騎士たちにとって「そこまで言ってくれるならありがたい」という思いだ。

 それに、ノブナガは自分たちが知らない情報を持っているのは明らかである。


 本当に黒幕をどうにかする事が出来るのかが唯一の不安ではあるが、ノブナガの鋭い目には嘘というものがなかった。

 結局、警備騎士が取れる選択肢は1つしかない。


「わかった。我々ガラール警備騎士団は、君たちを全力でサポートしよう」

「助かる。よろしく頼むよ」


 両陣営のリーダーが立ち上がり、握手を交わす。

 こうして、“奪還者”とガラール警備騎士団との間にギブ&テイクの関係が成立した。


「さて、早速で悪いがこれから動く。手伝ってくれないか?」

「あぁ。俺たちは何をすればいい?」


 随分と時間を食われてしまったノブナガはささっと次の行動へと移す。

 とりあえず、エリーナたちにはさっき指示を出したところに行って貰い、そこに警備騎士の人たちが付くように指示する。

 人から情報を得るには、俺たちのような認識阻害した奴よりも騎士の方が話してくれそうだったからだ。


「わかった。それでは、行くか」

「あぁ」


 やる気の篭った声でガルアークがいい、上機嫌気味なノブナガがそれに返事をする。


 そして、動き出すべく全員が一斉に立ち上がった。


 否、立ち上がろうとした。


 ガコッ


 そんな音が室内の至る所から聞こえてきた。


 さて、振り返ってみよう。


 この個室は特別広いわけでもなければ9人が入るには狭いレベル。

 そこに9つも椅子が入れられ、その椅子に全員が座った。


 そんな状態で一斉に立ち上がるとどうなるか。


 もちろん、引かれた椅子がぶつかり合って立てなくなる。

 しかも、今回のは引いた椅子の足が絡まるというレアケース。

 押しても引いても立てない地獄。


 子供の身体であるノブナガたちなら、まだ横移動で抜け出す事が出来るかもしれないが、大人たちには難しい。


 その場に流れる、なんと言っていいのかわからない空気。

 何せ、力強く踏み出す気満々だったのだ。

 若干テンションが上がっちゃってたのだ。

 それが始まりから躓くなんて……哀れでしかない。


 結局その後、十数分の葛藤(相手は椅子)の末に騎士たちを部屋の外へ出す事ができた。



 だが、その後の空気は……なんとも言えないどんよりとしていた。

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