城塞都市の裏側へ
前回の投稿ですが、日曜ではなく月曜に投稿されたみたいで、申し訳ないです。
気づくのも遅れて、申し訳ないと思っている!
……すいません、ちょっとネタに走ってしまいました……
何が言いたいかというと、以後気をつけますという事です。
それではっ、「城塞都市ガラール編 城塞都市の裏側へ」をお楽しみください!
作者より
コツン、コツン。
そんなリズミカルな足音が狭い裏路地に響き渡る。
時たま止まり、また歩き出すの人物はとある宿にたどり着いた。
裏路地に入口があるという、奇妙な宿だ。
なんの迷いもなく宿に足を踏み入れる。
入ってすぐの所に受付らしい場所があり、そこに男が突っ伏していた。
宿に入ってくる気配を感じ取ったのか、顔を上げて入ってきた人物を見る。
「おい、小僧。ここはお前みたいなのが来る場所じゃねぇ。さっさと帰れ」
入ってきた人物がどう見ても子供だったので、威圧するような声でそう言い放った。
しかし、少年はその声にまるで反応せず、ジッと天井を見つめていた。
正確には、天井の奥にあるものをーー
「おい、聞いてるのか。さっさとかえ……」
「2階にいる奴に用がある。構わないか?」
子供が出す声とは思えない重い声。
それと見透かしているかのような言葉に、突っ伏していた男は勢いよく起き上がる。
その額に一粒の汗が流れ落ちる。
机の下に隠していた剣を急いで取り出し、受付から飛び出して少年に剣を突きつける。
その一連の動作を、まるで何もないかのように無反応で見ている少年。
目の瞳孔すら動かさない少年に、剣を突きつけている男はゾッとした寒気に襲われる。
少年の目には殺意は疎か、敵意すらない。
敵意を向けている奴を前にして、なんの対応もしてこないのだ。
自殺志願者なのかと思えば、目の奥にあるものがそれを否定する。
男には、少年の心を読む事が出来ない。
じんわりとした汗が頬を通って、顎から垂れ落ちる。
ゴクリと唾を飲む音がやけに鮮明に聞こえた。
「……いいだろう。ただし、宿は壊すなよ」
「ありがとう」
まるで、そう言うであろう事がわかっていたかのように言うと、銀貨を指で弾き渡した。
目を点にする男を素通りし、すぐ横にあった階段から2階へと上がっていく少年。
2階にやって来た少年は迷う事なく廊下を歩き、1つの部屋の前に立った。
コンコンコンッ
その扉をノックする。
部屋の中からの反応はない。
少年から小さいながらに響く声が放たれる。
「俺が誰かわかっているだろ。あんたと話をしに来た。内容は……わかるだろ?」
そんな曖昧で意味不明な言葉。
もしここに第三者がいれば、首をかしげるに違いない。
しかし、その言葉は中にいる者を動かすには十分だったようだ。
ガチャ、ギィィィ……
扉が内側から開けられた。
そこから男が顔を出してくる。
男は少年の顔を見ると、少し驚いたように目を見張った。
「まさか、あんな化物がこんな子供だったとはな」
顔を出した男ーーガラール連続殺人の犯人がそう言う。
「アンタこそ。幾多もの戦場を生き抜いて来たみたいな化物がこんな渋いハンサムだとは思わなかったよ」
それに対し、少年ーーノブナガは少し肩を掠めながら、そう言った。
**********************
連続殺人の被害にあった人たちの魔法陣を発見してから、ノブナガはライデンにレプランへ戻って貰い、自身は魔力の[+特定探知]を発動させた。
黒装束にスタンプした自分の魔力を探る為だ。
だが、この大都市全体を探知するにはガラールは広過ぎる。
いくら何でも探知不可能な範囲だ。
しかし、ノブナガに抜かりはない。
都市の様子を見るためにあらかじめ放っていた“ハール”に内蔵されている探知機能を起動する。
“ハール”が中継役となり、ノブナガの探知範囲は都市全域にまで広がった。
さすがに広過ぎて、普通の探知では脳がオーバーヒートし兼ねないが、[+特定探知]という1つのモノを探すだけなら問題ない。
そうして、黒装束の場所を見つけたノブナガは南地区の砦付近にある裏路地の宿にたどり着き、現在に至るわけだ。
今は何があったのかノブナガが説明しているところだ。
「なるほどな。道理で、急に人の気配が減ったわけだ」
「アンタは知ってるんだろ?ゾンビ民になった人たちに刻まれた魔法陣の事を。あんな物、一体誰が一般人に付けた?」
「魔法陣の事に関しては、私も知らん。人を狂人にする魔法など聞いた事もない」
「それは俺もだ。……これを見てくれ」
ノブナガは旅服のポケットから紙を取り出し、それを黒装束にも見えるように机の上に置いた。
それを覗き込み、眉を顰める黒装束。
「これは……魔法陣か?」
「あぁ。人を狂人する魔法陣のな」
「君は魔法陣が見えるのか?」
「“魔力探知”の[+特定探知]使えば、誰だって見える。それよりも、この魔法陣をパッと見たところ……相当ヤバいものらしい」
「詳しく聞かせてくれ」
前のめりになり、食い気味に聞いてくる黒装束。
「この魔法陣は、一度起動すれば人を人たらしめる者へと変貌させる。いや、肉体や脳を作り変えていると言ってもいい。とりあえず、この魔法陣が刻まれた者は人ではない何かに変わり、理性も倫理もない獣に成る」
「……そんな魔法がこの世にあるのか?」
「ない。俺も知らない魔法が使われるせいで、その真の効果まではわからない」
ノブナガも知らない魔法が使われている。
今まで、“重力魔法”、“精神魔法”、“時刻魔法”、“分解魔法”と理に干渉する魔法を生み出してきたノブナガも知らない魔法がこの世にあるのだ。
しかも、それが人の倫理観を完全に無視した使われ方をしている。
ノブナガは鳥肌を立たせた。
「問題は、誰がこんな魔法陣を仕込んだか、だ。アンタは知ってるんだろ?」
「……あぁ。知っている」
ノブナガの予想と同じ反応を見せた黒装束。
共通点がある人に殺していた奴なのだから、知らないわけがない。
「私が言っていた黒幕の事だ。人物は特定できていないが、そいつがこの都市を裏で操っているのは間違いない」
「都市を裏で操るって、裏組織か何かなのか?」
「わからない。だが、3年前に突如として現れた。それからだ、都市の様子がおかしくなったのは」
黒装束が言うには、突然そのような存在が現れらしい。
しかし、その素顔や名前は誰も知らない。
その奇妙さから、黒装束は都市の変化して真っ先に疑ったそうだ。
“暗殺者”の力をフルに使って、その奇妙な存在を調査した。
「が、始めた途端、闇討ちにあった」
「また随分な事をされたな」
「まったくだ。しかも、それが戦場で魔法の爆発だったからな。死体を確認しないバカで助かったよ」
「アンタ、よく生きてたな……」
「咄嗟に相手を盾にしてなんとかな」
珍しくノブナガから称賛の声が放たれ、黒装束は当時の事をしみじみと思い出しながら呟いた。
2人の雰囲気と話している内容の差が激しい。
「それで、これからの事なんだが……」
「一応忠告しておくが、これ以上の深追いは命に関わるぞ?」
「そんなのは十分承知だ。それに今更引き返しても、ゾンビ民をけしかけて来た時点で手遅れだろうよ」
黒装束みたいな闇討ちではなく、あんな目立つ事を仕掛けて来たんだ。
闇討ちができなかった理由があったのかは知らないが、存在が表に出る危険を犯して仕掛けて来たのだ。
次はもっと大胆に来る可能性もある。
「ま、だからこそ早く始末したいわけだ。アンタにも手伝ってもらうぞ」
「ん?こちらから仕掛けに行くのか?」
「あぁ。今からだ。早く準備しろ」
「今から?しかし、敵の居場所がわからないのでどうにも……」
「安心しろ。居場所なら大体目星がついている」
「なに?」
やけにはっきりとした物言いに黒装束の男は目を点にしてノブナガを見つめている。
椅子から立ち上がったノブナガが顎で急かすように振るってくる。
「ほら、とっとと行くぞ」
「待て。昨夜の君との戦闘のせいで武器がない」
「あ、あー、そうだったな」
黒装束の言葉で、そう言えば剣を破壊しちゃったなぁと思い出す。
心の中で「仕方ないか」と呟き、また椅子に腰掛け“ストレージ”から鉱石をポンポンと取り出す。
それをばんばん“錬成”し、即席で剣を作っていく。
それをちょっと何をしているのかわからない黒装束は興味深そうにノブナガの手元を眺めている。
“錬成”で形を作って[+収束錬成]で強度を高め、柄も作って嵌め込んで完成した。
そこでこっそり“生成”!
開始から完成まで30秒もかかっていない。
「これでどうだ?“暗殺者”が扱いやすそうに細身にしてみたんだが、強度は保証してやる」
「あ、あぁ。っ!?こ、これは……いい剣だな」
「短剣とか投げナイフは大丈夫か?」
「短剣はあるにはあるが……」
チラッと違う机に目を向け、そこに置いてある短剣数本を見つめる。
使い古されているのか、年期が入っているというか、柄のところも少し曲がっている。
という事で、ノブナガが作る事になった。
合計で6本も作り、そのすべてにこっそり“生成”!
「ん?今何かしたか?」
「なに、ちょっと術式を付けただけだ」
「は?」
「短剣の方には投げた奴の意のままに曲がるようにしただけだ」
「即席でなんて物を作っているんだ」
そこまで望んでない、という黒装束のジト目がノブナガに突き刺さる。
それに対しノブナガは“無視”を発動させ、目でとっとと行くぞと送る。
渋々と装備をまとめて黒装束姿になって行く。
そこでふと、ノブナガの発言を思い出す。
「さっき『短剣の方は』って言っていたよな?じゃあ、剣の方には」
「準備できたな!なら、行くぞ!!」
「お、ちょっと待て!」
黒装束の気がついたような言葉をノブナガの大きい声で誤魔化す。
勢いで扉を飛び出して行った。
ちなみに、剣には空間を飛び越えた斬撃が可能になる術式を付けてたりする。
視認できる範囲すべてが間合いになるという、知ったらゾッとする邪剣だ。
いつかその能力に気づいた黒装束の顔がムンクにならないか心配である。
そうして、宿を出て行ったノブナガと黒装束。
気配を消しながら裏路地を通って目的に向かうノブナガだったが、そこでふと思い出したような声を漏らす。
「あ、そういえば」
「どうかしたのか?」
「名前、聞いてなかったと思ってな」
「おぉ、そういえばそうだったな」
「じゃ、俺はノブナガ。アンタは?」
「私はセバスチャンだ。長いからセバスでいい」
「へ、へぇ……そ、そうか。よろしくな、セバス」
「あぁ。よろしく頼む、ノブナガ」
この時、ノブナガは思った。
……なぜ、その名が“暗殺者”のアンタに?と。
なぜ執事の定番ネームがアンタに付けられたんだ?と。
この時、セバスはいづれ執事になるであろう事が幻視できちゃったノブナガさんであった。
**********************
それから十数分後、ノブナガたちはひっそりとした酒場にやって来た。
先日ノブナガとザンが訪れ、自分に酔っていったいつぞやのテンプレマスターのいる酒場である。
ノブナガは認識阻害の外套を、セバスチャンは覆面をして酒場へと入っていった。
そこには、この前と同じテンプレなマスターがいた。
この前と同じで客1人いない店内。
にも関わらず、既にピカピカのグラスをずっと磨いているテンプレマスターである!
それを目にしてテンションアゲアゲになってしまいそうなノブナガだったが、その心をどうにか抑え込む。
なんとか抑え込んだノブナガはテンプレマスターの前までやって来る。
テンプレマスターはチラッとノブナガを見ると、興味がないかのように視線を元に戻してピカピカのグラスを磨き始める。
そんなテンプレところにまた上がってくるテンションを頑張って抑え込む!
意識を切り替える為に咳を1つ。
「コホンッ。あー、お前のバックにいる奴が知りたい。どこにいる?」
ノブナガがここで情報をもらった時に気がつくべきだったのだ。
ここで手に入れた情報の中にあった矛盾を。
あの時、自分に酔っていたせいでまったく気づきも気にもしなかったおかしな情報に。
確かに、ここで入手した情報は何1つ間違っていなかった。
被害者、殺人現場、経緯。
そのすべてが警備騎士が持っている情報と同じだった。
だが、1つの事件だけが警備騎士のとは違った。
いや、違うのでなく存在しなかったというべきだろう。
ターサが襲われた未遂の情報を警備騎士は持っていなかった。
持っている事がおかしいのだ。
なぜなら、その情報はあの時その現場にいた、ノブナガとターサ、それにセバスチャンしか知らない出来事。
その中の誰かが漏らしたとは考えづらい。
なら、それをテンプレマスターが知る事ができた理由はなんだ。
その例外は、ターサにはあった。
身体に刻まれた魔法陣だ。
あれの詳細は未だにわからないが、もしその魔法陣を仕掛けた者に仕掛けられた者の五感を送る機能があったとすれば?
それなら、辻褄が合う。
情報の漏れ、それにノブナガたちへの襲撃。
ゆえに、ここに来たのである。
最初に鎌をかけるつもりで言ったノブナガであったが、どうやらそれだけで答えはわかったようだ。
シュッ
ノブナガがそう言った瞬間、銀色に輝く何かが飛んできた。
顔に当たりそうだった物を首を傾げて躱す。
後ろの壁に突き刺さった物をチラッと見せば、そこにはピカピカに磨かれたフォークがあった。
どうやら、テンプレマスターがフォークを投擲してきたらしい。
投擲速度から察するに[+即擲]。
“投術師”のスキルだ。
「チッ」
テンプレマスターの口からそんな音が漏れる。
両手一杯に挟まれたフォークで、更なる投擲が放たれる。
ノブナガ、それにセバスチャンも飛んでくるフォークを距離を取って躱していく。
両手一杯にあったフォークがなくなる隙をつき、ノブナガもセバスチャンも短剣を投擲する。
ノブナガは[+即擲]によるコンマ1の投擲であったが、“暗殺者”であるセバスチャンは普通の投擲である。
意図せずして時間差になった投擲は、テンプレマスターの不意をついたようで、ノブナガの速い短剣を躱す事に精一杯になって躱した直後に体勢を崩してしまう。
そこにノブナガが[+感応操作]を付けた短剣がテンプレマスターの右肩を捉えた。
さらにノブナガが“ガンゼール”を取り出して、風弾を発砲。
見えない弾丸によって後方に吹き飛ばされたテンプレマスターは壁に強く打ち付けられ、そのまま意識をブラックアウトさせた。
「はぁ、まさか急に攻撃されるとは思わなかった」
「まったくだ」
愚痴ぽく呟いた2人はテンプレマスターを“ボープ”で締め上げ、店内の隅に放置した。
「こいつが目覚めるまで待つか?それとも叩き起こすか?」
「そうだな。早く済ませたいし、叩きおこーーーーどうやら、その必要はないようだ」
黒幕のいる場所を聞き出す為に尋問しようと思ったノブナガだったが、そこでおかしな風を感じて、その風が吹いてくる方へと目を向ける。
そこにはカウンターがあり、どこかの隙間から吹いてくる風のようだ。
ノブナガは“風読”を発動させ、その隙間を見つけ出す。
食器棚があり、その後ろの隙間から吹いているらしい。
地面を見てみれば、食器棚の横に擦ったような痕が残っている。
「なるほど」
ノブナガは食器棚を横へと押す。
すると、食器棚を退かした先に下へと続く階段が出現した。
ノブナガのテンションがちょっと上がったのは内緒である。
出現した階段を目にして、セバスチャンが驚きと納得の顔になる。
「なるほどな。ここはアジトへの隠し通路で、それを守っていたのがあいつだったわけか」
「らしいな。ここからは“隠形”を使って侵入する。準備はいいか?」
「あぁ、問題ない」
「よし。行くぞ」
“隠形”で限りなく気配を消したノブナガたちは、足音1つ立てずに、まるでこの先で待っている闇を表しているかのように暗い階段を降りていった。




