一難去って、また一難
「この町はーー半日もしないうちに戦場になるわ」
「ーーーーは?」
初めて聞き、そして最悪な情報に目を点にするノブナガ。
「あ、そう言えば……」という呟きがアリンカの方から聞こえてくる。
「詳細が聞きたい。教えてくれ」
「アリちゃん、任せた」
「えぇええ!」
速攻で説明を丸投げするザン。
と言っても、ザンはヤバいという事しか聞いていないので、1番情報を持っているアリンカに説明してもらいという事だ。
急に振られた事に驚いただけで、アリンカもそれをわかっているので、ノブナガにカクカクシカジカ説明する。
「なるほど。国は戦争にこの町を巻き込むつもりなのか。で、その10番隊が今日にも到着する、と」
「そういう事。だから、早くこの町から逃げないと……」
「逃げろたって……今からじゃ、町の人の避難は間に合わないぞ」
「わかってる。それでも、教会の子供たちだけでもと思って……」
「で現在に至る、ていうわけか」
アリンカの説明を聞き、ノブナガはゲンナリする。
その顔はノブナガの心境を雄弁に語っている。
つまり、「うぜぇ〜」と。
「はぁ……町全体を救う方法はまだある。そして、今ならまだ間に合う」
「ホっ、ホントにっ!?」
「あぁ、だがその前に……」
ノブナガはイクレと子供たちに目を向ける。
次にボロボロになった教会を見る。
少し考えるノブナガはボロボロになった教会に歩み寄る。
「少し教会を修理しよう。一旦でもいいから、安全かつ待機できる場所が必要だ」
今からノブナガたちはイクレたちと少しの間、別行動しなければならない。
それにはイクレと子供たちの安全を安全を確保する必要がある。
今からすぐにすべてを修理するのは無理だが、それでも雨風を凌げるぐらいには直せるはずだ。
ノブナガは教会の壁に手を突き、“錬成”を発動させようとした直前。
「ノブナガさん、待ってください」
エリーナに待ったをかけられた。
「どうしましたか?」
「私、完全に直せるかもしれません」
「え、本当ですか?」
「はい。レベルが50を超えた事で新しい魔法が使えるようになって、それで完全に直せると思うんです」
レベル50というのは、どの天紋でも1つの山のようだ。
ノブナガもレベル50になった事で、たくさんのスキルを習得した。
どうやら、“聖女”は新しい魔法を習得したようだ。
「では、お願いできますか?」
「はい。任せてください!」
壁から手を離し、教会からも離れるノブナガ。
エリーナは目を瞑って黙想し、集中を高めてから詠唱する。
「再成は巡る。過去に残されし記憶を呼び戻せーー“再逆”」
詠唱が完成し、ボロボロな教会に銀色の光が降り注ぐ。
神々しく思えるその光は一瞬にして教会を包み込み、光が一層強くなる。
光が収まり、そこにはーー
「っ」
「うへぇ」
「エグいッス……」
「すごい……」
いつも見ていた教会があった。
さっきまでボロボロでいつ崩れるかわからない状態の教会が、綺麗さっぱり戻っていた。
これには、その場の全員が目を剥いた。
「エリーナさん、この魔法は……?」
「えっと、再成魔法、だそうです」
エリーナがステータスを見ながら、そう言う。
自分でもピンときていないのか、自信なさげに言う。
「効果的に、元に戻す魔法ですかね?だとしたら、すごい魔法ですけど」
「確かにすごいですね。ただ、MPはごっそり持っていかれましたけど……」
強力な力ほど、その代償であるMP消費は大きい。
使い所は難しいかもしれないが、それでも一瞬にして元通りにする力が強大である事は変わりない。
これ以上議論する時間もないノブナガはエリーナにMPポーションを飲んでもらって回復させつつ、イクレたちに端的なお願いをする。
「イクレさんと子供たちは教会の中で待っていてくれませんか?何も説明していないのに信用してくれとは言いません。だから、お願いです。イクレさんたちの安全のために、ここで待っていてくれませんか?」
これは懇願だ。
イクレから言わせれば、何の説明もなしに信用しろと言われて、はいそうですかと頷けるわけがない。
だから、これはノブナガのお願いだ。
すべてを片付けるまで、ここに居てくれというお願いである。
イクレは子供たちを見る。
みんな、教会が元通りになった事に喜んで、ここがすぐに戦場になるなんてまったくわかっていない。
それでも、子供たちは今笑っている。
それを守る力は……自分にはない事を痛感するイクレ。
「1つ、聞かせて」
「はい」
「ノブナガくんの考え通りなら、あの子たちを……町の人たちを救えるの?」
「はい。出来ます」
「なら、わかった。ここで待ってる」
「っ、ありがとうございます」
「いいのいいの。その代わり、ちゃんと助けてよ?」
「わかってますよ」
ノブナガのお願いを受け入れたイクレ。
イクレは子供たちを連れて教会の中へと入れていく。
それを見届けたノブナガは“ストレージ”から8つの小さな十字架を取り出す。
4つを教会を四角で囲むように地面に刺し、後の4つはそれに平行になるように浮遊させる。
これはノブナガが野宿用に新しく作ったアーティファクトで、十字架を起点に八点空間遮断が展開可能である。
何があるかわからない以上、これぐらいの対策は必要だろう。
「さて、それじゃあ行こうか」
「行こうって、どこに?」
「もちろんーーーー戦場ですよ」
**********************
場所はタルワーリア町から3キロ離れた草原。
いつもは静かに吹く風の音を楽しめるほど静かな広々とした場所。
しかし、今日はそんな静寂を壊すかのように大勢の足音が聞こえてくる。
それは大勢ーーいや、大軍の進軍の足音だ。
アンディエル帝国第10番隊隊長である“勇者”マサルが馬に跨って先頭に立ち、部隊長クラス以外の者はすべて徒歩で進軍していた。
マサルは数々の戦場を生き抜いてきた強者で、レベルは101。
20代で“勇者”の最終スキルを習得した天才である。
今回もただカイリューン王国にケンカを売ってくるという簡単な任務を嬉々として受け、こうして予定通りに進軍しているのだ。
「マサル隊長。このまま進めば、予定通りにタルワーリア町に到着します」
「そうか。簡単なお仕事だし、さっさと終わらせて帰りたいなー」
「もうすぐ帰れますよ。今日中には町を巻き込んだ戦争が始まるんですから」
「それもそうだね」
報告に来た斥候部隊長と笑いながら話をするマサル。
戦争に町を巻き込む事に何の後ろめたさを感じていないようだ。
まさに“勇者”という仮面を被った偽善者そのものだ。
「おい、何だあれ?」
「鳥、か?」
「いや、デカすぎるだろ。それに紅いし」
すでに高笑いレベルで笑っていたマサルだったが、隊の騎士たちが騒めき始めた事に気がつく。
マサルも騒めきの原因となった方へ視線を向ける。
進軍している正面方向の空に紅い鳥らしきものが飛んでいた。
鳥らしいものなのだが、それにしては紅いしデカ過ぎる。
マサルも注意してそれを見てみると隊の中で悲鳴染みた声が聞こえてきた。
それは1人だけではなく、隊の中の数人の騎士が悲鳴染みた声を、あるいは絶望した顔になる。
この時、マサルは気がつかなかった。
その者たちにはスキル“遠目”を持っているという共通点があるという事を。
だから、気づくのが遅かった。
いや、遅過ぎたのだ。
マサルが見ていた紅い鳥らしきものは徐々に徐々にその大きさが見えてくる。
そして、ここでようやく全員がその正体を知る事になる。
ドラゴン。
その単語が頭に思い浮かんだ時には紅き竜は隊の頭上をものすごい速度で通り過ぎ、Uターンして戻ってくる。
そして、ドラゴンが隊の先頭の方まで戻ってきた所でドラゴンの背中から飛び降りてくる黒い影があった。
その黒い影は地面に突き刺さるかのように着地する。
舞い上がる砂煙。
その砂煙が黒い影の後ろに降り立ったドラゴンの羽ばたきによって払われ、そこから少年が現れる。
黒髪で童顔の残った右手に輝く剣を持った少年。
そして、ドラゴンの側にはいつの間にか2人の少女が立っていた。
綺麗な銀髪を靡かせる魔法杖を持った少女と胸当ての鎧と剣を帯剣した金髪の少女だ。
ほとんどの者の視線が後ろにいる美しい少女2人に釘付けになっている中、その前にいる少年はよく通る声で言う。
「悪いがここはーー」
そして、次の言葉を強調するかのように剣を突き立てた。
「ーー通行止だ」
**********************
ノブナガがイタい言葉を言う十数分前。
八点空間遮断を設置したノブナガたち一行は昨日カレン土下座し……コホンッ。カレンとアリンカが死闘を繰り広げた場所にやって来た。
「ねぇ、こんな所に来て何をするの?」
アリンカは周りをキョロキョロと落ち着かない様子でノブナガに言う。
カレンはカレンでちょっと遠い目をしながら、ノブナガの後ろを付いて来ていた。
エリーナやザンは薄々察しがついているのか、ノブナガに「マジで?」とでも言いたそうな視線を向けている。
もちろん、そんなエリーナやザンにノブナガは満面の笑み。
この時、2人は密かに心の準備をするのであった。
「ここから向かうんだよ。ここなら、万が一にも目撃されないし」
「目撃されたらマズい方法なの?」
「まぁ、驚かれて騒ぎになる、だな。という事で、カレン。頼む」
「あ、だいたい察したッス」
竜の本能的な何かが働いたのか、ノブナガの考えている事を察したらしい。
否、察しちゃったらしい。
「じゃあ、いくッス。“竜化”!」
瞬間、カレンの身体から光が放たれ大きくなっていく。
光が鎮まれば、そこにはここであったが2日目な炎竜が降臨していた。
アリンカは口を開けてドラゴンを見上げる。
「行こうか」
「ちょちょちょちょちょちょ、待って待って待って待って」
「え?なに?」
慌てふためきながら、カレンの背に乗ろうとするノブナガを止めるアリンカ。
「なんで昨日のドラゴンが!?」
「昨日アリンカと戦ってたのはカレンだから」
「説明になってない!!」
「じゃあ、カレンが竜人族だから」
「説明になって…………る!!」
「今、流れでなってないって言おうとしただろ」
2人のテンションの違いがシュールだ。
「じゃあ、どうしてドラゴンで向かうのよ?」
「そんなの、カッコいいからに決まってるだろ?」
「決まってないわ!」
華麗なツッコみを入れるアリンカ。
そのツッコみのキレの良さから、後にツッコみ担当に任命されたのは別の話。
「まぁ、理由は簡単だ。俺たちの存在を世に示す時なんだから、派手にやった方が目立っていいだろ?」
「あー、そういう事。でも、私どうやって戦争を止めるのか知らないんだけど」
「それは簡単。軍隊を全滅させるだけだから」
「ちょっとなにを言ってるのかわからないです」
ノブナガのサラッとした言葉をアリンカは処理出来なかったようだ。
だが、ノブナガの言葉を聞いた他の3人の心の声は見事に一致していた。
(((ですよねー……)))
と。
「軍隊を全滅させて、俺たち“奪還者”の名を広める。超簡単だろ?」
「か、簡単なわけあるかー!!」
アリンカちゃんが吠えた!
今日だけで一生分の驚きを消費しているアリンカちゃんの容量がオーバーした!!
「相手は5千の軍勢よ!“勇者”もいるしっ、それに“召喚師”もいるのよ!!」
「へぇ、“勇者”に“召喚師”もいるのか。まぁ、問題ないけど」
“召喚師”は上級紋の天紋で、契約した動物や魔物を召喚する事が出来る。
レベル次第では幻想獣を顕現、または召喚する事だって可能だ。
もちろん、隊で戦争を経験している“召喚師”のレベルであれば、幻想獣を操る事など造作もないに違いない。
だが、ノブナガにとってはどうって事ない。
なぜなら、ノブナガさんにはチートがあるから!
幻想獣?よかろう、ならばこっちは理すら捻じ曲げてやろう。
「と、いうわけだ。行くぞ」
「あ、うん。て、なにがというわけよ!?」
「悪いが今は飲み込んでくれ。マジで時間がない」
急なノブナガのガチトーン。
ノブナガの言う通り、遅くなればなるほど町への被害が出る可能性が出てくる。
さすがのノブナガも戦争を仕掛けようとしている軍隊相手に手加減なんてできない。
相手もノブナガも周囲を巻き込むスキルを使えば、何も知らない町の人たちに負傷者が出る。
だから、ノブナガはまだ安全な位置にいる今仕掛けたいのだ。
アリンカは自分よりも付き合いの長い他の2人を見れば、特に気にした様子はなくドラゴンの背に乗る。
まだ少し納得のいかないアリンカだったが、頼れる者がノブナガしかいない以上はどうする事も出来ない。
しぶしぶとカレンの背に乗るアリンカ。
『行くッスよー!!』
「トップスピードで頼む」
『はいッス!!』
カレンは大きな翼を力強く動かし、空へ舞い上がる。
ノブナガたちを乗せたカレンは一気に翼を動かして、何もない空を飛翔する。
下の景色はぐんぐんと変わっていく光景にエリーナとアリンカは目を奪われていた。
だが、それは初速度に過ぎず、さらに加速して進んでいく。
ちなみに、それほどの速度を出しておきながら全員が平気なのかと言うと、出発の直前にノブナガが風を凌ぐ為に“ストーム・フォート”を展開しておいたからである。
“遠目”を使って前を見るノブナガ。
さすがドラゴンの飛翔力と言うのか、もう“勇者”率いる軍隊が目視できた。
軍隊を視認したノブナガは首にかけていたネックレスーー髪の色を変えるアーティファクトを外した。
茶髪だった髪が、元の黒髪へと変わる。
「え?……え?」
髪の色を変えるアーティファクトなど知らないアリンカは髪の色が変わる光景を目を点にして見ていた。
エリーナも少し驚いたように目を開く。
「エリーナさん、ヘアピンとメガネを」
「あ、はい」
ノブナガに言われるがまま、エリーナはメガネを外しヘアピンを取った。
瞬間、エリーナの容姿は水髪メガネ美少女から銀髪美少女へと戻る。
アリンカの知るエリーナへと戻る。
「エリーナ……」
「ごめんね、アリンカ。黙ってて、本当にごめんね」
「ううん、いいの。エリーナが無事でいてくれただけで、私はすごく嬉しい……」
「うん。ありがとう、アリンカ」
親友同士の再会。
エリーナが行方不明になってから、アリンカはエリーナの事を心配しなかった日はない。
エリーナもまた、残酷な国に置いてきてしまった親友を想い、旅の苦労と同じぐらいアリンカの事を考えいた。
運命の悪戯なのかわからないが、これもまたエリーナとアリンカが紡いだ運命の糸だったのかもしれない。
「せっかくノブちゃんがお膳立てして回ってたのに無駄になっちゃったね?」
「……もしかして、知ってたのか?魔族が虫を操る事に?」
ノブナガが朝から外に出ていた理由。
それは周囲の蜘蛛を駆除する為だった。
アリンカが来た時点で、ノブナガは蜘蛛に目星が付いていた。
だから、ノブナガはアリンカが帰った後にずっと視線を感じていた蜘蛛を短剣の投擲で殺した。
使い魔だと思われていた蜘蛛はただの蜘蛛だった。
魔物どころか魔力すらない蜘蛛。
どういう事かと思考したノブナガは、「もしかして、蜘蛛を操ってる?」という結論に至った。
一晩かけて教会の隅々の蜘蛛を駆除し、そして森の蜘蛛も排除しに行ったのだ。
何も言わなかったはずなのに、ザンにはノブナガの行動がバレていた。
「知ってたよー。わたしは女神の聖剣なんだから、知ってるに決まってるじゃん」
「じゃあ、なぜに言わなかった……」
サクッと知ってた発言するザン。
ノブナガの肩がガタッと落ちる。
「まぁ、正確には術者と波長が合う生物の視界を共有するってのが、正解なんだけど」
術者と波長が合う生物。
つまり、タヤは蜘蛛女だったから蜘蛛を操っていただけで、それ以上の理由もそれ以下の理由もないらしい。
「ま、話はそれぐらいにして」
「……そうだな。行こうか、ザン」
「…………オーケー、全力で行こう!!」
ザンが光の粒子となって分解、再構築されてザンガルドになる。
美しい塗装がされた聖剣を目に、アリンカの目がキラキラと光っている。
『着いたッスよ!』
そんなカレンの声と同時に軍隊の頭上を通過する。
「戻ってあいつらの前方を陣取れ」
『了解ッス!!』
身体を捻り、Uターンするカレン。
また軍隊の頭上を通り、軍隊の前方までやって来る。
「登場は派手に」
(だね)
ノブナガの呟きに聖剣のザンが続いていう。
瞬間、ノブナガはカレンの背から身を投げ出し、パラシュートなしスカイダイビングをし始めた。
いくら着陸前で高度が落ちていたとしても、普通に死ねるレベルの高度である事は変わりない。
ノブナガが飛び降りた瞬間、エリーナやアリンカが何か叫んでいたように見えたが、“ストーム・フォート”の効果範囲外に出たノブナガの耳に届く事はなかった。
「重力は無に還る。我が身は空に浮遊せよーー“無重”」
自身にかかる重力をゼロにしたノブナガは演出の為に着地と同時に地面に“エア・バレット”を放って砂埃を舞わせる。
その後にカレンがノブナガの後ろに降り立ち、エリーナとアリンカも地に足をつける。
なんかテンションがアップアップになってしまったノブナガは、前世の記憶の中でも封じ込めようとしていた記憶ーー黒いノートに書いた「人生で1度は言ってみたいランキング」の2位の言葉を口にした。
否!
口にしてしまった……
「悪いがここはーー」
ノブナガはザンガルドを地面に突き刺し、嬉々として言ってしまった。
「ーー通行止だ」
後に、この時の事を思い出してしまったノブナガがどうなったかは……また別の時に話すとしよう。




