VS蜘蛛の魔族 その2
「覚悟しろよ」
「ッ!?」
「俺の仲間を傷つけておいて、タダで済むと思うなよ」
ノブナガは殺気の篭った声で言う。
ノブナガの殺気を一身に受けたタヤの背中は汗でビショビショだったりする。
魔界でたくさんの恐怖を潜り抜けてきたタヤでさえ、怖いと感じる事に恐怖を抱いているのだ。
(何ビビってるのよっ、私!相手は人間族!単純なステータスなら私の方が上っ!万が一にも負ける事は、ない!!)
タヤは胸の中で自分を叱咤し、闘志を湧き上がらせる。
先制に粘着糸の塊を吐き出すタヤ。
それを少し身体を晒すだけで躱すノブナガ。
糸の塊を吐き出した瞬間に移動を開始していたタヤは壁から天井、天井から壁へと高速移動しノブナガの背後を取る。
振り向きもしない無防備な背中に向かって、タヤは手突を繰り出す。
しかし、まるで背中に目でもあるかのように身体を晒して回避するノブナガ。
手突を繰り出した直後の状態のタヤに振り向きながら“豪腕”を発動させ、その腹に拳をぶっ放す。
「ゴホッ!」
骨が砕ける生々しい音を立てながら、吹き飛ばされるタヤ。
だが、今回はこれだけじゃ終わらない。
吹き飛ばされ、壁に衝突する前に回り込んでいたノブナガ。
“歩法術”の派生スキル[+無法移動]というどんな所でも足場に出来るスキルを使い壁を走り、飛んでくるタヤを“豪脚”を発動させた足で蹴り返す。
今度は右腕の生々しい音が響き渡る。
そして、さらに回り込んで“豪腕”、また回り込んで“豪脚”、回り込んで“豪腕”、回り込んで“豪脚”。
これがまるでテニスのラリーのように続けられた。
聞こえてくるのはボールを打つ音じゃなくて、骨が粉々に砕ける音だけど……
ボコボコにされたはずのエリーナたちは綺麗な空中ラリーを「もうやめてあげてぇ!」とでも訴えるかのような目で見ていた。
さっきまで死闘を繰り広げていた者たちに憐れみの目で見られる蜘蛛の怪物……本当に憐れだ……
100近く続けただろうか、そろそろ飽きたらしノブナガが最後の一発とばかりに拳を放つ。
また派手な生々しい音を立てながら、教会の壁をぶち破って外まで飛んで行ってしまった。
「あ、やり過ぎた……」
ここでようやくやり過ぎた事に気づいたノブナガ。
怒りで我を忘れて行動すると死ぬほど後悔するとわかっていたのにやってしまった……
急いで“気配探知”でタヤの様子を探るノブナガ。
どうやら、まだ息があるようだ。
あんなミンチにされても生きているとは、さすが魔族……なんだろうか……?
とりあえず、ノブナガは外に行ったタヤを一旦放置し、エリーナたちの救助に移る。
“ストレージ”から転移させた短剣をみんなが拘束されている箇所に投擲していく。
「我が剣に宿れ炎。その刃は焼き切る紅蓮の剣ーー“フレイム・ソード”」
“属性付与”を唱えると、ノブナガが投擲した短剣たちに炎が纏わり付き、エリーナたちを拘束している糸の塊を消し炭にした。
「エリーナさん、早速で悪いんですがザンの治療をお願いします」
「わかりました」
属性魔法の詠唱ばかりを覚えていたノブナガはまだ状態回復の魔法を使うことができない。
明らかに傷以外の負傷が見られたザンをエリーナに託す。
エリーナがザンの側までやって来るのと入れ違いに、ノブナガはカレンの下へ歩み寄る。
「おーい、大丈夫かー?」
「だ、大丈夫ッス……」
「いや、全然そうは見えないぞ」
ノブナガが拘束を解いてからカレンは地面と一体化するかのように倒れ込んでいる。
返答も地面と濃厚なキスを決め込みながら、だ。
どう見ても、もう頭を上げる力も残ってない状態である。
とりあえず、回復魔法をかけるノブナガ。
血を流していた肩の傷がみるみると塞がっていく。
「ま、魔力がすっからかんッス……」
「…………とりあえず、これ飲め」
「忝いッス……」
うつ伏せのカレンを起こし、“ストレージ”から取り出したMPポーションを口に流し込む。
すぐに回復するわけではないが、自然回復量はグンと跳ね上がる。
カレンにMPポーションを飲ませているノブナガの下にアリンカが歩み寄って来る。
屈んでいるノブナガを見下ろし、睨むような目で見るアリンカ。
なぜ睨まれいるのかまったくわからないノブナガ。
そこでアリンカがカレンに飲ませている手元を見ている事に気付いたノブナガはポンッと頭上に浮かべ、また“ストレージ”から取り出したMPポーションをアリンカに差し出した。
その時の顔は「汝が意を汲み取ったり!」とでも言っているかのようなドヤァとした顔だった。
それに対し額に青筋を浮かべるアリンカ。
素早い動きでポーションを奪い取ると、某栄養ドリンクのCMのような構えでガブガブと飲み干した。
「ぷはぁ……で、ノブナガ。あんたは何者なの?あんな動きを見せておいて、まさかただの“錬成師”なんて言わないでしょうね?」
「……ただのじゃないな。俺はーースーパーな“錬成師”だ」
アリンカが黄金の右ストレートを放った!!
なんのっ、とアリンカの拳を受け止めるノブナガ!!
「なぜ拳を突き出す?」
「茶化すからでしょう!!」
アリンカからこんな時にふざけるな、と叫ばれる。
エリーナやザン、それにカレンから自業自得だとジト目で見られるノブナガ。
だが、こんなシリアスな時程ほどボケたくなるのがノブナガクオリティー。
ボケたっていいじゃん!?
「ま、そうイライラするな。まだ終わってないんだ。1から説明してたら日が暮れる。今すぐに言える事は、俺たちはアリンカの味方だという事だけ。終われば、すべて話す。魔族の事も、俺たちの事も」
「…………本当でしょうね?」
「あぁ、約束だ」
「……わかった。とりあえず、それで納得してあげる」
明後日の方を向きながらではあるが、一応納得してくれたようだ。
それにコクンと頷いたノブナガはタヤが破った壁を通って教会の外へ。
「じゃ、行ってきます」
顔だけ振り向いたノブナガが残る仲間たちにそう言い、地を蹴って駆け出した。
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「はぁはぁはぁはぁ……アレがネルラ様をボコボコにしたっていう“精霊術師”か……聞いてた通りの化け物……」
ノブナガの“豪腕”で外へと放り出されたタヤは“蜘蛛化”を解除し、人の姿の2本の足を使ってノブナガから逃げていた。
“蜘蛛化”の時はそのスキルに魔力を使い続けているせいで使えないが、魔族には生まれつき“魔素再生”というスキルを持っている。
このスキルは大気中の魔力を吸収して治癒力と速度を爆発的に上昇させるものだ。
この治癒力は複雑骨折も瞬時に治し、時間はかかるが欠損した部位すらも元通りにするほどだ。
“蜘蛛化”を解き、“魔素再生”が働いて元通りに成りつつあるが、まだ身体が万全じゃないのか少し足を引きずるような歩き方だ。
しかし、タヤは一刻も早くここから離れなければならない。
でないとーー
「ようやく見つけた。そんな状態でどこに行こうっていうんだ?」
「ーーッ!?」
タヤの背後から声がかけられる。
木に手をついて身体を支えながら、タヤは振り向く。
そこには、どうにも後味が悪そうな顔のノブナガがいた。
「……どうしてわかったの?」
「“魔弓士”のスキルだ。初めて使ったけど、便利だったよ」
“魔弓士”のスキル“追跡”。
足跡を視覚出来るスキルで、居たであろう場所にタヤが居なかったので、このスキルを使って足跡を追ってきたのだ。
「ネルラ様が言ってた通り、多芸なんだね、キミ」
「褒め言葉として受け取っておく。それより、降参する気はあるか?」
「……あるわけないでしょ」
ノブナガの勧告をバッサリと切り捨てるタヤ。
直後、“蜘蛛化”を発動させたタヤの人の姿から禍々しい巨大な蜘蛛の姿へと変わる。
“魔素再生”で完全に癒えたのか、ノブナガに粉々にされた骨やアリンカの“テンペスト・ブレイド”で千切られた左腕やら脚やらが元に戻っていた。
「……そうか。なら、仕方ない」
戦闘体勢のタヤを見て、ノブナガも“ストレージ”から剣を取り出してくる。
そして、右手に持った剣を構える。
直後、ノブナガの周囲に糸を吐き散らすタヤ。
蜘蛛の糸でノブナガを取り囲むと同時に、タヤはその上を伝ってノブナガの周囲を高速で移動する。
そして、移動しながら糸の塊を噴射。
四方八方からノブナガを襲う。
ノブナガは“風読”を発動させ、風を切る音で先を読み、すべての攻撃を僅かな体捌きで躱していく。
「炎風・燃える渦・巻わる業火ーー“フレイム・トルネード”」
ベリンの編み出した炎風の複合魔法“フレイム・トルネード”を放つ。
ノブナガを中心に激しい風と炎が吹き荒れ、炎が地面に付着した糸の塊を燃やし、風が周囲に張り巡らされた糸を吹き飛ばした。
もちろん、その上を移動していたタヤも同様に吹き飛ばされる。
空中で糸を放って木に繋げ、風をやり過ごすタヤ。
ようやく風が収まった所で無事地面に着地する。
そこを狙ってノブナガが仕掛ける。
[+身体強化]したノブナガは一瞬で間合いを詰め、剣を振るう。
右腕を盾に防ごうとするタヤ。
しかし、その腕は容易く斬り裂かれ、タヤの黒い腕が地に落ちた。
腕を落とされた痛みに顔を歪めるタヤだったが、痛みばかりに意識を集中させていられない。
返す剣で第2閃を放つノブナガ。
防御という選択を一瞬にして捨てたタヤは全力で後ろへと跳んでそれを回避。
回避し切れなかったのか、タヤの腹部に浅く斬られた線が入っている。
間合いが開き、ノブナガは剣を構える。
背後から話しかけた時のような後味が悪いような顔はもうなく、その双眸はしっかりとタヤを見ている。
瞬間、ノブナガの姿がぶれ、次の瞬間にはタヤの懐へと入り込んでいた。
“歩法術”の派生スキル[+無拍移動]である。
(っ!また!?)
またしてもいつの間にか間合いを詰められていた事に驚愕するタヤ。
しかし、2度目という事もあってまだ冷静に判断できた。
タヤはスローモーションのように遅い世界の中で、自身の胴体に糸を巻き付ける。
タヤの行動の意図がわからないノブナガ。
が、糸ごと胴体を斬る勢いで剣を振るった。
ノブナガチートの攻撃力の前ではすべてが紙切れかと思われた。
がーー
ガキンッ
甲高い音を鳴り響きながら吹き飛ばされるタヤ。
ノブナガは返ってきた手応えに驚愕し、吸い寄せられるようにタヤの胴体に巻き付けられた糸を見る。
「ふぅ……どうやら最硬鉱物の糸までは斬らないみたいね」
安心したように呟くタヤ。
最硬鉱物アルザンタイト。
それを時間をかけて糸状にした物をタヤは自身の身体に巻き付け、防御として使ったのだ。
その呟きを聞いたノブナガは目を剥いて驚く。
タヤが最硬鉱物を隠し持っていたからーーーーではない。
(アルザンタイトって……最硬鉱物だったの!?)
今自分が嵌めている手甲を凝視するノブナガさん。
まるで、青天の霹靂!とでも言うかのような驚き顔だ。
そうです。
ノブナガさんはまだ自分が嵌めている手甲の素材の凄さをわかっていなかったのです……
ノブナガは奴隷だったから!
「さすがに最硬鉱物が出てくると焦るみたいね」
ノブナガの驚き顔を見たタヤがしてやったりと言う。
2人の反応が噛み合っていない……
はっきり言って、ノブナガは最硬鉱物が出てきた事自体に1ミリも焦ってはいなかった。
それがアルザンタイトであるとわかったのなら尚更。
「空間は分離する。隔たれし境界をここに示せーー“隔間”」
なぜなら、ノブナガにはチートがあるから!
瞬間、タヤの上半身と下半身がズレように錯覚する。
否、錯覚などではない。
「え?」
地面にバタリと倒れ込むタヤ。
しっかりと6本脚で立っていたにも関わらず、倒れた。
訳がわからなくなったタヤは混乱する。
ノブナガが唱えた魔法が原因なのはわかるが、どんな魔法かがまったくわからなかった。
混乱するタヤの視界にふとある物が映った。
最初は逆光でわからなかったが、次第に目が慣れそれがハッキリと見えるようになった。
「う、そ……」
タヤの目に映った物、それはーーーータヤの下半身だった。
今のタヤは上半身と下半身が離れている状態で、上半身が支えをなくして倒れ込んでいるのだ。
空間魔法“隔間”
対象の空間をズラし、切断する魔法。
空間そのものをズラしているので、頑丈さなど関係ない。
その場にいれば、すべてが真っ二つになる運命。
それが“隔間”なのだ。
「いくら魔族でも身体半分を元通りにするのを短時間で、なんて出来ないだろ」
「はははは……そうだね」
「もう終わりだ」
「……そうだね。私の負けだよ」
上半身だけのタヤに歩み寄り、声をかけるノブナガ。
死が目の前にあると言うのに、タヤは笑顔で返してくる。
「……命乞いとか、しないのか?」
「してほしいの?殺し辛くなるよ?」
「……そうだな。すまん、忘れてくれ」
謝罪するノブナガ。
ノブナガはこの時、初めて敵に謝罪した。
敵と認めれば、容赦も慈悲もなく戦ってきたノブナガの初めての謝罪だ。
剣を倒れ込むタヤの首元に突きつける。
「そうだ。2つお願いがあるんだ」
「……なんだ?」
敵のお願いなど、聞く必要はない。
だが、この時のノブナガは聞かないといけない気がしたのだ。
「アリンカちゃんに友達になってくれてありがとう、て伝えておいて。こんなケンカ別れみたいな最後だったけど……私はすごく楽しかったって」
剣を振り上げーーそして、
「最後に、アリンカちゃんを絶対に守って。私の大切な友達なんだから、傷つけたら化けて出てやるんだから」
「……わかった。約束する」
ーー振り下ろした。
この時、ノブナガとエリーナのレベルが50を超えた瞬間だった。
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タルワーリア教会。
激しい戦闘のせいで教会はボロボロ。
治療を終えたエリーナとザン、それにカレン、アリンカ、イクレに子供たちはそんな教会を見上げている。
子供たちは住んでいた教会を見上げ唖然と、エリーナたちは申し訳ない気持ちから俯いてしまう。
そこにノブナガが戻ってくる。
「ノブナガさん……」
「只今戻りました」
「ノブナガ、タヤさんは?」
「タヤ?あぁ、倒したよ」
そう言って、ノブナガは手にしていた魔石をアリンカに渡した。
魔石ではあるが、その大きさは魔物の物よりもふた回り大きい。
この魔石が魔族のーータヤの魔石だ。
「っ、タヤさん……」
「タヤさんが、アリンカにありがとう、だって。友達でいられて楽しかったよ、って」
「っ、っ、っ、タヤさん……タヤさん……」
やはり、友達が死ぬという事は辛い事だ。
魔族だろうと関係なく、アリンカとタヤの間には確かな友情があったんだ。
静かに泣くアリンカの背中をエリーナが摩ってあげる。
ノブナガはエリーナにアリンカを任せ、イクレと子供たちの下へと歩み寄る。
「この度は、俺たちの力が及ばず教会を壊してしまってすいませんでした」
「……ノブナガくんは知ってるの?どうして、あんな化け物がいるのか」
「俺たちが知っている事、隠してきた事、すべて話します」
「ちょっと待って、ノブちゃん」
こんな事態になったのだ。
黙っているわけにもいかないと思ったノブナガはイクレにすべてを話そうとした。
しかし、そこにザンが待ったをかける。
「どうして?話さないと収集なんてつかーー」
「話す事自体はわたしも賛成。だけど、今はのんびりとしていられない事態が起こってるの」
「何が起こってるんだ?」
「この町はーー半日もしないうちに戦場になる」
「ーーーーは?」
一難去って、また一難。
ノブナガたちに襲いかかる火の粉は、まだ残っている。




