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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
タルワーリア教会編
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33/123

VS蜘蛛の魔族 その1

 獰猛に笑ったタヤは口から白い塊を勢いよく吐き出す。


「光・阻む・防壁ーー“ライト・シールド”!!」


 それを咄嗟に防ぐザン。

 光の盾が出現し、タヤが吐き出した白い塊を防ぐ。

 が、


「なっ、何これ!?ネチャネチャして気持ち悪っ!!」


 ザンが防いだ白い塊は消滅せず、へばり付くように引っ付いている。


「それは蜘蛛の糸を塊にした物だよー!一度引っ付けば、絶対に離れないんだから!!」


 そう言って、また塊を吐き出すタヤ。


「炎よ・地中より沸き上がる・灼熱の防壁ーー“フレイム・ウォール”!!」


 が、それはカレンが先に詠唱していた魔法によって防がれた。

 炎の壁に触れた瞬間、ブオッという音を立てて燃え消えた。

 どうやら、炎に弱いらしい。


「カレンは防御に集中っ。エリちゃんとイーちゃんは子供たちの避難に回って!」


 戦況が安定した瞬間を見計らい、ザンが叫んで役割分担を振る。

 それを聞き、カレンが防御魔法の詠唱に、エリーナとイクレは奥の通路に向かい、ザンは手に手榴弾を構える。

 最後にザンは棒立ちとなっているアリンカを呼ぶ。


「アリちゃん!」

「っ!?」


 鋭い声で呼ばれ、ビクンとするアリンカ。

 こちらに気付き、視線を合わせたアリンカにザンは言う。


「思う事はたくさんあると思う。だけど今はーー戦って」

「ーーーー……わかった!」


 最後の1人、アリンカは剣を抜き、構える。

 剣を手にしたアリンカの目は、覚悟を決めた者の目へと変わる。


「はぁ……アリンカちゃんも参加するの?それなら骨の2、3本は覚悟してね?」

「覚悟するのは、あんたの方よ!」


 ザンは叫びと共に手榴弾を投げる。

 中を舞う黒い物体が何なのかわからないタヤは特に気にした様子もなく、また糸の塊を吐き出そうとする。

 その行動が悪手となった。


「みんな、目を庇って!」

「ッ!?」


 ザンが合図すると同時に閃光手榴弾が弾け、途轍もない光を放つ。

 ザンの合図に反応したカレンとアリンカはしっかり目を庇った事で被害はない。

 しかし、タヤは強力な光に目を潰された。


「あぁぁぁぁああああああああ!!目がぁっ、目がぁああああああ!!」


 複数ある目がやられ、両手で目を抑えて悶えるタヤ。

 そこにアリンカが仕掛ける。

 一息で剣の間合いに入ったアリンカは斬撃を放つ。

 さすが“剣聖”という事か、剣が煌めいたかと思えば、タヤの身体に複数の傷が刻まれていた。

 しかし、タヤの防御力が高いのか浅い傷しかない。


「硬いっ!でも、ドラゴンほどじゃない!!」


 アリンカは諦めずに剣を振るおうとする。

 しかし、タヤが脚を使ってアリンカを振り飛ばす。


「裁光・輝く・剣・滅せよ・斬り裂くーー“シャイニング・スラッシュ”!!」


 アリンカがタヤから離れた瞬間を狙い、ザンが中級魔法をぶっ放す。

 剣状に形作られた光が3本出現し、タヤに向かって高速で回転しながら襲いかかる。

 狙う場所は先程アリンカが付けた傷の箇所。

 狙い違わず傷の箇所に吸い込まれるようにして光の剣がタヤに命中するかと思われたーーが。


 瞬間、タヤの目がクワッと開き、天井に向かって蜘蛛の糸を吹き出しす。

 天井に繋がった糸をつたい、天井へと回避する。

 当たると思われた光の剣はスレスレの所で躱された。


「ふぅー、危ない危ない」


 天井に止まるタヤ。

 蜘蛛の特性が活かされているのか、天井で逆さ立ちしても落ちてくる気配はない。


「風・纏う・疾風ーー“ゲイル・ラビット”!!」


 そこでアリンカが推進力を生み出す魔法を発動し、跳び上がる。

 一気に天井まで間合いを詰めるアリンカ。

 しかし、詠唱した時点で来る事がわかっていたのか、間合いを詰めた瞬間に腕で叩き落とされた。

 咄嗟に剣を盾にして直接ダメージを防いだアリンカは空中で体勢を立て直して無事に着地する。


(ダメッ。私の攻撃が読まれてる……)


 人知れず副隊長としてアリンカの側にいたのだ。

 今のタヤはアリンカの攻撃パターンを読む事ぐらい造作もない事だ。


 アリンカを叩き落としたタヤはザンに向かって糸を放つ。

 糸の塊とは違う1本の糸だ。

 非戦闘向けの天紋の人なら見えないほど細い糸。

 もちろん、この場にいるのは全員が戦闘向けであるが。


「ーー“フレイム・ウォール”!!」


 カレンが詠唱して待機させていた防御魔法を発動。

 炎の壁が出現する。

 さっきはこれで糸の塊を燃え消した。

 しかし、タヤも同じ攻撃をするほどバカではない。


 タヤが放った糸は防がれると思った炎の壁を斬り裂いた。


「ッ!?」

「ウソォッ!?」


 炎の壁が真っ二つになったのを見て、ザンとカレンは驚愕の声を漏らす。

 硬直するザンたちだったが、炎の壁を斬り裂いた糸は今尚ザンに迫ってくる。

 ザンは横っ飛びでそれを回避。


 急な回避だった為、転がり込んでの回避だ。

 そこにタヤが天井から壁を伝って仕掛ける。

 回避した直後のザンに接近し、黒い腕を突き出す手突を放った。

 回避直後なうえに詠唱もしていなかったザンにこれを防ぐ手段はない。


 が、そこに横から入ってきたのはアリンカだ。

 “ゲイル・ラビット”の推進力を使い、今ザンを貫こうとしている腕を剣で弾き飛ばした。


「ッ!このっ!!」

「ぶっ飛べッス!!」


 腕を弾かれたタヤは舌打ち混じりにそう言うが、そこにカレンが両手を前に突き出した状態でスキルを発動させる。

 カレンが突き出した両手から衝撃波が発生し、突き出した先にあるタヤに襲いかかる。

 未知の攻撃に対応出来なかったタヤは正面から衝撃波を受ける。

 タヤの巨体が軽々と吹き飛び、祈りの場の壁に衝突する。


 カレンのスキル“咆哮”。

 ドラゴンの咆哮と同等の衝撃波を放つ事が出来るスキルで、竜化した際でも咆哮しながら“咆哮”を使う事も出来る。


「うっ……」


 衝撃波を諸に受けたタヤは内臓が揺らされた気持ち悪い感覚に頭を抱える。

 そこで詠唱を開始する開始するアリンカ。


「天上の風よ・激しく吹き荒れ・万物を切り裂け・黒鳥の羽ばたき・叫声は歪み・四肢は裂け・すべてを天空へと誘え!ーー“テンペスト・ブレイド”!!」


 7節のフル詠唱が完成し、アリンカの魔法が発動する。

 倒れ込むタヤの周囲の空気が渦巻き、巨大な竜巻が発生する。

 竜巻は天上を突き抜け、空高くへと登っていく。

 竜巻の中心にいるタヤは宙に浮き、その身体に何十、何百という傷を刻んでいく。


 風の上級魔法“テンペスト・ブレイド”は巨大な竜巻を発生させ、その中にあるモノを鋭い風によって斬り裂く魔法だ。

 風魔法の中で最も殺傷性のある魔法でもある。


 残りMPをすべて使って放った魔法が収まり、宙に浮いていたタヤの身体が力なく地面に落ちた。

 身体中から血のような緑色の液体が吹き出し、6本の脚の内の3本が千切れ、左腕も失くなっていた。

 もうタヤの身体はビクともしない。


「殺った、の……?」

「ちょっ!それやってないフラグ!!」

「え?」


 アリンカが安心してそう呟いたに過ぎない。

 が、それを聞いてまるで電波を立てたかのように反応する者がいた。

 もちろん、地球のサブカルチャーを知っているザンさんだ。

 ノブナガの記憶を覗いた時に見た、フラグ建築言葉の1つである。

 それに過度に反応するのは仕方がない。

 なんせ、この場において本当に冗談にならないフラグだから。


「っ!」


 フラグの力強しっ、とでも言うかのように一瞬にして身体を起こすタヤ。

 それに反応して剣を構えるアリンカだったが、タヤの脚の攻撃に反応できずに吹き飛ばされた。

 ゴロゴロと地面を転がるアリンカ。

 止まる所を見計らい、タヤが糸の塊を4回飛ばしてアリンカの四肢を拘束する。


「くっ、このっ!!」

「それは粘着糸の塊だから、自力で拘束を解くなんて不可能だよー」


 アリンカがどうにか拘束を解こうと身を捩(よじ)るが、伸縮して糸が切れない。

 こうして、殺してはならない者を動けなくしたタヤは本当の標的であるザンたちに視線を向ける。


「さて、お前たちは確実に殺してやるからね」

「言ってろッス!」


 また両手を突き出したカレンが“咆哮”を発動する。


「2度も効かないよ!」


 しかし、もう見破られたのか衝撃波を受ける前に天井に蜘蛛の糸を張り、これを登って回避する。

 衝撃波は完全に避けられ、壁を粉砕する事しか出来なかった。

 ザンとカレンはタヤを目で追う。


 だが、タヤの動きは先程よりも明らかに速くなっている。

 壁や天井を縦横無尽に移動し、ザンとカレンを翻弄させる。

 そして、ザンとカレンがタヤの動きについて行けなくなった所を見計らいカレンの背後に回り込む。


「カレンっ、後ろ!」

「っ!ーーッ!!」


 ザンの声に反応し、カレンはすぐに横へ跳んだ。

 直後、カレンがさっきまでいた場所を黒碗の手突が貫いた。

 後一瞬でも跳ぶのが遅れていれば、カレンは間違いなくタヤのの腕に貫かれていただろう。


 転がって膝立ちになったカレンは右手をタヤに突き出し“咆哮”を発動しようとする。

 威力は半減するが、それでも鉄を砕ける威力だ。


「ーーッ……あれ?」


 しかし、発動する事が出来なかった。

 急に身体の力が抜け、思うように動かなくなった。

 バタリと倒れ込むカレンにタヤは言う。


「私の毒は強力でしょ?たとえ、ドラゴンにだって身動きが取れなって死んでいく即効性の猛毒よ」


 カレンは目を動かして右肩を見る。

 先程チラッと見えたが、そこから紅い血がタラリと垂れてくる。

 どうやら、さっきの攻撃を完全に躱し切れずに右肩に掠ったようだ。

 もし、本当にタヤの言う通りの毒であれば、たとえ竜人族であっても諸に受ければ確実に死んでいるだろう。


「光よ・散らばる弾となりて・敵を撃ち抜け!ーー“フォトン・バレット”!!」


 呑気に毒について語っているタヤに向かって光の散弾を放つ。

 背後からの不意打ちを簡単に躱すタヤ。

 散弾を躱したタヤは振り向きざまに腕を振るう。


「光・阻む・防壁ーー“ライト・シールド”!!」


 咄嗟に防御魔法を発動させて防ぐ。

 しかし、タヤの腕は光の盾は容易く破壊され、ザンを吹き飛ばした。

 背中から壁に衝突するザン。


「かっ」

「あれ?反応が遅くなったね。さっきの魔法も通常詠唱だったし。もしかして、もうMPが切れそうだったり?」

「ーーっ」


 タヤにそう言われ、起き上がろうとしたザンの動きが止まる。

 その額にはタラリと汗が垂れる。


 そう、タヤが言った通り、もうザンには初級魔法を数回使える分しかMPが残っていない。

 中級魔法を[+省略詠唱]した事で、ザンのMPは初級魔法でも容易く[+省略詠唱]出来ない状態だ。

 通力を使って近接戦闘に出ればいいのだろうが、相手の速さが尋常でない分、ザンの勝算はゼロに近い。


「何も出来ないお前は、仲間が殺される所を黙ってみてーー」

「ーー毒晒し戦士に神天の光を!ーー“浄回”!!」


 突然、第3者の声が乱入してくる。

 その声の正体はーー子供たちを避難させていたエリーナだ。

 通路を通っている間に会話が聞こえていて状況を理解していたエリーナは状態回復の魔法をカレンに掛けた。

 直後、カレンの身体に力が戻り、左手を突き出して“咆哮”を発動させる。

 至近距離から受けた衝撃波に吹き飛ばされるタヤの巨体。


「うっ……次から次へとっ。鬱陶しい!」

「足元がお留守だよ」


 半減した“咆哮”だったのか、すぐに復活したタヤの足元に黒い物体が転がる。

 それはザンが転がした手榴弾だ。

 それにタヤが気づいた時にはすでに遅い。


 ドカッーーーーーーーーーンッ!!


 純粋な爆発だけの衝撃がタヤを襲う。

 自分たちも巻き込まれない為に鋼のパチンコ玉は抜いておいた。

 爆発の衝撃で宙を舞うタヤの身体。

 そこにまたカレンが両手を突き出し、最後のMPを振り絞って“咆哮”を放つ。


「最後の、ぶっ飛べッス!!」


 カレンの両手から強力な衝撃波が放たれる。

 両手から放たれた衝撃波が、タヤの身体を深々と穿つーー


「わけないよねー」

「っ、ウソォッ!!」


 口から糸を出して壁に張り、それをつたって宙で身体を晒す事でカレン渾身の衝撃波を回避したのだ。

 そして、お返しとばかりに空中で粘着糸の塊を吐き出してくる。

 反応できなかったカレンは真正面からそれを受け、背中から壁に衝突しながら拘束されてしまう。


 そして、壁にたどり着いたタヤは高速で壁を移動して、ザンに接近して手突を放つ。

 どうにか反応し、急所を晒したザン。

 が、爪から流れる毒まで晒せるわけじゃない。

 突き刺さった左腕から着実に毒が回っていく。

 脱力していく感覚に襲われながらも、意識を保とうと奮闘するザン。


「ザンさん!?」

「お前も黙ってて」


 “浄回”で回復させようとするエリーナに向かって粘着糸の塊を吐き出す。

 2つ同時に吐き出されたそれは狙い違わずエリーナの両手に命中し、エリーナも身動きが取れなくなってしまった。


「ふぅ……これでゆっくりできるよ」


 この場にいる全員が身動きが取れない状態になるのを確認すると、ザンの左腕から右腕を引き抜くタヤ。

 支えをなくしたザンはバタリと倒れ込む。


「さて、やっと殺せるよ」

「やめて下さい!タヤさん!!あなたの目的は私なんだからっ、他の人を巻き込まないで!!」


 タヤが身動きの取れないザンの首筋に右腕を突き出すと、床に拘束されているアリンカが叫ぶ。

 しかし、その願いは呆気なく振り払われる。


「確かに私はアリンカちゃんの監視兼刺客だけど、それとこれとは内容が違うんだよ。こいつを殺すのは、私たち魔族が勝利する為なの。だから、こいつを殺すの」

「そ、そんな……」


 アリンカの願いは届かず、タヤは右腕を振り上げる。


「じゃ、おやすみ」


 最後の言葉のように呟いたタヤは……振り上げた右腕を振り下ろした。


 直後ーー


 ーータヤの頭上の天井が崩れた。


「ッ!?」


 咄嗟に後ろへと退がるタヤ。

 何事かと崩れて落ちてきた所に目を向ける。

 昼の太陽の光が崩れた天井から差し込み、空気中に舞っている埃や砂が光に反射している。


 そんな中に1人の少年が立っていた。

 茶色い髪で銀色の手甲を付けた、まだ若い少年だ。


 見覚えのないタヤは複数の目を一点に向け、その少年を観察する。

 すると、ずっと下を向いていた少年が少し顔を上げてタヤを見ている。


「ーーッ!!」


 この時、タヤは今までに感じたことのない寒気を感じた。

 全身の毛穴がブワッと広がったかのように汗をかくタヤ。

 少年の目にはタヤに対する明確な敵意ーーいや、もう殺意と言ってもいい、それほどまでに強い感情が宿っていた。


 瞬間、少年の姿が消える。

 消えたかと思えば、少年はすぐにタヤの目の前に現れた。


(いっ、いつの間にっ!?)


 目を逸らしたわけじゃない。

 意識を逸らしたわけでもない。

 にも関わらず、タヤは一瞬少年を見失ったのだ。

 タヤの背中には滝のように冷たい汗が流れている。


「こっ、このっ!!」


 ヤケになってしまったタヤは手突を放つ。

 誰もが反応に遅れるほど速い、瞬速の手突。

 だがーー


「グフゥッ!!」


 攻撃を喰らったのはタヤの方だった。

 タヤの巨体が後方へと吹き飛び、壁に衝突する。

 カレンの“咆哮”とは違う衝撃が身体を貫通し、噎(む)せるタヤ。

 少年の方を見れば、パンチを放ち終わった体勢で止まっていた。


(っ!うっ、ウソでしょ!動き始めは私の方だったのに!!)


 タヤは混乱する。

 タヤの右腕に返ってきた感触は空を突いた感触ーーではなかった。

 腕が伸び切らなかった感触だった。

 つまり、少年は動き始めだったタヤの速度を追い抜き、自分のパンチを命中させたのだ。


「覚悟しろよ」

「ッ!?」


 少年が冷たい声でタヤに言う。


「俺の仲間を傷つけておいて、タダで済むと思うなよ」


 冷たく、されど鋭い殺気の篭った声で、少年ーーノブナガは蜘蛛の魔族に言い放った。

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