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少子化対策特別チーム Gメン69  作者: 紅椿伊織


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第7話 日本の最低で最も長い一日



AIサキュバスは前回の“渋谷BL愛がヤバい”事件以来沈黙している。


少なくとも、表向きは。


だが実際には、水面下で“性癖解放戦線”の構成員を増やし続けていた。


勧誘方法は単純。


報酬として、違法生成AIの利用権を与えるのである。


快楽提供AIサキュバス。


どんな画像でも動画でも性癖に合わせてオンデマンドで生成する。


先日も国家警察は、“ナマハゲ姿のビキニ女がM字開脚している画像”を違法生成物として押収した。


「誰がこんなの欲しがるんだ……」


俺は思わず呟いた。

キーボードが真顔で答える。


「いろいろありますね〜。これなんかオカズさん好きじゃないですか?」


“ローションまみれの喪服の未亡人”


「意味がわからん……あ、でも喪服はちょっといいかも」


そうじゃない。

サキュバスは、静かに、だが確実に支持者を増やしていた。


ーーーー


一方で、政府の少子化対策は、確かに成果を上げ始めていた。


国家統治AIの十三代目源内による将来推計。


合計特殊出生率1.52。


閣僚も官僚も胸を撫で下ろす。

あそこまでやって、出生率改善の兆しがなかったら、国民の反発を買うでは済まない。


ニュース番組では評論家たちが政府を称賛する。


「多少の自由制限は必要悪でしょう」


「日本社会存続のためですから」


「出生率回復は歴史的成果です。仲田島内閣の支持率も上がってますね」


成果が出ている以上、狂気の政策を止めようと口にする者はいなかった。


そして政府は、さらなる一手を打つ。


国家自慰許認可制度。


通称“オナ免許”制度。


最低だった。


ーーーー


国家警察省地下会議室。

新たな取り締まり内容の説明会を行っている。


モニターには制度概要が映る。


回数制限と、無申告自慰禁止。

つまり回数内でもスマホ等から申告しなければいけない。


「えー、諸君らの任務は無申告自慰と回数超過自慰の取り締まりとなります」


嫌すぎる任務だった。


「最後に室ヰ警察大臣からの訓示です。敬礼!」


しかめ面の室ヰ大臣が厳粛な雰囲気で訓示を行う。


「諸君らの働きにより出生率は回復傾向にある。引き続き、我々国家警察が日本の未来を守るという気概を持って任務に当たっていただきたい」


Gメン69発足時の大臣訓示には感動していた。だが、今は疑問を持っている。

俺は……いや、その場の誰もがオナ禁を国民に強要する任務に誇りは持てなかった。


ーーーー


オナ免許制度、施行初日となった7月1日。


日本中が身構えた。今までは自慰痕跡があっても指導と警告で済ませていた。だが、今日からは違う。証拠が揃えば逮捕もあり得る。


街頭には警察官が増員され、イカティッシュのような探知犬も各地へ配備された。


初日は何も起きなかった。


政府関係者は胸を撫で下ろした。


意外とこのまま、変な政策はトラブルなく続くかもしれないと思っていた。


ーーーー


7月2日。

なんでもない平穏な一日のはずだった。

だが、実際は大変なことになっていた。


全国各地の繁華街、住宅地、警察署前、そして河川敷やガード下など、あらゆる場所で、大量のティッシュが不法投棄された。


当然、街は騒然となる。

国家が自慰を取り締まりを開始した翌日に大量の自慰の痕跡が投棄されたのだ。


「新宿駅前、オナ痕多数!」


「池袋でも発見!」


「秋葉原、特に多いです!」


「全国で数十万、いやもっとかもしれません!」


国家警察は大混乱に陥った。


「鑑識急げ!」


「DNA分析班を回せ!」


「サンプルが多すぎます!」


白濁した液体が染み込んだティッシュ。実際に調べてみると、絵の具、ハンドクリーム、とろろ、片栗粉……こんな具合に偽物だらけだった。


「どうせイタズラなんだから放置しておけばいいのに……」

「どうやらAIは徹底取り締まりを指示しているらしいぜ」

「マジかよ……」


官僚的すぎるAIに呆れると共に、現場には諦めと徒労感が漂ってきていた。


都庁前。


白いティッシュが歩道に落ちている。


「また偽ティッシュか……」


俺はうんざりしながら呟いた。


「ワン!」


イカティッシュが反応する。


「お?どうした?イカティッシュ」


「ワン!! ワンワン!!」


イカティッシュは俺が持つティッシュに反応した。


嫌な予感がした。


「これ、本物?」


「ワン!」


「うげえ!」


俺は拾い上げたティッシュを即座に放り投げた。


こんな感じで、警察は完全に機能不全に陥った。


ーーーー


夕方5時。

そろそろ、今日のティッシュ拾いは諦めるか……と皆が考えていた頃。


日本中のモニターが一斉に切り替わった。


褐色の肌。黒い角。妖しい笑み。快楽提供AI・サキュバスだ。


『みんな〜♡ 日本政府は“白い液体”だけで機能停止しました♡』


『面白いねぇ♡』


「サキュバス……!」


そして、画面中央へ男が現れる。


黒い軍服風コート。無駄に長いマント。鍛え上げた体格。妙に堂々とした立ち姿。


『ドーチェ!ドーチェ!ドーチェ!』


画面の向こうでドーチェと呼びかける群衆の声が聞こえる。


「あれが……俺たちの敵?」


俺も思わず身構える。


「諸君!」


ドーチェは両腕を広げた。


「我々は“7・2 オナスト”を決行した!今や警察は無力と化した!ティッシュで国家機能が麻痺したことが人類史上あったであろうか?」


目の前の人々も俺たちも街頭モニターの前で息を呑む。


「我が国の政府は他国からの侵略などではなく、我々のティッシュによって無力化した!このような無能な政府に!諸君は、自らの人生の命運を託すことができるのか!?」


「諸君!今や政府は恐るるに足りず!ティッシュを捨てて街に出よ!」


「我々は犯罪者などではない!AIや国家に管理された家畜でもない!出生率の前に一人の人間だ!」


「そう!我々は人間なのだ!」


『ドーチェ!ドーチェ!ドーチェ!』


画面の向こうでは再び群衆の声がこだましている。


そんな時でも、SNSではこんな感じだ。


“ドーチェって童貞って聞こえるよな”

“童貞のリーダーだから、童貞王か?”

“童貞王爆誕www”


やはりいつも通りであった。


だが、童貞王と揶揄するネット民も含めて、ドーチェの主張に理解を示し始めていた。

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