第5話 レインボー配信を封鎖せよ
「駄目です!」
国家警察省通信統制室。
巨大モニターの前で、
キーボードが悲鳴を上げていた。
「レインボー配信、封鎖できません!!」
モニターにはカラフルな美少女アバター。
「くそっ!ミラクルめ!」
違法Vチューバー・ミラクル
“ミラクルのレインボースタジオ”という違法配信チャンネルを開設。依存性ある動画は国民の間に静かに浸透していった。
今や娯楽の消えた世界で違法配信は国民の支持を得ていたのだ。
レインボーは静かな声で語り続ける。
『みんなぁ、今日もお疲れさま〜』
『嫌なことあった人〜?』
コメント欄が高速で流れる。
”仕事辞めたい“
”結婚監査来た“
”自慰メン来た“
”オナ禁のせいで夢精した“
国民の不満が溢れる。最低な内容だ。
「レインボースタジオを検挙する……」
入口方向から声がした。
「だ、大臣!?」
「敬礼!」
全員が作業の手を止め、国家警察大臣の室ヰに敬礼する。
「このように、違法配信は国の秩序崩壊に繋がりかねない……」
俺は「夢精した」という嘆きがどう秩序崩壊につながるか俺には理解できなかったが、大臣はそう結論づけた。
「し、しかし、回線封鎖ができません……」
「その問題なら解決した。政府系AIの総力を結集し、この配信の発信地を突き止めた」
嫌な予感がする。
「Gメン69!レインボースタジオに突入し、被疑者ミラクルの身柄を確保せよ!」
「はい!」
警察ドラマのワンシーンのようだが内容は最低だ。
ーーーー
深夜。
城東区の戸建て住宅が並ぶ住宅街。
O-72小隊は突入準備をしていた。
リエさんが淡々と言う。
「家主は虹源サブロウさん82歳。引きこもりの息子コウジさん51歳と二人暮らしね」
「ということは、謎のVチューバーに親子が軟禁されている可能性もあるのか……」
シールドがそう分析した後だった。
『構ワズニ突入セヨ』
AIジローラモの音声が響く。
「しかし、中の様子もわからず突入するのは危険です」
リエさんがジローラモに再考を促す。
『正シイ社会ノ実現ノ為ニハ已ナシ』
「……わかりました。本部の命令があればやります」
『ソレデイイ。健全ナ社会構築ニ犠牲ハ必要ト覚悟スベシ』
このAIのモデルとなった狂信的修道士は、民衆の怒りを買い、最期には火炙りになったと聞いてなんか納得した。
「大臣からの通信です」
「O-72小隊か……諸君の健闘を祈る」
通信が切れそうな時だった。俺はたまらず大臣に言った。
「室ヰ大臣!俺は警察官だからあんたの命令には従う。だが、よく考えてくれ。中の親子がどうなってるかわからないのに突入は危険だ」
無線の向こうでのやり取りが聞こえる。
「大臣!ミラクルは拠点を移しかねません。今夜がラストチャンスです」
しばし沈黙。
「突入だ……」
「……わかりました。O -72小隊、突入します」
リエさんが答えた。
ーーーー
俺たちは庭に面したリビングから突入した。
「国家警察だ!動くな!」
そこには衝撃の光景があった。
モーションスーツを着て歌って踊る中年男性と、音響機器を操作する老人の姿があった。
「え?お前がミラクル……?」
驚くことに反政府活動家は家族経営であった。
「や、やめてぇ〜!」
内股で女性らしい仕草がで叫ぶ全身タイツのオッサン。まだミラクルを演じるつもりらしい。
「か、確保だ!」
我に帰ったシールドが突入する。グリーンバックのスクリーンを倒し、親子を取り押さえる。
リエさんの持つタブレットに映った配信動画も変化が。アバターが解除され、リアルの映像になったのだ。
映し出される中高年親子と生活感ある和室。コメント欄は荒れた。
“オッサンかよ!”
“あー!コイツをオカズにしてたのか!”
「違法配信者ミラクルとそのお父さん。あなたたちを性的秩序維持法違反容疑で逮捕するわ」
連行されていくミラクル親子。その様子を配信カメラが流してしまった。
“ありがとうミラクル”
“お前に勇気づけられたぜ”
“あなたの存在が救いになったわ”
コメントはミラクルへの感謝が溢れた。
これで配信も途絶える……そう思った時だった。
『みんなー、寂しかったんだよね?』
褐色の肌、黒いツノと尻尾、露出の多い服。悪魔のようなコスチュームの女性アバターが配信画面に映る。
『私は快楽提供AIのサキュバス。みんなの居場所はここよ♡』
「快楽提供AI……?」
「性癖解放戦線総帥のドーチェが救済計画を始めるから楽しみに待っててね♡」
サキュバスはそう言い残して、配信動画は途絶えた。
「性癖解放戦線……」
さっきまでレインボースタジオだった六畳の和室に、その名前が不気味に残っていた。




