第2話 結成!Gメン69・O -72小隊
「おーい、オカズ君」
俺は織因織因ユウジ。
東多摩警察署生活安全課少年係所属。
残念ながら“オカズ”は本名だ。
「係長、また家出案件ですか?」
「いや、お前に内示だ」
係長が紙をひらひらさせる。
「国家警察省・少子化対策特別班だと」
「……は?」
「俺もよく知らん。新設部署らしい」
「少子化対策を警察が?」
「知らん」
係長はコーヒーをすすった。
「まあ、本省勤務だ。偉くなったら俺の昇進頼むぞ。オカズさん!」
「だから何やる部署か分からないんですって……」
俺は状況を理解できないまま、国家プロジェクトへ放り込まれた。
ーーーー
翌日。
東京霞が関。国家警察省本庁。
巨大庁舎を見上げ、思わず息を呑む。
「ここが新しい職場か……」
地下エリアへ案内される。
通された部屋には、既に何人か集まっている。
白バイ隊。
機動隊。
交番勤務。
サイバー課らしき男。
全員、経歴もバラバラだ。
「あなた、特別チーム?」
声をかけてきたのは黒スーツの女だった。
鋭い目。
長い黒髪。
妙に迫力がある。
「深韋リエ。この班のガイド役よ」
「織因オカズユウジです!」
「元気がいいわね」
リエさんはタブレットを抱えたまま言った。
「国家の一大プロジェクトよ。気合い入れて行きましょう!」
隣の元白バイ隊員が小声で言う。
「何やるんだろうな、ここ」
「AIが選抜したって聞きましたけど」
「余計怖ぇよ」
その時。
館内放送が響いた。
「少子化対策特別班は講堂へ集合せよ」
ーーーー
講堂。
壇上には国家警察省幹部が並んでいた。
「敬礼!」
空気が張り詰める。
オールバックでしかめ面の国家警察大臣・室ヰが前へ出た。
「諸君も知っての通り、我が国は未曾有の少子化危機にある」
巨大モニターに統計が映る。
合計特殊出生率 0.39
大臣は続けた。
「政府は決断した」
「少子化要因を、断固排除する。そのために諸君らを招集した」
隊員たちの顔つきが変わる。
俺も少し胸が熱くなった。
国家を救う仕事。
そういうものかもしれない。
「諸君らは本日付で発足する特別部隊……」
大臣が振り返る。
中央モニターにエンブレムが映し出された。
黒い盾。
銀の翼。
中央に刻まれた文字。
G69
「通称、Gメン69である!」
おお……。
ちょっとカッコいい。
隊員たちも少しざわつく。
「公安っぽいな」
「秘密部隊感あるな」
その時は、まだ全員浮かれていた。
ーーーー
オフィスへ戻る。
リエさんが前に立った。
「紹介するわ。この班の隊長よ」
「隊長?」
周囲を見回すが誰もいない。
「チャオ、ジローラモ」
タブレットが光る。
空中にホログラムが現れた。
黒い修道服。痩せた顔。狂気的な目。
完全にヤバい人物だった。
『迷エル子羊ヨ……救済ノ道ハ見ツカリシカ?』
「怖っ」
思わず声が漏れる。
リエさんが淡々と説明する。
「現場支援AIジローラモ・サヴォナローラ」
「え?サヴォ…誰?」
「中世イタリアで芸術を焼き払った修道士が人格モデルよ」
「なんでそんな奴をAIに……」
『我ハ陽気ナ、イタリア人。気軽に話シカケヨ』
「怖えーよ」
「大丈夫よ。ちょっと厳しいけど」
ジローラモが静かに言った。
『我ラノ任務ハ退廃文化ノ排除』
『二次元キャラクター、Vチューバー、地下アイドル、ソシテ……』
沈黙。
『自慰行為ヲ国家管理下ニ置ク』
空気が止まった。
「……は?自慰? その……オナニーのこと?」
俺は聞き返した。
ジローラモは続ける。
『シカリ。快楽ハ繁殖本能ヲ減退サセル』
『諸君ラハ人間社会護持ノ十字軍ナノダ』
沈黙。
俺は支給資料の表紙を見た。
Gメン69
そして、ぽつりと呟く。
「自慰を管理するGメン……」
嫌な予感。
「ネットで“自慰メン”って呼ばれません?」
俺の一言で新組織の士気は地の底まで落ちた。
ーーーー
「これより小隊編成式を開始する」
ディスプレイに映るのは、隊長のAIジローラモである。
『諸君ラニ識別用コードネームヲ設定スル』
元白バイ隊員が小声で呟いた。
「なんか特殊部隊っぽくなってきたな……」
少しだけ空気が明るくなる。
『元白バイ隊員』
『コードネーム“白バイ”』
「そのまんまだな」
『元機動隊員』
『“シールド”』
「まあ分かる」
『元サイバー犯罪対策課』
『“キーボード”』
「雑!」
『元会計課』
『“電卓”』
「悪意ない!?」
『デハ修正液』
「いえ、電卓で……」
隊員たちがざわつく。
そして。
『織因ユウジ』
嫌な予感。
『コードネーム“オカズ”』
「本名です!!」
『最モ識別効率ガ高イ』
最低だった。
「続いて小隊番号!」
モニターに表示される。
“O -72小隊”
「……オー・ナナジュウニ小隊?」
沈黙。やはりどこまでも最低だ。
白バイがそっと呟く。
「部隊名は外では名乗らないようにしよう」
そのルールは全会一致で決まった。




