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 寝たいけれど、まだ夜は続く。処分しないと永眠になってしまう。

 それは家に入って、人間の死体が視界に入って気が付いた。

 結局また僕は共犯者。

 アタッシュケースは書斎に置いた。

 フリーとなった手に巻かれた止血用の布を見る。

 もう切れたところの血は止まっているが、痛みはある。

 ただ、布はもう真っ赤に染まっていて、洗わなければ。

 今はポケットに入れておいて、やるべきことを。

 解体に必要な物を持ってくる。

 専用工具の威力、見せてくれ……!

 昨日と同じように乗せて、刃を入れる。

 確かに切れる。切れるのはいいんだけど、音が最悪。

 骨のつぶれる音が生々しい。

 とはいえ鉈でも同じ感じなので、そう思うとだいぶ楽かもしれない。

 袋に詰めて、工具やらを戻しに玄関へ。

 さっさと捨てにいっておこう。

 決して軽くはない、この大型生ゴミを疲労感で満たされた腕のまま持っていく。

 どさり。

 既に今日もいくらか捨ててあった。

 こういうのを見るとつくづく僕ら牙人はどうして血しか飲めないのか。

 人間は雑食で肉も食べるっていうじゃないか。

 食べられるなら、こんなことしなくてもいいんじゃないのかって思うと一瞬人間にも憧れたけど、こんな姿にされるなら牙人でいいか。

 感情があっちこっち。

 ふう、と息を吐いてまた家に戻る。

 そういえば僕昨日、行水してないな。

 それで仕事場行ってしまった。

 しかし……僕はあの洗面所のシャワーを使っていいのだろうか?一番はまずい気が。早く戻ってきて教えてくれ、スカーレット!

 僕は布団へ入る前に行水したいタイプだ。

 よく潔癖って言われる。

 もう少し我慢しなくてはと、ぼーっと部屋をうろうろしていた。

 そういえば食糧庫がやけに静か。多分あと一人いたはずなのに気配がしない。

 直感的にすっごい嫌な感覚。

「当たってませんように」

 鍵は開いていて、ノブをひねった先。

 最悪だ、予想的中。死体処理のおかわり。

 絶対ヴァーミリオンだ、トラップ。

 しかもちゃんと一番引ける方法で飲んでいるし……。

 僕は知識として知っているだけだけど、実践するには練度が必要な吸血方法だ。

 名前は忘れた。

 そんなことよりまた解体セットを持ってこなくては。

 廊下で僕はものすごく嫌な顔していたはずだ。

 もう三度目ともなると少し慣れてはきたものの、罪悪感は全く薄まってくれない。

 また袋詰めして一階に降りて、どさり。

 するとエントランスでスカーレットとばったり。

「何しているんだ」

「ゴミ捨てしていました」

「なるほど」

 それ以上は何も言わず、一緒にエレベーターに乗る。

 部屋に戻ってやっと聞きたいことを聞く。

「……僕行水したいです」

「したらいいだろ。俺は朝派なんだが」

「え、寝る前にしないんですか」

「なんでだよ、起きてさっぱりするほうがいいだろ」

 まさかの意見の食い違い。

「な!布団汚れるじゃないですか!」

「潔癖かお前は!いや、ヴァーミリオンは夜派だな……まあ別に使えばいいだろシャワー」

 もっと口論になると思ったが、彼も疲れているのか、それともヴァーミリオンにも同じことを言われているのか、急におとなしくなった。

 僕は拍子抜けして変な間を開けた感謝になった。

「……ありがとうございます」

「そういやヴァーミリオンも一人食ったが片付けたか」

「……それ、先に言っておいてほしかったですけどね。処分しました」

 さっきの口論の余韻が残るようにちょっと食いついてしまった。

「ほう、よく見つけたな」

 ちょっと口角が上がっているのを見ると、褒められているかもしれない。確信は得られなかったが。

「というわけで俺は寝る。起きたらまた買い出しと掃除で。なんか用事あったか他に」

 急に仕事モードに切り替わる。

 ポケットに入れていたスケジュールを開く。

 そういや僕、なんでジャケットまだ脱いでなかったんだろう。

 わからないけど着ていてよかった。

「明日は午後五時からシトロンさんと打ち合わせです。それだけです」

「そうか。じゃあ午後一時までに済ませて来い」

「は、はあ」

 その煮え切らない反応にスカーレットは呆れた表情で言う。

「あのな、俺も普通の仕事溜まっているんだ。いくらちょっと文字を読むスピードが速いからといって限界はある。それに、あの部屋もちょっと片付けて欲しいしな」

 そういって書斎の奥に消えていった。

 そういえばどこで寝ているんだろう。寝室を見ていない。

 そーっとついていく。

 すると急に振り返るスカーレットを見て、僕はぴょんと一歩後ろに跳ねた。

「ああ、そうだ、タオルは好きに使えばいいが、パステルカラーの数枚は使うなよ。使ったらまた新品買わされる」

 思いついた答えを出してみる。

「あの部屋の女性の分ですか」

「そうだ」

 その眠そうな一言と共に、書斎の奥の扉へ彼は吸い込まれていった。

 今日の掃除中に気づかないくらい、本棚と同化している扉だった。

 さて、浴室を利用させてもらおう。

 他人の家の浴室って少し緊張するというか。

 その前に自分の部屋に戻ってスーツを脱いでハンガーにかける。

 一気に肩の力が抜けた。

 今にも寝てしまいそうだ。

 食いしばって下着をもって洗面所に向かう。

 こう見るとパンツ一丁のただのおっさんに早変わり。

 おっと、止血用の布、洗おうと思っていたんだった。

 スーツのポケットから取り出した。

 一旦その布は洗面台に置く。

 いい感じにおけそうな台があったのでそこに服は置いておく。

 貴族の浴室とは――無駄にかっこいい。ホテルだ。

 壁はきれいに磨かれた黒い石。

 電気はちょっと暗めで雰囲気のある感じ。

 ちょっとテンションが上がる。

 ただ、高級感漂う浴室とみすぼらしいおっさんの裸が鏡越しに不協和音。

 ……さっさと済ませようと思った。

 お湯が疲れを落としていく。

 さらにB層の洗剤はとてもいい匂いで、泡立ちの良いこと。

 全部全部、僕の日常の一段階、いや二段階ぐらいアップしたクオリティに昇天しかけている。

 幸せを噛みしめてお湯をだしっぱなしにしていた。……なんか熱いな。

「あああっつう!」

 思わず叫ぶほどの強烈な温度。

 ちょっと待って、熱い!痛いって!

 ちらっと温度計を見る。

 四十四℃って何!?

 焦ってバタバタしていたが、十分広い空間なのでお湯の射程圏外からバルブを閉める。

 天国の後の地獄に昇天しかけた。

 心臓止まるわ。

 行水で息を切らしながら出るというのは人生初だった。

 仕事も日常も色々変わりすぎて大変だけど――生きているという実感を噛みしめる。

 タオルに手を伸ばしてゆっくり着替える。

 おっと、換気扇回しておこう。

 へとへとになりながら部屋に戻る。

 ついでに全部屋の電気を消して回って、僕も就寝。

 やっぱり気絶寸前だったのか、瞼を閉じたときには意識が飛んでいた。

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