第八話:玩具の兵隊、あるいは黄金の取引
第八話:玩具の兵隊、あるいは黄金の取引
傀儡国の国境付近、かつて自由貿易で栄えた面影を錆とネオンで塗り潰したような都市、通称「無法地帯」へと私たちは滑り込んだ。
市街戦で弾薬を掃き出し、燃料の残量も心許ない。潤沢な資金があっても、物資に換えなければただの数字だ。
「……海堂大尉。いえ、颯真。そろそろ私たちの『立場』をはっきりさせておくべきじゃないかしら」
エレーナが、サブコンソールを操作しながら言った。
今回の逃避行、正式な軍の作戦ではないが、活動資金の共有口座を使用するにあたり、システム上の「部隊登録」が必要になったのだ。
「部隊名とコールサインか。……そうだな」
私は少し考え、皮肉を込めて入力した。
部隊名:玩具の兵隊。
コールサイン:パペット1(ワン)。
「フフフ。可愛らしい名前ね。何だか、この子がかわいく見えてきたわ」
エレーナの小さな笑い声がヘッドセットに響く。
換装:過剰なる善意
闇市場の奥深く、重機のスクラップが山積みになったジャンク屋にADUADSを隠し、私たちは物資の調達を開始した。
店主の男は、ADUADSを一目見るなり、にこやかな笑みを浮かべて奥から「新装備」を運んできた。
「旦那、いい機体を持ってやがる。だが火力が足りねえな。……こいつはどうだ? ちょうど『横流し品』が入ったんだ」
彼が提示したのは、無骨な対戦車ロケット砲の四連装ポッドと、肩部マウント用の対空用ミサイルランチャーだった。
颯真は困惑しながらも笑顔で答えた。
「……ハハハ。凄いなコレ。ただ、戦車とドンパチするつもりは無いから遠慮しておくよ。欲しがるヤツはいくらでもいるだろう。」
「何を言ってやがる!金の問題じゃねー。男のロマンだ。 火力はあればあるほどいい。コイツが有れば戦車も攻撃ヘリも吹き飛ばせる。AFV(戦闘用装甲車両)やCAV(戦闘航空機)も怖くねー」
「同じ男して気持ちは良く分かるんだが……」
後ろでエレーナは冷たい目で呆れた様にこちら見ている。
私は困惑しながら、巨大な武装を見上げた。ADUADSはやはり人型巨大ロボット兵器という見た目の為(実際にそうなのだが)誤解を受けるがよくある。だが、残念ながらフィクションの世界に出てくる様な無敵のスーパーロボット兵器ではなく、都市防空を目的とした対ドローン兵器で、戦場の最前線での運用は想定されておらず、戦地後方の発電所などの生活インフラをドローン兵器から防衛する為に考案された。直接敵兵と対峙することは無い。はっきり言って戦車や攻撃ヘリ、歩兵からしたら「デカイ的」でしかない。現役軍人からも、中々実情を理解されることが無いように感じられた。
だが、やはりこの手のADUADS強化プランの雑談はとても楽しかった。エレーナから急かされ、私は渋々、話を切り上げ、弾薬と燃料を買い、男のロマンの同志に別れを告げた。
介入:警察の悲鳴
物資の積み込みを終えようとした時、ジャンク屋の入り口を数台の警察車両が包囲した。
だが、降りてきた男たちの表情に敵意はない。むしろ、溺れる者が藁を掴むような必死さがあった。
「……あなたが、あの市街戦を駆け抜けた『同盟国のロボット』の操縦者か」
警察署長を名乗る中年の男は、泥にまみれたADUADSを仰ぎ見ながら帽子を取った。
彼の依頼は、街を牛耳るマフィアの武器密売拠点の摘発。彼らはドローン兵器を私兵として雇い、警察の安っぽい警備車両では近づくことすらできないのだという。
「軍に頼めばいいだろう」
「軍はマフィアと裏で繋がっている。……それに、署内の噂では、そのマフィアのバックに『例の連中』がいるらしい」
「例の連中?」
エレーナが鋭く反応した。署長が差し出した端末には、マフィアの拠点に出入りする、黒い防寒服を纏った兵士たちの映像が映っていた。
その腕には、不気味な紋章——「蝕」のエンブレム。
「……私たちが探している、テロ組織ね」
エレーナの声が冷たく沈む。
相手国の残党の中でも、特に急進的で冷酷な一団。彼らがこの街の闇市場を介して、新たなドローン兵器の実験を行っている可能性がある。
「……協力しよう。ただし、物資の追加補給と、街を出るまでの自由通行権を約束してもらう」
「助かる……! 準備をしてくれ。突入は今夜だ」
胎動:嵐の前の静寂
私はADUADSのコクピットに戻り、新たに積み込んだ弾薬のチェックを開始した。
「玩具の兵隊」としての初陣が、まさか警察の援護任務になるとは。
夜の帳が下りる。
ネオンの光が、ADUADSの装甲を毒々しい紫に染めていた。
次なる戦場は、欲望と硝煙が渦巻く闇の取引所だ。




