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第七話:亡霊の街、あるいは鋼鉄の疾走

第七話:亡霊の街、あるいは鋼鉄の疾走

町工場の老整備士に見送られ、グリスの匂いも新しい「ADUADSアドゥアッズ」……ピースメーカーは、傀儡国の地方都市の冷えたアスファルトを蹴った。

夜明け前の静寂を切り裂くのは、ハイブリッド・モーターの軽快な高周波音だけだ。

「……各部、異常なし。エレーナ、索敵スキャンを開始してくれ」

「了解。……待って、颯真。街のあちこちで民生用ネットワークのトラフィックが急上昇しているわ。これ、昨日と同じ……遠隔操作の予兆よ!」

エレーナの警告とほぼ同時に、パノラマモニターの端に無数の赤い光点が灯った。

路地裏、ビルの屋上、そして地下駐車場のスロープから。

姿を見せない操縦者たちが操る「亡霊」たちが、一斉に牙を剥いた。

開戦:固定概念の破壊

タタタタタタッ!

前方のビル陰から飛び出してきた二台のテクニカルが、重機関銃を掃射する。無人の運転席、屋根に据え付けられたカメラ。それは紛れもなく、遠く離れた場所から操作されている「無人の猟犬」だった。

「本来なら足を止めて迎撃インターセプトだが……ここでやれば街が火の海だ。エレーナ、しっかり掴まってろ! 足を止めずに駆け抜けるぞ!」

「ええ! 逃がさないわ、ターゲット・データ転送!」

私は左レバーを限界まで倒し、脚部の「高機動装輪モード」を選択した。

ADUADSの四本の脚が低く沈み込み、車輪が猛烈な回転を始める。

本来、この機体は「待ち伏せ」を主任務とする防空システムだ。だが、母国の開発者たちが込めた「トイ&アート」としての柔軟なフレームは、私の無茶な要求に歓喜するように応えた。

「行くぞ、おもちゃの底力を見せてやる!」

疾走:コンクリートのジャングル

猛スピードで突進するADUADS。

交差点に差し掛かると同時に、私は右の脚部を逆位相に旋回させ、強引なドリフトを敢行した。八トンを超える鋼鉄の巨躯が、物理法則をあざ笑うように横滑りしながら直角コーナーを曲がり切る。

ドォォン!

左メインアームの「クラウド・バスター」が、並走しようとしたテクニカルのエンジンブロックを至近距離から粉砕した。

「次は頭上よ! FPVドローン、十機接近!」

「補助腕、オート・インターセプト!」

背後の二本の補助腕が、意志を持つ触手のように動いた。

「ゲージ・シールド」がテニスラケットのように自爆ドローンを物理的に弾き飛ばし、「ローター・バスター」の鋼鉄ブレードが、肉薄した機体を一瞬でシュレッダーにかけた屑のように変える。

私は右手スティックのトリガーを引き続け、レーザー・ダズラーで遠方のカメラを焼き潰す。

視界を奪われた無人のテクニカルたちが、制御を失って次々と街灯や壁に激突し、火柱を上げた。

「……爽快ね、颯真! まるでジェットコースターみたい!」

悲鳴ではなく、興奮混じりのエレーナの声。

彼女もまた、この「おもちゃ」がもたらす非日常的な機動に魅了されているようだった。

脱出:境界線を越えて

正面の道路を、高さ50センチ程の三台の車両の残骸が塞いでいた。

敵の操縦者は、私たちがここで足を止めると確信しているのだろう。左右のビルの窓から、さらに多くのドローンが飛び出そうとしている。

「……止まると思ったか?」

私は加速を緩めず、逆にブースト圧を上げた。

AMSアクティブ・モビリティ・システム、跳躍シーケンス!」

激突の直前、ADUADSの四本の脚が同時に爆発的な力で地面を蹴った。

巨体が宙を舞い、車両の残骸を飛び越える。

空中で、私は腰部を百八十度旋回させた。

「あばよ、ゴーストども!」

進行方向と逆になった視界の中で、背後のトラック群に向けてクラウド・バスターを連射。散弾がトラックの燃料タンクを貫き、巨大な爆炎が追っ手たちの視界を完全に遮断した。

重い着地音。

ADUADSはそのまま速度を落とすことなく、都市の境界線を越えて、見晴らしの良い郊外のハイウェイへと躍り出た。

モニターから赤い警告が消えていく。

背後の街から上がる黒煙が、ミラーの中で小さくなっていった。

「……ふぅ。町工場のオヤジに感謝だな。グリスのノリが最高だった」

私はバイザーを上げ、大きく息を吐いた。

隣では、エレーナが少し乱れた髪を直しつつ、満足げに微笑んでいた。

「海堂大尉。……いえ、颯真。今の走り、世界中の軍人が見たら、みんな腰を抜かして『ピースメーカー』の注文書を書き始めるわよ」

「勘弁してくれ。ADUADSのベースになったトイ&アート作品Usatarukと制御システムHA-gakureの開発者の人達になんて言われるか……さあ、次の街まで突っ走るぞ」

誰もいない荒野の道。

「おもちゃ」は再び静かな高周波音を響かせながら、地平線の先を目指して加速した。



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