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第二話:荒野の猟犬、あるいは通信の糸

第二話:荒野の猟犬、あるいは通信の糸

地平線の彼方に沈みゆく夕日が、荒廃したハイウェイを血のような赤に染めていた。

背後の首都から上がる黒煙は、パノラマモニターの隅で点となって消えつつある。だが、安堵のため息を吐く暇はない。

「後方三キロに複数の熱源。時速七十キロ以上、急速に接近中」

リアシートに座るエレーナの声が、ヘッドセット越しに届く。彼女の手元には、ADUADSの通信・電子戦用サブコンソールが展開されていた。彼女は、私が教えるまでもなく、複雑な波形解析ソフトを使いこなしていた。

「敵のテクニカルだな。おそらく遠隔操作だ……エレーナ、傍受はできるか?」

「やってみます。……暗号化が甘いですね。オープンチャンネルを一部ハッキング……聞こえます。相手国の残党軍、元第十四独立猟兵大隊の兵士だった者たちです」

スピーカーから、ノイズ混じりの荒っぽい男たちの怒声が漏れ聞こえてきた。

『——あの『おもちゃ』を逃がすな! 英雄気取りの東洋人と、亡命者の小娘を血祭りにあげろ!』

『命令は生け捕りでは?』

『うるさいぞ。現場の指揮官を今回任されたのは私だ』

『しかし……』

私は苦笑し、左レバーを倒してスロットルを上げた。

「厳格な指揮系統は保たれていないようだ。付け入る隙はあるな」

だが、状況は楽観を許さない。ADUADSの巡航速度は二十から三十キロ。最大時速五十キロで振り切れる相手ではない。

「エレーナ、前方の路面状況をスキャン。地雷か障害物がある場所を探せ」

「了解。……五百メートル先の高架下、大型トラックの残骸が車線を塞いでいます。左側の歩道なら、この機体の脚なら突破可能です」

「よし。そこで迎え撃つ」

私は機体の脚部駆動を「装輪」から「歩行併用」のハイブリッド・モードへ切り替えた。

遭遇:散弾とライフルの咆哮

高架下に差し掛かると同時に、背後から砂塵を巻き上げ、三台のテクニカル——武装ピックアップトラックが姿を現した。荷台には猟銃や、軍から横流しされたであろう自動小銃が据え付けられている。

カンッ、キンッ!

装甲を弾く鋭い音が響く。ライフル弾だ。MRAP譲りのV字底面と耐摩耗鋼板が火花を散らすが、コクピットを貫くほどではない。

「モードCマニュアルセレクト! ターゲット、先頭の車両!」

私は右手スティックのトリガーを引いた。

ドォォン!

左メインアームの12番ゲージ・クラウド・バスターが火を噴いた。

先頭車両のフロントガラスとタイヤを瞬時に粉砕した。コントロールを失ったテクニカルが横転し、後続の車両、2台目を巻き込んで炎上する。

だが、残る一台が、こちらの予測を超えた動きを見せた。最後の一台はドローン兵器を搭載していたのだった。最後の残る一台を左メインアームの12番ゲージ・クラウド・バスターのタングステン製のスラグ弾で破壊し動きを止めたが、最後のテクニカルは爆破炎上しながら、ドローン兵器を分離、放出した。

「上! 海堂大尉ドローンです! 側面から低空で!」

「何だと!?」

モニターの死角、高架の支柱の影から、爆薬を括り付けた三機のFPVドローンが、信じられないほどの鋭角で突っ込んできた。

「ACD(自動防御)、反応しろ!」

ガシャン、と左補助腕が動く。だが、一機を叩き落とした瞬間、残る二機が交差するように軌道を変えた。AIの予測アルゴリズムを逆手に取った、熟練のドローンパイロットによる「挟撃」だ。

一機が右脚の関節へ、もう一機がコクピットの正面へ肉薄する。

——間に合わない。

その瞬間、ヘッドセットが割れんばかりの叫び声が響いた。

「颯真さん!! 右のペダルを踏み込んで!!」

咆哮:名前を呼ぶ声

無意識だった。

私は、彼女に名前を呼ばれた衝撃よりも速く、反射的に右フットペダルを全力で踏み込む、機体は即座に腰部を旋回した。

ADUADSの巨体が、慣性を無視して右へと急旋回する。

「トイ&アート」としての柔軟なフレーム構造が悲鳴を上げ、機体がドリフトするようにスライドした。

ドォォォォン!!

コクピットのすぐ横で爆発が起きる。だが、直撃は免れた。

私は機体の姿勢を立て直すと同時に、右補助腕の「ローター・バスター」を起動。高速回転する鋼鉄のブレードが、至近距離にいた最後のドローンを文字通り「粉砕」した。

静寂が訪れる。

炎上するテクニカルと、バラバラになったドローンの残骸がハイウェイに転がっている。

私は荒い呼吸を整えながら、パノラマモニター越しに、今しがたの「声」を反芻していた。

「……助かった、エレーナ」

私はシートを回転させようとしたが、密閉されたコクピットではそれは叶わない。代わりに、リアモニターに映る彼女の顔を見た。

彼女は、自分の口を両手で覆い、顔を真っ赤にして震えていた。

「……俺の名前を知っていたんだな。海堂颯真、と」

「……はい」

エレーナは気まずそうに視線を泳がせ、やがて観念したように小さな声で言った。

「……『空の障害物』プロジェクトの報告書を、紛争中に盗み見ました。……ごめんなさい、海堂颯真大尉」

「報告書、か。それだけじゃないだろう。……まあいい。今は、君が俺の味方であることが何より重要だ」

私は前方を向き直し、再びレバーを握った。

彼女が私の名を知っていた。それは、彼女が単なる「守られるだけの王族の女性」ではないことを意味している。

「エレーナ、次の街まであとどれくらいだ?」

「……十五キロです。でも、今の爆発で付近の残党が集まってくるはず。急ぎましょう、海堂大尉……あ、いえ、すみません」

「……颯真でいい。戦場では、短い方が呼びやすいからな」

ADUADSは再び加速し、夜の帳が下り始めた荒野へと消えていった。

通信コンソールの青い光が、二人の横顔を静かに照らし出していた。


設定資料

「白夜の夜明け」

作戦の概要

作製初期おいて超大国の企業が開発した監視システムを不正に利用している相手国の衛星監視システムを超大国の企業がシステムアップデートを行うことで無力化、次に相手国の警戒が低かった戦線に奇襲反転攻勢を実施した際に仕込だマルウェアを使用し、ハッキングした鉄道管理システムを使い、相手国の首都に武器を積んだ貨物列車(相手国の武装を修理の為に輸送という名目で実施)を移送し貨物車両はそのまま潜伏待機。今度は、心理的に隠蔽する為に相手国の首都以外の都市に大規模ドローン攻撃を作戦の陽動の為に実施。次に相手国の首都に実施するという偽情報を宣言し、その対応の為にという理由で先行部隊の移動を偽装。相手国のPMC(囚人を使った傭兵部隊)に偽装した先行部隊を非武装で列車を使用し分散して移動。相手国の首都に到着後、貨物列車の武装を回収。武装を回収後、相手国の首都の刑務所を襲撃し囚人を脱獄させ擾乱を起こす(前年にPMCの首謀者による反乱未遂事件が有ったので信憑性を補完する結果となった)。擾乱に対応する為という名目で首都に偽装列車での移動を相手国の正規軍に偽装した主力部隊が行い、相手国の正規軍に偽装した主力部隊が首都の中枢機能を制圧。相手国の最大野党の党首(最大野党の党首は政治犯として投獄。獄中で不審死)の妻の未亡人に臨時大統領に立候補させ、国際社会に治安維持支援要請させ、占領の国際化に成功。



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