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第一話:鋼鉄の檻、あるいは揺りかご

第一話:鋼鉄の檻、あるいは揺りかご

「……乗れ! 早く!」

私の怒鳴り声に、呆然としていた彼女——当該国の王族の女性が弾かれたように動いた。ADUADSの重厚な装甲ハッチが跳ね上がり、狭いコクピットがその口を開けている。私は彼女の細い体を押し込むようにしてリアシートへ座らせると、自分もフロントのパイロットシートへ飛び込んだ。

ハッチが閉じる。金属的な重い音が響き、直後に「プシュッ」という小さな排気音がした。陽圧換気システムが起動し、コクピット内の気圧が外部よりわずかに高まる。CBRN防護——化学兵器や放射性物質から身を守るための密閉空間が完成した。

「シートベルトを締めろ。これから揺れるぞ」

私はセンターコンソールのスロットにスマートフォン型のデジタル・ドッグタグを差し込んだ。バイオメトリクス認証が走り、網膜スキャンが完了する。

『System Booting... Welcome back, Lieutenant.』

合成音声と共に、正面の3面湾曲パノラマモニターに灯がともった。外部カメラの映像がAR(拡張現実)で重なり、まるで装甲が透けて周囲が丸見えになったかのような錯覚に陥る。

「あ……あそこに!」

彼女が震える指でモニターの端を指した。

式典会場の空を埋め尽くす黒い点。それはカラスの群れではない。数十機のFPV自爆ドローンが、獲物を定めた猛禽類のようにこちらへ機首を向けていた。

「感知した。……ADUADS、戦闘モード起動コンバット・オン

私は左手のプロポーショナルレバーを握り、右手のフライトスティックを強く握りしめた。

第一波:スウォーム(群れ)

ピーーッという鋭い警告音。

モニター上に赤い「LOCK」のマーカーが次々と重なる。

「モードAセミオート! 武装選択、AIに委任!」

機体の背後から、二本の補助腕が「ガシャン」と音を立てて展開した。

敵の第一陣、高速固定翼ドローンが5機、音を置き去りにするような速度で突っ込んでくる。

「当たる……!」

彼女が悲鳴を上げた瞬間、機体が勝手に動いた。いや、AI火器管制システム(FCS)が、私の操作に優先して右メインアームを目標へとスナップさせたのだ。

ジジッ……!

不可視の熱線、2kW高出力レーザー・ダズラーが空を焼く。

0.5秒の照射。先頭のドローンの光学カメラが瞬時に焼き潰され、制御を失った機体が地面へと激突して爆散した。

「一機!……いや、三機撃墜!」

間髪入れず、今度は左メインアームの12番ゲージ・クラウド・バスターが火を噴いた。

ドォォン! タングステン製の散弾が空中に鋼鉄の網を張り、密集して突入してきたFPVドローン3機をまとめて「面」で粉砕する。

だが、敵は止まらない。残党たちの執念か、死角である背後から回り込もうとする影があった。

「後ろからも来ます!」

「分かっている。——ACD(アクティブ防御)、任せたぞ!」

私の操作を介さず、左補助腕の「ゲージ・シールド」が生き物のように動いた。テニスラケットを振るような鋭い動きで、背後から突っ込んできた自爆ドローンを物理的に叩き落とす。爆発の衝撃が装甲を揺らすが、V字底面装甲と産業用鋼板がそれを完璧に遮断した。

決断:鉄の逃避行

「……ふぅ。これで全部か?」

モニターから赤いマーカーが消える。周囲にはドローンの残骸と、黒煙が漂っていた。

だが、メインモニターの広域マップには、さらに遠方から接近する複数の熱源が表示されている。

「いえ、まだ来るわ。……これ、軍用の通信波よ。式典を狙った単なるテロじゃない。彼ら、本気で私たちを逃がさないつもりだわ」

リアシートで、彼女——王女が通信モニターを凝視しながら言った。その声には、先ほどまでの怯えではなく、事態を冷静に分析しようとする意志が宿り始めていた。

「……そうか。才女という話は伊達じゃないな」

私は機体を「蹲踞そんきょ」姿勢から立ち上がらせた。ディーゼルエンジンが唸りを上げ、高トルク電気モーターが4本の脚に力を流し込む。

「ここに留まれば、いずれ飽和攻撃で削り殺される。首都を離れるぞ」

「どこへ行くの?」

「西だ。傀儡国を抜けて、友好国の国境を目指す。あそこまで行けば、同盟国の保護が受けられるはずだ」

私は左レバーを深く倒し込んだ。

ADUADSの四輪が駆動し、アスファルトを蹴る。最高時速50キロ。人型としては驚異的な速度だが、追っ手を振り切るには心許ない数字だ。

「物資の補給は道中の街でやる。奴らは敗戦国だ、軍は動けない。だが……『残党』はどこにでもいるだろうな」

機体は式典会場のゲートを突き破り、混乱する首都の路地へと滑り込んだ。

背後では、再びドローンの羽音が聞こえ始めている。

「……目的地まで、長い旅になりそうだ。名前を、聞いてもいいか?」

私は前方のモニターを見据えたまま問いかけた。

一瞬の沈黙の後、リアシートから小さな、しかしはっきりとした声が返ってきた。

「……エレーナ。エレーナ・ロマノヴァ。当該国の王家に連なる者です」

「了解した、エレーナ。俺は……ただの駐在武官だ。だが、この『おもちゃ』の使い方に関しては、世界で一番詳しい」

ADUADSは都市の喧騒を抜け、郊外へと続くハイウェイへと躍り出た。

かつての戦地で空を守った「鋼鉄の檻」は今、一人の少女を救うための「脚」となり、荒野へと駆け出した。



設定資料

「ADUADS」

1. 機体概要 (General Specifications)

名称: ADUADS

(Anti-Drone Urban Air Defense System)

対小型無人機都市防空装置

運用主体: 防衛省・航空自衛隊 基地警備隊

総重量: 8.8トン (8,800kg)

全高 / 全幅: 3.8m / 3.2m

動力: ハイブリッド(ディーゼルエンジン + 高トルク電気モーター)

装甲: MRAP型V字底面装甲 + 産業用耐摩耗鋼板(完全密閉型コクピット)

2. 武装システム (Armament)

右メインアーム: 2kW 高出力レーザー・ダズラー (光学焼損・目潰し用)

左メインアーム: 12番ゲージ・クラウド・バスター (50連ドラムマガジン式自動散弾銃)

背部補助腕(右): ローター・バスター (ヘリコプター用シングルブレード流用)

背部補助腕(左): ゲージ・シールド (対自爆ドローン用格子装甲)

3. コクピット・操縦系 (Cockpit & Interface)

視認系: 3画面湾曲パノラマモニター + HMD/ARによる装甲透過視界

操作系: 右:高精度フライトスティック(シングルトリガー)(FCS照準)

左:産業用プロポーショナルレバー(機体移動)

足:旋回・制動用フットペダル(左右と中央に3枚)

環境: 陽圧換気システム (CBRN対応、エアコン機能)、耐Gバケットシート

4. 機動力と走破性 (Mobility)

走行方式: 四脚装輪ハイブリッド(レッグ・ホイール)

最大速度: 約50km/h (巡航 20〜30km/h)

登坂能力: 最大45% (約24度)

障害物走破: 垂直段差 80cm、階段昇降(ステップ動作)可能

5. 運用・運搬 (Logistics)

運搬方法: 10tクラス専用キャリアカー、または低床セミトレーラー

特殊姿勢: 輸送用「トランスポート・クロール(蹲踞)」姿勢により高さ制限を

回避

6.コストと運用

建造費: 初号機 約3億3,000万円 / 量産時 約1億2,000万円。

運搬: 専用の低床キャリアカーまたはトレーラーを使用し、コクピット高を抑えた「蹲踞姿勢」で輸送。

戦術: AIによる統合ネットワーク防衛。シャヘド級の自爆ドローンから小型偵察機、FRVに対応

7.(FCS)「ADUADSインターフェース」

有人操作の「状況判断」と、AIの「精密照準」を切り替える3つの運用モードを搭載

【モードA:セミオート

(人為トリガー)】

挙動: AIが複数のドローンを同時にロックオンし、アームを最適な射線へ自動で向け続けます。

操作: パイロットはモニターに映る「LOCK」の表示を確認し、自分のタイミングで引き金を引きます。

用途: 誤検知が懸念される混雑した空域や、攻撃の最終判断を人間が行いたい場合に有効です。小型ドローンまで多層的に対応。

【モードB:フルオート(完全AI迎撃)】

挙動: センサーがドローンを検知した瞬間、AIが「脅威度」を判定し、照準・射出までをミリ秒単位で完結させます。

操作: パイロットは移動(回避)操作にのみ集中します。

用途: 多数のドローンが同時に襲来する「スウォーム(群れ)攻撃」への対処に特化したモードです。

【モードC:マニュアルセレクト(優先目標選定)】

挙動: AIが全ターゲットに照準を合わせますが、実際の攻撃対象はパイロットが選択します。

操作: スティックでターゲットを切り替えます。スティックを倒した方向にAIが照準を素早くスナップさせます。

用途: 「まずあの大型ドローンから落としたい」といった、戦術的な優先順位を人間が指示したい場合に最適です。

8.共通運用ロジック:移動(人)× 武装選定(AI)

全てのモードにおいて、機体の役割分担を以下のように固定し、有人機のポテンシャルを最適化します。

移動操作: (人間がメインでAIが自動サポート)前進、後退、右、左などの進行方向の指示操作は人間が行い、4輪駆動の足回りは常にAIが制御。都市部の狭い路地、障害物への細かな回避、遮蔽物への隠避など、空間把握が必要な操作はAIがサポートします。

武装選択(AI): 距離が近いドローンには「補助腕:ローター・バスター」

中距離で複数を捕らえるには「右腕:レーザー・ダズラー」

精密な墜落誘導が必要なら「左腕:12番ゲージ・ショットガン」

といった判断を、AIがドローンのサイズ、速度、距離から瞬時に計算し、最適なアームをアクティブにします。パイロットは「どの武器を使うか」に悩む必要がなく、移動とトリガーに専念できます。

10.AI自動防御システム:アクティブ・ケージ・ディフェンス

(ACD)

このシステムは、機体周囲360度を常時スキャンし、飛来する自爆ドローンに対して「物理的な盾」を自動で差し出します。

自律動作の仕組み

検知: 機体上部のミリ波レーダーとミリ波カメラが、高速接近する物体(FPVドローン等)を0.01秒単位で捕捉。

予測: AIが物体の弾道と衝突地点を瞬時に計算。

迎撃: パイロットの操作を介さず、左補助腕が「野球のグローブでボールを捕る」ような動きで、衝突予想地点へシールドを先回りさせます。

完全自動化によるメリット

360度鉄壁ガード: パイロットが正面の敵に集中している間も、AIが背後から回り込む自爆ドローンを自動でブロックします。

物理的な弾き飛ばし: 単に受けるだけでなく、衝突の瞬間にシールドをわずかにスイングさせることで、爆発の衝撃を外側へ逃がし、機体へのダメージを最小化(偏角防御)します。

ローター・バスターとの連携: 盾で防ぎきれない多数の目標に対し、右補助腕のローター・バスターと連携し、自動で「盾で受け、剣で叩き落とす」コンビネーションを行います。

コクピット内での表示(HMD/モニター)

パイロットの視界には、AIがシールドを動かしている範囲が「青い半透明のドーム」としてAR表示されます。

万が一、シールドが破損したり、弾薬(散弾)が切れたりした場合は、AIが即座に「左側面の防御欠損」を警告し、機体自体を右に振って回避するよう促します。

具体的なコントロール・シーケンス

(操作手順書)

1. システム起動スタートアップ

認証: シート左側のスロットにスマホ(デジタル・ドッグタグ)をセットし、バイオメトリクス(顔認証)を完了させます。

密閉・陽圧開始: ハッチが完全に閉鎖され、コクピット内の気圧が外部よりわずかに高く設定されます(CBRN防護)。

ビジョン・オン: 3面のパノラマモニターが起動。外部カメラの映像がAR(拡張現実)と共に映し出され、「装甲が透けて周囲が見える」感覚になります。

2. 基本移動(AMS:機体制御)

移動は主に「左手レバー」と「両足ペダル」で行います。

前進・後退・横滑り(左手レバー):

プロポーショナル・レバーを倒した方向に機体が動きます。深く倒せば「車輪走行(時速50km)」、浅く倒せば「微速移動」となります。

旋回(左右フットペダル):

ペダルを踏み込むことで、腰部を旋回させます。レバー操作と組み合わせることで、ドリフト走行のような急旋回も可能です。

急停止の場合は中央のペダルを使用。

不整地・段差モード(AI自動切替):

大きな段差(縁石や階段)に直面すると、AIが自動的に「ステップ動作」へ移行。パイロットはレバーを前に倒し続けるだけで、機体が自動で脚を持ち上げて障害物を越えていきます。

3. 迎撃操作(FCS:火器管制)

ドローンの無力化は「右手スティック」に集約されています。

モードAセミオート照準、武装の選択はAIが実施するのでトリガーを引くのみ。

モードBオート完全自動。オートモード切り替え後、指示待ち(待機状態)になり、トリガーを引く事で攻撃開始。もう一度トリガーを引くと攻撃終了。

モードCマニュアルセレクト

AIが自動照準し、複数のターゲットの場合、右手スティックを傾ける事でターゲットを次に変更。武装に関してもAIによる自動選択(音声認識による変更も可能だが、左補助腕が完全自動制御の為、干渉する可能性がある為、非推奨)

モードの変更は音声認識で実施。

4. 防御操作:AI完全自動シールド

左補助腕ゲージ・シールド」に関しては、パイロットの操作は不要です。

自動迎撃: 背後や側面からの急襲に対し、AIがミリ波レーダーで検知。パイロットがモニターで敵を認識する前に、シールドが「カシャン!」と音を立てて衝突地点へ先回りします。

ステータス確認: パノラマモニターの隅に、シールドの耐久値と「防衛成功数」がリアルタイムで表示されます。

5. 緊急停止と脱出

E-STOP(センターコンソールの赤いボタン):

システムが暴走したり、脚部がスタックして動けなくなった場合、このボタンを叩くことで油圧が全開放され、機体は「膝をついた姿勢」で完全停止します。

マニュアル・ハッチ:

電源を失っても、コクピット上部のレバーを引けば物理的にハッチを開放して脱出可能。

ほぼ民生品で製造。唯一の例外が左メインアームのショットガン。同盟国製ドローンガーディアン(対ドローンショットガン)を使用。散弾はタングステン製。バードショットとスラッグ弾を使用。



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