プロローグ
A-D-U-A-D-SーPost-War‐Escape‐and‐Battle
プロローグ
相手国の首都、その広大な中央広場は、かつての栄光を誇示するような石造りの歴史的建造物に囲まれ、地域紛争の終結を祝う記念式典の熱気に包まれていた。
かつてこの地を支配した大国は、小国であった当該国の執念の反抗と、同盟国や超大国予測不能な「白夜の雪解け」作戦によって無条件撤退を余儀なくされ、敗戦国としての立場を受け入れていた。
同盟国の駐在武官、青年将校の私は、式典の喧騒から少し離れた場所で、静かに物思いに更けていた。東洋人の私の顔は、周囲の西洋人や、敗戦のショックから立ち直りきれない相手国国民の中で、ひときわ目立っていただろう。しかし、私を見る彼らの目は、敵意よりも、畏怖と、どこか諦めに似た感情を浮かべていた。
私の視線の先には、式典の展示エリアに、一台の奇妙なロボット兵器が置かれていた。四本の脚の先には車輪がつき、胴体と頭部、そして二対、計四本の腕を持つ。全長約三・八メートルのその機体こそが、私が考案し、この紛争で「永遠の守護神」とまで称えられた「対小型無人機都市防空システム」Anti-Doron-Urban-Air-Defense-System通称ADUADSだ。
私は、この機体の出自を思い出していた。かつては、私の母国で、玩具や芸術作品として開発、製造された搭乗型四足人型ロボットだった。それを、対ドローン都市防空用に武装と一対の補助腕を追加し、実戦配備したのだ。ほぼ民生品で構成され、唯一の軍用規格は左メインアームのショットガンのみとなっている。。
「空への障害物、エアリアル・オブスタクルズ」そう呼ばれたプロジェクトの、私はテストパイロットであり、考案者でもあった。
既存の兵器に比べて安価で、製造も容易。戦時下にあった当該国でも修理、整備可能。軍部からは当初、そのトイ&アート作品のような外見と性能に懐疑的な意見があった。しかし、実戦での、AIによる統合ネットワーク防衛と、FCSインターフェースによる有人操作とAIのシームレスな融合は、小型FPVドローンから、大型自爆式ドローンといった多層的な脅威に対して、絶大な効果を発揮した。地域紛争において、ADUADSの存在は首都防衛並びに発電所などの生活インフラ防御という大きな役割を果たした。
そして、この紛争を終わらせた一大反抗作戦「白夜の雪解け」の提案。
その時だった。
式典が最高潮に達し、相手国の臨時大統領が演説を始めようとした瞬間。突如として、広場の空気が引き裂かれた。
複数の爆発音。
空から、無数の黒い影が、羽音を立てて広場へと舞い降りた。
パニックが広がる。式典参加者、政府高官、軍人が、四方八方へと逃げ惑う。
ドローンだ。
相手国の残党。敗戦を認めない過激派による、テロだ。
私は、瞬時に状況を理解した。展示エリアにある自分のADUADSへと、走り出した。自衛の為に。
広場は混沌としていた。爆風で飛ばされた瓦礫、倒れた人々。ドローンの羽音と、爆発音が、式典の歓声を塗り替えていた。
その時、私は目撃した。
私から数十メートル離れた場所で、当該国の王族の女性が、複数の小型ドローンに追い詰められているのを。
ドローンが、彼女に向けて、急降下を始めた。
私は、走りながら、近くに落ちていた自動小銃を拾い上げた。倒れた相手国の兵士が、手放したものだろう。
「マズイ、間に合うか」
私は、王女とドローンの間に、割り込んだ。小銃を構え、ドローンに向けて、引き金を引いた。
一射目。一機のドローンが、火花を散らして、地面へと墜落した。
二射目、三射目。
ドローンの動きは速かったが、ADUADSのテストパイロットとして、AIの照準サポートに慣れていた私の目には、その弾道は、予測可能だった。
私は、最後のドローンを撃ち落とすと、呆然と立ち尽くす王女の腕を掴んだ。
「行くぞ!」
私は、彼女を連れて、ADUADSへと、再び走り出した。
爆発音と、羽音が、私たちの背後から、迫っていた。
状況は、掴めないまま。
何とか、ADUADSに、到着した。
(続く)




