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第十四話:硝子の揺り籠、あるいは束の間の追想


第十四話:硝子の揺り籠、あるいは束の間の追想

激流を下り、死線を越えた先に待っていたのは、かつての大国が誇った大陸横断豪華特急『オリオンの盾』号だった。

傀儡国の国境警備隊から「エクリプスが、隣国の治安部隊による大規模な強襲を受け壊滅した」という公的な情報がもたらされる。

「リーダーとその副官は依然として逃亡中ですが、このルートに干渉する余力はもはや彼らにはありません。……どうか、束の間の平和をお楽しみください」

官僚的な見送りを受け、私たちはADUADSを特等貨物車両の奥深くに秘匿し、自分たちはベルベットの椅子が並ぶ客室へと身を沈めた。

穏やかな車窓

車輪が刻む一定のリズムと、銀の食器が触れ合う微かな音。

窓の外を流れるのは、戦火に焼かれた廃空港でも、ドローンが飛び交う殺伐とした空でもない。夕日に黄金色に輝く果てしない草原だった。

「……信じられないわね。数日前まで、泥と硝煙の中にいたなんて」

エレーナが、窓硝子に映る自分の顔をどこか他人事のように見つめていた。

彼女の手元には、もう警告音を鳴らさないタブレット。そこには、これまでの旅の記録が断片的に表示されている。


過ぎ去った戦場への追想


二人は、運ばれてきた温かい紅茶を口にしながら、自然とこれまでの出来事を振り返り始めた。


「廃空港の、あの工場の壊滅が、結局は今回のエクリプス崩壊のトリガーになったのね」

「ああ。だが、あの時感じたのは勝利の確信じゃなく、ただの怒りだった。……おもちゃに魂を売り渡した連中へのな」

「輸送機の中でADUADSを起動した時は、正直、ここが死に場所だと思ったわ」

「エレーナがハッチを開ける決断をしなきゃ、今頃は雲の下でバラバラだった。……あの時、君はもう単なる『守られる対象』じゃなくなっていたんだな」

「崖から船の甲板に飛び降りた時、船長の顔を見たか? 腰を抜かしていたぞ」

「無理もないわ。八トンの鉄の塊が空から降ってきたんだもの。でも……あの時、ADUADSが私たちの体の一部になったような気がした」

逃亡する「亡霊」たち

話が途切れると、再び列車の走行音だけが部屋を満たした。

エクリプスの組織は瓦解した。しかし、ソウマの胸には拭いきれない予感があった。

「リーダーと副官……あの二人が生きている限り、この『おもちゃ』を巡る争いは終わらないだろうな」

「ええ。組織という後ろ盾を失って、より純粋で、より個人的な『復讐者』として私たちの前に現れるはずよ」

ソウマは、貨物車両に眠るADUADSに思いを馳せた。

かつては平和の象徴として作られた「トイ&アート」。それが今は、国家の陰謀を暴き、組織を壊滅させるための唯一の武器となっている。

「ソウマ、これから先……どこまで行くつもり?」

エレーナの問いに、ソウマは窓の外、遠く地平線の向こうに沈みゆく太陽を見つめた。

「この『おもちゃ』を、誰にも利用されない、本来の場所へ帰すまでだ。……たとえ、線路の終わりがどこにあろうとな」

豪華列車の柔らかな光に包まれながら、二人の戦士は泥のような眠りにつく。

それは、次に訪れるであろう「亡霊」たちとの最終決戦に備えるための、神が与えたような短い休息だった。


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