第十三話:鉄の門、あるいは守護者の岸辺
第十三話:鉄の門、あるいは守護者の岸辺
輸送機の残骸から逃れ、荒野を走ること数時間。私たちは国境へと続く大河のほとりにある隠れ港に辿り着いた。
そこには、重油の匂いと錆びた鉄の音が混ざり合う、巨大な民間貨物船が停泊していた。
「護衛を引き受けてくれるなら、この『おもちゃ』ごと下流まで載せてやる。……どうだ、大尉?」
日に焼けた船長は、ADUADSの煤けた装甲を眺めながらそう言った。
傀儡国の喉元を抜けるこの河川は、今や地元の武装勢力のドローンが跳梁跋扈する「死の回廊」と化している。この難所を、自衛武装のみの貨物船が抜けるのは自殺行為に等しかった。
「交渉成立だ。……エレーナ、機体を甲板へ。弾薬の最終チェックを急いでくれ」
「了解。……でも颯真、この先の『鉄の門』、嫌な予感がするわ」
予測:見えない包囲網
貨物船が静かに河を下り始めて三時間。切り立った崖が両岸から迫り、川幅が極端に狭まる難所が近づいていた。
パノラマモニターに映るレーダーには、不気味なほどの「静寂」が広がっている。
「……来るわ。熱源感知! 崖の向こう側に数十の小型反応。武装勢力のドローン兵器群よ」
「船の上じゃ死角が多すぎるな。エレーナ、岸に寄せてくれ。……先回りして叩く」
「えっ? でも、ここから上陸したら船が……」
「大丈夫だ。船長、全速でこの区間を駆け抜けろ! 掃除はこっちで済ませておく!」
船が岸に急接近した瞬間、ADUADSは甲板から跳躍した。
八トンの鋼鉄が濡れた土を掴み、四本の脚が崖の斜面を力強く駆け上がっていく。
配置:崖上の狩人
「ポイント到着。……FCS、全アクティブ!」
崖の上からは、川を蛇行する貨物船がよく見えた。
対岸の岩陰から、黒い雲のようなドローンの群れが、獲物を見つけた猛禽のごとく一斉に飛び出してきた。
「モードB! ACD、レンジを最大に広げろ!」
ADUADSの両肩に装備された補助腕が、精密な機械仕掛けの踊りのように旋回を始める。
左補助腕の「ゲージ・シールド」が、船へ向かおうとする先頭集団を物理的に弾き飛ばし、右補助腕の「レーザー・ダズラー」が、空中に網を張るように青白い光を投射した。
パシュッ、パシュパシュッ!
光に焼かれたドローンが、火花を散らしながら次々と川面へ墜落していく。
だが、奴らは止まらない。数に物を言わせ、ADUADSの「迎撃限界」を超えようと四方八方から肉薄してくる。
「颯真、右後方から自爆型が来るわ! 防壁展開!」
「させない! ……クラウド・バスター、散弾選択!」
私は左腕のショットガンを空へ向け、引き金を引き絞った。
轟音と共に放たれた数百のタングステン弾が、空中に「鉄のカーテン」を作り出す。
至近距離で爆発するドローンの衝撃波がADUADSの装甲を叩くが、ソリッドなフレームは微動だにしない。
「船が抜けるぞ……今だ!」
眼下では、貨物船がドローンの残骸を蹴散らしながら、難所を突破していくのが見えた。
合流:鋼鉄の帰還
「掃除完了。……エレーナ、船を並走させろ!」
「無茶言わないで! この崖から飛び降りるつもり!?」
「ADUADSを信じろ。……行くぞ!」
私は脚部のダンパーを最大まで解放し、崖の縁からダイブした。
空中でホイールを高速回転させ、落下速度と機体の姿勢を調整する。
ドォォォォン!!
貨物船の後部甲板に、凄まじい衝撃と共に着地。
船体が大きく揺れたが、ADUADSの四本の脚が甲板の鉄板をしっかりと掴み、慣性を相殺した。
「……ふぅ。お帰りなさい、無茶苦茶な操縦者さん」
ハッチ越しに聞こえるエレーナの声に、苦笑いしながら私はモニターを切り替えた。
背後では、難所を抜けた貨物船を追う力も失ったドローンの残骸が、燃えながら川を流れていく。
「船長、約束は果たした。……下流まで、このまま頼むぞ」
ディーゼルエンジンの重低音が、勝利を祝うように響き渡る。
河を抜ければ、そこには新たな戦場が待っている。だが、今の私たちには、どんな難所をも突き破る「鋼鉄の足」があった。




