第十二話:地獄の滑走路、あるいは折れた翼
第十二話:地獄の滑走路、あるいは折れた翼
「衝撃に備えろ!!」
私の叫びと同時に、輸送機のタイヤが悲鳴を上げてアスファルトを叩いた。
緊急着陸先に選ばれたのは、地図にも載っていない傀儡国の予備飛行場——荒野の真ん中に一本の滑走路だけが伸びる、吹きさらしの廃墟だった。
爆炎を上げるエンジン、ひしゃげた主翼。
機体が停止するよりも早く、私はADUADSの固定ワイヤーを強制パージした。
「エレーナ、無事か!?」
「……ええ! でも、外が大変なことになっているわ。着陸を待っていたみたい!」
開いたままの後部ハッチから見えたのは、地平線を埋め尽くすような砂塵だった。
工場の「出荷リスト」に載っていた残りのドローン、そしてそれを追うように現れた、エクリプスの武装テクニカルの群れ。
「墜落を待たずに仕留めるつもりか。……なめるなよ、亡霊ども」
私は左レバーを叩き、ADUADSを炎上する輸送機から飛び出させた。
蹂躙:360度の死角なし
着地と同時に、周囲を包囲していたドローンが一斉に急降下を開始する。
だが、ここは遮蔽物のない滑走路だ。ADUADSのFCS(火器管制)にとって、これほど「狙いやすい」戦場はない。
「モードB、ACD(自動防御)連動! エレーナ、電子妨害を最大出力で!」
「了解! 奴らの通信リンクを掻き回してやるわ!」
ガシャン! ガシャン! と、左補助腕の「ゲージ・シールド」が生き物のように旋回し、至近距離まで肉薄した自爆ドローンを、野球のノックでもするかのように次々と叩き落としていく。
爆風が装甲を揺らすが、私は構わずに機体を加速させた。
「右メインアーム、レーザー・ダズラー。薙ぎ払え!」
パノラマモニターが、一瞬だけ白く染まった。
3.8メートルの全高を活かし、機体上部から放たれた高出力レーザーが、水平線上のドローンを次々と「目潰し」していく。
視界を奪われ、互いに激突し、火だるまとなって落ちていく機械の鳥たち。
「次はテクニカルだ。……クラウド・バスター、スラグ弾選択!」
私は左腕のショットガンを、接近する武装トラックへと向けた。
50連ドラムマガジンが唸りを上げ、タングステン製の鋼鉄塊が時速100キロを超えるテクニカルのエンジンブロックを正面からブチ抜く。
横転し、爆発する車両。
「……まるで、最初からこうなることがわかっていたような配置ね」
エレーナの冷徹な分析が、ヘッドセットに響く。
「ああ。傀儡国が用意したこの『翼』は、最初から折られるために飛ばされたんだ。……奴らは俺たちを助けるふりをして、エクリプスに『獲物』を差し出したのさ」
決断:鉄の逃避行、再始動
数分後。
滑走路には、無数のドローンの残骸と、炎上するテクニカルだけが残された。
生き残った輸送機のパイロットたちを救出し、最低限の救急キットを渡すと、私は再びADUADSのコクピットに深く座り直した。
「……颯真。空路はもう使えないわ。傀儡国の首都に戻ることも、もうできない」
「わかっている。奴らは俺たちを『死んだこと』にするつもりだ」
私は遠くに見える地平線を見つめた。
空路が絶たれた今、次なる選択肢は——。
「エレーナ、この近くに大きな川か、古い鉄道路線はなかったか?」
「……北に十キロ。かつての大国が敷いた、重工業用の古い貨物路線が残っているはずよ。国境の川へと続く港へ繋がっているわ」
「よし。次は『鉄道』だ。あるいは『船』か。……どっちにしろ、この『おもちゃ』を載せられるデカい奴を見つけるぞ」
燃える輸送機を背に、ADUADSは再び荒野へと歩き出した。
空を追われ、地に落ちても、この「鋼鉄の守護神」の足音は、まだ止まらない。




