第十一話:高度三千メートルの檻、あるいは静かなる強襲
第十一話:高度三千メートルの檻、あるいは静かなる急襲
傀儡国の首都は、不気味なほど静かだった。
工場の破壊を受けて、政府は即座に「同盟国の英雄」への支援を申し出た。提供されたのは、友好国への直行便となる大型貨物輸送機。
「これでやっと、一息つけるわね」
輸送機の広大なカーゴベイ。ADUADSを固定し、ハッチを閉め切った機内で、エレーナが安堵のため息を漏らした。
生産拠点を叩いた。もう、執拗な追跡はないはずだ——そう誰もが信じていた。
しかし、高度三千メートル。雲海の上で、その安らぎは「警告音」によって切り裂かれた。
ピーーーーッ!
「……嘘でしょ!? 外部センサーに多数の未確認機。……ドローンよ! どこから来たの!?」
「工場は潰したはずだぞ!」
「わからない。でも、現実に機体に接近しているわ! 颯真、このままじゃ機体が持たない!」
外壁を叩く銃声。機体が大きく揺れ、操縦席からの緊急通信が入る。
『緊急事態! エンジンに被弾、近くの予備空港へ緊急着陸する!』
「着陸まで持たせるぞ。エレーナ、ADUADSを起動しろ!」
「えっ……ここで!? 固定を解いたら機体内で暴れちゃうわ!」
「ハッチを開けるんだ! 空中で迎撃する!」
私はパイロットシートへ飛び込み、ドッグタグを差し込んだ。
『System Booting... Combat Mode Online.』
輸送機の後部ハッチが、唸りを上げて開き始める。
吹き込む猛烈な風圧と、その向こうに見える青い空。そこには、工場の壊滅を予期してあらかじめ空中に待機していたのか、エクリプスの「亡霊」たちが群れをなして飛来していた。
「モードB! ACD(自動防御)、全開!」
機体は固定されたままだが、アームは自由に動く。
左補助腕の「ゲージ・シールド」が、風圧に乗り突っ込んでくる自爆ドローンをテニスラケットのように空中で叩き落とす。
ガシャン! という衝撃が貨物室に響くが、ADUADSの足回りはびくともしない。
「右、レーザー・ダズラー! 焼き落とせ!」
機体内部から空へと放たれる、青白いレーザーの束。
雲海を背景に、炎上するドローンが次々と落下していく。
貨物機の狭い檻の中から、鋼鉄の守護神がその牙を外へと剥いた。
「着陸まであと三分! 耐えて、颯真!」
「ああ……目的地まで、この『おもちゃ』は絶対に落とさせない!」
機体は急降下を開始し、地上の滑走路を目指す。
背後には執拗に食らいつくドローンの群れ。
空中、そして着陸間際の地上戦へ。
「玩具の兵隊」たちの、最も長い旅が始まろうとしていた。
第十二話に続く。




